ケアの諸問題

2016年7月27日 (水)

相模原障害者施設大量殺人事件/ケアの諸問題(26)

何とも遣り切れない陰惨な事件が起きた。
7月26日午前2時50分、神奈川県相模原市緑区にある障害者施設の職員に男が侵入し、入居者が殺された。
同日8時30分時点の報道によると、相模原市消防局が19人の死亡を確認、他に26人が負傷(うち20人は重傷)しており、死亡した19人全員が施設の入所者である。
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東京新聞7月27日

相模原市の障害者施設で起きた刺殺事件は欧米メディアも大きく報じた。
欧米では最近、銃乱射事件やテロといった凄惨な事件が相次いでいる。
それだけに、治安の良さで知られる日本でも大量殺人が発生したことは衝撃的だった。

 米CNN(電子版)は現場で救助に当たる救急隊員の映像などを使い、「第二次大戦以降の日本で最悪の大量殺人」と報道。英BBC放送(同)は東京・秋葉原で平成20年に7人が死亡した無差別殺傷事件などにも触れながら、「日本では過去数十年で最悪の事件」と報じた。
 メディアは植松聖容疑者(26)が障害者を殺害するとつづった手紙にも強い関心を示し、独DPA通信は植松容疑者が「障害者の安楽死」を図ったと報じ、AP通信は「憎悪が若者を(犯行に)駆り立てたようだ」と伝えた。
 海外での関心の高さの背景にあるのは、欧米などと比べて日本が「世界で最も安全な国の一つだ」(BBC)とみなされているためだ。ロイター通信は「大量殺害は世界でありふれている」が、「日本では極めて珍しい」と指摘。一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は国連の統計を引用し、2011年の人口10万人当たりの殺人発生件数は0.3件だが、「米国はその10倍以上の4.7件だ」と紹介した。
「日本で最悪の大量殺人」欧米メディアも大きく報道

被疑者の属性についてはこれからさまざまな事実が明らかにされていくであろうが、明らかに精神異常を窺わせる。
被疑者は以下のような手紙を用意していたらしい。
手紙はA4のリポート用紙3枚の手書きで書かれていた。
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【相模原事件】大量殺人事件の犯人から大麻の薬物反応!

 駿河台大の小俣謙二教授(犯罪心理学)は「計画性があり、メッセージだと思う」と分析する。植松容疑者は自身のものとみられるツイッターやフェイスブックにも書き込み、今月二十二日にドイツ・ミュンヘンで起きた銃乱射事件などにも言及していた。「障害者とうまくコミュニケーションできないなど、複合的ないら立ちがあったのかもしれない」とみる。
 一方で筑波大の土井隆義教授(社会病理学)は「職場での境遇などが潜在的な動機としてあるのかもしれないが、排除のレトリックばかりで、経験などで障害者は変わり得るということが理解できていない」と解説する。
 手紙ではカジノ建設を求めるなど、支離滅裂な内容が大半を占める。東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)は「イデオロギーや思想性は感じられず、障害者に対する誤った認識もうかがえる。この手紙をもって犯行予告とは考えられない」との見方を示した。
相模原殺傷容疑者 衆院議長宛ての手紙に障害者への偏見

ケアされるべき人たちが、殺害の対象になるとはひどい世の中になったものだ。
被疑者のツイッターアカウント「聖@tenka333」に事件直後、「世界が平和になりますように。beautiful Japan!!!!!!」というスーツ姿の植松容疑者の写真が添付された投稿があったことが明らかになった。
「beautiful Japan!」というのは、安倍首相の著書『美しい国へ』文春新書(2013年1月)を意識したものであろう。
上記の手紙にもあるように、「安倍晋三様」に深い思い入れがあるようである。
「一億総活躍社会」を謳う安倍首相は、障害者の現状や子に事件についてどう思うのだろうか?

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2015年10月16日 (金)

介護離職対策の理想と現実/ケアの諸問題(25)

安倍晋三首相が『新3本の矢』という名の新政策を掲げた。
(1)強い経済:GDP600兆円達成を目指す。
(2)子育て支援:希望出生率1.8を目指す。
(3)社会保障:仕事と介護が両立できる社会づくり。
いずれもスローガンとしては結構であるが、現実論となるとどうだろうか?
⇒2015年10月 5日 (月):「安保の次は経済」という2匹目のドジョウ/アベノミクスの危うさ(54)

GDP600兆円は経済界からさえ批判が出ている。
団塊世代の後期高齢者入りを控えて、仕事と介護の両立の見通しはどうか?

 親などの介護で仕事を辞めざるを得ない「介護離職者」は年間10万人前後で推移しており、今後、大きな社会問題になりそうだ。首相は施設整備で対応する考えだが、多額の費用が必要で、ハードルは高い。
 介護に直面するのは企業の管理職の年代に当たる。政府の経済財政諮問会議では民間議員から離職者の増加による企業へのダメージを心配する声が上がっている。首相も先月24日の記者会見で「団塊ジュニアが大量離職すれば経済社会が成り立たなくなる」と強調。達成時期は2020年代初頭とし、団塊ジュニアの親である団塊世代が75歳以上となる25年の前に環境を整える意向だ。
 特別養護老人ホーム(特養)の入所待機者(要介護3以上)は13年度で約15万人で、厚生労働省の試算では、特養の定員は25年度までに20万人増える見込みだ。ただ、厚労省は在宅中心の介護に力点を置いており、施設の大幅増設には消極的。新たに大幅な財源投入がなければ整備計画の前倒しにとどまる見通しだ。
 首相は、25年度に約38万人不足すると推計される介護人材の育成にも取り組む考えだ。そのためには全産業平均より月10万円も低い介護職員の待遇改善が急務だ。
 首相は、介護離職ゼロや職員の待遇改善という形で介護対策が現役世代にも資するとの考えを示している。しかし、ある厚労省幹部は「税収の増加分で足りなければ他の社会保障費を削ることにもなりかねない」と懸念する。
新三本の矢:介護離職ゼロ 施設整備に費用の壁

帝国データバンクの『老人福祉事業者の「休廃業・解散」動向調査』によると、2005年~2014年の10年間における老人福祉事業者の休廃業・解散は428件。
2014年は130件で、前年比1.5倍以上だ。
帝国データバンクでは、介護報酬引き下げによって、今後さらにこうした状況が進むのではないかと予測している。
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https://p-kaigo.jp/news/7923.html

介護職が低賃金であることはよく知られた事実である。
賃金の大幅な引き上げが急務であるが、介護職の給与水準を全産業平均並みにするには年間1.4兆円の財源が必要になるという試算がある。
早急に具体策を検討しないと介護離職は減少しないだろう。

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2015年4月 4日 (土)

介護離職のリスクマネジメント/ケアの諸問題(24)

2025年には総介護社会がやってくると予測されている。
総介護社会とは、被介護者か介護者かは別として、介護に無関係な人は、ほとんどいなくなるという社会である。
⇒2014年5月19日 (月):総介護社会への準備を急げ/ケアの諸問題(11)
⇒2014年10月13日 (月):超高齢社会をどう生きるか?/ケアの諸問題(15)

総介護社会では、確実に介護者不足になると思われる。
しかし、介護者育成にはさまざまな課題がある。
⇒2014年2月 6日 (木):揺れる介護福祉士養成制度/花づな列島復興のためのメモ(304)
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

介護の問題は避けて通れないにもかかわらず、直面するまではなかなか我が事として考えにくい。
ある意味で、防災と似ているのではないか。
介護が必要になった原因は下図のようである。
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東京新聞2014年9月15日

やはりトップは脳血管障害である。
私が脳梗塞を発症したのは2009年12月であったが、予兆を意識したことはなかった。
回復期の病院で、「脳卒中は地震に似ていると思います。突発的で、後遺症が大変」などと主治医と話していた。
⇒2010年3月22日 (月):闘病記・中間報告(2)予知の可能性
⇒2010年4月11日 (日):闘病記・中間報告(3)初期微動を捉えられるか
⇒2010年4月18日 (日):闘病記・中間報告(4)初動対応と救急車の是非
「介護は初動が大事」と言われているのも、防災と同じことだろう。

介護と離職について、次の2つの問題が指摘されている。
1.介護のために今まで携わっていた仕事を離職せざるを得なくなる
2.介護の仕事に従事していた人が労働条件等を理由に離職

2については、介護職の労働条件の改善を図る以外に本質的な解決策はないと思われる。
1につて、厚労省は2013年にに、「仕事と介護の両立モデル」と「介護離職を予防するための職場環境モデル」を発表し、すでに検証実験も行われている。
しかし企業の多くは従業員の介護リスクを把握していない。
⇒2015年1月13日 (火):介護休業は浸透するか?/ケアの諸問題(20)

リスクマネジメントの観点からも、企業は介護の問題に正面から取り組むべきであろう。

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2015年3月 4日 (水)

認知症と人型ロボットの癒やし効果/ケアの諸問題(23)

もうすぐ団塊の世代全員が高齢者になる。
10年後の2025年には、後期高齢者入りを完了するわけである。
いわゆる日本社会の2025年問題であり、認知症社会と呼ばれる社会の到来である。
⇒2014年3月23日 (日):認知症患者の増大と在宅ケア/ケアの諸問題(2)
⇒2015年2月17日 (火):「すでに起こっている」認知症社会/ケアの諸問題(21)

加齢による認知能力の低下は普遍的であり、社会の高齢化が進めば認知症の罹患率が高くなることは不可避である。
高齢者同士が介護を必要とするようになる老老介護になり、さらには認知症同士が介護する認認介護になっていく。
⇒2014年4月29日 (火):認認介護という現実/ケアの諸問題(6)

厚労省の予測では、2025年に認知症の患者数は700万人に達する。
65歳以上の5人に1人が認知症になる、という前提だ。
もちろん、認知症予防のための多様な試みが行われている。
認知症の進行を遅らせることは可能であっても、発症を予防することは現時点では難しい。
認知症の進行を遅らせる1つの“治療薬”が、人型ロボットである。
「日経ビジネスオンライン」誌の3月4日号に、『
「認認介護」時代に光る、人型ロボットの可能性』という記事に紹介されている。

 昨年ソフトバンクが発表した人型ロボット「ペッパー」。
・・・・・・
 ソフトバンクロボティクスは2月下旬、ペッパー向けのアプリケーション開発コンテスト「Pepper App challenge 2015」を開催した。インターネットにつながるペッパーの最大の特徴は、好きなアプリをダウンロードしてロボットの用途を変えることができる点。アプリによって、ただのおしゃべりロボットが実用性を持つことができる。
 開発コンテストでは、決勝に進出した10作品が登場した。ペッパーがマジックショーをするアプリや、ペッパーと一緒に写真が撮れる自分撮りアプリなど、エンターテインメント性の高いアプリが目立つなか、最優秀賞を獲得したのは「プロジェクトチーム・ディメンティア」の「ニンニンPepper」。ペッパーを認知症のサポートロボットに変えるアプリだ。
ペッパー:「お孫さんはいくつになりましたか?」
おじいさん:「たしか8歳になったんじゃないかな」
ペッパー:「お孫さんに送るメッセージをどうぞ」
おじいさん:「そうだなぁ、正月には一緒に温泉に行こう」
 ニンニンPepperアプリをダウンロードしたペッパーは、こんな会話をすることができる。「家族と交流する機会をペッパーをきっかけにして増やすことで、認知症の進行を遅らせる効果が期待できる」。開発者の一人、吉村英樹氏はこう指摘する。
Pepper

ペッパーは常時インターネットに接続している。
コミュニケーションをとる裏ではネットを活用し、進行を遅らせるための様々な仕掛けを組み込むことができる。
例えば、ペッパーを経由して、看護師や医師などの医療関係者と連携することができる。

かつては孫が話し相手になることが多かった。
核家族化が進んでいる現在では、常時孫と接する代わりに、インターネットとの常時接続の時代である。
人型ロボットが、身振り手振りを交えて会話をしてくれる。
そういう「情」のコミュニケーションが、気持ちが癒やしてくれるのだ。
いささか寂しい気もするが、人間は独りではでは生きていけない動物なのだ。

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2015年2月18日 (水)

高齢者虐待を防ぐために/ケアの諸問題(22)

東京・北区の高齢者向けマンションで、介護ヘルパーたちが高齢者をベルトでベッドに固定するなどの身体拘束を日常的に行っていた。
北区は「高齢者虐待に当たる」と認定し、東京都に報告するとともに、介護ヘルパーなどを派遣している事業所を運営する医療法人に対し改善するよう指導した。
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東京新聞2月18日

事業所を運営していたのは、北区にある医療法人である。
介護ヘルパーたちが、このマンションで生活する高齢者20人に対して、ベルトでベッドに固定したり、おむつなどを脱がないようにつなぎ服を着用させたりするなどの身体拘束を日常的に行っていたことが確認された。
医療法人側は、北区の調査に対し「医師の指示による拘束なので正当だ」と説明していたという。

高齢者の虐待については、「高齢者虐待防止法(正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」)が、2006年4月1日施行されている。
「高齢者虐待」として、養護者や養介護施設・養介護事業等の従事者などによる次の5つの行為について規定されている。
(1)身体的虐待
(2)ネグレクト(著しい減食・放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置)
(3)心理的虐待
4)性的虐待
(5)経済的虐待(高齢者の財産を不当に処分したり、不当に財産上の利益を得ることで、親族による行為も該当)

にもかかわらず、現実には高齢者への虐待件数は増えている。
厚生労働省の調査によると、2013年度は前年度比4%増の1万6千件だった。
内訳を見ると、特別養護老人ホームなど介護施設の職員による虐待が最も多く、前年度比4割増と急増していて、被害者の8割超が認知症の人だった。
2025年には高齢者の3人に1人が認知症との予測もあり、喫緊の対応が課題となっている。

職員による虐待の内容で最も多かったのが殴る蹴るなどの「身体的虐待」で64%、次いで暴言や無視などの「心理的虐待」、「介護放棄」が続いている。
虐待件数が増加している要因について、厚労省は「市町村の取り組みが進んだことに加え、施設職員の意識の高まりから、虐待が広く拾われるようになったため」と説明している。
しかし、施設職員の認知症の症状などの知識不足に加え、過重なストレスが原因であると言われる。

 認知症の人は二五年に約七百万人になるという。心配なのは、四月から介護報酬が引き下げられ、認知症グループホームを含め軒並み報酬減となることだ。事業者が撤退したり現場の人手不足がより深刻になることが懸念される。四月から実施される介護保険サービスのカットで介護を担う家族の負担も増大する恐れがある。
 政府は先月末、認知症対策の総合戦略で「認知症高齢者にやさしい地域づくり」を宣言したが、一連の見直しは、その理念に逆行している。
高齢者への虐待 社会で介護を支えよう

認知症介護は現代社会の抱える大きな問題である。
⇒2015年2月17日 (火):「すでに起こっている」認知症社会/ケアの諸問題(21)

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2015年2月17日 (火)

「すでに起こっている」認知症社会/ケアの諸問題(21)

P.F.ドラッカーに、上田惇生、林正、佐々木実智男、田代正美訳『すでに起こった未来―変化を読む眼』ダイヤモンド社(1994年11月)がある。
原初のペーパーバック版の案内文は以下のようである。

Periods of great social change reveal a tension between the need for continuity and the need for innovation. To comprehend these changes as history and as guideposts to the future, Peter F. Drucker has, over a lifetime, pursued a discipline that he terms social ecology. The writings brought together in The Ecological Vision define the discipline as a sustained inquiry into the man-made environment and an active effort at maintaining equilibrium between change and conservation.

原著は雑誌に発表された論文集であるが、邦訳のタイトルはドラッカーと相談して決めたということだ。
一見矛盾のようなタイトルであるが、未来事象のあるものは、既に現在起きていることの中に現れているという趣旨である。
社会生態学者を自認するドラッカーの真面目を示すものと言える。

そしてドラッカー流に考えれば、10年後の2025年は「すでに起こっている」と考えられる。
「週刊ダイヤモンド」誌の2月21日号が「認知症社会」を特集している。
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いわゆる「団塊の世代」がこの3月で高齢者入りを完了する。
10年後というのは彼らが後期高齢者になるということだ。
高齢者人口が全人口に占める割合(高齢化率)が21%を越えた社会を「超高齢社会」という。
わが国は2007年に超高齢社会になったが、高齢化率が一貫して上昇しているのは周知のことであろう。
「団塊の世代」が後期高齢者になる2025年は、超「超高齢社会」ということになるが、どういう社会像を描くか?

ダイヤモンド誌の図から超高齢社会の一端を覗いて見よう。
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高齢者の起こした列車事故について、高裁は直接介護をしていた高齢の妻にJRへの損害賠償を命じた。
⇒2014年5月19日 (月):総介護社会への準備を急げ/ケアの諸問題(11)
誰もが避けて通れない問題である。

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2015年1月13日 (火)

介護休業は浸透するか?/ケアの諸問題(20)

厚生労働省が、介護休業制度を拡充する方針を出した。
会社員が家族を介護するために取る介護休業は、現在、家族1人につき原則1回に限られている。
それを分割して複数回取得できるようにするもので、育児・介護休業法を改正し、2017年にも導入する。

企業の中核となる40~50歳代の人材が親の介護のために離職せざるを得ない状況が大きな問題になっている。
「日経ビジネス」誌は、2014年9月22日号で『隠れ介護』という特集を組んだ。
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年間10万人もの人が介護を理由に離職しているという。
また、介護をしながら働いているが、企業が把握していない人すなわち隠れ介護は1300万人と推計されている。

わが国は2007年に超高齢社会に入った。
つまり高齢者率(=高齢者数/総人口)が21%以上になった。
その後も着実に高齢化率は上昇している。

今年は団塊の世代がすべて高齢者になる。
そして10年後の2025年には、後期高齢者になる。
⇒2014年2月17日 (月):「徴介護制」はあり得るか?/花づな列島復興のためのメモ(308)

高齢者を75歳を境に前期と後期に区分し、別の医療制度にしているのは、75歳から介護リスクがく急上昇するからである。
ということは、2025年に向かって介護を必要とする人が増えていくことが予想され、介護離職者も跳ね上がる可能性があるということだ。
大企業は制度も整っており人材も豊富だ。
介護離職の影響をもろに被るのは中小・零細企業である。
 厚労省は介護休業を2~3回に分けて取ることも認め、会社員が家族の介護のために必要な休みを取りやすくする。企業の雇用管理が複雑になるのを避けるため、1回の取得で休める期間は2週間以上を目安にするとみられる。給付が増えた場合は当面、約6兆円ある雇用保険の積立金でまかなう。雇用保険料率(月給の1%、労使で折半負担)の上昇にはつながらないと厚労省は見ている。
 介護休業を拡充するのは、年間10万人にのぼる介護離職者を少なくする狙いがある。親の介護に当たるのは40~50歳代の人が多い。人口の高齢化に伴い親の介護が必要になる会社員は今後も増える見通しで、企業にとっては中核人材の流出となる。
 企業では管理職の退社を防ぐのが課題になっている。一部の企業は公的な休業制度に上乗せする独自の休業制度を作った。積水ハウスは休業期間を最長2年間とし、休みを何回でも分けて取れるようにした。「介護施設が不足する25年に会社の中核を担っている世代が50歳前後になるため先手を打った」と説明する。明治安田生命保険も休業期間を1年間に延ばし、短時間勤務制度を取り入れた。厚労省は今年6月までに介護休業制度の拡充案をまとめる。16年に育児・介護休業法を改正し、17年の施行を目指す。
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介護休業 分割で取りやすく 厚労省、17年にも拡充

介護には先が見えない。平均で約5年。中には10年以上という人も1割強いる。
いつまで続くかわからない精神的な負担と介護と仕事を背負う身体的な負担で、ほとんどの人が疲弊してしまう。
介護離職の解消なくして、成長戦略などあり得ないだろう。

要介護の家族が亡くなったり、施設に預けることができたとしても、介護によるブランクや高年齢であることが再就職のネックとなって職場復帰は難しいのが一般的だ。
過去5年間で、介護を理由に離職した人のうち、再就職できた人は25%にすぎないというデータもある。

仕事一筋だった男が、「妻を自宅で看取る」という選択をする体験を小説化した池上敏也揺れ惑いおり、妻逝きて』幻冬舎(2013年12月)という小説を読んだ。
著者は特許事務所を営む弁理士であり、普通のサラリーマンとは事情が違うが、在宅介護の実態を知る参考になるだろう。

住み慣れたわが家で最期を迎えたいというのは、多くの人の望みだと思う。
病院に入れば、ほぼ必然的に延命治療が選択される。
私は回復可能性がないならば、延命治療は受けたくないと思う。
また、家庭での終末期の看護・介護は、家族などに大きな負担を強いるであろう。
ドラッカー流に言えば、2025年は「既に起こった未来」である。

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2015年1月 6日 (火)

「恍惚の不安」我にあり/ケアの諸問題(19)

太宰治の出身地・金木(青森県)に「太宰文学碑」がある。
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『津軽』を歩くこの

彫られているのは次の言葉である。

撰ばれてあることの恍惚と不安と二つ我れにあり

太宰の『葉』という作品のエピグラフに掲げられている。
ヴェルレーヌの「智慧」という詩の一節であるが、太宰、は堀口大学訳の『ヴェルレエヌ詩抄』から採った。
いかにも太宰好みというか太宰の生き方を象徴するような言葉だろう。

斎藤美奈子さんが東京新聞「本音のコラム」2014年12月24日に、『介護文学の今』という文章を書いている。
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「介護文学」というジャンルの成立宣言ともいえようか。
妊娠小説』ちくま文庫(1997年6月)でデビューした斎藤さんならではの視点である。
恍惚というのは、もともと「物事に心を奪われてうっとりするさま」の意味である。
斎藤さんの文にあるように、有吉佐和子さんが『恍惚の人』新潮文庫(1972年5月)を書いてベストセラーになった。
「恍惚の人」とは、要するに、「病的に頭がぼんやりしている老人」のことである。
今では「認知症」という言葉が市民権を得て使われている。

認知症というのは定義的には以下のようである。

認知症(にんちしょう、英: Dementia、独: Demenz)は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態をいう。これに比し、先天的に脳の器質的障害があり、運動の障害や知能発達面での障害などが現れる状態は知的障害、先天的に認知の障害がある場合は認知障害という。犬や猫などヒト以外でも発症する。
Wikipedia

認知症の問題は、超高齢社会のわが国における喫緊の課題である。
加齢とともに認知症発症のリスクは高まり、75歳を超えたあたりから、急激に有病率が増えていく傾向にある。
⇒2014年3月23日 (日):認知症患者の増大と在宅ケア/ケアの諸問題(2)
⇒2014年5月13日 (火):軽度認知症とその対策/ケアの諸問題(9)
2025年には団塊の世代が後期高齢者になるのである。

かくいう私自身、後期高齢者まであと数年という段階になった。
我にあるのは、「恍惚と不安」ならぬ「恍惚の不安」である。

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2014年11月25日 (火)

セルフネグレクトと認知症/ケアの諸問題(18)

「セルフネグレクト」という概念が、認知症との関係で注目を集めている。
セルフネグレクトについては、「デジタル大辞泉」では以下のように説明している。

成人が通常の生活を維持するために必要な行為を行う意欲・能力を喪失し、自己の健康・安全を損なうこと。必要な食事をとらず、医療を拒否し、不衛生な環境で生活を続け、家族や周囲から孤立し、孤独死に至る場合がある。防止するためには、地域社会による見守りなどの取り組みが必要とされる。自己放任。

セルフ・ネグレクトに陥るきっかけはいろいろあるが、高齢者の場合は認知症が大きな要因だという。

 岸恵美子帝京大教授(地域看護学)らの研究グループが09年12月~10年1月、地域介護の拠点である全国の地域包括支援センター4038カ所に調査票を送り、1046カ所(26%)から回答を得た。
 生活上当然すべき行為をせず、安全や健康が脅かされる状態をセルフネグレクトと定義し、65歳以上の人のケースを尋ねたところ、499カ所のセンターで計1528人だった。ホームレスは除いた。
 詳しく書かれた846人を分析すると、男女ほぼ同数、80~84歳が26%と最も多い。68%が一人暮らしだが、21%は家族と同居。56%は介護保険の要介護認定を申請していない。経済状態に「余裕がある」「ややある」が計31%。20%が精神疾患、44%が糖尿病や高血圧など慢性の病気があった。
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食べ物やごみ放置…セルフネグレクトの高齢者1500人

セルフ・ネグレクトが問題になるのは、、生活上すべき行為をしない、または、する能力がないことから、家の前や室内にゴミが散乱したり、極端に汚れた衣服を着ていることである。
結果として、地域や家族からも孤立し、ゴミ屋敷状態や孤立死にもつながっていく。
セルフ・ネグレクト高齢者は全国に約1万1千人いると推計されている(2009年度、内閣府の経済社会総合研究所の調査)。

一人で暮らす認知症のトシエさん(仮名・72歳)は認知症が進んでいたために自宅内でゴキブリが大量発生していても、近隣住民に苦情を訴えられることもなく、そのまま暮らし続けていた。発覚したのは介護サービスの利用を開始し、スタッフがトシエさんの暮らしぶりを垣間見るようになったからだった。だが、今後はどうするのか。核家族化や、隣近所の人たちとの関係が希薄になっていく社会で、“家の中”というブラックボックスで起きる異変に外から気がつくのは難しい。
「ゴミ屋敷」予備軍は1万超 今「セルフ・ネグレクト」が問題化

認知症との関連について、医師や弁護士ら専門家が実態調査に乗り出したというニュースがあった。
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日本経済新聞11月17日

速やかな実態の解明に期待する。

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2014年11月11日 (火)

高齢化進展と介護の複雑化/ケアの諸問題(17)

今日11月11日は「いい日、いい日」の語呂合わせで、介護の日ということになっている。
しかし介護の問題は、当事者になるまでなかなか我が事として考えられない。
現代社会の最重要の問題といえよう。

団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、介護に無関係な人は殆どいなくなるだろうと予測されている。
⇒2014年3月23日 (日):認知症患者の増大と在宅ケア/ケアの諸問題(2)
⇒2014年5月19日 (月):総介護社会への準備を急げ/ケアの諸問題(11)
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東京新聞2月5日

高齢者人口は今後、いわゆる「団塊の世代」(昭和22(1947)~24(1949)年に生まれた人)が65歳以上となる来年には3,000万人を超える。
75歳以上となる2025年には3,500万人に達すると見込まれており、その後も高齢者人口は増加を続け、2042年に3,863万人でピークを迎える。
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将来推計人口でみる50年後の日本

総人口が減少する一方で、高齢者が増加するから必然的に高齢化率は上昇を続ける。
平成25(2013)年には高齢化率が25.2%で4人に1人となり、47(2035)年に33.7%で3人に1人となる。
54(2042)年以降、高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、67(2055)年には40.5%に達する。
75歳以上人口は増加を続け、平成29(2017)年には65~74歳人口を上回り、その後も増加傾向が続くものと見込まれている。
増加する高齢者数の中で、75歳以上人口の占める割合は、一層大きなものになるとみられている。

このような高齢者人口の増大は、介護の負担の増大に直結する。
そして、介護の様式も複雑化する。
・老老介護:介護者も被介護者も共に高齢
・認認介護:介護者も被介護者も共に認知症
・多重介護:ひとつの家庭に複数の要介護者が同時に存在する

多重介護をしている人の体験談を読むと、精神的にも肉体的にも疲労困憊している様子が目に浮かぶ。
以下1例のみ挙げる。

3年前、妻に病気が見つかり幸いにも命は助かりましたが半身麻痺や感覚障害等の後遺症が残り、身体障害1級の認定を受けました。食事、トイレ、風呂、寝返りなど全てに於いて介助が必要です。妻の介護は嫌だとか面倒だとか思った事は一度も無く、むしろ日々喜びを感じながら勤しんでいます。
しかし1年半ほど前から63歳の義母(妻の母親)が認知症になり、体は元気ですが、高額な買い物や契約を繰り返したり徘徊するようになり、こちらは介護というより、乱暴な表現ですが四六時中、監視しなければならない状態です。普段の会話は割と普通なので他人から見ると健常者そのもので、免許がないのに高級車の契約を結んだりと、とにかくお金に絡むトラブルが多いです。
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妻の介護に、日々酷くなっていく義母の認知症を考えると、とても2人だけを放って外に働きにでることはできず、かといって施設に入所もできず、どうしたらよいのか不安でいっぱいです。市役所の福祉にも何度も相談しましたが、有効な解決策はなく。
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先の見えない多重介護生活。時々くじけそうになります。

ネットでたまたま目に入った例ではあるが、案外類似の事例は多いのではないか。
昔と違い核家族化が進んでいるので、介護の苦労は内攻化しがちである。
厚労相は実態を把握しているのだろうか?

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