因果関係論

2015年9月11日 (金)

東日本豪雨による鬼怒川決壊と自然堤防の掘削/因果関係論(26)

台風18号から変わった温帯低気圧と日本の東を北上する台風17号の影響で、東日本は広域的に記録的な豪雨となった。
鬼怒川が茨城県常総市で決壊し、宮城県の大崎市でも河川が決壊した。
鬼怒川の濁流に住宅が押し流される息を呑むような映像がTVに映し出されていた。
被害の全容はまだ不明だが、かなりの死者・行方不明者が報じられている。
被災した方々にはお気の毒としか言いようがない。

茨城県常総市で11日、行方不明者は25人になったと市が明らかにした。8歳の子供2人が含まれるという。また気象庁は同日午前3時20分、新たに宮城県に大雨の特別警報を発表。県北部の大崎市で川の堤防が決壊するなど浸水被害が相次ぎ、栗原市で1人が死亡、1人が行方不明となっている。
東日本豪雨:3人死亡26人不明 宮城でも堤防決壊

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東京新聞9月11日

鬼怒川クラスの河川における破堤はしばらくなかったような気がする。
鬼怒川の氾濫箇所では、自然堤防がソーラーパネル設置のために掘削されていたという情報がある。

 同省関東地方整備局河川事務所などによると、若宮戸地区では、通称「十一面山」と呼ばれる丘陵部が自然堤防の役割を果たしていた。しかし昨年3月下旬、民間事業者が太陽光発電事業を行うため、横150メートル、高さ2メートル部分を削ったという。
 住民から「採掘されている」と連絡があり、市は河川事務所に連絡。削ったことで、100年に1回起こりうる洪水の水位を下回ったため、民間事業者は大型土のうを積んで対策を施したという。
 昨年5月の常総市議会では、風野芳之市議が無堤防化の危険性を指摘したところ、市の担当者は「この地域が無堤防地区となっており、一番危険な場所と判断している」と答弁。茨城県筑西、結城、守谷3市にも同様の無堤防地区があると説明した。市側は各市町村などと連携しながら、国に堤防設置の要望をしていると説明していた。
 「無堤防」状態だったことが、今回の被害の拡大につながったかどうかについて、国交省関東地方整備局河川事務所は「因果関係は分からない」としている。
ソーラーパネル設置のため削られた自然堤防「一番危険な場所」も土のうだけ

自然堤防とは「世界大百科事典 第2版」の解説によれば、以下のようなものである。

河川のはんらんにより,河道の両側に土砂が堆積して形成された帯状の微高地。河川のはんらん時には,多量の土砂を運搬する濁水が通常の河道から周辺に向けて溢流する。洪水流は河道を離れると拡散して水深が浅くなり,流速も弱まる。その結果,土砂の運搬力は急激に衰え,河岸には砂質の堆積物が,さらに遠方にはシルト・粘土質の細粒堆積物が堆積する。このような河川のはんらんのくり返しによって河岸の部分は次第に高さを増し,河道に沿って帯状に連なる自然堤防が形成される。

国交省は因果関係について慎重な言い方であるが、自然堤防を掘削した事実があるなら当然因果関係が想定される。
損害賠償責任の認定は難しいかも知れないが、土地の来歴を考慮しない改変は、予想外の事態を招くことをキモに銘じたい。

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2014年10月 4日 (土)

御嶽山噴火と台風8号による豪雨との関係/因果関係論(25)

戦後最悪となった御嶽山噴火の被害状況は次第に明らかになってきているが、未だに全容は不詳である。
今回の噴火については、予兆をつかむことが難しい「水蒸気爆発」であろうというのが、火山学者の共通の見解のようだ。
川内原発の火山リスクについて、原子力規制委の田中委員長は次のように述べた。

 御嶽山が大きな予兆なく水蒸気噴火し、原発の噴火リスクが改めて注目されている。再稼働に向けた手続きが進む九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の噴火対策について、原子力規制委員会の田中俊一委員長は1日の記者会見で「(御嶽山の)水蒸気噴火と、(川内原発で想定される)巨大噴火では起こる現象が違う。一緒に議論するのは非科学的だ」と述べ、審査の妥当性を強調した。
川内原発「現象が違う」 噴火リスク、規制委員長が見解

「現象が違う」といえば、地学を含む自然史的現象はすべて異なる。
また、社会事象もすべて異なる。
東日本大震災を予知し得たなたなら、この発言も肯定できるだろう。
われわれには、まだ未知なることがまだ多い、というのが東日本大震災の教訓ではなかったか。
⇒2014年9月27日 (土):御嶽山噴火と原発の火山リスク/技術と人間(5)

火山の噴火は、マグマが直接噴出する「マグマ爆発」と地表近くの地下水がマグマに熱せられて起こる「水蒸気爆発」がある。

 今回は、地震はあったものの、山の膨張などは観測されていなかった。気象庁は「マグマによる噴火とは考えにくい」との見方を示している。
 御嶽山を長年研究する三宅康幸・信州大教授によると、79年以降にあった複数の噴火は全て水蒸気爆発だったという。「噴出物を詳しく調べないと分からないが、前兆が無かったことから見ても水蒸気爆発ではないか」と指摘する。
 現地入りした金子隆之・東京大地震研助教は「火山灰が2~3ミリ程度積もっている。ごま粒状にくっついており、水気の多い噴火ではないか」と話した。

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御嶽山、前兆少ない水蒸気爆発か 山の膨張、観測されず

今年の7月9日、長野県南木曽町は台風8号の影響で、1時間当たり70ミリの豪雨に襲われた。
同町読書の川で土石流が発生し、民家が流され1人が死亡する土砂災害が起きている。
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南木曽町と御嶽山の位置関係は上図のようである。
当然御嶽山にも相当量の降雨があったであろう。
御嶽山の山体が通常より多量の水分を蓄積していたと考えるのは自然であろう。

御嶽山では、前兆現象が観測されなかったのか?

 気象庁によると、御嶽山では9月10日ごろに山頂付近で火山性地震が増加し、一時は1日当たり80回を超えた。しかし、その後は減少に転じた。マグマ活動との関連が指摘される火山性微動は噴火の約10分前に観測されたが、衛星利用測位システム(GPS)や傾斜計のデータに異常はなく、マグマ上昇を示す山体膨張は観測されなかった。
 噴火は地震と比べると予知しやすいとされるが、過去の噴火で観測されたデータに頼る部分が大きい。気象庁火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は「今回の噴火は予知の限界」と話す。
 平成12年の有珠山(北海道)の噴火は約1万人が事前に避難し、予知の初の成功例として知られる。有珠山では江戸時代以降、地震増加が噴火に直結することが分かっていたからだ。
 だが、このような経験則が成り立つ火山は例外的だ。御嶽山は有史以来初となった昭和54年の噴火が起きるまで、噴火の可能性すら認識されず、近年も静穏な状態が続いていた。噴火過程の理解など予知の判断材料は十分でなかったという。
地震活動の予兆あったが…噴火の記録乏しく予知できず

地道な観測データを積み重ねることが肝要と言うことだろう。
片山さつき議員のように虚報を流して自分の立場の利を図ることは卑しい心情と言うべきだろう。
⇒2014年10月 1日 (水):火山列島でどう生きるか?/日本の針路(47)
同氏は謝罪するハメになったが、問題は思考回路にあるのだから容易には変えられまい。

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2014年8月27日 (水)

自殺と原発事故の因果関係を認定/因果関係論(24)

福島第一原発の事故で、避難生活を余儀なくされた女性が自殺したことに関して、東電に損害賠償を求めていた裁判で、福島地裁は26日、「自殺と原発事故の間には相当な因果関係がある」として遺族の訴えを認め、東電に約4900万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
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東京新聞8月27日

遺書がない場合、自殺の真因を確定することは難しい。
社会的事象については因果関係が明確でないことが多いので、相当因果関係という概念が導入された。
相当因果関係とは、社会生活観念上も、特異のことではなく通常予想できる程度のものである場合をいう。
公害などの場合が典型である。
⇒2012年8月 2日 (木):水俣病と福島原発事故/「同じ」と「違う」(49)/因果関係論(18)

本件に関して言えば、相当因果関係を認めることは当然であると考える。

 原告は、渡辺はま子さん(当時58歳)を失った夫の幹夫さん(64)と子供3人。訴状などによると、原発事故後の11年4月、自宅があった福島県川俣町山木屋地区が計画的避難区域(当時)に指定され、福島市のアパートでの避難生活を余儀なくされた。同年7月1日朝、はま子さんは一時帰宅した自宅の庭先でガソリンをかぶって火を付け死亡した。遺族は12年5月、原発事故が原因として提訴した。
 遺族側は、はま子さんが抑うつや食欲減退などうつ病の兆候を避難後に示すようになったと主張。「原発事故による生活環境の激変で、死を選択せざるを得ない状況に追い込まれた」と訴えた。これに対し東電側は、はま子さんが事故前に精神安定剤を使っていたことなどを指摘し、「因果関係の認定には総合的な判断が必要」と反論していた。
福島第1原発事故 避難者訴訟 自殺「事故が影響」 福島地裁、東電に賠償命令

避難生活に大きなストレスがかかることは容易に想像できる。
自分が原因者ではないにもかかわらず、住み慣れたわが家から離れなければならないのだ。
⇒2013年3月30日 (土):避難生活のストレス/原発事故の真相(65)

裁判では、はま子さんの自殺の原因が原発事故だと言えるかという点が争われた。
遺族側は、避難先のアパートで、はま子さんが夜眠れないと頻繁に訴えるようになっておる、自宅に帰れないと悲観して自殺したのは明らかだ、と主張していた。
これに対し、東京電力側ははま子さんが事故前から睡眠障害で薬を飲んでいることを指摘し、「遺書が見つかっていないなど、自殺の原因がはっきりしない」として、事故以外の原因を考慮するべきだと主張した。

たとえ事故前から睡眠障害で薬を飲んでいたとしても、事故がない場合に、はま子さんが自殺をする可能性がどの程度あったかを考えてみれば、東電の主張は、反論のための反論であることは自明である。
一時帰宅した自宅で自殺したことを考えれば、避難生活が原因であると考えるのが普通だろう。
東電の主張を極論すれば、一時帰宅したのが原因で、帰宅しなければ自殺も起こりえなかった。
だから、帰宅に同行した夫が悪いということにもなりかねない。

自殺という行為者が永遠に証言をし得ない行為について、その真因を特定することには限界がある。
たとえば、明確な遺書が遺されていた江藤淳の場合ですら、どういう心理的な経緯で死を覚悟するに至ったかは、第三者の窺い知れない部分がある。
⇒2010年9月 6日 (月):江藤淳の『遺書』再読

あるいは最近の例でいえば、理化学研究所の笹井芳樹氏の場合もいろいろな憶測がされている。
⇒2014年8月 5日 (火):STAP論文問題のキーパーソン・笹井芳樹/追悼(53)
遺書には、自殺の理由として「マスコミなどからの不当なバッシング、理化学研究所やラボ(研究室)への責任から、疲れ切ってしまった」と書かれていたそうだが、それも部分にすぎないのではないか。

私には東電の責任を認定しない判決文は考えられない。
ここで、原発事故で死者は出ていないと言い放った自民党高市早苗政調会長のことを復習しよう。
⇒2013年6月19日 (水):高市発言の思考の文脈/原発事故の真相(73)
俯瞰してみれば、避難生活と自殺の因果関係を認めることは当然であるし、高市氏の思考が粗雑であることは良く分かる。
いくら力の大きな相手であっても、泣き寝入りをするのは終わりにしたい。

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2013年11月25日 (月)

原発事故と甲状腺ガンの発生確率/因果関係論(23)

福島県が11月12日、「県民健康管理調査」検討委員会において、福島原発の事故発生当時に18歳以下だった子供の甲状腺検査の結果を明らかにした。
甲状腺は、のど仏の下にあり、気管を囲むように張り付いている蝶のような形の小さな臓器で、そこで作られる甲状腺ホルモンの機能は、”全身の代謝の調節” といわれる。
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http://utida-naika.blog.ocn.ne.jp/blog/2011/07/post_c9a9.html

上図に見るように、男女で位置に若干の差異がある。
2011年度から2013年度の3年間の間に検査を受け、結果が判定された約22万6000人のうち、甲状腺がんやその疑いがあると診断された人は59人だったという。
果たしてこの数値は事故がない場合との比較において、有意差があるのかないのか?

一般に甲状腺がんは被爆後、4~5年後に著しく顕在化してくる。原発事故による甲状腺がんのデータはチェルノブイリ原発のものがあるが、現時点では福島のデータと同じ条件で比較することはできない。ただ一般論として考えれば、今回の調査結果はかなり深刻なものと捉えてよいだろう。
被爆がない場合、子供に甲状腺がんが発見されるのは100万人あたり17人程度であり、59人という数字はそれよりも高い。しかも59人というのは3年かけて30市町村で検査した累計であり、各年度での母集団が異なっている。確率を考えるのであれば、年度ごとに区切った方がより正確であり、その場合、最もサンプル数の多い2012年度では100万人あたり317人ということになる。

http://www.huffingtonpost.jp/2013/11/18/fukushima-chernoby-children-cancer_n_4294415.html

以下のようなデータがある。
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http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/02/3.html

チェルノブイリ周辺と福島の検診人数を四角形で、確定甲状腺がん数を黒丸、甲状腺がん疑い数を灰色丸で表示したものである。
チェルノブイリでは、原発事故から4~5年たって甲状腺がんが発生しており、専門医は「被曝から3年以内に発生する可能性は低い」と分析しているという。

しかしもし継時的に発症数が増えるとすれば決して楽観視できないだろう。
福島県の甲状腺検査のあり方には従前より疑問が投げかけられていた。
⇒2012年10月 6日 (土):福島県の健康(甲状腺)検査の実態/原発事故の真相(49)

福島県の甲状腺検査の進展状況は以下のようである。
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東京新聞11月24日

統計的検定をするとどういうことになるのか分からないが、10/41,493=0.024%、16/197,292=0.0081%であって原発近くの市町村の方が3倍程度多いということになる。
福島県立医大の鈴木真一教授は、「チェルノブイリでは事故発生後4年経過してから甲状腺ガンが出た(から福島原発事故との因果関係はない)」としているが、果たしてそう言い切れるのか?
福島のデータは、5年後にはさらに大きくなる可能性は十分にある。
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http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/02/3.html

チェルノブイリ調査は、子どもたちに甲状腺がんが急増した時期に実施されたのに対し、福島調査は、チェルノブイリでわずかに甲状腺がんの増加が見られ始めた時期に実施されているが、すでに、チェルノブイリ事故の高汚染地域に匹敵する頻度で甲状腺がんが発生しているからである。

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2013年8月18日 (日)

識字率と革命/因果関係論(22)

革命という事象は、因果関係が複雑なものの代表といえるだろう。
「産業革命」「フランス革命」「ロシア革命」・・・
「革命」は、Wikipedia-革命では次のように規定されている。

革命(かくめい、英語: Revolution、レボリューション)とは、権力体制や組織構造の抜本的な社会変革が、比較的に短期間に行われること。対義語は保守、改良、反革命など。
「レボリューション」の語源は「回転する」の意味を持つラテン語の「revolutio」で、ニコラウス・コペルニクスの科学革命で使用され、後に政治的変革に使用されるようになった。また漢語の「革命」の語源は、天命が改まるとの意味で、王朝交代に使用された。
革命は人類の歴史上、さまざまな方法や期間、動機となった思想によって発生した。その分野には、文化、経済、社会体制、政治体制などがある(農業革命、産業革命、フランス革命、ロシア革命など)。また、何が革命で何が革命でないかの定義は、学者の間で議論が続いている。

まあ、革命という現象がそもそも一義的には定義されないのだから、因果関係の考え方自体もさまざまになるのは当然ともいえる。
「フランス革命」には、火山活動による天候不順が大きな要因になった、という説がある。
⇒2012年3月 9日 (金):餓死という壮絶な孤独(3)/花づな列島復興のためのメモ(34)
⇒2009年10月16日 (金):八ツ場ダムの深層(6)吾妻川の地政学
⇒2012年9月30日 (日):「火山の冬」と富士山噴火の可能性/花づな列島復興のためのメモ(147)

今日の東京新聞の朝刊コラム「筆洗」に面白い説が紹介されていた。
識字率と革命の関係である。
フランス革命はパリ周辺の男性の5割が文字を書けるようになった時に、起きたのだという。

識字率 (Literacy rate) とは初等教育を終えた年齢、一般には15歳以上の人口に対して、文字(書記言語)を読み書きし、理解できる比率として定義される。
識字率を計算する場合、
母語における日常生活の読み書きができることを識字の定義とする。

▼人口統計学を駆使して、一九七〇年代にソ連の崩壊を予測したことで知られるE・トッド氏は『アラブ革命はなぜ起きたか』(藤原書店)で指摘している。十七世紀の英国の市民革命も、二十世紀初頭のロシア革命も、男性の識字率が五割を超えたころに起きた。知への目覚めが、民衆の政治参加を呼び起こす条件になるのだ▼トッド氏が識字率とともに重視するのが、出生率と内婚率だ。女性の識字率が上がると、妊娠出産を自分でコントロールするようになり、出生率は下がる傾向がある。女性の意識が、根本的に変化したということだ▼もう一つの内婚とは、いとこ同士など身内で結婚し合い、一族の絆を固めること。この率が下がることは、人々がより開かれた人間関係を求めるようになったことを示すという▼これらの指標を分析すれば、「エジプトの社会は、呆気(あっけ)にとられるような仕方で変貌しつつある」のは明らかだと、トッド氏は指摘する。「政治体制の過渡的形態がどんなものになるにせよ、社会はより個人主義的にして自由主義的になるだろう」と▼エジプトで起きている変革への流れは、大河に銃を撃つような愚行では決して止められない。それだけは確かだろう。

E.トッドのついてのWikipediaの説明は以下のようである。

エマニュエル・トッド (Emmanuel Todd, 1951年5月16日 - ) は、フランスの人口学・歴史学・家族人類学者である。人口統計による定量化と家族構造に基づく斬新な分析で知られる。現在、フランス国立人口学研究所 (INED) に所属する。2002年の『帝国以後』は世界的なベストセラーとなった。

日本の核武装に対する考えは現在の私とは異なるが、一理ある。

2006年、朝日新聞のインタビューにおいて、「核兵器は偏在こそが怖い。広島、長崎の悲劇は米国だけが核を持っていたからで、米ソ冷戦期には使われなかった。インドとパキスタンは双方が核を持った時に和平のテーブルについた。中東が不安定なのはイスラエルだけに核があるからで、東アジアも中国だけでは安定しない。日本も持てばいい。」と述べ、日本の核武装を提言した。さらにトッドは、ドゴール主義的な考えだとして、「核を持てば軍事同盟から解放され、戦争に巻き込まれる恐れはなくなる」と指摘する。ほか、被爆国である日本が持つ核への国民感情については、「国民感情はわかるが、世界の現実も直視すべき」とした。
フランスの核武装については、何度も侵略されてきたことが最大の理由とし、「地政学的に危うい立場を一気に解決するのが核だった」と指摘した。
日本が核兵器を持った場合に派生する中国とアメリカと日本との三者関係については、「日本が紛争に巻き込まれないため、また米国の攻撃性から逃れるために核を持つのなら、中国の対応はいささか異なってくる」との見通しを出したうえで、「核攻撃を受けた国が核を保有すれば、核についての本格論議が始まり、大きな転機となる」と指摘した。

識字率に戻れば、識字率というのは認識力と表現力のことであろう。
とすれば、過半の認識力・表現力が深まったとき、革命が起きるというのは納得的である。
なお、世界の識字率の現状は下図のようだとされる。Ws000001
Wikipedia-識字

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2013年4月12日 (金)

鳥インフルエンザの拡大をどう防ぐか/因果関係論(21)

国際獣疫事務局(OIE、本部パリ)が、中国で死者が出ているH7N9型鳥インフルエンザについて、危機感を示す認識を表明した。
ウイルスに感染した鳥を見分けるのが難しく、対策が「かなり異例な状況」だからという。

 OIEはH7N9型のウイルスについて「家禽(かきん)類に対する病原性は非常に低いが、人に感染すれば重い症状をもたらす可能性がある」と指摘。検査で陽性反応を示した鳥を見ただけでは病気だと全く分からないため、「ウイルスを見つけるのは極めて困難だ」と対策の難しさを認めた。
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013041200066

鳥インフルエンザは新型ウイルスによるものだが、ウイルスというのは相当に厄介な代物である。
⇒2013年4月 5日 (金):鳥インフルエンザとウイルスの正体

鳥インフルエンザの問題は、2003年に起きたSARSのことを思い出させる。
SARSに比べれば、中国における情報公開はずっと良くなったと言われる。
しかし、どうしても不信感が拭えない。

SARSとは、Sever Acute Respiratory Syndrome(重症急性呼吸器症候群)の略で、最初の症例は、広東省で2002年11月に発見され、中国本土、香港などで感染が拡大した。
AIDS=後天性免疫不全症候群、BSE=牛海綿状脳症など、アルファベットで表記される疾病は、当然新しく発見されたものであるが、当初はその原因や感染のメカニズムなどが不明なため、不気味な感じが拭えない。

ホモ・ファーベルとも言われるように、技術は人間と他の動物を区分けする要素の一つである。
そして、人間の脳は、勝手に活動して創造力を発揮してしまう。
強制的にあるいは自発的に、それを抑制することは不可能なので、技術の発展には限界がない。

新しく発生(発見)されている疾病は、技術発展への反作用という側面があるように感じられる。
例えば、BSEの場合は、草食動物の牛が、肉骨粉を飼料にしたことが原因だとされている。
つまり、食物連鎖という生態系のメカニズムを、人為的にかく乱した結果だろう。

2003年4月14日 CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)は、SARSの原因とされているコロナウイルスについて、ゲノム配列を決定した。
おもに飛沫感染によって広がるが、飛沫は大きいため、飛ぶ距離は通常1メートル以内とされる。

通常、インフルエンザウイルスは、例えばヒトからヒトへといった同種の間で感染するものである。
しかし、インフルエンザウイルスの性質が変異することによって、ヒトに感染しなかったインフルエンザウイルスが、ヒトへ感染するようになり、さらにはヒトからヒトへ感染するようになる。ヒトに感染しなかったものがヒトの間で感染する位まで大きく変異した(突然変異型の)インフルエンザウイルスのことを新型インフルエンザウイルスという。

英科学誌ネイチャー電子版が、鳥の体内で3種類のウイルスの遺伝子が互いに入り交じってできた可能性があるとの専門家の分析結果を報じた。

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 ネイチャーによると、北京にあるWHOのインフルエンザセンターがウイルスの遺伝子データを公開。日本の専門家などの分析で、8本ある遺伝子のうち、ウイルスの表面の形を決めるH7型とN9型の遺伝子はそれぞれ、欧州からアジアにかけて分布する異なる2種類の鳥インフルエンザのものと極めてよく似ていた。 残りの6本の遺伝子はいずれもアジアに広まっている別の鳥インフルエンザのものとほぼ一致。3種類のウイルスに感染した鳥の体内で遺伝子が入り交じって新たなウイルスができた可能性がある。一方で、豚の体内でウイルス混合が起きたとみる専門家もいる。
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130404154529614

鳥インフルエンザの発症例は、次第に増えている。

中国上海市政府は11日、H7N9型鳥インフルエンザに感染した男性(74)が同日死亡したと発表した。上海での死者は6人目。中国では上海、江蘇、浙江、安徽の1市3省で死者10人となった。上海では死亡した男性を含む3人、江蘇省でも男性2人の感染が新たに確認され、国内の感染者は38人に拡大した。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201304/2013041100948

技術の進歩によって、今までにはなかった「新種の心配事」が生まれてくることは不可避だろう。
水俣病の巫覡を繰り返さないためにも、先行指標や予兆をどう見出すか、あるいは環境の異変をどう感知するか、大きな課題といえよう。

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2012年8月27日 (月)

大川小学校の悲劇と避難誘導の難しさ/因果関係論(20)・みちのく探訪(1)

知人たちのグループの東北旅行に便乗した。
昨年、一緒に龍谷ミュージアムに行った人たちで、私以外は小学校以来の仲間である。
⇒2011年11月30日 (水):龍谷ミュージアム/京都彼方此方(3)
秋田、岩手、宮城の3県を2泊3日で訪ねるというなかなかハードな旅行だった。
足手まといになることに躊躇いもあったが、車いすまで用意してくれるという好意に甘えさせて貰うことにした。

最終日の昨日は、松島のホテルを朝発って、先ず石巻に行った。
みな、実際に被災地の現場に行ってみたいという思いを持っていたようである。
沼津に現住している人間が過半なので、津波の状況を現認しておきたいということでもある。

日和山公園から俯瞰的に港の様子などを眺めたが、誰ともなしに、大川小学校に行こうということになった。
前夜、小学校時代の思い出話に花を咲かせたことが、潜在的な意識として働いたのだろうか。

大川小学校の悲劇については、津波で児童74人、教職員10人が亡くなったことで「3・11」の災害の中でも大きく伝えられている。
学校は、北上川の河口近くに位置している。
Photo
http://kaikaedoki.seesaa.net/article/207189187.html

児童の避難誘導に関して、学校側の対応が適切なものであったか否かが問われている。
今日の東京新聞にも、26日に公表された石巻市教育委員会の調査結果に関する記事が載っていた。
120827
東京新聞120827

 校内の三つの時計は3時37分で止まっており、津波はその時間に校舎に到達したとみられる。当時学校にいた近所の男性によると、児童や先生が校庭を出て交差点に向かって裏山沿いの道を歩いていた時、前から来た津波にのまれた。とっさに裏山を駆け上がった児童たちが難を逃れた。
 学校に一番近い高台は学校の裏山。なぜすぐに裏山に逃げなかったのか。保護者の多くがその1点に疑問を持っているが、詳細な経緯は不明だ。

http://kaikaedoki.seesaa.net/article/207189187.html

詳しい状況について知らないが、学校側の責任を問うことはいささか酷ではなかろうか。
しかし、学校が避難場所に指定されていたことも含め、反省点はあると思われる。
児童を含む多数の生命が喪われたのは事実であり、どうすれば良かったのか、検証は必要であろう。
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校舎は津波の威力を伝えるかのように破壊されたままの状態である。
日頃陽気なTさんが、大粒の涙を流していた。
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校庭も一部雑草地に化しつつある。
賑やかな声が弾んでいただろうことを考えると辛い。
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子供たちはどんなに怖かっただろうか。
私も、声を立てることはなかったが、熱いものがこみ上げてくるのを抑えきれなかった。

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2012年8月25日 (土)

水俣病の因果関係/因果関係論(19)

因果関係とは、「原因」と「結果」の関係である。
しかし、物理・化学的な事象ならともかく、社会的な事象については、因果関係が明確でない場合が多い。
⇒2012年7月22日 (日):因果関係がはっきりしない事態への姿勢/花づな列島復興のためのメモ(116)/因果関係論(14)

水俣病に代表される公害、過労病のような労働災害、交通事故、食中毒、最近問題になっている胆管がん・・・
これらは、常に因果関係をめぐって争いがあった。
争いの中には、概念整理が不十分であるが故に、因果関係の捉え方が混乱しているような場合もある。

津田敏秀『水俣病における食品衛生に関わる問題について』(水俣病研究会編『水俣病研究Vol.3』弦書房(0406)所収)は水俣病の「原因」についての考え方を整理している。
津田氏は、「水俣病の原因が塩化メチル水銀であることはよく知られているが、改めて水俣病が発生した「原因」は何かと問えば、塩化メチル水銀以外にさまざまな答えが想定されるという。

たとえば、漁業が稼業である場合には、魚の摂取量が他の家に比べ大きく違うであろう。
あるいは、漁業という文化や魚を食べる食習慣がなければ、水俣病は発生しなかったであろう。
また、野口遵が水俣に工場を作らなければ、さらには立地条件-不知火海一帯が良質の石灰石の産地であり、天草が無煙炭の産地で、水俣が天然の良港で、低賃金の労働者が大勢いた)のいずれかが欠けていたら・・・
これらはいずれも水俣病の原因と考えられる。

水俣病の場合、1957年9月11日に、熊本県の照会に応えて回答がなされた。

一 水俣湾特定地域の魚介類を摂食することは、原因不明の中枢性神経疾患を発生する恐れがあるので、今後とも摂食されないよう指導されたい。
二 然し、水俣湾特定地域の魚介類のすべてが有毒化しているという明らかな根拠が認められないので、該特定地域にて漁獲された魚介類のすべてに対し食品衛生法第4条第2号を適用することはできないものと考える。

「一」に「原因不明」という言葉が出てくる。
現在は塩化メチル水銀であることが分かっているが、当時は諸説あった。
しかし、塩化メチル水銀まで特定されていなくても、魚もしくは魚食が原因であることは共通認識だった。
魚介類の中にある何が有害なのかが特定されていなかったということである。

「二」の「水俣湾特定地域の魚介類のすべてが有毒化しているという明らかな根拠が認められないので」という文言は、「明らかな根拠が認められ」るもののみに、「食品衛生法第4条第2号を適用すること」ができると解釈できる。
言い換えれば、悉皆調査をして、有毒化しているものを特定しろ、ということである。

それは正しい態度か?
有毒化しているか否かは、原因物質が分からない段階では、たとえばネコに食べさせてみて判別しなければならないだろう。
しかし、それを行えば、人間の食べるものが無くなる。
結果として人間の被害は発生しなくなる。
厚生省の意図はそういうことだったか?

そうではない。
「明らかな根拠が認められ」るもの以外は、法の適用ができないということだ。
「疑わしきは罰せず」ということである。

しかし、被害の拡大を防ぐという観点からは、安全が証明されたもののみを摂食するように指導しなければならないだろう。
安全性の場合、「疑わしきは罰する」を原則としなければならない。

活断層の上に原発をつくることはマズイことは共通認識である。
活断層の疑いのある場合、どうするべきか?
私たちの政府は、「国民生活を守るために」活断層であることがはっきりするまでは稼働すると言っている。
噫!

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2012年8月 2日 (木)

水俣病と福島原発事故/「同じ」と「違う」(49)/因果関係論(18)

将来の原発比率に関する国民の意見の聴取会が、1日福島市で開催された。
原発事故の被災地では、従来のような欺瞞的な方法はとても通用しなかったようだ。
3つの選択肢を「公平に」扱う方式ではなく、発言希望者から無作為に選ばれた30人が1人5分で意見表明した。
事故収束宣言や大飯原発再稼働など、福島原発事故を教訓にすることを全く考えないかのような政府に、不信感と怒りの声が集中した。
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そもそも、選択肢の設定そのものが欺瞞的なのである。
⇒2012年7月13日 (金):将来の原発比率と「討論型世論調査」/花づな列島復興のためのメモ(109)
⇒2012年7月15日 (日):エネルギー・環境会議の意見聴取会の実態/花づな列島復興のためのメモ(111)

前日の7月31日は、水俣病特措法による救済の締切日だった。
私たちは、水俣病救済の教訓を福島原発に生かすことを考えなければならないだろう。
水俣病は未だに被害の全容が分からないといわれている。

大阪市大の除本理史准教授(環境政策論)は、福島原発事故と水俣病の共通性として、以下を指摘している(静岡新聞120801)。
1.健康被害の実態解明の必要性
2.国による被害者の線引き
3.原因企業を国が支援

水俣病の原因物質がメチル水銀化合物であることは、すでに1960年代には知られていた。
熊本大学研究班は、1962年夏頃に、アセトアルデヒド製造工程スラッジ(排出汚泥)から、塩化メチル水銀を抽出することに成功し、1963年2月、水俣病は水俣湾産魚介類を摂食することにより発症し、その原因毒物はメチル水銀化合物と正式に発表した。
しかし、政府が水俣病についての正式見解として、チッソ水俣工場アセトアルデヒド設備内で生成されたメチル水銀化合物と断定したのは、1968年9月26日であり、熊大発表の実に5年半後であった。
⇒2009年7月 9日 (木):水俣病の原因物質

相当因果関係説に立てば、ずっと早い段階で、水俣病がチッソ水俣工場の廃液に起因すると考えるべきであっただろう。
しかし、水俣病の病像や発生機序についてはさまざまに考えられ、厳密な意味での因果関係が完全に立証されているともいえない。
たとえば、西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)は、因果関係について完全に解明しえたかのように思われる労作であるが、これに対してもなお、工場からのメチル水銀の排出の実態等については異論が存在するのである。
⇒水俣病研究会編『水俣病研究Vol.3』弦書房(0406)

東洋医学に未病という概念がある。
2_2
http://kenko100.info/health/mibyou/

最近はTVのCMなどでもよく使われている。
健康と病気のグレイゾーンである。
公害による健康被害や放射能の被曝についても、同様のゾーンが考えられよう。
たとえば、被曝の影響は次図のように示される。
Photo_3
http://blog.livedoor.jp/bia/

線引きを厳格に行おうとするあまり、未然の被害者が救済対象から外されるようなことがあってはならないだろう。
その意味で、救済申請に締切日を設け、その後の申請を受け付けないということには疑念が残る。

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2012年7月30日 (月)

脳疾患が労災と認められた判例/闘病記・中間報告(53)/因果関係論(17)

高血圧等の基礎疾患があるばあい、脳梗塞などの脳血管障害を発症するリスクが大きい。
脳血管障害を実際に発症した場合、業務の過重負荷が「相当因果関係あり」と認定されるのは、かなり難しいのではないかと想定される。
たまたま知人の法律事務所で「判例ジャーナルNo.1367」(2012.5.15)を眺めていたら、「高血圧症の基礎疾患のある地方公務員のくも膜下出血の発症について公務起因性が認められた事例」の解説が載っていた。

事案の概要は以下の通りである。
公立小学校の教員が授業終了直後、気分が悪くなって保健室で休んでいた。
容態が急変したので県立病院に救急搬送され、検査をしたら、くも膜下出血であると診断された。
入院加療しているが、後遺症が残った。
地方公務員災害補償基金に公務災害認定を請求したが、脳動脈瘤の形成は先天的原因(家族歴)又は後天的原因(高血圧症)によるものであり、破裂しやすい状態となっていたものが自然的経過において増悪し、発症したもので、公務起因性は認められないとした。

一般に、労災が認められる条件は下図のようである。
Photo_3
http://www.nenkin-support.com/rousai02.html

ここで、過重労働の影響は、下図のようである。
Photo_4
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/115/

つまり、おおまかな傾向はあるが、せいぜい蓋然性が認められるということである。
疾病の発症には、多様な要因が関係している。
そのどれが主因であるかを見極めるのは困難であろう。
Photo_2
http://lifestyle-disease.jp/

判例では、公務による負荷が基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させ、発症に至らせたと認められたときに、相当因果関係を肯定することができる、と解している。
本件の争点を具体的に整理すると、以下のようである。
1.公務起因性の判断基準
2.原告の公務の過重性
3.公務以外の本件疾病発症に対する危険因子の有無

判決は、原告の本件疾病の発症は公務に起因すると認められる、とした。
その理由は以下の通りである。
a.原告は、くも膜下出血の最大の危険因子である高血圧症であったが、食事療法や運動療法を実施していたことにより、発症の直前期には基本的に血圧はコントロールされていた。
b.発症の直前期に、高度な疲労を来すような過重な公務があった。
c.過重な公務負担が、原告の高血圧症を自然経過を超えて増悪させたから発症したと認められる。
d.すなわち、本件疾病と原告公務の間には相当因果関係が認められる。

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