人間の理解

2019年3月13日 (水)

内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)

内閣法制局長官は「法の番人」と呼ばれている。
しかし現長官の横畠裕介氏は「法の番人」というよりも「権力の番犬」と言った方が相応しいようである。
古雑誌を整理していたら、たまたま「紙の爆弾」15年10月号に横畠氏を論評する記事が載っていた。
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集団的自衛権が行使できることを目的に、安倍内閣は法制局長官を、小松一郎から横畠の成立にに替え、彼は期待された役割を果たしたとことになる。
集団的自衛権を認める安保法案が衆議院で審議されたとき、横畠氏は次のように答えている。

 横畠裕介・内閣法制局長官は19日、安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会で、国際法上の集団的自衛権と、安倍内閣が主張する「限定的」な集団的自衛権の違いを「フグ」に例え、「毒があるから全部食べたらそれはあたるが、肝を外せば食べられる」と答弁した。
 他国防衛を目的とする包括的な集団的自衛権は違憲となる一方、「限定的」な集団的自衛権なら合憲という趣旨だが、厳密な法解釈を行う立場の法制局長官が、こうした例え話を持ち出すのは異例。法案への理解が広がらない現状の裏返しと言えそうだが、長官経験者からは「好ましくない」との批判も出ている。
「集団的自衛権はフグ」 法制局長官が異例の答弁
2015年7月16日 (木) 法治国家であることを放棄した政府・与党/日本の針路(197)

その横畠氏は、小松長官の下の次長時代、病欠の小松氏に代わって集団的自衛権行使の憲法解釈について問われ、「憲法で許されるとする根拠が見いだしがたく、政府は行使は憲法上許されないと解してきた」と政府見解を説明していた。
2014年2月14日 (金) 安倍首相の暴走をコントロールするのは?/花づな列島復興のためのメモ(307) 

長官に昇進して安倍政権に忠勤を尽くすことを決意したのかどうかは本人に聞かなければ分からない。
しかし上記のサブタイトル「軽薄すぎる『法の番人』は言い得ていると思う。
なお、「非理法権天」はwikipediaによれば以下のようである。

江戸時代中期の故実家伊勢貞丈が遺した『貞丈家訓』には「無理(非)は道理(理)に劣位し、道理は法式(法)に劣位し、法式は権威(権)に劣位し、権威は天道(天)に劣位する」と、非理法権天の意味が端的に述べられている。非とは道理の通らぬことを指し、理とは人々がおよそ是認する道義的規範を指し、法とは明文化された法令を指し、権とは権力者の威光を指し、天とは全てに超越する「抽象的な天」の意思を指す。非理法権天の概念は、儒教の影響を強く受けたものであるとともに、権力者が法令を定め、その定めた法令は道理に優越するというリアリズムを反映したものであった。

安倍首相は、「法の支配」と「人の支配」の区別がつかないようだが、権は天に勝てないのだ。

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2019年3月 4日 (月)

緑のタヌキの本領発揮/人間の理解(23)

小池百合子東京と知事は、築地の豊洲移転に際して、「築地は守る、豊洲は活かす」と、広告代理店バリの名文句を吐いた。
2016年7月の都知事選で小池氏は自民党の支持を得られず、あたかも個人で立ち向かったような演出が成功して圧勝した。
しかし、政策や基本的な考え方は自民党タカ派であり、緑のシンボルカラーで連想させるエコロジー派とは水と油の関係だったのだ。

その意味で、偽装は見事に成功したと言えよう。

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「跡地は食のテーマパーク機能を有する新たな市場にする」「事業者が築地に復帰する際のお手伝いはさせてもらう」
   築地再開発問題は、2年前の2017年6月、都議選を目前に、市場の豊洲移転にからんで小池知事が「築地は守る、豊洲をいかす」と「タンカ」を切って、築地跡地などに市場機能を残し「食のテーマパーク」を整備するとの基本方針を表明したのが発端。「事業者が築地に復帰する際のお手伝いはさせてもらう」とも述べ、豊洲への市場移転の賛成・反対両派いずれにも配慮した。築地跡地の保有についても、市場業者の使用料収入などで賄う「中央卸売市場会計」が引き続き担い、「税金を新たに投入することはない」とも明言した。直後の都議選は知事が率いる都民ファーストの会が大勝し、自民から都議会第1党の座を奪った。
都民ファーストの会「もろさ」見えた築地問題 今の小池氏で難局乗り切れる?

しかし偽装は永遠に続けられるわけではない。
築地を守る気がないことがはっきりした。
2019年1月に公表した再開発素案に「食のテーマパーク」がないほか、跡地保有についても従来方針も改め、約5600億円で一般会計が買い取るとした。
公約の完全な反故である。

これに対し自民、共産など野党が「説明なく方針を転換した」と批判し、都議会での詳しい説明、質疑を求め、定例会開会日の2月20日は大混乱に陥った。
各会派の協議が難航して小池知事の施政方針演説が予定より11時間遅れて21日未明にずれ込むという異例の事態になった。

小池知事は「豊洲との近接性を考えれば、築地再開発において都が改めて卸売市場を整備することはない」としつつ、「(築地に)『食文化』は重要な要素。素案でも歴史的、文化的なストックを生かすことを検討している」と説明し、「基本方針の方向性は変わっていない」と強調した。

5600億円で一般会計に移すことについては、「一般会計への移し替えにいち早く着手することで、民間事業者の参画意欲を早期かつ最大限引き出すことができる」などと答弁し、「方針転換」との指摘を突っぱねた。
緑のタヌキの本領発揮というところだろうが、政治家が良く言う「綸言汗のごとし」はどこに行ったのだろう?

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2018年9月24日 (月)

小川榮太郎というアベ茶坊主/人間の理解(22)

「新潮45」の杉田水脈擁護特集には名うての極右が書いている。
すなわち安倍政権のコアな部分の心情を表現するひとたちであるが、やり玉に挙がっているのは小川榮太郎という人である。
例えば『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』月刊Hanada双書(2017年10月)などの著作がある。

安倍首相はこういうヨイショ本を手にして、「公文書捏造」の一報を朝日新聞が報じた時、「また朝日(の虚報)か」と言ったのだろう。
2018年3月 3日 (土) 森友疑惑(68)財務省が文書改竄?/アベノポリシーの危うさ(337)
2018年3月 5日 (月) 安倍VS朝日の最終戦争/日本の針路(386) 

「新潮45」には以下のような文章を掲載している。017

全体の論要は、政治は私的な領域に踏み込むべきではないということのようで、ある部分納得できる。
しかしその論理展開が滅茶苦茶なのだ。
文章の一部を引用しよう。
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痴漢もLGBTと同じように病気なのだから、LGBTの権利を保障するならば痴漢の権利を保障すべきだと言っているのである。
小川榮太郎、山口敬之、百田尚樹・・・
安倍周辺のライターは、どうしてこうも揃って品格がないのだろうか。
要は同類ということであろう。
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山口(準強姦容疑者)を励ます会で、隣に座っているのが小川である。

挙句の果ては、批判者を陰謀論扱いする。
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笑止であるが、こんな男にヨイショされて嬉しいとしたらどうかしているだろう。
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東京新聞9月23日

やっぱり安倍首相は「裸の王様」なのだ。
⇒2013年10月17日 (木) 安倍首相は裸の王様か?/アベノミクスの危うさ(16)
⇒2014年11月27日 (木) 続・安倍首相は裸の王様か?/日本の針路(76)
⇒2015年12月12日 (土) 続続・安倍首相は裸の王様か?/アベノミクスの危うさ(64)
⇒2017年4月 8日 (土) 森友疑惑(42)「裸の王様」の末路/アベノポリシーの危うさ(179)
⇒2017年5月29日 (月) 加計疑惑(8)「王様は裸だ」と言った前川前事務次官/アベノポリシーの危うさ(219)
2017年12月10日 (日) 「裸の王様」状態が昂進する安倍首相/アベノポリシーの危うさ(328) 

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2018年7月29日 (日)

処刑された豊田亨と伊東乾氏の友情/人間の理解(21)

オウム死刑囚の未執行者全員が7月25日に処刑された。180726
東京新聞7月26日

私は知人の1人が国選でオウム事件に係わっていたというが、もちろん特別の情報を聞いたことはない。
同時代を生きてはいたが、オウム真理教との接点はないといって良い。
しかし、今回処刑された豊田亨にはちょっと関心を持った。
それは東大で素粒子論を専攻した秀才だった。
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東京新聞7月26日

彼は、東大准教授の伊東乾氏(作曲家、指揮者)の同級生であった。
その経緯は、伊東乾『
さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生』集英社(2006年11月)に書かれている。
2018年7月 6日 (金) オウム真理教の死刑囚の死刑執行/戦後史断章(30)

私は、豊田亨こそ、知力のバランス感覚が偏っていた典型ではないかと思う。
端的に言えば(端的に言ってしまって良いかどうかは問題があるが)、出題されたことについては優れた解答をするが、自分の頭で問題を考えることが遅かったのである。
⇒2011年11月25日 (金):オウム真理教事件と知的基礎体力(?)

彼の処刑を受けて、伊東氏が「AERA」8月10日号に寄稿している。
ここでは「AERA dot.」の『オウム豊田亨死刑囚 執行までの3週間に親友が見た苦悩 麻原執行後に筆記具を取り上げられた』から引用する。

 7月26日、先週の約束通り小菅の東京拘置所に向かった。特別交通許可者として日常的に接見するオウム事件の死刑確定者、豊田亨君と面会するためだ。書類を窓口に提出すると程なく年配の刑務官から「面会は出来ません」と告げられた。私が待合室にいる間に、彼を含む6人のオウム事犯の死刑が執行された。
 大学1年で知り合い東京大学理学部物理学科、同大学院で共に学んだ親友が突然行方知れずになったのは1992年3月。次に彼が私達の前に現れたときは地下鉄サリン事件の実行犯となっていた。
・・・・・・
 6日金曜朝の「麻原執行」後、ご家族等と予定がぶつからないよう確認の上、週明けの9日月曜朝に小菅を訪ねた。さすがにやつれきっていた。彼も彼を囲む人々、私自身も大変に焦燥して厳しい一週間になった。覚悟して迎えた13日金曜、生存を確認して訪れた時の彼の表情を私は生涯忘れない。この金曜を乗り越えて明らかに彼は強くなった。こんな拷問に人は適応してよいのか?という疑問。そしてこんな状況にすら気丈に立ち向かう豊田君の姿。
「残された時間を精一杯生きる」と、落ち着いた表情で語る豊田君と、私はブロックチェーンや暗号の数理を考え、エジプト式分数を一緒に計算し、古代ハンムラビ法典の野蛮と中世イスラム法の寛容の差を議論した。
・・・・・・
 今だから記すが、兵庫出身の豊田君は手元にあった現金にいくばくか足し、匿名で西日本水害被害者救済の義援金に全額寄付して身辺を整理した。
 3月にオウムの死刑確定者が各地の拘置所に移された際、豊田君も東京拘置所内で収監される階が変わり、昔長らく在房した階に戻った。彼は明らかに看守諸氏から一目以上置かれ、大切に遇されていた。9日に面会したときは「命の限り贖罪し、社会に役立ちたい」と語っていた。こんな人を亡きものにしてはいけない、今後も再発防止などもっともっと働いて貰わなければならなかった。最期の2回の接見で彼はこう繰り返した。
「日本社会は誰かを悪者にして吊し上げて溜飲を下げると、また平気で同じミスを犯す。自分の責任は自分で取るけれど、それだけでは何も解決しない。ちゃんともとから断たなければ」
 大切な人を今日失った筈だが未だ全く実感ない。

私たちは、同じ空気を吸った中でも最良の人間を処刑してしまったのではないだろうか?
もちろん、彼自身が言っているように、犯した罪は償わなければならない。
しかし、処刑する代表者たちが、異例の警報が発せられるなかで、「赤坂自民亭」と称して酒宴を開き、その後、賭場法案を強行採決した退廃と比べてしまうのである。
2018年7月10日 (火) 西日本豪雨禍と不誠実な政治屋たち/ABEXIT(70)
2018年7月11日 (水) 豪雨被害を拡大した「空白の66時間」/ABEXIT(71) 
2018年7月13日 (金) 「空白の66時間」が映し出す思考と志向/ABEXIT(73) 
⇒2018年7月15日 (日) 「赤坂自民亭」の耐えられない軽さ/ABEXIT(73) 
2018年7月21日 (土) カジノ法を成立させて国会閉会/ABEXIT(75)

死刑の廃止もしくは停止は世界の基本的な動向である。
142カ国が死刑の廃止・停止であり、欧州連合(EU)に加盟するには、死刑廃止国であるのが条件になっている。
OECD加盟国でも、死刑制度があるのは日本と韓国・米国だけで、韓国はずっと執行がない事実上の廃止国である。
米国も19州が廃止、4州が停止を宣言して、死刑を忠実に実行しているのは日本だけと言って良い。
人間の判断には誤りが避け得ず、万が一の冤罪は取り返しがつかない。
死刑は廃止し、終身刑を最高罰とすることを考えるべきチャンスではないか。

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2018年5月 4日 (金)

「緑のタヌキ」の化けの皮/人間の理解(20)

小池百合子氏が東京都知事選に圧勝したのは2016年7月のことであった。
自民党と袂を分かち(公認・推薦を得られず)、個人で立ち上がったようなイメージを演出した。
緑をイメージカラーとして使い、東京都民の圧倒的多数である無党派層に食い込み、勝利した。
2016年7月31日 (日) 都知事選の暫定総括/日本の針路(282)

しかし、政策や基本的な考え方は自民党タカ派である。
その意味で、緑のシンボルカラーで連想させるエコロジー派とは水と油の関係だった。
2016年7月22日 (金) 緑を冒涜する小池百合子/日本の針路(277)

小池旋風とまで言われた人気が急降下したのが、昨年10月の総選挙であった。
小池人気にあやかろうと、野党第1党の民進党が、小池氏が創立したばかりの「希望の党」に合流するという奇策を取った。
人気低迷が続く中で、前原誠司代表としては窮余の一策だったのかも知れない。
しかし、野党結集の軸になるべき野党第1党としてはあり得ない選択だった。
当然のことながら、政権与党を利するだけの結果しか残せなかった。

この過程で、小池氏の本質の一端が露呈し、無党派層が急速に小池氏から離れて行った。
結果として、都議選においても、小池氏は惨敗したのである。
都政の重要懸案事項である築地市場の豊洲への移転問題については、「築地は残す、豊洲は生かす」という玉虫色の言葉で先送りしてきた。
ところが、この方針が暗雲に閉ざされようとしている。

豊洲市場の観光施設は、小田原市に本拠を置く万葉倶楽部が行う予定であったが、築地市場再開発という都の方針が、万葉倶楽部側の事業計画と齟齬をきたすことになりそうなことが指摘されていた。

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 1日午後1時すぎ、小池知事は万葉倶楽部の高橋弘会長との面会に、神奈川県小田原市にある万葉倶楽部本社を訪れました。豊洲市場に整備される「千客万来施設」の事業者・万葉倶楽部は、小池知事が示した築地市場の跡地を再開発する方針を受け、「事業の採算が取れない」として事業からの撤退も視野に検討しています。
 小池知事は築地再開発の考え方を直接説明し、万葉倶楽部の要望への対応策を話したということです。小池知事は面会後、記者団に対し「(考え方に)幾つか開きがある。行政としてできること、できないことがある。もう一度持ち帰って、関係局長会議でどこまで何ができるか話したい」と述べました。
 これまで東京都は万葉倶楽部に対して賃料の値引きを提示するなどの交渉を行っていて、事業を進める意思があるかどうか回答するよう求めていました。
 一方、万葉倶楽部の高橋会長は面会後、記者団に対して「東京都と万葉倶楽部の間には信頼関係はゼロ。ベラベラ言っても聞く耳は持てない」と話しました。高橋会長は築地再開発の方針を打ち出した小池知事の謝罪を訴えてきましたが、面会で明確な謝罪はなかったとしています。高橋会長は「『豊洲の事業が遅れたことに責任を感じていませんか?』と聞いたら『それは、都民が私を選んでくれた。都民のせいだ』と言った」と話しました。そして、明確な謝罪の言葉は「ないですね」と語りました。
 謝罪をしたのか記者団に聞かれた小池知事は何も答えず、万葉倶楽部を後にしました。
豊洲の観光施設整備 小池知事、万葉倶楽部に直談判も「考え方に開き」

小池氏の認識の甘さである。
ビックリするのは「豊洲の遅れは私を選んだ都民にある」という言葉である。
そういう面があることは否定すまい。
しかし「それを言っちゃ、オシマイ」だろう。
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小池氏の政治生命も終わりだろう。

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2016年11月26日 (土)

曽野綾子の悲惨な耄碌ぶり/人間の理解(19)

安倍首相の盟友・曽野綾子氏の言動がひどい。
11月16日付の産経新聞で、大阪府警機動隊員の「土人」発言について次のように書いている。

 私は東京の八丁堀生まれの父の娘である。私は父のことを「東京土人」とか、「東京原住民」とかよく書いている。私を含めてすべての人は、どこかの土人、原住民なのだが、それでどこが悪いのだろう。「沖縄の土人」というのは、蔑称だと思う蓮舫氏の方こそ、差別感の持ち主だと思われる。
・・・・・・
 土人も原住民も、それなりに自然な郷土愛や文化への自負を持っている。ましてや沖縄ほどの、料理にも焼き物にも染色にも、個性豊かな文化を持っている土地ならなおさらだ。父が生まれた土地の「土人」だと言われたら、「人の言うことなんざ、気にすることはないよ」と笑うだろう。
なぜ曽野綾子氏は「土人」発言を擁護するのか

「土人問題」については、鶴保庸介・沖縄北方相の発言に関連して、「土人」には辞書的には次の2通りの説明が載っているが、どちらであるかは文脈で決まり、機動隊員は②としては使わないだろう、と書いた。

① 原住民などを軽侮していった語。
② もとからその土地に住んでいる人。土着の人。
三省堂『大辞林』
⇒2016年11月13日 (日):不適格大臣列伝・鶴保庸介沖縄北方相/アベノポリシーの危うさ(104)

曽野氏は、②の用法があるから問題ないし、①の用法だと言って問題にするのは、その人の中に差別感があるからだ、と言う。
詭弁にもなっていない言い種である。

『月刊日本』編集部によれば、『最新 差別語・不快語』(にんげん出版)では「土人」について、次のように解説されている。

 大和民族の社会において、「土人」は古い時代から、「土地の人々」「現地の人々」という意味で、異民族・外国人に対する蔑称は「夷人」でした。アイヌ民族が「夷人」と呼ばれたのも、また幕末の外国人打ちはらいが「攘夷運動」と呼ばれたのも、そのためです。ところが、1855年の日露和親条約で、日本政府は、アイヌ民族をほんらいの日本国民とし、アイヌ民族の居住地域を日本の領土だと主張するようになります。この論理からいえば、アイヌ民族を「夷人」と呼称しつづけることは、領土権をみずから放棄することになります。そこで、日本政府は、アイヌ民族の呼称を「土人」に切り替えたのです。これが、その後アイヌ民族が、「土人」「旧土人」と呼ばれる原因にもなります。
 そして、この切り替えによって、「土人」という言葉の実体的な意味が「土地の人々」から「未開で野蛮な異民族」にすり替えられることになります。日本の植民地主義や侵略戦争が展開するなか、とくに、アイヌ民族に使われたことから、先住民族への蔑称として使われるようになりました。明治時代の初期には、琉球人に対して「土人」という呼称が使われ、また日本が委任統治領とした南洋群島などでも「土人」という呼称が使われました。1997年に「北海道旧土人保護法」が廃止されるまで、「土人」という差別語は、行政用語としても定着していたといえます。
 言葉には文脈や歴史というものがあります。曽野氏のようにそこから切り離した議論をしても意味がありません。そのようなことさえ理解できないのは、作家として致命的と言わざるを得ません。

上記のような歴史的な知識が無くても、機動隊員が発した「土人」を差別語と感ずるのは成熟した大人にとって当たり前であろう。
曽野氏には『人間にとって成熟とは何か』幻冬舎新書(2013年7月)という著書があるが、ブラックジョークのようなタイトルである。
同書に、
野田聖子氏が自分の障害を持つ子供に高額医療を受けている件について、曽野氏の周囲に「どうしてそんな巨額の費用を私たちが負担するんですか」という声があることが紹介されている。
医療保険制度が迷惑であるかのような声であるが、曽野氏がそれをたしなめたという話ではないのだ。

野田氏が自民党総裁選に立候補しようとした際、自民党のネット応援サイトには、障害児を持ちながら立候補するような「自分勝手な人間が増えたのも日本国憲法のせいで、だからこそ自民党は天賦人権論を否定する憲法案を出した」という趣旨の複数のアカウントによる投稿があった。
こういう考え方と、相模原市の障害者施設を襲い、大量殺人を実行した植松某だ地続きであることは明らかであろう。
⇒2016年7月30日 (土):相模原大量殺人事件と優生思想/日本の針路(282)

曽野氏はもはやファシストに親近的と言って良い。
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曽野綾子さん、戦時の英知って何だ?

曽野氏の言葉に反応した以下のようなツィートがあった。

ISの残虐よりISの英智を伝えよ。泥棒の非道より泥棒の勇気を伝えよ。バカなクリスチャンの戯言より敬虔なクリスチャンの祈りを伝えよ。
Kusaka Arato  @KusakaArato 2015年2月12日

また、いじめを受けて自殺をした子供を次のように言っている。

自殺した被害者は、同級生に暗い記憶を残したという点で、彼自身がいじめる側にも立ってしまったのである。
曽野綾子氏「(いじめで)自殺した被害者は、同級生に暗い記憶を残したという点で、いじめる側にも立った」

原発避難者をイジメるのはこういう大人がいるからであるが、これ位にしておかないと気分が悪くなってくる。

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2016年10月16日 (日)

稲田防衛大臣の資質と適性/人間の理解(18)

稲田朋美防衛大臣が何かと話題になっている。
白紙領収書問題は、政治家の資質というよりも、社会人としての一般常識が問われる問題だろう。
菅官房長官も同様の問題を抱えているうえ、高市総務相は「規正法に領収書の作成方法は規定されておらず、法律上の問題は生じない」と国会答弁をした。
こんな詭弁が通用するのが、国権の最高機関なのだろうか?
⇒2016年10月12日 (水):領収書の金額は相手先が記入すべきもの/日本の針路(295)

稲田氏の過去の発言も問題視されている。

1.核保有に関して
2011年の雑誌対談で稲田氏が日本の核保有を「国家戦略として検討すべきだ」と発言していた。
10月11日の参院予算委員会でも、白真勲氏が「そのような個人的見解を持っている人が防衛相になったから問題なんだ」と、発言の撤回を何度も求めたが、稲田氏は「過去の政治的な発言は、発言の時点でどうだったかという問題であり、この場で撤回するつもりはない」と突っぱねた。
過去の発言について、現在の時点でどう判断するかから逃げてはならないだろう。

2.自衛隊経験入隊義務化
同じ雑誌対談で「若者全員に一度は自衛隊に触れてもらう制度はどうか」と提言している。
社民党の福島瑞穂副党首が「憲法で禁止する意に反する苦役に当たる可能性がある。徴兵制と紙一重だ」と、撤回を求めたが、稲田氏は撤回には応じずに「徴兵制の類いは憲法に違反する。そのようなことは考えていない」とかわした。

3.子供手当を防衛費
稲田氏は民主党政権時代に、「子ども手当を防衛費にそっくり回せば、軍事費の国際水準に近づく」と発言した。
稲田氏は「財源のない子ども手当を付けるぐらいなら、軍事費を増やすべきではないか、と言った」と反論したが、「防衛費」とするべき部分を「軍事費」を言い間違ったことに気づき、答弁をやり直す場面もあった。
価値観の問題であるが、つい軍事費と言ってしまうあたりが本音の表出であろうか。

4.「中国の戦艦」発言
10月4日の衆院予算委で、6月に中国海軍の艦艇が沖縄県の尖閣諸島の接続水域を初めて航行したことを「中国の戦艦が入ってきた」と表現した。
防衛省はこの種の表現にナーバスであり、「戦闘艦艇」が正しい。
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「防衛相の資質」に集中砲火 「核保有」撤回せず 「軍事費」言い間違い

稲田氏は10月8日、南スーダン・ジュバの自衛隊宿営地などを訪問し、部隊の活動内容や現地の治安状況などを確認した。
稲田氏は、「ジュバの中の状況は落ち着いているという認識をした」と述べたが、ジュバには7時間滞在しただけだという。
政府は今回の視察結果などを踏まえ、派遣部隊に「駆けつけ警護」の新任務を付与するかどうか判断する方針だというが、自衛隊宿営地などを訪問しただけで、住民の窮状に触れないで判断できるのか、というのは当然の批判であろう。
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2016年7月16日 (土)

森喜朗と君が代斉唱/人間の理解(17)

東京・代々木の体育館で3日行われたリオデジャネイロ五輪の代表選手団の壮行会で、森喜朗氏がトンチンカンなイチャモンをつけた。
選手を激励すべき立場なのに、「口をモゴモゴしているだけじゃなくて、声を大きく上げ、表彰台に立ったら、国歌を歌ってください」「国歌を歌えないような選手は日本の代表ではない」とクレームを言ったのだ。
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「国歌歌えない選手、日本代表じゃない」森喜朗氏

しかし、場内アナウンスは「国歌独唱」と説明し、ステージ上のモニターにも「国歌独唱」と表示されていた。
要は、森氏の斉唱と独唱の勘違いである。
勘違いは誰にでもあるが、偉そうにお説教するところが、サメの脳みそと評されるゆえんであろう。

森氏と言えば、神の国発言を思い出す。
2000年5月15日、神道政治連盟国会議員懇談会結成三十周年記念祝賀会において、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知をして戴く」と発言して物議を醸したのだ。
森首相は2000年4月5日に小渕恵三首相の急死により、首相に就任したばかりであった。
この発言などから急速に内閣支持率を一ケタまで落とし、6月2日に衆議院を解散した。
⇒2014年2月21日 (金):浅田真央選手の大健闘と森東京五輪組織委会長の愚劣な発言

神の国発言は、この人の脳が、戦前・戦中のままであることを満天下に晒した。
いや、サメの脳と言われているように、戦前・戦中というよりも、進化論的に哺乳類以前の段階なのだ。
⇒2013年4月20日 (土):脳の3層構造とコミュニケーション/知的生産の方法(49)

相次ぐ不祥事と言い、この人が組織委員会委員長というのはいかにも危うい。
⇒2014年1月22日 (水):先行き不安な森五輪組織委員会会長/花づな列島復興のためのメモ(298)
更迭すべきだと思うが、ガチガチの利権構造で固められているのだろうなあ。

というか、安倍首相の、福島原発事故の汚染水は完全にコントロールされているという虚偽発言からして、「大丈夫か?」と思うのが普通の感覚ではないのかなあ。
⇒2013年9月24日 (火):「嘘も方便」首相と日本の将来/花づな列島復興のためのメモ(264)
⇒2015年2月26日 (木):汚染水はコントロールされていない/原発事故の真相(128)

東京都知事選は、告示直前まで東電の社外取締役だった増田寛也氏を自公両党が推薦するという分かりやすい事態になった。
⇒2016年7月15日 (金):脱原発派の都知事を誕生させよう/アベノポリシーの危うさ(92)
こんな閉鎖的なサークルの人間が牛耳っていていいはずがない。

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2015年7月23日 (木)

五輪招致演説に表出した無責任の構造/人間の理解(16)

安倍首相は、2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場建設計画を、白紙に戻すと表明した。
⇒2015年7月17日 (金):新国立競技場の見直しだけで終わらせない/日本の針路(198)
⇒2015年7月20日 (月):新国立競技場の混乱に関する舛添都知事の批判/日本の針路(200)

明らかな支持率対策であるが、2年前の五輪招致演説では、白紙にしたデザインを念頭に、独創的なスタジアムでの開催をアピールし、財政措置を確実に実行すると明言していた。
演説で、福島第一原発事故の状況について、実態と全く乖離した発言をしていたことを聞き、この人の言うことは信用しないことに決めた。
⇒2015年1月 5日 (月):福島原発事故による海洋汚染/原発事故の真相(124)
⇒2015年2月26日 (木):汚染水はコントロールされていない/原発事故の真相(128)

Photo 演説では、福島第一原発事故について「私から保証します。状況は統御(アンダー・コントロール)されています」と明言した。しかし、汚染水が海に流出し続けるなど、原発事故は収束には程遠い状況だった。政府は今年六月の廃炉に向けた中長期ロードマップ(工程表)改定でも、使用済み核燃料の取り出し開始時期を大幅に遅らせており、現在も原発事故対応をコントロールできているとは言えない。
 招致演説では、競技場について「ほかのどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、確実な実行が(東京で開催すれば)確証される」と断言した。
 新国立競技場は、民主党政権時の一二年十一月に日本スポーツ振興センター(JSC)が選定したデザイン。女性建築家ザハ・ハディド氏による、二本の巨大アーチ構造が特徴だ。このデザインについては一三年八月、世界的建築家の槇(まき)文彦氏が大幅な見直しを求める論文を公表した。首相はその約一カ月後に、新国立競技場を招致の目玉としてアピールした。
 ザハ氏のデザインは、東京五輪開催が決まる「大きな原動力」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)になったと政府内では受け止められている。自民党議員は「五輪招致の決定で重みを持ったのは事実」と指摘する。
 首相は「民主党政権時代にザハ案でいくことが決まった」と強調するが、安倍政権も招致に最大限利用したことは否定できない。財政措置をめぐっても、既に確保できたのは五百億円のみ。当初見込んでいた工費千三百億円にも及ばない。
首相、2年前の五輪演説も白紙? 「独創的スタジアム」「福島統御」

安倍首相の虚言は、詐欺師の域に達している。
⇒2015年5月24日 (日):詐欺師のレトリックを多用する安倍首相/日本の針路(164)

よもやこれで支持率が回復することもないと思うが、白紙になっても今までの経緯は不問ということのようだ。
白紙還元により、ザハ氏への違約金を別にして、既に発生した60億円とも言われる費用は戻らない。
誰も責任を取らなくていいのか?
安倍首相も森組織委委員長も遠藤担当相も全体の責任という。
確かに全体としての結果ではあるが、誰の責任かを明確にしないと同じことを繰り返すことになろう。
ちなみに関わっている人物は下図のようである。
Photo
東京新聞7月23日

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2015年7月 3日 (金)

大西英男という安倍チルドレンの「懲りなねえ奴」/人間の理解(15)

  • 安倍首相に近い議員の勉強会「文化芸術懇話会」で報道機関への圧力を求める発言をして厳重注意処分を受けた大西英男衆院議員が、自らの発言について「問題があったとは思わない」と反論している。
    つまり、自分は間違った行動をしていないという確信犯である。
  • 大西氏はどういう人物か?
    Wikipediaで略歴を追ってみよう。
  • •1946年(昭和21年)- 東京都江戸川区生まれ。
    •1970年(昭和45年)- 國學院大學法学部を卒業し、島村一郎(元自民党衆議院議員)公設秘書。
    •1975年(昭和50年)- 江戸川区議会議員初当選。
    •1993年(平成5年)- 東京都議会議員初当選。
    •2003年(平成15年)- 東京都議会自民党幹事長。
    •2012年(平成24年)- 第46回衆議院議員総選挙で東京16区に自民党から出馬し、初当選。
    •2014年(平成26年)- 第47回衆議院議員総選挙で東京16区に出馬し、再選。

  • 上記から分かることは、筋金入りの自民党員であって、自民党が政権に復帰する総選挙で国会議員になったということである。
    昨年の総選挙で再選されたわけだが、東京16区の有権者は、こういう人物を選んだことを自覚すべきであろう。
    もう70歳であるから、報道されているような「若手勉強会」ではない。
    しかし、安倍首相にきわめて近い存在であることは、略歴からも窺える。
    年上のチルドレンと言えようか。
  • なお、以下のような経緯にも注目したい。

    2014年4月の衆議院総務委員会において、上西小百合の質問中に「まず自分が子どもを産まないとダメだぞ」というヤジを上西に対して行った、と指摘された。当初、大西は朝日新聞や共同通信の取材に対して「記憶がない」と述べていたが、後に撤回してヤジを行ったことを認め、上西に謝罪を行った。なお、大西は都議会議員の頃から人間性を疑われるような汚いヤジを飛ばす「ヤジ将軍」として有名だった。
    Wikipedia

    根底にあるのは女性差別であって、これも安倍首相に通底する。
    ⇒2015年5月31日 (日):安倍首相の論理と倫理の欠陥/日本の針路(170)

    以前、M資金詐欺の問題に絡んで、清水一行『懲りねえ奴-小説M資金』徳間書店(1995年7月)を読んだことがある。
    ⇒2009年2月 2日 (月):小説M資金『懲りねえ奴』
    ⇒2009年2月 3日 (火):小説M資金『懲りねえ奴』②
    大西議員などは、まさに「懲りねえ奴」ではないだろうか。

    Photo 大西氏の発言に先立ち、自民党の谷垣禎一幹事長は30日昼にあった党代議士会で「仕事が前に進むようにするのが与党議員の使命だ。脇を締めて腰を落として頑張るつもりなので協力を心からお願いする」と呼び掛けたばかりだった。公明党の山口那津男代表も記者会見で「報道の自由は憲法で保障された基本的人権の中核で、それを損なうような発言は厳に慎むべきだ」などと苦言を呈していた。
     一方で、自民党内には若手議員を中心に、党執行部が懇話会代表の木原稔前青年局長を1年間の役職停止、大西氏ら不適切な発言をした3人を厳重注意とした処分に対して「厳しすぎる」という不満もくすぶっている。30日の自民党正副幹事長会議では、出席議員から「処分は過剰反応ではないかと地元で言われている」などと異論の声が上がった。
    報道圧力:大西議員「発言問題ない…マスコミを懲らしめ」

    安倍首相も党の処分に不満だと言うから、救いはない。
    今や自民党のガバナンスが崩壊しつつあるのではないだろうか。

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