知的生産の方法

2019年1月 4日 (金)

探究と実践の往還/知的生産の方法(180)

昨年8月に掛谷誠氏の著作集全3巻が完結した。
第3巻は『探究と実践の往還』京都大学学術出版会(2018年8月)である。20190104_094120

主としてアフリカというフィールドで実証的な地域研究を行い、そこから理論を構築していった彼らしいタイトルである。
私には彼の専門領域における業績を紹介する能力はない。
しかし専門外の人間から見ても、彼の書く文章が論理と感性が見事に融合したものであることは理解できるだろう。
2015年4月20日 (月) 掛谷誠・「伊谷純一郎『アフリカ紀行』」の解説/私撰アンソロジー(35)

この第3巻には、「地域」というものについての彼の考え方が収録されている。
彼のフィールドは様々であったが、最終的には「アフリカ」である。
第1章の「アフリカ研究会のころ」は、1963年に京都大学の電気工学科に入学した彼が、ポスターを見て「アフリカ研究会」の存在を知り、飛び込み参加して気分が高揚したことから始まっている。
後に恩師となる伊谷純一郎氏から「これからは電子や電気の時代だから、工学部をやめるのはもったいない」とアドバイスを受けた。
当時は、高度成長期が本格化した頃であって、伊谷氏のアドバイスはもっともなものだった。

その時のことを、特修「掛谷誠追悼」で、田中二郎氏はつぎのように書いている。

彼が人文研をのぞきにきた日の夕方、ちょうど立ち上げたばかりのアフリカ研究会の初めての懇親会が行なわれることになっていた。それを聞いた掛谷は、「いきなりコンパに参加したら駄目でしょうか?」とおそるおそる尋ねたものである。「まだ 組織もなにもしっかり出来上がってない会やから 初めての人が飛び込みで入ってきてもかまいやしないよ。」わたしはそう言って、彼を誘ってコンパ会場に連れて行ったが、それがきっかけとなって掛谷がアフリカの世界にどっぷりとはまってしまうことになったのである。

結局理学部に転学部し、大学院で動物学専攻、自然人類学研究室に入った。
第2章は「座談会 霊長類学・生態人類学・人類進化論」である。
伊谷純一郎氏の白スリー記念賞受賞を祝って、伊谷純一郎・市川光雄・掛谷誠・河合雅雄・西田利貞・米山俊直の諸氏が語り合っている。
今西錦司氏によって始められた京都大学の自然人類学の研究の総括である。
伊谷氏は、今西氏の後を継いで、自然人類学を方向付け、確立された。

その業績を河合雅雄氏は3区分する。
第一の創生期は1948年に始まる霊長類グループの誕生と国内のフィールドで活躍し始めた時期である。
第二期は、モンキーセンターができた1956年以降で、世界に先駆けてプライトマトロジーを確立した時期である。
第三期は、1962年に京都大学に自然人類学講座ができ、1967年に霊長類研究所ができて、類人猿と生態人類学が進展を見た時期である。

掛谷氏は、第三期を実質的に担った1人である。
理学部にいた共通の友人の仲介で、アフリカに行く直前に彼とフィアンセと4人で歓談したような記憶がある。
それが彼と交わした会話が最後となったが、アフリカに赴くいたのは1971年のことだったようで、その頃私はビジネスの世界に入っていたので、もう少し前だったのかも知れない。
先日京都で旧左翼活動家の友人にあってその時がいつだったか確認しようと思ったが覚えていないようであった。
掛谷は新左翼だからなあ、と漏らしたが、活動家ではなく新左翼の方が心情的にフィットしたということだと思う。

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2019年1月 2日 (水)

『日日是好日と「分かる」ということ/知的生産の方法(182)

年末に近くのシネコンで『日日是好日』を観た。20190101_090716

私自身はまったく縁がない「お茶」の世界を淡々と描いた佳作である。
原作は森下典子さんの人気エッセイ『日日是好日ー「お茶」が教えてくれた15の幸せ』新潮文庫(2008年11月)である。
映画館の帰りにシネコンと同じショッピング・モールにある書店で買ったら、2018年11月で32刷だった。

主役の「典子」役は、『西郷どん』の妻役を演じた黒木華である。
私はそんなに映画好きということでもないが、彼女の出た「草原の椅子」「舟を編む」「小さいおうち」などを観ている。
いずれも印象に残っており、実力派の証明であろう。
「お茶」の先生役の「武田のおばさん」を演じているのが樹木希林である。
昨年『万引き家族』でカンヌ映画祭でパルムドールに選ばれたが、9月に亡くなっているので、これが遺作ということだろう。
2018年6月11日 (月) 『万引き家族』の評価を巡って/ABEXIT(49)
監督の大森立嗣氏は、大駱駝艦を率いた麿赤児氏の長男である。
大駱駝艦の舞台を観る機会は無かったが、前衛的なものというイメージである。
『日日是好日』の和の世界とは対照的なような印象だが、芸術家のDNAであろうか?
『日日是好日』で印象的だったのは「お茶」が(というよりも「和の世界」一般というべきだろうが)、季節の移ろいと密接に関連していることであった。
 
季節を分ける言葉は、四季や月など数多い。
映画では二十四節季の区分が随所に出てくる。
立春、雨水、啓蟄・・・である。
二十四節季は日常生活でも頻繁に登場するが、それぞれをさらに3分した七十二候についてはほとんど日常性がない。
 
さらに多様に季節感を表現するものとして、俳句の季語がある。
「プレバト」の夏井いつき氏のコメントでも、季語の豊富さが俳人の生命線であることが理解できる。
また「名人」「特待生」のタレントが必死で季語を勉強し、自分の言いたいことに相応しい季語を歳時記から引き出そうとしている。
 
この季節を細分することが、和の世界の本質ではなかろうか。
『日日是好日』に「世の中には「すぐわかるもの」と、「すぐにはわからないもの」の二種類がある。」という言葉がある。
「すぐにはわからないもの」とは、「行ったり来たりするうちに、少しずつじわじわとわかりだし、「別もの」に変わって行く」ものである。
 
それは我々が全体の部分にしか触れ得ていないからである。
ニュートンの言葉を援用して、「知れば知るほど分からないことが増える」現象について考えたことがある。

I was like a boy playing on the sea-shore, and diverting myself now and then finding a smoother pebble or a prettier shell than ordinary, whilst the great ocean of truth lay undiscoverd before me.
発見されないままで拡がっている真理の大海、それを前にして、私は浜辺で、より美しい貝殻や、より滑らかな小石をあちこちさがして楽しんでいる子供のようなものだ。

blogs.yahoo.co.jp/tobetobetigers/52618191.html

ニュートンのこの言葉は、「より多く知っている人は、自分がいかに知らないかということを知っている」という真理を示した言葉であ2る。
自分が知らないことがある、という自覚(=問題意識)こそ、探究心を動かすエンジンということでもあろう。

ところで、新しく何かについて知るということは、この既知の小島の領域が拡大することである(図A→図B)。
つまり島の面積が広がるわけであるが、そうすると、当然海岸線も延伸することになる。
つまり、「未知」を意識するゾーンが拡大するというわけで、「知れば知るほど、知らないことが増える」というのは、こういうようなメカニズムではないかと考えられる。
つまり、好奇心は自己増殖するということだ。
2008年8月 8日 (金) 2年目を迎えて

それが自律的学習のメカニズムである。
「分ける」ことは「分かる」ことであり、「分かる」ことは「分ける」ことである。
細やかに季節の移ろいを「分ける」ことは、「和の世界」を理解するための前提条件といえよう。

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2018年11月14日 (水)

組み合わせの論理(2)ポートフォリオ/知的生産の方法(181)

先日の『ブラタモリ』で有田をやっていた。
有田と言えばもちろん有田焼だが、何といっても柿右衛門であろう。

17世紀前半に、初代が酒井田柿右衛門を名乗り、代々子孫が襲名して当代は15代である。
柿右衛門様式と呼ばれる一目で分かる様式美を生み出した。
花鳥図などを題材として暖色系の色彩で描かれ、非対称で乳白色の余白が豊かな構図である。
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マイセンの磁器に似ているが、影響を受けたのはマイセンの方である。
面白かったというかなるほどと思ったのは、焼き物が市況産業であることから、安定的な売り上げを確保するためにガイシを産業化したという話である。
まさに事業ポートフォリオではなかろうか。

ポートフォリオには、いろいろな意味があるが、金融の世界では、資産(の割合)を一覧化したものを指す。
例えば
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これを会社の事業に応用して
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ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が、キャッシュフローと事業の成長性等を管理する手法としてPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)を提唱した。
Ppm

各事業は以下のように位置づけられる。
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もちろん有田焼の窯元はPPMの概念がない時代に、共通資源を使った事業組み合わせに辿りついたのである。

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2018年10月 2日 (火)

祝・本庶佑京大特別教授ノーベル賞受賞/知的生産の方法(180)

ノーベル賞シーズンが始まった。
その第1報が、京都大高等研究院特別教授の本庶佑氏と米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授に決定した。
医学生理学賞で、免疫チェックポイント分子「PD-1」を発見した業績である。1810022
日本経済新聞10月2日

「PD-1」は、がん治療薬「オプジーボ」の開発に繋がった。

 細菌やウイルスなどの異物が生体内に侵入したり、がん細胞が体内で生じたりすると、免疫細胞のリンパ球が異物と見なして攻撃する。逆に、免疫が暴走すると正常な組織を破壊することになる。
 がん治療の分野では、免疫の攻撃能力を高めてがん細胞を退治する「がん免疫療法」が考案されていたが、十分な効果を上げられずにいた。
 本庶氏らの研究グループは1992年、免疫の司令塔を担うリンパ球「T細胞」で働く「PD-1」遺伝子を発見。PD-1が免疫反応のブレーキに相当することが分かり、ブレーキを外せば免疫力が高まってがん治療に応用できるのではないかと考えた。
 その後の研究で、PD-1はT細胞の表面にあり、がん細胞の別のたんぱく質が結合してT細胞に攻撃を中止させていることが分かった。従来のがん免疫療法の効果が限定的だったのは、がん細胞がPD-1の仕組みを悪用し、免疫にブレーキをかけていたからだった。
 本庶氏の発見をきっかけに、PD-1をブロックするがん治療薬の開発が進み、小野薬品工業(大阪市)が14年9月、PD-1の抗体を利用した抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)を発売した。世界各地の製薬会社がよく似たメカニズムのがん治療薬の開発に乗り出しており、新たな治療法としての普及が期待される。
 一方、アリソン氏も免疫のブレーキ役のたんぱく質「CTLA-4」を発見した。
本庶氏、新たながん治療に貢献 医学生理学賞

本庶特別教授らの業績は、手術、投薬、放射線に続く第4のがん治療法と言われる。
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日本経済新聞10月2日

「免疫」は、自分(自己)と自分ではないもの(非自己)を見分けるところから始まる。
体には免疫を担当する専門の細胞がいて、外から侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体や、体内で発生した異常細胞であるがん細胞など、自分ではないものを見つけると、それらを異物とみなして攻撃し、体から取り除く。
Photo
Immuno-Oncology がん免疫とは?

がんの免疫療法と本庶教授の業績を振り返ってみよう。

1960年にノーベル賞を受賞したオーストラリアの免疫学者マックファーレン・バーネットは、50年代に「がん免疫監視説」を提唱した。ヒトの体内では毎日3000個ものがん細胞が生じているが、免疫系がこれを排除してがん発症を防いでいるという説だ。しかし、その現象は、長らく証明されなかった。
この説を支持する研究者たちは、がんを免疫で抑え込む治療法の開発に取り組んだ。だが、十分な成果が得られたとは言えない。本庶氏には、それは当然の成り行きと見えた。免疫応答は、まず抗原を認識することが火付け役(イグニッション)となる。ただ、そこに正の共刺激 (アクセル)がないと十分に活性化しない。
従来のがん免疫療法は、がん特異抗原を見つけ、それを体内に入れることでアクセルを踏み込もうというものだ。 しかし、体内にがんがあって抗原も膨大にある場合、わずか数ミリグラムの抗原を加えても効果は薄い。その上に負の共刺激 (ブレーキ)がかかっていれば、いくらアクセルを入れても免疫応答は起こらない。ブレーキを解除して免疫を再活性化することが治療につながる。ここにポイントがあることを、本庶氏は免疫の第一人者として見抜いていた。
一方、米国テキサス大学のジェームズ・アリソンも、CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)という別の分子が、やはり免疫細胞のブレーキ役として働くことを発見。96年、CTLA-4 の機能を阻害する抗体によりマウスの腫揚が消えたことを報告している。
2000年には、京大と米国Genetics Instituteなどとの共同研究で、PD-1に特異的に結合する物質(リガンド)として、PD-L1とPD-L2が相次いで発見された。がん細胞表面にPD-L1が存在し、免疫細胞のPD-1受容体と結合した場合、免疫細胞の反応が抑制されてがん細胞を攻撃する力を失ってしまう。抗PD-1抗体によってこの結合を阻害すればブレーキが外れ、免疫細胞は再びがんを攻撃する可能性がある。
本庶研では動物実験を進め、期待された通り、抗PD-1抗体投与によりマウスの抗がん能力が著しく高まることを示し、02年に論文を発表した。さらに、移植したがんの転移の抑制などについても、様々な実験でデータを補強した。
並行して実用化の道を模索したが、当時の京大では特許出願のノウハウが不足しており、本庶氏は、恩師の時代から付き合いがあった小野薬品に共同出願を依頼。02年、PD-1による免疫治療の用途特許を仮出願した。
脚光を浴びる新たな「がん免疫療法」

免疫は日本のお家芸とされる分野である。
2017年9月30日 (土) 日本の研究力を回復するために(続)免疫学/日本の針路(333)
ノーベル賞シーズンになると、受賞者の予想や関連銘柄が話題になる。
本庶教授は下馬評でも上位にノミネートされていた本命である。
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日刊ゲンダイ9月27日

小野薬品の業績は、「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の発売により劇的に上昇した。
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朝日新聞10月2日

さすがに今日の小野薬品工業の株価は高かった。Ws000000

しかし、本庶教授は、「基礎も」ではなく「基礎が」重要であると言っている。
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朝日新聞10月2日

同感である。
実用化に力点を置く政策で、日本の科学の将来は大丈夫であろうか。

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2018年9月13日 (木)

この問題は、本当の問題です/知的生産の方法(179)

「分数のできない大学生」が話題になったことがある。
岡部恒司、戸瀬信之、西村和雄新版 分数ができない大学生』ちくま文庫(2010年3月)(原著は東洋経済新報社(1999年6月))という書籍もある。
2015年4月18日 (土) データからインテリジェンスへ/知的生産の方法(118)

新聞に次のような広告が載っていた。180907

ACジャパンが作成した、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの支援CMであるが、SNSで大きな話題を呼び、1万RTを超えるツイートもあるという。
まあ、典型的な文章題といえるが、「分数のできない大学生」には難しいかも。
書いてあることを正しく読解すればそれを式に置き換えれば計算できるわけだが、「問題」は読解する力である。

東大合格レベルの学力を持ったロボット=東ロボくん=の開発を目指していた新井紀子国立情報学研究所教授らが、方向転換を余儀なくされたのが「読解力の壁」であった。
東ロボくんは、例えば代ゼミの理系数学などにおいては偏差値76.2に達しており、一般の高校生に比べれば高い学力に達していたともいえる。
東大2次型の記述模試でも偏差値50以上を取っていた。
しかし、新井教授らはニューラルネットワークを真似るアーキテクチャでは限界があると判断せざるを得なかったのである。
2017年2月11日 (土) 読解力の研究(1)東ロボくんの方向転換/知的生産の方法(165)

ACジャパンのCMの意図は、文章題の奥にさらに「真の問題」が存在することを訴求するものであった。
・公共交通機関もなく、まともな道路も整備されていない中で、何時間も歩いて学校に通うこと。
・1日中、両親の手伝いやきょうだいの世話に追われること。
問題文にある「サラ」は、セーブ・ザ・チルドレンが世界各地で支援している子どもたちをモデルにしたものである。
例えばイエメンである。

イエメンでは2015年ごろから内戦が激しくなり、多くの地域で学校や病院が機能しなくなっています。
経済も崩壊し、総人口の約8割に当たる2220万人が人道支援を必要とし、その半分は子どもたち。多くの学校が破壊されたうえ、空爆や砲撃が激しく通学も危険な状況で、子どもたちの4分の1は学校に通えません。
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「この問題は、本当に問題です」このCMの背景には、本物の難問が数々

ACジャパンの意図は、人は問題を出されればつい考えてしまうとことに着目し、つまり問題文に真剣に向き合うことによって、本来のメッセージである子どもの権利について、多くの方々に深く考えてほしいということだという。
問題は重層的であり、表面だけを捉えるのではいけないということである。

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2018年7月18日 (水)

可算無限と非可算無限/知的生産の方法(179)

非常に多いものの喩えとして、例えば「浜の真砂」がある。
大盗賊・石川五右衛門の時世の歌として有名な「石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ」である。
「古今和歌集」の343番。

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言の葉の種

要するに「永遠に生きて下さい」ということだ。
浜の真砂は、非常に多いに違いないが、それでもことが1粒、2粒・・・と数えることができる・
すなわち可算であって、1粒、2粒、3粒・・・と数えて行けばいつか数え終わる。

数は以下のように分類される。
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整数は数えられる。
しかし、無限に存在する。
何故ならば、常に「最大の数+1」を考えれば、最大の数は決められない。

無理数を含む実数は数えられないので、当然カウンタブルではない。
それでは整数の比、すなわち有理数はどうか?
分数を規則的に並べ、番号を振る。
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約分して同じ数は飛ばす。
この方法でカウントして行くことができるので、有理数はカウンタブル(可算)である。
浜の真砂は有限であるが、有理数は数え切れない。
自然数も有理数も無限であるが、0と1の間を考えてみよう。

自然数は0と1の2個である。
しかし有理数は、1/2、1/3・・・と無限である。
2VS∞であるから、自然数より有理数の方が大きいように思う。
しかし有理数には番号を付けられるので、可算である。
つまり、無限といっても、可算な無限と非可算な無限があるのである。

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図表はすべて、神永正博『直感を裏切る数学』講談社ブルーバックス(2014年11月)

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2018年7月 1日 (日)

W杯西野采配とゲーム理論/知的生産の方法(178) 

W杯ロシア大会で、日本はグループリーグを突破し、決勝トーナメントに進んだ。
事前の予想では、大方の人がグループリーグ敗退であったようで、西野朗監督の手腕が賞賛されている。
その一方で、第3戦のポーランド戦の評価を巡っては、賛否が大きく割れている。
特に、終盤で、負けているにもかかわらず、パス回しという戦法を選んだことだ。

その時、日本の戦績は同じグループのコロンビア戦を戦っているセネガルと微妙な関係にあった。
最終的な結果は以下のようであった。
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東京新聞6月30日

日本とセネガルは共に1勝1分で、同時に戦っている第3戦の結果次第で、決勝Tに進めるか否かという状態だった。
それは自チームの結果のみならず、他チームの結果次第という典型的な「ゲーム理論」的な状況にあった。
Ws000000
「生きのこり競争」から抜け出したい! ゲーム理論入門

「ゲーム理論」の父は、天才フォン・ノイマンンである。
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これでわかるゲーム理論①

グループリーグの最終戦「日本VSポーランド」と「コロンビアVSセネガル」は、同時刻キックオフであった。
「日本VSポーランド」の試合経過は以下のようであった。1806302

後半14分に、ポーランドに先制されて、そのまま行けば予選リーグ突破ができない状況になったが、「コロンビアVSセネガル」でコロンビアが先取点を上げた。

前半は縦へ鋭く攻めるセネガル優勢の中、0-0で折り返した。
 後半は攻守の切り替えが激しいテンポで入れ替わる。カウンターの応酬も決定機はなかなか生まれない。同19分、セネガルのゴール正面のフリーキックもFWマネが足を滑らせ、ボールは大きく枠の上の越えていった。均衡が破れたのは後半29分、右CKからコロンビアのDFミナが頭で合わせた。ゴールが決まり、均衡が破られた。
コロンビア、セネガル下し1位突破!日本アシスト

日本チームが決勝Tに進出できる条件は以下のようになった。Photo
サッカー日本代表 球回しは"勇気ある"ゲーム理論で分析

ここで日本は賭けに出たのである。
「コロンビアVSセネガル」が、それまでの経過等からして、そのまま推移するであろう。
その上で、「警告すくない日本突破」に。

パス回しに徹した日本の戦法は、一見消極策に思えるが、リアルタイムでえ考えれば「勇気ある」戦法だったのである。
決勝T進出を決めたのは、「フェアプレーポイント:イエローカードの差」という今大会から採用されたルール、すなわち史上初適用のルールであった。
負けている状況での「パス回し」がフェアでないという批判があるが、トータルの「フェア度」の差を見極めた西野采配である。
まさに日本サーカー史に残る試合だったと言えよう。

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2018年6月29日 (金)

「新聞読まなければ・・・」の論理学/知的生産の方法(177)

麻生副総理兼財務相が、24日の新潟県新発田市の講演で、昨年秋の衆院選に関し、30代前半までの若い有権者層で自民党の得票率が高かったとした上で「一番新聞を読まない世代だ。読まない人は全部自民党(の支持)だ」と述べた。
これに対して、共産党の小池晃書記局長は25日の記者会見で、「新聞を読んで真実が伝われば自民党支持にならないというのは、ある意味でその通りだ」と皮肉った。

麻生大臣特有の無意味な軽口(?)と考えればたわいないことではあるが、若者の活字離れが言われている中で、気になった。
まあ、私の周辺を見ても新聞を購読しない若い人が増えているのは事実である。
その結果、若い人の読解力の低下が問題になっている。
ろう。

論理学の基本は、「pならばqである」という命題の真偽である。
そして、「逆・裏・対偶」の関係は高校(?)で学んだはずだ。Photo
逆、裏、対偶の意味と具体例

麻生大臣の言葉を「新聞を読まないならば、自民支持である」という命題と考えれば、「逆・裏・対偶」は智偽のように考えられる。
逆:自民支持ならば、新聞を読まない。
裏:新聞を読むならば、自民支持ではない。
対偶:自民支持でないならば、新聞を読む。

小池氏の批判は、裏に相当すると言えよう。
もし、麻生氏の命題を真とすれば、小池氏の発言は偽ということになる。
しかし、もともとの麻生氏の「新聞を読まない人は、全部自民党の支持だ」という命題が真とは言えない。
逆・裏・対偶を考えるケースとしては不適切である。

小池氏の命題を「真実が伝われば、自民党支持にならない」と考えればどうであろうか?
逆:自民党支持であれば、真実が伝わっていない。
裏:真実が伝わらなければ、自民党支持になる。
対偶:自民党支持であれば、真実が伝わっていない。
どうやら、命題として成立しそうである。
しかし、ある要因と政党支持との関係を確定的に言うことには問題があろう。

それはともかくとして、逆・裏・対偶の関係は混乱しがちである。
以下のようなジョークを楽しんだ方が精神的には良いようだ。Logicshuts
『裏・逆・対偶』~論理的に正しいシャツの着方~

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2018年5月14日 (月)

小売業におけるAIの活用/知的生産の方法(176)

コンビニやスーパーマーケットのような小売業は、AIによってどう変わるであろうか?
例えば「ダイヤモンドオンライン」誌のAIが店長の座を奪う!?小売業で起きつつある革命とはという記事で、株式会社ABEJAの岡田陽介社長は次のように説明している。

岡田 じゃあ、仮に舞台をスーパーマーケットにしましょう。まず、仕入れが変わります。何曜日の何時にどんな商品が売れたか、POSのデータをAIに「ディープラーニング」(連載第2回を参照)させていきます。すると、いままで店長さんが行っていた発注作業をAIが代行できるようになります。しかも、店長さんの経験やカンより正確、かもしれません。
岡田 小売店は品切れを起こしたら機会損失になります。しかし生鮮など賞味期限が短いものは、仕入れすぎると売れ残り、破棄しなければなりません。だから今までは、店長さんが熟練のカンで「今日は絹とうふを何丁、木綿を何丁」といった具合に仕入れていました。
 AIは膨大なデータから、その「カン」の部分も学んで自動で発注してくれます。過去のデータの天候や気温とリンクさせれば「暑い日は絹が売れ、寒いと木綿が売れる」といったことも学習していきます。さらに、店長さんが気付かなかった法則性も認識できます。「なぜか4月1日~3日だけ、男性向けの弁当がいつもより少し売れるから仕入れましょう」とAIが言い出したとします。そこでお店の人が理由を調べると、毎年この期間は近所の〇〇建設さんの社員研修で若い男性が集まっていた、といったことが分かったりします。
 もちろんAIは「〇〇建設さんの社員研修がある」と知っているわけではありません。でも、「毎年、4月の1~3日は男性向けのお弁当がいつもより売れる」、「ただし休日の場合は関係ない」、「ただし休日の場合は関係ない」データを捉え、「このお弁当をいくつ」とアウトプットしてくれるんです。

いわゆるディープラーニングの成果である。
⇒2016年5月24日 (火)  ディープラーニングの発展と脳のしくみ/知的生産の方法(150)
⇒2016年11月11日 (金)  人脳と人工知能/「同じ」と「違う」(99)

経済学では「一物一価」が原則であろう。
しかし現実には寿司屋の「時価」のように、人を見て値段を変えるようなケースもある。
人によって、モノやサービスに対する価値感は異なり、支払い能力にも差があるのだから、フレキシブルに「一物多価」の方が合理的な場合もあると思われる。
その実験店舗ともいうべきローソンの「オープンイノベーションセンター」がオープンした。

 POS(販売時点情報管理)レジや電子マネーなど小売業を巡るITの発達は目覚ましい。にもかかわらず、価格設定を取り巻く店の業務だけは昔とあまり変わっていない。コンビニの場合、弁当などの定価を最初に設定する際は市場調査などに注力するが、一旦決めた価格は変更しないのが原則だった。
 一方で、家電やブランド小物などの高額品は「価格.com」などの比較サイトの利用が一般化した。ここに掲載される最安価格は消費者の購買行動を左右する。ここでの相場が下がれば、家電量販店なども対抗して値下げせざるを得ない状況になっている。
 価格戦略の策定に携わってきたEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの中村裕之エグゼクティブディレクターは「価格比較サイトや大手通販サイトの価格を収集して参照する製造業や小売業は多い。ただし、最安価格に追随するばかりでは、価格破壊の底なし沼にはまってしまう」と話す。
 価格決定や価格調整にAIを採用する動きも広がる。中村氏は「AIに全てを委ねるのはやめたほうがいいが、支援には使える」と話す。中村氏によれば、価格は「3C(Customer=顧客、Competitor=競合、Company=自社)」の3要素から決まる。3つ全てを満たす価格設定は理論的に難しい。「顧客にとって割安感があり、競合よりも安く、かつ自社もがっぽりもうかる」という価格設定があり得ないのは当然だろう。ただ、最安かどうかはともかく、顧客が納得する価格を適切なタイミングで提示し、自社ももうかる仕組みは実現されつつある。そこにAIが絡むのが2018年の新潮流だ。
 顧客のニーズを満たし、競合に負けず、自社の売上高を最大化するという3つの変数からなる方程式を解くために企業は工夫を凝らす。カギはAIなどのITと人の判断との組み合わせにある。
ローソンが挑む「一物多価」、コンビニ商品の値段はAIが決める

小売業の現場でのAIの活用を以下のように説明している図があった。Ai21712222
東京新聞12月24日

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2018年5月 2日 (水)

算数は知的好奇心のエンジン/知的生産の方法(175)

若い人たちと「考える」ということについての読書会をやっている。
現在は神永正博『直感を裏切る数学』ブルーバックス(1014年11月)がテキストであるが、
初歩的な問題集であったり、数学的な思想書であったりとさまざまである。
あくまでビジネスパーソンとしての基礎的な思考力の向上に寄与することを目的としているから、個別の問題の正誤にはまったくこだわらない(つもりだった)。
しかし中には問題を解くことに集中するあまり、高校時代のチャート式〇〇のような参考書を持ち込む人がいたりした。
「数学」と聞くと問題を解くこと、あるいは解答の正誤に関心が向くらしい。

例えば、算数で基本的な問題として、距離、時間、速さの関係に関するものがある。
[距離]=[速さ]×[時間]であるが、
変形すれば
[速さ]=[距離]÷[時間]
[時間]=[距離]÷[速さ]
まとめれば
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これは当たり前のように思うが、これを以下のような図に当てはめて考える風潮があることを知った。
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東京新聞4月6日

左側は、[距離]と[速さ]と[時間]の関係を覚えるものであり、右側は、[比べる量]と[元の量]と[割合]を覚えるものだという。
少なくとも私は初めて目にしたが、関西方面の塾などでは当たり前に扱われているようである。
両方とも、こんな図を使わなくとも、[速さ]とか[割合]とはどういうことかを理解していれば自明だと思うが、高校まで京都で過ごした人が上図を描いていた。

明光義塾宇土教室の人が「これらこそが、子供をダメにする要因ではないか」とツイートした。
何でもかんでも公式に当てはめて答を出すのは、如何なものか、ということに関してはまったく同感である。
与えられた問題に対して、教えられた通りに答を出す。
その行きつく先が、佐川宣寿前国税庁長官や柳瀬唯夫経産審議官(元首相秘書官)のような人間を作り出すことになるのではないか。
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東京新聞4月6日

大事なのは、知的好奇心であろう。
知的好奇心の総和が国力を決することになると思うのだが、安倍政権の5年間で、急速に衰退しつつあるように感じる。
次のような閣議決定を行うというのだから、学力の基礎とも言える「語彙力」がオカシクなるのも当然であろう。

 政府は27日、自衛隊のイラク派遣の際の活動報告(日報)に記載があった「戦闘」の言葉について、自衛隊法で定義される「戦闘行為」の意味で用いられた表現ではないとする答弁書を閣議決定した。立憲民主党の逢坂誠二衆院議員の質問主意書に答えた。
 日報の記述については、昨年7月の衆院予算委員会でも、安倍晋三首相が「(憲法の要請との関係で)定義を決めている戦闘行為とは違う意味で、一般的、いわば国語辞典的な意味での戦闘という言葉を使う、これはあり得る」と答弁していた。
日報の「戦闘」、法的な「戦闘行為」でない 政府答弁書

自律的に考えるのではなく、上司の命に唯唯諾諾として従う。
会社員についてはヒラメ社員という言葉があったが、公務員が公僕ではなく、権力のシモベになっている。

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