技術論と文明論

2016年10月23日 (日)

誰のためのエネルギー政策か/技術論と文明論(78)

現代文明はエネルギー多消費構造である。
世捨て人にでもならない限り、安定的で良質のエネルギー供給は不可欠の条件である。
であればこそ、エネルギーの供給は合理的なものであるべきだろう。

原発立地県の直近の県知事選で、脱原発候補が勝利した。
川内原発のある鹿児島県と柏崎刈羽原発のある新潟県である。
⇒2016年8月29日 (月):『東京ブラックアウト』と国会質疑/原発事故の真相(147)
⇒2016年10月17日 (月):新潟県知事選に野党推薦の米山隆一氏が勝利/日本の針路(298)
地元の民意は、短期的なメリットよりも長期的なリスク重視にシフトしている。
福島原発事故の実態、対応の様相等からして当然と言えよう。

原発は八方塞がりである。
未だに原発に固執する根拠が分からない。
⇒2016年10月 2日 (日):八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)
原発は、電力会社にとっても合理性があるのだろうか?

原発政策の判断ミスのツケは巨額である。
電力会社と政府は、原発に頼らない新電力の料金にまで負担させようとしている。
⇒2016年10月 6日 (木):電力自由化と廃炉費用の負担/技術論と文明論(75)

原発政策による費用の発生は30兆円超と見積もられている。
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東京新聞10月20日

ムリな再稼働のための審査に忙殺されて、関西電力の課長職が過労自殺に追い込まれるという事態も発生している。
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東京新聞10月20日

原発の稼働は、誰の幸福も増進しない。

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2016年10月 9日 (日)

巨大噴火リスクにどう備えるか/技術論と文明論(77)

10月8日午前1時46分ごろ、熊本県の阿蘇山で爆発的噴火が発生した。
熊本・大分地震の記憶が生々しい。

Ws000000気象衛星ひまわり8号の観測によると、噴煙は高さ1万1000メートルの上空まで上がった。気象庁は阿蘇山の噴火警戒レベルを「2」(火口周辺規制)から「3」(入山規制)に引き上げ、火口から2キロの範囲での噴石の飛散や火砕流に警戒するよう呼び掛けている。
 阿蘇山で、一定以上の爆発や空気の振動を伴う爆発的噴火が起きたのは1980年1月26日以来、36年ぶり。噴火に伴う火山性微動で、熊本県南阿蘇村で震度2の揺れを観測した。阿蘇山で火山性微動により震度2以上の揺れを観測したのは95年以来36年ぶり。気象庁は噴煙の高さから予測して、約380キロ離れた兵庫県南あわじ市まで10県の100以上の市町村に降灰予報を出した。
阿蘇山噴火 気象庁「同じ規模、起こりうる」警戒呼びかけ

「破局噴火」という言葉がある。
石黒耀が2002年に発表した小説『死都日本』で考案した用語である。
作中の設定では、南九州の加久藤カルデラが約30万年ぶりの超巨大噴火を起こし、火山噴火予知連絡会はこれを「じょうご型カルデラ火山の破局“的”噴火」と発表したが、NHKの臨時報道番組のキャスターが「破局噴火」と間違えて連呼したことにより、日本国内のみならず海外においても「近代国家が破滅する規模の爆発的巨大噴火」を Hakyokuhunka と呼ぶようになったとされている。
⇒2016年4月15日 (金):熊本の地震と『死都日本』のメッセージ/技術論と文明論(48)

『死都日本』は現実の火山学者からも超巨大噴火をリアリティーを持って描いた作品と評価された。
阿蘇山はかつて4回のカルデラ巨大噴火を経験しているが、今回の噴火をきっかけにして破局的な噴火を引き起こす可能性はあるのだろうか?

巨大カルデラ噴火を起こした火山は7つあるが、そのうちの4つが九州に集中している。その中でも最大のものが、東西18キロ、南北25キロの阿蘇カルデラである。そう、先日の熊本地震で活発化が懸念される、あの阿蘇山だ。もし、阿蘇カルデラで巨大カルデラ噴火が起こったら、日本はどうなるのか。
まず、最初のプリニー式噴火によって、中部九州では場所によっては数メートルもの軽石が降り積もって壊滅的な状況に陥る。そしてクライマックス噴火が始まると、巨大な噴煙柱が崩落して火砕流が発生する。軽石と火山灰、それに火山ガスや空気が渾然一体流れる火砕流は、キノコ雲状に立ち上がった灰神楽の中心から、全方位へと広がって行く。数百℃以上の高温の火砕流はすべてのものを飲み込み焼き尽してしまう。そして発生後2時間程度で700万人の人々が暮らす領域を覆い尽くす。
Photo九州が焼き尽された後、中国・四国一帯では昼なお暗い空から大粒の火山灰が降り注ぐ。そして降灰域はどんどんと東へと広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。
大阪では火山灰の厚さは50センチを超え、その日が幸い雨天ではなかったとしても、木造家屋の半数近くは倒壊する。降雨時には火山灰の重量は約1.5倍にもなる。その場合は木造家屋はほぼ全壊である。
その後、首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの火山灰が積もり、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する。水道は取水口の目詰まりや沈殿池が機能しなくなることで給水不能となる。
現在日本の発電量の9割以上を占める火力発電では、燃焼時に大量の空気を必要とするが、空気取り入れ口に設置したフィルターが火山灰で目詰まりを起こすために、発電は不可能となる。これにより、1億2000万人、日本の総人口の95%が生活不能に陥ってしまう。
同時に国内のほぼすべての交通網はストップする。5センチの降灰により、スリップするため、道路は走行不能となる。従って除灰活動を行うことも極めて困難を極めるだろう。主にガラスからなる火山灰は、絶縁体である。この火山灰が線路に5ミリ積もるだけで、電気は流れなくなり、電車はモーターを動かすことができなくなるし、信号も作動しなくなるのだ。
さらに言えば、現在最も一般的なレールは15センチ程の高さしかない。従って北海道以外の地域では、そもそもレールそのものが埋没してしまう。
このように、交通網が遮断されてしまうので、生活不能に陥った人たちに対する救援活動や様々な復旧活動も、絶望的になる。巨大カルデラ噴火の発生による直接的な被害者は、火砕流と降灰合わせて1000万人程度であろう。しかし、救援・復旧活動が極めて困難な状況下で生活不能に陥った1億人以上の人々は一体どうなるのだろうか?
人間は断食には比較的耐えることができるようだが、水は生命維持には必須である。最低で4~5日間水分の補給がないと、私たちは生きることはできない。救援活動がほとんど不可能な状態では最悪の事態、つまり1億人以上が命を落とすことを想定しておく必要があるだろう。
阿蘇山「カルデラ噴火」が、日本を壊滅させる

まさに日本沈没である。
阿蘇山は日本を貫く巨大な活断層である「中央構造線」のほとんど真上に位置している。
熊本地震が発生してから、中央構造線付近を震源とする地震が増えており、ほぼ線上に伊方原発が立地しているのだ。
伊方町長選では原発容認派が勝ったが、伊方町だけの問題ではない。

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2016年10月 8日 (土)

「もんじゅ」廃炉と核燃料サイクル/技術論と文明論(76)

やっと廃炉の方向性が決まった「もんじゅ」に目くらましの可能性があると指摘されている。
政府は「もんじゅ」は廃炉にしても核燃サイクルの開発は続けるという。
⇒2016年9月23日 (金):破綻しているのは「もんじゅ」and/or「核燃料サイクル」/技術論と文明論(70)

「もんじゅ」を廃炉にして、核燃料サイクル」は続けるという意味をどう考えるか?

「もんじゅ」の廃炉で、いかにも重大な政治決断をしたように見せかけ、その実、「核燃サイクル」にかける予算や人員は減らさないということではないか。いつものように目くらましでごまかされないよう、政府の真の意図をさぐっておかねばならない。
いまさらいうまでもなく、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。
いずれ、科学技術の力で克服できると踏んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている。
この状況を打開し、ウラン資源を持たない弱みを解消するための、一石二鳥プランとして浮上し、事業化したのが「核燃料サイクル」である。
使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して再び使うというサイクル計画。そこには、自力で核兵器をつくる技術的な能力を持っていたいという政府の思惑もある。
それを承知のうえ、米国が原子力協定を結んで非核保有国である日本に再処理を認めたのは、思うがままコントロールできる、いわば「属国」という双方暗黙の前提があるからだ。
この事業計画のかなめとなるのが高速増殖炉「もんじゅ」だったが、トラブル続きで36年経っても実用化できなかった。1兆円もの巨費を垂れ流し、多くの職員やファミリー企業の雇用を維持するだけの存在となっていた。
民主党政権下の平成24年9月には、「革新的エネルギー・環境戦略」なる文書のなかで、「研究を終了する」という目標が打ち出された。「もんじゅ」廃炉のチャンスだったが、しょせん目標は目標にすぎなかった。
そして、自公に政権が移ったあと、原子力ムラの勢いが復活し、2013年12月、政府はエネルギー基本計画を作成して、民主党政権が決めた「原発ゼロ」方針を撤回、「もんじゅ」に関しては「研究終了」から「実施体制を再整備する」に転換した。
だがそれには無理があった。「もんじゅ」は、実施体制の再整備どころか、まったく稼働のめどが立たない。年200億円をこえる国費は人件費を中心とする維持管理費に消え、開発の進展にはつながらない。
もんじゅ廃炉の裏に、新たな「天下り利権」死守の目くらまし疑惑

はたして、「もんじゅ」をなくして、「核燃サイクル」が成り立つのか?
「もんじゅ」は廃炉にするが、「高速炉」の研究は続けるという理屈は成り立つのか?

核燃料サイクルは以下のような図で説明されている。
Photo
核燃料サイクル(原子燃料サイクル)とは

高速増殖炉を動かすから、青森県は全国の原発から出る「使用済み核燃料」を引き受けてきたのです。高速増殖炉を動かさないのならプルトニウムは必要なくなり、使用済み核燃料はゴミとなってしまいます。そのばあいは今あるゴミは全て各電力会社へ持って帰ってもらうという約束を国と交わしているのです。だから国も電力会社も「核燃料サイクル計画」をやめるとは口が裂けても言えないのです。
高速増殖炉「もんじゅ」廃炉は「核燃料サイクル計画」というウソ崩壊の序章

「もんじゅ」が止まれば、その燃料を作り出す「核燃料サイクル計画」を続ける意味がない。
「核燃料サイクル」をやめたら、使用済み核燃料は電力会社へ返還されるので、原発の運転ができなくなる。
もはや原発政策は全般的に破綻しているのだ。
⇒2016年10月 2日 (日):八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)

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2016年10月 6日 (木)

電力自由化と廃炉費用の負担/技術論と文明論(75)

東京電力福島第1原発の事故炉の処分費用が膨れ上がり、廃炉も迫られているため、積立金の不足が生じている。
原発の事故処理と廃炉に必要な費用の国民負担につながる議論が5日、本格的に始まった。
政府は原発の廃炉費用を、電力小売りの全面自由化で新規参入した電力会社(新電力)に負担させる方針だという。
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東京新聞10月6日

既存大手電力会社の負担を新電力に転嫁すると、電源として原発を選択するか否かが無差別になる。
自由化の前提である競争原理をゆがめることにもなろう。
これに対し、産経新聞は「新電力の負担は当然」との主張を掲げた。

 原発の廃炉費用の負担について、経済産業省が電力自由化で新規参入した新電力にもその一部を求める案を示した。
 これに対し、「原発を保有しているわけでもないのに、なぜ新電力が負担する必要があるのか」との反発が出ている。
 そうした考え方は正確でない。新電力に切り替えた消費者も、自由化前には原発で発電した安い電気を使ってきたからだ。
 その受益を考えれば、原発の廃炉費用を新電力を含めて広く分担するのは当然といえよう。新電力も電力市場の担い手としての責務を負うべきだ。
 大手電力が地域を独占していたときは、原発建設や廃炉の費用は利用者が支払う電気代に含まれていた。4月から電力会社を選べる自由化が始まり、料金制度も変更されたため、新たな費用負担の枠組みを導入することになった。
 経産省案では、大型原発1基で最大800億円かかる廃炉費用について、送電線の使用料に上乗せする形で新電力にも分担を求める。電気代に転嫁され、最終的には新電力に切り替えた契約者が負担する。
 「国策民営」で展開されてきた原発を含め、暮らしを支える電力という公益事業の利用者が、必要な費用を分かち合うのは自然なことだ。割安な料金のメリットだけを受ける「いいとこ取り」を許さない制度にするのは妥当だ。
【主張】原発の廃炉費用 「新電力も負担」は妥当だ

「自由化前には原発で発電した安い電気を使ってきたから」廃炉費用も負担するのは当然だろうか?
電力事業者は、建設から廃棄までのライフサイクルコストを考えて電源を選択しているのではないのか。
いざ廃炉費用が必要になったから、その分は利用していない人も分担してね、というのはおかしい。
原発で作った電力は使いたくないから、という理由で新電力を選択した人もいるはずだ。
電源構成の開示は不十分だと思うが、今後充実化していくだろう。

そもそも政府は、原発のコストは安いと説明してきたのではなかったのか。
転嫁に突き進むならば、その正当性はないということになる。
無責任の体系は健在だ。

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2016年10月 2日 (日)

八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)

経済産業省は9月27日、有識者会合「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」の初会合を開いた。
原発の廃炉に必要な費用を、全ての電力利用者に負担させるための制度設計を話し合うという。
10月から有識者会合「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」も始まる。
これらの議論を踏まえ、東電福島第一原発の廃炉や損害賠償、除染にかかる費用の国民負担も検討する予定だという。

原発は発電コストが安いということだったはずである。
それなのに、いざ事故が起きて、廃炉や損害賠償、除染にかかる費用を、国民負担するというのは道理が合わない。

私は視聴する機会を失したが、NHKが8月26深夜に放送した討論番組「解説スタジアム」では、NHKの解説委員7人が、「どこに向かう 日本の原子力政策」というタイトルで議論し、日本の原発政策の行き詰まりを赤裸々に語っていたという。
ネット上の声を拾ってみよう。

〈解説スタジアム、すごい。是非ゴールデンタイムにやってほしい〉〈国会議員は全員観てほしい〉〈これがNHKかと、わが目、わが耳を疑うこと請け合い〉〈各委員の現政権の原子力政策に対する強烈な批判内容に驚いた〉

どんな内容だったのか?

 ある解説委員は、「アメリカは、地震の多い西海岸には設置しないようにしている。日本は地震、津波、火山の原発リスク3原則が揃っている。原発に依存するのは問題だ」と日本の国土は原発に適さないと指摘。
 再稼働が進んでいることについても、「規制委員会が慎重に審査しているとしているが、審査の基準が甘い。アメリカの基準には周辺住民の避難計画も入っているのに、日本は自治体に丸投げだ。こんな甘い基準はない。安易な再稼働は認めるべきじゃない」と正面から批判した。
 その規制委員会や政府に対しては、こんな言葉が飛び出した。
「規制委員会は(再稼働にお墨付きを与えておきながら)『安全性を保障するものではない』としている。だったら地元住民はどうすればいいのか」「政府は責任を取ると口にしているが、(事故が起きた時)どうやって責任を取るのか。カネを渡せば責任を取ったことになるのか。災害関連死も起きている。責任を取れないのに、責任を取ると強弁することが問題だ」
「もんじゅ」を中核とする核燃料サイクルについても、「破綻している」「やめるべきだ」とバッサリ斬り捨てた。
 そして、最後に解説委員長が「福島原発事故では、いまだに9万人近い方が避難生活を強いられている。安全神話は完全に否定され、事故を起こすと、いかに手に負えないかを知ることになった」と締めくくっている。
安倍デタラメ原発政策を一刀両断 NHK番組の波紋広がる

まあ、当たり前のことと言えば当たり前のことではあるが、御用メディア化しつつあるNHKが、政府の原発政策を完全に否定しているのだ。
原発政策の破綻は、端的には次の3つの「行き詰まり」である。
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原子力政策のほころび次々 原発廃炉の国民負担議論スタート


もはや原発政策は転換せざるを得ないだろう。
タイミングを失えば、それだけ損失は大きくなると考えるべきだ。

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2016年9月27日 (火)

日本社会の価値意識の転換/技術論と文明論(73)

東日本大震災によって、私たちの生活のあり方を根本的に問い直さざるを得なくなった。
特に、福島原発事故によって、エネルギー政策が厳しく問い直されるていると言えよう。
2010年6月、民主党政権下で閣議決定したエネルギー基本計画は、CO2を排出しない原子力に比重を置かざるを得ないという判断のもと、2030年までに原子力発電所を14基新増設し、電力の53%を賄うという目標を設定した。

しかしフクシマの事故以前に、この計画のロジックはすでに破綻していたのである。
地球温暖化防止というエコロジーのために、原子力利用を推進するという論理は成り立たない。
エネルギー制約、環境制約の中で、人類はどのような針路を目指すべきか?

LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability :健康と持続可能性の、またこれを重視するライフスタイル)が言われるが、政策としてどう位置づけるか?
ブータンでは「国民総幸福度」という概念が使われているという。
「成長の限界」が真剣に問われた1960年代末から70年代初頭にかけての時代と似ているような気がする。
⇒2011年12月24日 (土):『成長の限界』とライフスタイル・モデル/花づな列島復興のためのメモ(15)

新しい幸福論』岩波新書(2016年5月)を上梓した橘木俊詔京都女子大客員教授が、東京新聞のインタビューに応えている(9月24日掲載)。
内閣府の世論調査では、「物質的な豊かさよりも、心の豊かさ」を重視する人が増えている。
Or160924

国民が人口減を選択したということは、経済減速の道を選んだのと同義である。
財界からも、「2%成長(実質)などもう無理」という声が出ている。
人口減で、労働力も家計の需要も減っていく。

経済が弱くなると、アジアの中で発言力が低下するという声があるが、脱覇権主義で行くべきだ。
ヨーロッパでは世界的な覇権などと無関係なデンマーク、スウェーデン、スイス、オーストリアは経済的に豊かで、幸福度が高い生活を送っている。
日本は成熟した経済だから、脱経済成長に舵を切るべきだ。

日本の格差や貧困は深刻である。
格差を是正した方が経済を強くできる。
米国流の公助に頼らない自立の道を選ぶか、ヨーロッパ流の福祉国家の道を選ぶのか。
Or1609242

「トリクルダウン」という言葉が、2014年の新語・流行語大賞にノミネートされた。
甘利経済再生担当相(当時)などアベノミクスを喧伝する人たちが盛んに使ったためである。
しかしそれが幻でしかないことは既にはっきりしたであろう。
⇒2016年6月11日 (土):トリクルダウンの幻/アベノポリシーの危うさ(79)
エネルギー開発に限っても、再生可能エネルギー技術、省エネルギー技術、廃炉技術など取り組むべきテーマは多い。
大艦巨砲主義に失敗を繰り返すべきではない。

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2016年9月26日 (月)

回路から漏出する電子とセレンディピティ/技術論と文明論(72)

チップの微細化による電子の漏出が、「ムーアの法則」の限界をもたらしつつある。
⇒2016年9月21日 (水):「ムーアの法則」の限界とAIの可能性/技術論と文明論(69)
日本経済新聞の解説記事を読んでいて、今年度の小林秀雄賞を受賞した『数学する身体』新潮社(2015年10月)に、面白いことが書いてあったことを思い出した。
⇒2016年9月10日 (土):『数学する身体』の小林秀雄賞受賞/知的生産の方法(156)

森田さんは「進化電子工学」における「2つのブザーを聞き分けるチップ」を作る研究を紹介している。
人間がこういうチップを設計することはさほど難しいことではないが、人工進化によって作り出そうという実験である。
およそ4000世代の「進化」の後にタスクを達成するチップが得られた。
しかし、奇妙なことには、このチップは100ある論理ブロックのうち、37個しか使っていず、しかもその中の5個は他の論理ブロックと繋がっていないのだ。
そして、他の論理ブロックと繋がっていない孤立した論理ブロックの1つでも取り除くと、回路は働かない。

良く調べてみると、この回路は、電磁的な漏出や磁束を巧みに利用していた。
ノイズとして排除されるべき漏出が、回路基板を通して、チップからチップへ伝わり、タスクをこなすための機能的な役割を果たしていたのである。
チップは回路間のデジタルなやりとりだけでなく、アナログの情報伝達回路を進化的に獲得していたということになる。

このことはセレンディップと呼ばれる予期しない創造的な発見と関係があるように思われる。
あるいは日常的な業務においても、ブレーンストーミングと呼ばれるような、異質の視点が有効であることと共通するのではないだろうか。
Photo_3
ブレインストーミングを成功させるためには何が必要?

森田さんは次のように書いている。

 人間が人工物を設計するときには、あらかじめどこまでがリソースでどこからがノイズかをはっきり決めるものである。この回路の例で言えば、一つ一つの論理ブロックは問題解決のためのリソースだが、電磁的な漏れや磁束はノイズとして、極力除くようにするだろう。だがそれはあくまで設計者の視点である。設計者のいない、ボトムアップの進化の過程では、使えるものはなんでも使われる。結果として、リソースは身体や環境に散らばり、ノイズとの区別が曖昧になる。どこまでが問題解決をしている主体で、どこからがその環境なのかということが、判然としないまま雑じりあう。

アルファ碁が考えた(発見した)新しい打ち回しが、新定石を生んでいるという。
「ムーアの法則」が限界を迎えるような微細な回路における電子の漏出が、偶然に、まったく新しい質を獲得することになるのかも知れない。

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2016年9月24日 (土)

新薬探索とAIの可能性/技術論と文明論(71)

今年もノーベルウィークが近づいてきた。
トムソン・ロイターの「トムソン・ロイター引用栄誉賞」は、学術論文の引用データ分析から、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出することで知られる。
15回目となる2016年は、日本人研究者3名を含む合計24名が受賞した。

日本からは、化学分野において2名、医学・生理学分野から1名が選出された。
崇城大学DDS研究所特任教授・熊本大学名誉教授の前田浩氏と国立がん研究センター先端医療開発センター新薬開発分野分野長の松村保広氏は「がん治療における高分子薬物の血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果の発見」、京都大学客員教授の本庶佑氏は、「プログラム細胞死1 ( PD - 1 )およびその経路の解明により、がん免疫療法の発展に貢献」が受賞対象となった。
果たして、3人の中からノーベル賞受賞者が出るのであろうか、それとも他の人が受賞するのか。

新薬開発は現に病気になっている人や家族にとっては大きな期待である。
しかしその開発コストは大幅に高騰している。
一般に新薬が世の中に出るプロセスは以下のようである。
Photo
医薬品業界の分析・研究開発

厚生労働省は人工知能(AI)を使い、高い効果の見込める画期的新薬の開発を後押しするという。
抗がん剤といった新薬のもとになるシーズ(種)と呼ぶ新規物質を見つけ、数年内に研究者らに提案することを目指し、グローバルに新薬開発競争が激しさを増す中、巨額の費用が必要で成功率も低い新薬の開発に向けて国の支援を強化する。

Ai_2 まず民間企業がある程度開発したAIを購入するなどして、抗がん剤など目標とする新薬の分野に関する国内外の膨大な論文やデータベースを読み込ませる。学習して見つけたシーズを動物実験などで検証し、AIがさらにその結果を学んで能力を高めていく。
 開発したAIは国の医療研究の司令塔と位置づけられる日本医療研究開発機構(AMED)を中心に、理化学研究所や産業技術総合研究所などが参加する「創薬支援ネットワーク」内で活用する。厚労省はまず17年度に3億5000万円を投じ、18年度以降も予算要求額を拡大する。
 AIは金融や製造業など幅広い産業で実用化が進んでいる。医療でも東京大学とIBMは15年から、がん研究に関連する論文をAIに学習させ、診断に役立てる臨床研究を実施中だ。東大の東條有伸教授は「人間だと1カ月近くかかることをAIなら数分で結果にたどり着く」と評価する。
 抗がん剤やC型肝炎、生活習慣病などに用いる画期的新薬を開発するには、病気の発症に関係する遺伝子やたんぱく質に作用する新薬候補を見つける必要がある。ただ膨大な候補の中から有効な化合物を絞り込み1つの新薬ができるまでに10年超の期間と数百億円以上を要するとされる。
 グローバルな新薬開発競争の中で日本勢の創薬力はなお低いとの見方もあり、厚労省は国の有力な研究組織を束ねて官民連携を強化し、研究者らの取り組みを支える必要があると判断した。
新薬候補、AIが提案 論文学習し新物質探る

AIが実用域に入ってきたことは確かであろう。
ノーベル賞級の研究者を凌駕するような成果を出せるのか、楽しみである。

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2016年9月23日 (金)

破綻しているのは「もんじゅ」and/or「核燃料サイクル」/技術論と文明論(70)

政府は21日、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)について関係閣僚会議を開き、「廃炉を含め抜本的な見直しをする」とした。
ようやく廃炉に向かうことになるのであろうか。
原子力規制委員会が運営者を代えるよう、文部科学省に勧告してから、11カ月余りである。
「見切り千両」のコトワザの説くように、意思決定が遅れる分だけ、損失は大きくなる。
⇒2015年11月 6日 (金):もんじゅは廃炉にして原発政策を見直すべき/原発事故の真相(135)

一方で核燃料サイクルは維持し、新設の「高速炉開発会議」で、年末までに今後の方針を出すという。
核燃料サイクルは、原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、再利用する。
1609222
東京新聞9月22日

プルトニウムを燃やすもんじゅはサイクルの柱だ。
Ws000000
池上彰『行き詰まった核燃料サイクル』週刊文春9月15日号

もんじゅは、危険なナトリウムを冷却材に用いる必要があり、構造も複雑で、1994年に本格稼働したものの1995年にはナトリウム漏れ事故を起こして停止した。
その後もトラブルが相次ぎ、稼働日数は20年以上の期間の累積で250日にとどまっている。
停止状態でも5000万円/日の維持費が必要だとされる。

「もんじゅ」を中心とした核燃料サイクルには、少なくとも12兆円以上が費やされてきた。
施設の維持・運営費で年間約1600億円が必要である。
廃炉も、もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の試算によると、30年の期間と3000億円の費用がかかる。
「もんじゅ」の実態を知ったら、文殊菩薩も怒るだろう。
一方、地元福井県の西川知事はこの方針に憤っている。

 原子力関係閣僚会議の終了後、松野文部科学大臣は福井県庁を訪れ、福井県の西川知事らに「もんじゅ」について廃炉を含め抜本的に見直す方針を伝えました。
 「今回の決定を地元として見ていると、目先にとらわれた場当たり的な方針と思われてならない」(福井県 西川知事)
 さらに、西川知事は「無責任極まりない対応であり、県民には理解できない」と強く抗議し、地元への説明責任を果たすよう求めました。
文科相が福井県知事に説明、西川知事「無責任極まりない対応」

ボタンを掛け違うと損失は計り知れない。
破綻しているのは「もんじゅ」なのか「核燃料サイクルなのか」。
自民党の河野太郎行政改革推進本部長(前行政改革担当相)は22日、東京新聞のインタビューで、「『もんじゅ』だけでなく核燃料サイクル全体をやめるべきだ」と述べた。

 河野氏は、使用済み核燃料を再処理し通常の原発で再利用する「プルサーマル」についても「コストが高いことは確実だ」と指摘した。政府は「プルサーマル」を、もんじゅとともに核燃サイクルの柱の一つと位置付けている。
 その上で、政府が二十一日の関係閣僚会議でもんじゅ以外の核燃サイクル維持の方針を打ち出したことを批判。「党行革本部で核燃サイクルなど原発予算を洗い出し、国民に合理的に説明できないものは認めない」と強調した。
自民・河野行革推進本部長「核燃料サイクル中止を」 不合理予算認めず

廃炉のコストを国民全体で負担することが検討されているという。
原発は低コストだというのならば、原発事業者が廃炉コストまで賄うのが当然だろう。

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2016年9月21日 (水)

「ムーアの法則」の限界とAIの可能性/技術論と文明論(69)

日本の囲碁界では、井山裕太七冠がタイトルを独占中であり、「誰が、何時」タイトルを奪取するかが大きな関心事である。
高尾紳路九段が1,2局を先勝した名人戦が、9月20日、21日に行われ、高尾九段が3連勝した。

 残り2分になった井山名人が、169手目を見て投了を告げた。高尾挑戦者の開幕3連勝が決まった。10期ぶりの名人奪取まで、あと1勝とした。
 3連敗となった井山名人は早くもカド番に追い込まれた。名人防衛、七冠維持には残り4連勝しかない。
第41期囲碁名人戦七番勝負

常識的には高尾九段が絶対的優位と言えようが、井山七冠だけに予断を許さない展開だ。
囲碁界では、AI(人工知能)の話題も広く関心を集めている。
人間が優位性を保つ最後の砦と言われてきた囲碁において、世界最強棋士の1人と言われる韓国の李セドル9段に勝った。
グーグルのアルファ碁といわれる人工知能で、アルファ碁は、ディープラーニングという手法によって急速に腕を上げたと言われる。
⇒216年5月24日 (火):ディープラーニングの発展と脳のしくみ/知的生産の方法(150)

演繹的に有利な手を導出するのではなく、局面のパターン認識によって最善手を発見するのが、従来のソフトとの大きな違いである。
ディープラーニング(深層学習)によって、人工知能は急速に人脳らしくなり、クルマの自動運転等にも大きな貢献をしている。
自動運転の実現は、技術的にはそう遠くないであろうと言われている。

ディープラーニングを可能にした背景には、半導体技術の進歩による集積回路の発展がある。
良く知られているように、集積度に関する「ムーアの法則」がある。
インテルの創業者の一人のG・ムーアが1965年に発表した予測モデルである。
約半世紀の間、おおむねムーアの法則通りに推移してきたが、さしものムーアの法則にも陰りが見えてきたのではないかと指摘されている。
160918_22
日本経済新聞9月18日

集積度の向上は、チップの微細化を追求することで達成されてきた。
微細化、つまり半導体回路のトランジスターの寸法(プロセスルール)を狭めることは、ICの高性能化に直結する。
寸法を狭めれば狭めるほど、トランジスターの性能は高まり、1つのチップ内に収まるトランジスターの数も増やせる。
その結果、チップの高性能化や低消費電力化、低コスト化を図ることができる。

その微細化が限界を迎えているというのだ。
回路を高速で作動させると熱が発生するが、集積度を高めると、放熱の課題が重要になってくる。
回路の電圧を下げたり、基板の熱特性の改良などで切り抜けてきたが、限界に近づいている。
電圧を低下させると、トランジスタの誤作動に繋がるし、基板材料にも限界がある。
⇒2009年8月26日 (水):熱と温度 その3.熱伝導率と熱拡散率/「同じ」と「違う」(5)
⇒2009年8月27日 (木):熱と温度 その4.熱伝導率と熱拡散率(続)/「同じ」と「違う」(6)

また微細化が進むと、電子が配線から漏出するようになる。
これはノイズの発生に直結する。
漏出は微細化によって指数関数的に増えていき、S/N比は急速に低下していく。

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