永続敗戦の構造

2018年1月21日 (日)

小学校上空の米軍ヘリ/永続敗戦の構造(14)

昨年12月に、市立普天間第二小学校の校庭に米軍大型ヘリコプターが窓を落下させるという事件が起きた。
すると、同校や宜野湾市教育委員会に「やらせだろ」「基地のおかげで経済発展しているじゃないか」などの誹謗中傷の電話が相次いだ。
これが一部の「愛国的」日本国民の姿である。

 市教委に「なぜこんな場所に学校を造ったのか。造った教育委員会の責任だ」との電話があり「(移転先の)土地がない」と返答すると「住宅地をつぶせ」と返ってきたという。
 普天間第二小は1969年4月、普天間小の児童増加に伴い分離して開校した。
 一方、普天間飛行場は沖縄戦の最中に建設され、当時は航空機の離着陸は少なかった。運用が過密になったきっかけは69年11月、山口県岩国基地を拠点としていた米海兵隊のヘリ部隊が普天間に移ってきたことだ。
 小学校移転計画も浮上したが、用地の問題などから断念した経緯がある。市教委は「宜野湾市のどこに移転したら安全だというのか。どこにいても事故は起こり得る」と指摘した。
被害校に誹謗中傷の電話 宜野湾市教委にも /沖縄

18日にも、同校上空を米軍ヘリコプター3機が飛行した。
同小に設置した4台の監視カメラの映像という証拠もある。
にもかかわらず、米軍は操縦士の証言やレーダーの航跡を根拠に「ヘリの操縦士らは学校の位置を把握し、避けて飛行した」と主張している。

 沖縄の怒りが激しいのは、米軍の振る舞いに苦悩させられるのが今に始まったわけではなく、常態化してしまっているからだ。日米両政府は1996年、米軍機の騒音軽減を目的に普天間飛行場(宜野湾市)と嘉手納基地(嘉手納町など)での午後10時~午前6時の飛行を制限する航空機騒音規制措置に合意。だが、実際には米軍は早朝、夜間の飛行を繰り返しており、合意は形骸化している。
 12年10月のオスプレイ配備の時も、日米両政府は飛行について「学校や病院を含む人口密集地域の上空をできる限り避ける」などとする運用ルールで合意したと強調したが、配備直後からルール違反とみられる飛行が相次いで目撃された。米軍の「約束」破りに沖縄側は煮え湯を飲まされてきている。日本政府は米側に改善を実行させられず、翁長知事が事件や事故の度に「日本政府には当事者能力がない」と批判するのもこうした実態があるからだ。
 今回は子供たちが過ごす学校を巡るトラブルだけに、県民の怒りはとりわけ強い。翁長知事は19日の記者会見で「沖縄防衛局は毅然(きぜん)とした対応をしてほしい」と注文した。
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小学校上空か否か 米否定に政府困惑

折しも名護市長選というタイミングで、何としても翁長雄志知事の再選阻止に全力を挙げる安倍政権は、なりふり構わぬ選挙戦を展開しているところである。
小野寺防衛相や菅官房長官も、沖縄側に立つ発言をしているが、「選挙にらみ」の政権の思惑では真の解決は望めまい。

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2017年12月13日 (水)

核廃絶に関する詭弁/永続敗戦の構造(13)

10日、ノーベル平和賞を授賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))への授与式で、被爆者サーロー節子さんが行った演説が感動的だった。 
しかし日本政府は冷淡な態度である。
「ゴールは同じだけれど、核禁条約への参加は現実的ではない。」
しかし、これは詭弁と言うべきであろう。

現実的な方策とはどのようなものか?
「核の傘」で守られつつ、核廃絶を目指します、ということか?
核禁条約に参加することがリスキーだということか?

ICANの事務局長ベアトリス・フィンさんは次のように言う。
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東京新聞12月12日

まったく異議なし、である。
あれこれ理由をつけて、被爆国としてのリーダーシップを放棄するアメリカ従属路線(永続敗戦の構造)に決別すべき時ではないのか。

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2017年11月 7日 (火)

トランプ大統領にへつらう安倍首相とマスメディア/永続敗戦の構造(12)

まるで宗主国と植民地のような姿である。
訪日したトランプ大統領は、横田米軍基地に降り立ち、兵士たちを前に演説を行った 。
羽田空港を選ばなかったところに、トランプ大統領の意識が窺える。
外務省OBの孫崎亨氏は次のようにツイートしている。
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横田基地から埼玉県の霞ケ関カンツリー倶楽部」(川越市)に直行、出迎えた安倍首相および松山英樹プロを交えゴルフに興じた。
安倍首相としては親密性を訴求したかったのだろうが、外交的な成果はあったのか?

Photo_3世界ランキング4位の松山英樹を交えて安倍首相と9ホールを回った。ラウンド終了後、安倍首相は「ゴルフのプレー中ならではの会話が弾みました。突っ込んだ話もできた」と“ゴルフ外交”の成果を強調したが、実際は、ほとんど会話がなかったようだ。「突っ込んだ話」どころか、ミスショットを連発し、2人から白い目で見られていたという。
・・・・・・
「1番ホールでドライバーを250ヤード近く飛ばし好スタートを切ったトランプ大統領に対し、何と安倍首相はいきなり“チョロ”。のっけから赤っ恥をかいたためか、その後、チョロ、ダフリ、バンカーの連続。カートでコースの右から左へせわしなく移動しながら、降りては小走りで動き回っていました。チョコマカしてよほど暑かったのか、途中でベストを脱ぎ捨てていました」(官邸担当記者)
 まったく成果のなかった“ゴルフ外交”の警備のために、警視庁は今回、過去20年間で最大規模の約1万8000人を動員。首都高など一部で交通規制も敷いた
ミス連発、ほぼ会話なし…安倍首相のゴルフ外交は大失敗

トランプ大統領が厚木に降り立つマッカーサーを連想させる一方で、一日の大半をトランプ大統領と接待する安倍首相の姿を垂れ流すTVにウンザリした。
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日刊ゲンダイ11月7日

日本がまだ占領状態に置かれたままであることを実感せざるを得ない。


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2017年8月16日 (水)

延戦による被害増大責任/永続敗戦の構造(11)

1945年8月14日から15日にかけて、全国各地で空襲を受け、多数の犠牲者が出た。
日本の戦争指導者が「国体護持」に拘り、ポツダム宣言の受諾が遅れた。
『日本のいちばん長い日』に描かれているように、事実として「敗戦受容派」と「徹底抗戦派」の間で、緊迫した状況があった。
⇒2015年8月25日 (火):『日本のいちばん長い日』と現在/日本の針路(219)

映画で印象的だったのが、陸軍が責任追及を逃れようと関連書類を延々と焼却する作業を行った姿だった。
「モリ・カケ」はPKO日報に見るように、公文書を自分たちの都合に合わせるのは、今も変わっていない。
戦災の記録も市民によって復元する試みが続けられている。

 米軍資料から空襲の実態を調べる市民団体「空襲・戦災を記録する会全国連絡会議」によると、14日は米軍機約1000機が出撃した。日本は45年8月10日、降伏を求めるポツダム宣言を条件付きで受諾する方針を連合国側に伝え、米軍は空襲を一部停止した。しかし、受諾条件を巡って日本政府が揺れていると判断した米軍は14日の空襲を実行した。
 米軍の作戦任務報告書では、14日は光海軍工廠(こうしょう)(山口)など6地点が主な空襲目標とされた。京都・舞鶴の港湾などに機雷を敷設し、広島や長崎に原爆を投下した部隊は長崎原爆と同形で通常爆薬の模擬原爆を愛知に落とした。神奈川・小田原では、15日未明の空襲で12人が死亡。米軍機が帰還途中に爆弾を投下したとみられる。Photo
終戦直前 空襲10カ所 米機1000機、犠牲2300人

北朝鮮のミサイル発射をめぐって緊迫した事態となっている。
8月10日の衆議院安全保障委員会で、小野寺五典防衛相は、米軍基地のあるグアムが攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたる可能性があると答弁した。
元経産官僚の古賀茂明氏は次のように述べている。

トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、これまでの常識を覆すような言動を続けている。トランプ政権誕生が決まった昨年末の時点で、日本人は、立ち止まって冷静に考え直してみるべきだった。しかし、安倍政権は、何も考えずに、従来の日米関係の延長線上で行動している。そして、今や、トランプ政権とともに戦争を始めるかもしれないというのっぴきならないところに追い込まれているのだ。
古賀茂明「グアムへの北朝鮮ミサイル迎撃すれば、戦争状態  日米安保に殺される日本」

「もう一度冷静に日米関係を根本から考え直す最後のチャンスだ」とする古賀氏の意見に耳を傾けたい。

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2017年8月15日 (火)

再び戦争体制に向かう「母國」/永続敗戦の構造(10)

今日の日経新聞朝刊のコラム「春秋」は次のように書いている。

終戦の日と月遅れのお盆が重なるこの時期、列島は人々の鎮魂の祈りに満たされる。無謀で悲惨だった先の戦争を振り返り、犠牲者を静かに追悼する大切なひとときだが、今年は何か心がざわつく。トランプ米大統領と北朝鮮の言葉の応酬が激しさを増しているせいだ。

全面的に同感であるが、今日を「終戦の日」と言うべきか、「敗戦の日」と言うべきか。
私は、「終戦の日」と呼びならわしてきたことが、戦争責任を曖昧化してしまった一つの要因ではないかと思う。

戦争責任とは何か?
いろいろな局面での責任が考えられる。
もちろん、開戦の責任は大きい。
そして、戦争を継続して、犠牲を増やした責任も同様であろう。

NHKスペシャルは、昨日(8月14日)が『知らぜらる地上戦』、今日が『戦慄の記録 インパール』だった。
8月15日、天皇の詔勅がラジオで放送されたが、降伏文書に署名したのは9月2日だった。
『知らぜらる地上戦』は、ソ連の北海道侵攻を防ぐため樺太死守が命じられ、樺太で戦闘せざるを得なかった人たちの記録である。
⇒2007年8月10日 (金):ソ連の対日参戦

『戦慄の記録 インパール』は、無謀なインパール攻略戦の記録である。
インパール攻略戦の作戦計画は、結局誰も負わず、犠牲は現場の戦闘員である。
無責任体質は、安倍政権とそっくりのようにも思える。
樺太や南方のセンチだけでなく、旧満州からの引き揚げ者も大変な苦難をしたことは良く知られている。
東京(中日)新聞が掲載している「平成の俳句」に英文学者の小田島雄志さんの句が選ばれた。
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北朝鮮のミサイルがグァムを狙い、日本の上空を通過するという予告で、あたかも臨戦のような雰囲気である。

北朝鮮が、グアム島周辺の海上を狙ってミサイルを発射する計画を検討中と発表した。ミサイルが発射された場合に備えて、米国も迎撃を検討している可能性が大きい。だが専門家は、米軍が北朝鮮のミサイルを撃墜できる保証はないと指摘している
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グアムを狙う北朝鮮ミサイル、米国は撃墜できるか

政府は迎撃準備をしている。
72年を経て、戦後生まれは90%を超えたという。
「戦争を知らない世代」が再び戦争を繰り返すことになるのだろうか?

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2016年12月20日 (火)

米軍のオスプレイ飛行再開を追認/永続敗戦の構造(8)

在沖縄米軍は19日、米軍普天間飛行場所属の新型輸送機オスプレイの飛行を再開した。
13日夜に沖縄本島北部沿岸部で起きた事故からわずか6日後である。
⇒2016年12月15日 (木):オスプレイ事故と根拠ない安全主張/永続敗戦の構造(7)

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東京新聞12月20日

在沖縄米軍トップのニコルソン沖縄地域調整官は「安全性と信頼性に米軍は高い自信を持っている。そのことを日本国民が理解することが重要だ」との談話を発表した。
事故直後の「感謝すべきだ」という発言同様の上から目線の言い方である。
菅義偉官房長官も記者会見で、米側が「オスプレイの機体自体に問題はない」としている点を踏まえ「米側の説明は防衛省、自衛隊の専門的知見に照らし合理性が認められる。再開は理解できる」と強調したが、「安全性と信頼性に米軍は高い自信を持っている」と言っても、繰り返し起きている事故が事実を示している。

翁長雄志知事は「一方的に再開を強行しようとする姿勢は、信頼関係を大きく損ね、到底容認できない」と猛反発した。
オスプレイは陸上自衛隊も17機導入し、千葉県の陸自木更津駐屯地では普天間に配備された米軍の24機の定期整備も始まる。
米軍横田基地(東京都)にも米空軍特殊作戦用機が配備され、オスプレイは日本の空を飛び回る。
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オスプレイの飛行再開 事故6日後、原因究明を後回し 政府追認


危険にさらされるのはもはや沖縄県だけではない。
すべての国民が直視すべき現実であり、米軍の見解を一方的に追認する政府は、民意と大きな乖離がある。

安倍晋三首相は原因の徹底的な究明を求めるとしていたが、米軍は事故原因の全容を明らかにする前に、オスプレイの飛行を再開した。
稲田朋美防衛相は、「抑止力の向上」を優先させ、再開を了承したが、「頼りない稲田防衛大臣」の印象を益々強めたと言えよう。
⇒2016年12月 4日 (日):不適格大臣列伝(4)・稲田朋美防衛相-2/アベノポリシーの危うさ(111)

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2016年12月15日 (木)

オスプレイ事故と根拠ない安全主張/永続敗戦の構造(7)

起こるべくして起きた事故と言えよう。
沖縄県名護市沖で米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイが「不時着」した。
米側は「コントロールを失った状況でなく自発的に着水した」と墜落の可能性を否定するが、大破した姿を見れば、墜落に限りなく近いだろう。

米海兵隊は報道発表文で「キャンプシュワブ沿岸の浅瀬に着水した」と発表し、防衛省も広報文で「不時着水」との表現を使っている。しかし現場の海岸浅瀬に横たわっている事故機をみると、真っ二つに機体が折れて大破し、回転翼も飛び散って原形をとどめていない。制御不能で墜落したとしか考えられない状態だ。米軍準機関紙「星条旗」は今回の事故を「墜落(クラッシュ)」と報じ、琉球新報も紙面では当初から事故を「墜落」と報じている。
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これが不時着? 機体真っ二つ 沖縄名護東沿岸のオスプレイ事故

オスプレイは、米国本土やアフガニスタン、ハワイなどでは墜落、不時着事故が相次いでいる。
安全性と効率性は、一般論として、トレードオフの関係と言えよう。
軍用が効率優先になるのは分からないでもないが、十分な安全性が確保できないものを、生活圏の中でオペレーションするというのは狂気の沙汰である。
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東京新聞12月15日

現場は米側が規制線を張り、機動隊は米軍の意向に沿って立ち入りを制限する。
絵に描いたような「永続敗戦の姿」である。
取材しようとする記者たちもそれに阻まれている。
オスプレイは、沖縄だけの問題ではない。
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東京新聞12月15日

安全性を強調してきた政府の信頼性が失墜した。
今こそ、アメリカとの軍事同盟のあり方を再検討すべきではないだろうか。

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2016年11月 2日 (水)

政権はなぜTPPの承認を急ぐのか/永続敗戦の構造(6)

山本有二農相が1日夜の自民党議員のパーティーで、TPP承認案に関する自身の「強行採決」発言を念頭に「冗談を言ったら首になりそうになった」と述べ、与野党から批判を浴びている。
山本氏は10月18日夜、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで、TPP承認案などの衆院審議を巡り「強行採決するかどうかは佐藤氏が決める」と発言し、その後、撤回して謝罪している。
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東京新聞11月2日

「冗談も休み休み言え」とはこのことだろう。
さすがに公明党の漆原良夫中央幹事会会長も記者会見で、「不誠実な言動の積み重ねが安倍晋三内閣の体力を奪っていくということを認識してもらいたい。猛省を促したい」と指摘し強い不快感を露わにした。
まったく驕りという以外にないが、安倍内閣の本質を示したという意味では、勲一等かも知れない。

こんな状況にもかかわらず、政府・与党は、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案を4日の衆院本会議で採決する方針を固めたという。
賛成多数で可決され、同日中に参院に送られる見通しで、政府・与党が目標に掲げてきた8日の米大統領選前の衆院通過によって、承認案と関連法案の今国会での成立が濃厚になった。

承認案と関連法案の審議時間は参考人質疑を含め、与党が当初、めどとした40時間を上回ったことをもって、審議を尽くしたということのようであるが、全体として不透明感が漂っていることは否めないであろう。
しかし、承認案は参院の審議がずれ込んでも、憲法の規定に基づき、衆院通過から30日で自然成立するから、11月30日に会期末を迎える臨時国会を小幅延長すれば自然成立する。
政府が関係国に承認書を出すことで国内の締結手続きは終わる。

しかし、アメリカの世論はTPPに批判的で、有力大統領候補のトランプもヒラリーも反TPPの姿勢を強調している。
さらにオバマ大統領が任期中にTPP発効の承認を議会で得ることは難しく、アメリカが批准する可能性はゼロに近づきつつある。
他の国の状況はどうか。
TPPを批判するニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授が講演し、参加12カ国の批准に向けた国内手続きの現状を説明した。

Tpp_2 ケルシー氏は、米国による批准が見通せないため、ベトナムは年内完了を予定していた国内手続きを来年に先送りしたと指摘。さらに、オーストラリア、カナダ、ペルー、メキシコ、チリの五カ国も米国の政治状況を見極める姿勢を取っていると述べた。「(米国以外の)過半数が先に進まない状況だ」と強調した。
 国内手続きを急ぐ国としては、日本とニュージーランドを挙げ「オバマ政権のチアリーダーのようだ。なぜ米国がどうなるのか見極めようとしないのか」と疑問を投げ掛けた。ニュージーランドでは国内関連法案が来週にも成立する見通しだと明らかにした。
 外務省によると、TPP参加十二カ国のうち、日本のように協定本体の国会承認が必要な国は七カ国。国内関連法案の成立が必要なのは十一カ国。ブルネイは国会の関与は不要だが、別の国内手続きが必要。参加十二カ国の中で、国内手続きを終えた国はない。
 TPPは「十二カ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める六カ国以上」が国内法上の手続きを終えると発効するため、経済規模一位の米国の国内手続きは不可欠。しかし、米国では民主、共和両党の大統領候補がそろってTPPに反対を表明。国内手続きのめどが立っていない。
TPP承認「日本なぜ急ぐ」 NZの教授が講演で説明

なぜ安倍政権はTPPに前のめりになっているのだろうか。
TPPはアジア版北大西洋条約機構(NATO)との見方がある。

安倍首相は、去年6月の国会で、江崎孝議員(民主党・参議院議員)の質問に対して、「私がアジア版NATOと言ったか、証拠を見せろ!」と激高する醜態を演じました。
よほど、痛いところを突かれたのでしょう。みるみる顔を紅潮させて唇を震わせる様は、視聴者にとって、「見てはいけないものを見てしまった」ような心境だったでしょう。
事実、江崎議員が指摘する3ヶ月前に、「目指せ『アジア版NATO』 首相、石破氏に調整指示 実現へ3つの関門」という見出しの記事が出ているように、自衛隊を「日本版NATO」にすることは、アメリカから安倍内閣に与えられた重要なミッションなのです。
さらに、江崎議員が追及する前の月には、NATOと新連携協定に調印しているのです。
オバマは、「TPP大筋合意」の後、「米主導の貿易ルール作り実現できる」とコメントしましたが、いったい誰がTPPを貿易ルールだと思っているのでしょう。
TPPと安保法制は、「アジア版NATO」を実現するための、なくてはならない両輪なのです。
ウソだったTPPの経済効果。安倍政権の狙いは「環太平洋の軍国化」だ

確かにTPPは、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement の略である。
Strategicという言葉はあるが、自由貿易を意味するような語はない。
結党以来強行採決したことはないという安倍首相の下で、日本国は軍事化していき、いつか通った道を再び通るのであろうか。

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2016年10月31日 (月)

核禁止条約に反対する日本政府/永続敗戦の構造(5)

核禁止条約の制定を目指す決議案が国連総会の委員会で採決にかけられ、123か国の賛成多数で採択された。
しかし、日本は反対に回った。
唯一の被爆国という立場からすれば、条約をリードするのが自然のように思える。
なぜ反対なのか?

要は、アメリカの意向である。

イスナー通信によりますと、情報筋は、「アメリカは25日火曜、NATOの同盟国に対して、核兵器禁止に関する協議の開始を要請する国連総会の決議草案に反対票を投じ、2017年から協議が始まることになれば、それを無視するよう求めた」と報じました。
アメリカは全ての同盟国に対し、核兵器禁止に関する協議に棄権票ではなく、反対票を投じるよう求めています。
核兵器禁止条約の実効は、アメリカとその同盟国の抑止力に直接影響を及ぼします。
さらに核兵器を装備した国々との共同作戦へのアメリカの同盟国の参加にも影響を及ぼすと見られています。
アメリカが、国連の核兵器禁止決議に反対

政府の立場に近い産経新聞の主張(社説)を見てみよう。

 禁止条約と名付けても、核の脅威を除くことにならない。日本や世界の安全保障を損なう空理空論ともいえる。それが世界平和に寄与するかのごとく、国際機関が振る舞うのは残念な姿である。
 安全保障の根幹を米国の「核の傘」に依存する日本は、決議案に反対票を投じた。国民を核の脅威から守り抜く責務がある、唯一の被爆国の政府として、妥当な判断といえよう。
 中国や北朝鮮などの近隣諸国は核戦力増強に走っている。これが現実の脅威であり、米国の「核の傘」の重要性は増している。
 オーストリアやメキシコなどの非核保有国は、核兵器の開発や実験、保有、使用の一切を禁止する条約の制定を目指してきた。
 それら自体は善意から発するものでも、禁止条約の推進が直ちに核兵器の脅威をなくすことはできない。
 今の科学技術の水準では、核兵器による攻撃や脅しは、核兵器による反撃の構え(核抑止力)がなければ抑えきれない。不本意であっても、それが現実なのだ。
核兵器禁止条約 惨禍防ぐ手立てにならぬ

まあ、考え方の違いではあるが、日本の独自性など必要がないということである。
ハフィントンポストは以下のように論じている。

Photo
生物兵器、化学兵器、地雷、クラスター爆弾、これら非人道兵器は、国際的に使用が禁止されている条約がある。しかし、核兵器を禁止する条約は、未だ存在しない
・・・・・・
外務省幹部の言う“核軍縮のプロセス”とは、「段階的なアプローチが唯一の現実的な選択肢」とするアメリカやイギリスなど核保有5大国のやり方を指す。これに対して、急速に核軍縮を目指す国も存在する。その一つがエジプトを中心とするアラブ諸国だ。
エジプトは1974年に「中東非核地帯構想」を提唱して以来国是としており、2010年には、「(中東の)いかなる国も、大量破壊兵器を保有することで安全が保障されることはない。安全保障は、公正で包括的な平和合意によってのみ確保される」と、自国の立場を明らかにした。
中東非核地帯構想にアラブ諸国は賛同するが、NPTに参加せず、核兵器を事実上保有するイスラエルは、「まず、イランなどに対して適用したあとで、イスラエルに適用すべき」というような趣旨の、アラブ諸国とは異なる立場を取る。
核の存在によって、中東地域でイスラエルが覇権を握ることを警戒するエジプトなどアラブ諸国は、2010年に開かれたNPT再検討会議で、中東の非核化を協議する国際会議を2012年に開催することを勧告する内容を条約に盛り込むことを条件に、NPTの無期限延長を受け入れた。しかし、会議が開かれれば、イスラエルの核保有が問題視されるため、結局国際会議が開かれていない。
今回のNPT再検討会議でも、エジプトらは2016年に中東非核化国際会議を開催することをNPTに盛り込もうと提案。しかし、アメリカがイスラエルを擁護して反発し、国際会議を開催する時期について検討期間がないことや、中東各国が平等の立場で、開催合意に至るプロセスが明確化されていない点などをあげ、国際会議の開催を強引に進めるとしてエジプトを名指しで非難。会議は決裂した。
「核兵器禁止」日本は賛同せず 被爆国なのにどうして?【NPT再検討会議】

まさに永続敗戦の構造の露出である。
東京新聞10月29日付の筆洗を掲出する。
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2016年8月15日 (月)

敗戦記念日の雑感/永続敗戦の構造(4)

天皇陛下は、全国戦没者追悼式に出席され、以下のように述べられた。

過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
主な式典におけるおことば(平成28年)

今年のお言葉は昨年の踏み込んだお言葉から、「深い反省」のみを残し、全体は一昨年以前の「定型」に戻られた。
昨年は、安倍首相の談話等もあったので、かなり意識されたのであろう。
⇒2015年8月15日 (土):安倍首相の「70年談話」を読む/日本の針路(213)
⇒2015年8月16日 (日):追い込まれつつある安倍首相/日本の針路(214)

ゴジラ映画の最新作『シン・ゴジラ』が公開中である。
未見であるが、「シン」は「新・真・神」等の意味で、「現実対虚構」というキャッチコピーに「ニッポン対ゴジラ」というルビが振ってある。
現実の日本に対し、ゴジラは何のメタファー(隠喩)なのだろうか?

東日本大震災からの復興構想会議の議長代理を務めた御厨貴氏は、震災直後に『「戦後」が終わり、「災後」が始まる』という評論を書いた。
震災から5年半経とうとしているが、果たして「戦後」は終わったのか、また「災後」になっているのだろうか?

天皇陛下の生前退位のご意向に対し、日本会議等安倍首相に近い思考の人々が、反発しているという。
日本会議自身のサイトでは、8月2日付で以下のような見解が載っている。

◎いわゆる「生前退位」問題に関する日本会議の基本見解について
七月十三日夜のNHKニュースが「天皇陛下『生前退位』の意向示される」と報じたことを発端として、現在、諸情報がマスコミ各社によって報道されている。しかし、その多くは憶測の域を出ず、現時点で明確なのは、政府および宮内庁の責任者が完全否定している事実のみである。
この段階で、天皇陛下の「生前退位」問題に関連して本会が組織としての見解を表明することは、こと皇室の根幹にかかわる事柄だけに適当ではないと考える。確証ある情報を得た時点で、改めて本会としての見解を表明することを検討する。平成28年8月2日
いわゆる「生前退位」問題に関する日本会議の立場について

ビデオメッセージ公開から1週間経つが、サイトの更新はない。
安倍首相のお気に入り稲田朋美防衛大臣は、「国に命をかける者だけに選挙権を」という反動丸出しの主張をしている。
もちろん、「国民が国に命をかける」のではなく「国が国民の命を守る」のが第一義であるのは言うまでもない。
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福島第一原発事故の教訓を何ら生かすことなく、川内原発に続き、伊方原発を稼働させた。
⇒2016年8月13日 (土):伊方原発3号機再稼働批判/技術論と文明論(62)
福島第一原発事故で、メルトダウンした核燃料(デブリ)をどう処理するのか、未だ方針が立てられていない。
いったん記述された「石棺方式を含め、状況に応じて柔軟に対応する」という計画案が削除された。
状況把握もできていないのが現状で、原発事故はまさに進行中の事態である。
決して「災後」と言える状況ではない。

同様に「戦後」は終わっていない。
日本会議や安倍首相のシンパなどは、戦前の「国体」への回帰が悲願なのだ。
⇒2016年8月 9日 (火):天皇陛下のお気持ちと護憲/日本の針路(285)
⇒2016年8月14日 (日):日本をダメにする日本会議という存在(2)/日本の針路(288)

白井聡氏が『永続敗戦論ー戦後日本の核心』太田出版(2013年3月)で指摘した構造は、より明確になりつつある。
⇒2016年6月 8日 (水):誤りを謝らなくてもいい口実/永続敗戦の構造(3)
⇒2016年6月 6日 (月):伊勢志摩サミットとは何だったのか/永続敗戦の構造(2)

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