書籍・雑誌

2017年2月24日 (金)

森友疑惑(4)系列幼稚園と日本会議/アベノポリシーの危うさ(138)

日本会議の宿敵(?)菅野完氏が「SPA!」2月28日号で、『軍歌を園児に歌わせる幼稚園』というレポートを載せている。
⇒2017年2月23日 (木):森友疑惑(3)小学校用地/アベノポリシーの危うさ(137)

詳細は同誌に譲るが、トンデモな幼稚園である。
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国有地格安払い下げ以前に、森友学園の経営する塚本幼稚園は、園児に教育勅語を暗唱させるなどの偏った教育をすることで知られていた。
その一端が、軍歌を歌わせることである。
私立幼稚園であるから、園側と保護者の間で合意が成り立てばOK、という考え方もなくはない。
しかし、その感覚は異常ではなかろうか。

しかも現職の首相夫人が何回も講演するなど親密な関係にあるのだ。
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東京新聞2月18日

昭恵夫人は、家庭内野党とか言っていたが、夫婦一心同体である。
まことに麗しい限り、と言いたいが、こういうことこそ偏向と言うべきだろう。

国有地払い下げ問題は、オカシナ幼稚園が設立するオカシナ小学校に関して、オカシナ取引が行われたということだ。
取引の異常性については、首相自身が「私や妻が関わっていたら、議員を辞める」と気色ばんで答弁したことからも、理解されよう。
⇒2017年2月22日 (水):森友疑惑(2)国有地格安売却/アベノポリシーの危うさ(136)

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2017年2月23日 (木)

森友疑惑(3)小学校用地/アベノポリシーの危うさ(137)

森友学園の事案については、さすがに週刊誌等でも取り上げている。
「週刊新潮」誌2月23日号が『「日本会議」幹部の幼稚園に国有地格安払い下げ』という記事を載せているし、「SPA!」2月29日号では、この幼稚園が『軍歌を園児に歌わせる幼稚園』として知られていることを記事にしている。
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「東洋経済ONLINE」2月20日には『豊中「神道小学校」は設立経緯が不透明すぎる』という記事が載った。

同誌は「安倍首相が「無関係」と言い張ったこの疑惑とは、いったい何なのか?」と提起する。
そして、この土地の経緯を以下のように説明している。

この小学校は今年4月1日に開校予定の「瑞穂の國記念小學院」。阪急宝塚線庄内駅から徒歩約10分のところにあり、すぐ北側を走る名神高速道路の数キロ先には、伊丹空港が広がっている。
かつて民家が建っていたこの一帯は、1974年3月に航空機騒音防止法第9条に基づく土地建物の移転補償で国が買収。航空機騒音防止法改正によって1989年3月に騒音対策区域から解除され、1993年1月には普通財産に組み入れられて一般への転売が可能になった。
このうち東側の9442㎡は豊中市が2010年3月に14億2300万円で購入し、現在は公園となっている。同市は西側の土地の購入も希望したが、価格があわずに断念したという。
西側の土地の面積は8770㎡で、豊中市が取得したよりもやや狭い程度。これに目を付けたのが学校法人森友学園で、小学校建設用地として2016年6月20日に1億3400万円で取得した。隣接しあう土地であるにもかかわらず、取得単価は豊中市のおよそ10分の1だった。
その理由は「土地改良、埋蔵物撤去工事等に係る有益費」があったためだ。そもそも当該土地は、大阪航空局が2009年から2012年にかけて地下埋蔵物状況や土壌汚染状況を調査した結果、浅い部分から鉛やヒ素の土壌汚染と廃材・コンクリートガラ等の地下埋蔵物が発見されていた。

そして、森友学園は2015年5月29日、近畿財務局との間で当該土地の買受け特約を付した有償貸付契約を締結した。
国有財産は、公用や公共の用に供する場合、将来の買受けが確実ならば貸し付けもできる。
森友学園の場合は純資産が4億2000万円しかなく、それでは10億円以上の建設費用を賄えないため、経営が安定するまで貸し付けで利用したい旨の申し出があったという。
そして2015年7月29日から12月15日まで土壌改良、埋設物撤去工事等を実施するが、この費用1億3176万円は後に国から森友学園に支払われている。
ところが2016年3月11日、小学校建設工事中に廃材等が見つかったが、その直後の3月30日になって森友学園は土地購入を申し入れているのだ。

「ゴミが出た土地をあえて買おうというのはおかしくないか。建設用地から当初はヒ素や鉛が検出されたが、後でゴミが出てきた深部はどうなのか。全部の土を掘り起こして新しい土に替えるならトラック4000台分になるが、その確認はしたのか」
こうした福島氏の追及に対して財務省は、「開校日が迫っているので早く除去したいという学園に処理を任せた」と述べるのみ。国が撤去及び処理費用として8億1974万1947円を計上したが、それが実費ではないことが明らかになった。
こうして当該土地の不動産鑑定評価額(更地価格)である9億5600万円からゴミの処理費用を差し引いた売買価格の1億3400万円で売られることになったのだ。
しかも、この1億3400万円は今後10年にわたって支払われることになっている。年間の支払い金額は、以下のようになる。
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また、小学校設置認可の際の手続きは、大阪府下の小学校の場合、大阪府が権限を持ち、私立学校審議会で審議されるのだが、大阪府私立学校審議会は2014年12月18日の定例会で「申請内容等において確認すべき点があるため、継続案件とする。臨時の審議会で審議する」と議論を繰り延べ、翌2015年1月27日に開かれた臨時会で再度審議した後に以下のような条件を付けたうえで答申を出した。

・申請者には財務・会計状況やカリキュラム、または校舎建設など小学校設置までのプロセスをさらに明らかにしていただくとともに、今後の本審議会において、その内容を事務局から必ず報告をいただくこと。
・カリキュラムについては小学校の学びが充実されるようさらに内容を詰めていただきたい。
・私立学校には特色ある教育が求められる側面があるが、懸念のある点については本審議会が今後も確認を進めるべき。

要するに「経営基盤が足りず、カリキュラム内容が不十分。極端に特徴のある教育をするな」と読みとれると東洋経済誌はコメントしている。
学校教育法の一条校である。

第一章 総則
第一条   この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。

通常ならば、認可が下りないと思うのが常識だろう。
特定の学校に異常な、破格の優遇をするのに、ワケがないわけはない。

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2017年2月22日 (水)

森友疑惑(2)国有地格安売却/アベノポリシーの危うさ(136)

森友学園と国との取引について、国会でも取り上げられている。
民進党の玉木雄一郎氏は以下のようにツイートしている。
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菅野完氏の『日本会議の研究』扶桑社新書(2016年4月)が出版差し止めを受けた。
⇒2017年1月 9日 (月):「日本会議の研究」の出版差止/アベノポリシーの危うさ(122)
森友学園の理事長が、日本会議の幹部であるところに、事案の闇の深さを感じる。
安倍晋三首相は17日の衆院予算委員会で、国有地を格安で買い取った学校法人「森友学園」が設立する私立小学校の認可や国有地払い下げに関し、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と述べた。

つまり、この取引はクロだと首相自身が認めたのである。
菅野氏も以下にようにツイートしている。
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また、「関係していた」の解釈をめぐって、「法的な意味では」などという詭弁を弄してはぐらかそうとするつもりであろうが、そうは問屋が卸すまい。
寄付の振込用紙に「安倍晋三記念小学校」と明記されている。
「関係していない」ということであれば、「振り込め詐欺」ではないか。

また、首相夫人の昭恵さんは名誉校長に就任予定である。
「名誉校長」に就任するのであれば、「関係している」し、就任しないのであれば、名前を騙られたのだから、何らかの法的措置をとるべきだろう。
このスキャンダルで内閣が倒れないようでは、日本は終わりだ。
TVもトランプや金正男など他国のことはほどほどにして、本気で取り組まないと末代まで汚名を残すに違いない。
マスメディアが報じなくても、SNSではかなり浸透しているのだから。

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2017年2月20日 (月)

和算と洋算、算数と数学/知的生産の方法(166)

明治維新に伴う学制改革によって、学校教育の内容も江戸時代に発達した和算から洋算へと転換した。
その洋算を先進的に取り入れたのが、沼津兵学校の付属小学校(後の沼津第一小学校)だという。
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「沼津ふるさと通信」(2016年12月20日)

沼津兵学校については、Wikipediaで次のように説明されている。

沼津兵学校は1868年(明治元年)、フランスに倣った軍隊を目指すという目標を掲げ、駿河国沼津の沼津城内の建物を使って徳川家によって開校された兵学校のこと。受講資格は、徳川家の家臣である14歳から18歳ということが原則ではあった。しかし、他藩からの留学生もいたといわれる。初代学長は西周
であり、教師は優秀な幕臣の中から選ばれた。1870年(明治3年)に兵部省の管轄となり、1872年(明治5年)には政府の陸軍兵学寮との統合のため東京へ移転したが、途中で作られた付属小学校は、現在の沼津市立第一小学校の前身である。
沼津兵学校は日本の近代教育の発祥であるとも言われる。

和算は現実の課題を突破するためのもので、具体性を伴っていた。
これに対して、洋算は抽象性を高めることで発展してきた。
その分、実感とは繋がらないものになってきたことも否めない。

算数と数学の違いを、文字式の使用という点に着目すると、抽象度の差異とも言える。
以下、「算数と数学の違いを教育学部の学生がわかりやすく解説 」というサイトの説明を引用する。

算数とは実生活で使えるツールを身につけさせることを大きな目標の1つとしています。

もっとザックリ説明すると「これ知らなかったら、日常生活ですごく困るよね!」ということをしっかり身につけさせるのが小学校の算数の大きな目的なんです。
・四則演算
・時計の読み方
・速さの計算
・割合、「%」の計算
などなど
・・・・・・
数学では「数学という学問を通して論理的に考える力」を身につけさせることを大きな目標としているのです。なので問題の抽象度も一気に上がるのです。

図式化すれば、下記のような対応関係であろうか。
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武谷三男氏の三段階論に倣えば、算数は現象論に近く、数学は本質論に近いと言えよう。
⇒2013年8月11日 (日):三段階論という方法①武谷三男の科学的認識の発展論/知的生産の方法(71)
⇒2013年8月21日 (水):三段階論という方法③庄司和晃の認識の発展過程論/知的生産の方法(73)

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2017年2月17日 (金)

サソリ型ロボ、原子炉直下に到達せず/原発事故の真相(155)

サソリ型ロボットというものが、国際廃炉研究開発機構や東芝によって開発された。
自走式で、前部と後部にカメラがあり、線量計や温度計を搭載している。
累積千シーベルトまでの放射線に耐えられる。
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<福島第1>ロボ 原子炉直下に到達できず

東京電力福島第1原発2号機で、自走式の「サソリ型ロボット」を使った格納容器内部の調査は目標の原子炉直下まで到達できないまま、16日に終了した。2号機は水素爆発した1、3号機より損傷が比較的少ないと見られていたが、格納容器内部にある格子状の足場に穴が見つかるなど破損状況は想定以上に激しく、廃炉作業の難しさを改めて示した。
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福島2号機 想定以上の破損

格納容器を探査するサソリ型ロボットのイメージは下図のようである。
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福島原発自走式のサソリ型ロボット、到着できず

650シーベルト/時というが推定されている。

 ロボットは同日朝、格納容器の貫通部から投入された。圧力容器下部に延びるレール上を走行。内部を撮影しながら、空間線量や温度を計測した。事前調査で毎時650シーベルトの空間線量が推定された地点で実測した線量は毎時210シーベルトだった。
 事前調査のロボットで除去できなかった堆積物を乗り越え前進を試みたが、やや進んだ地点で走行用ベルトの片方に不具合が発生。レールの端までたどり着けなかった。
 目標としていた圧力容器直下の撮影や空間線量の測定はできず、同日午後に調査を打ち切った。ロボットはレール上に残し、回収しない。走行用ベルトが動かなくなったのは、堆積物の破片が挟まったことが原因として考えられるという。
 <福島第1>ロボ 原子炉直下に到達できず

強い放射線量は、核燃料が近くに存在するのだから当然とも言えるが、1分弱で死に至る強度だ。
廃炉作業の難航が予想される。
⇒2017年2月 4日 (土):福島第一原発の廃炉はどうなるか?/原発事故の真相(153)

溶融燃料(燃料デブリ)は確認できなかったが、一歩一歩積み重ねて行くしかない。
再稼働させる前に、廃炉作業を進めるのは当然のことではないか。

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2017年2月11日 (土)

読解力の研究(1)東ロボくんの方向転換/知的生産の方法(165)

東大合格を目指していたロボット(AI)・東ロボくんが方向転換した。
⇒2014年11月 3日 (月):ロボットが東大に入るようになったら/知的生産の方法(109)
⇒2016年11月18日 (金):「東ロボくん」とリベラル・アーツ/知的生産の方法(164)

週刊新潮2月2日号に、プロジェクトリーダーの新井紀子国立情報学研究所教授が、事情を説明する寄稿をしている。
まず、東ロボくんの成績を見てみよう。
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どこに基準を置くかではあるが、普通の高校生としてみれば、まあ立派な成績と言って良いだろう。
代ゼミの理系数学など、偏差値76.2であるから、その限りでは抜群であるし、ベネッセの世界史Bでも、66.3になっている。
このままもう少し頑張れば、東大合格ラインに達するようにも思われる。
しかし、新井紀子情報学研究所教授は、今の延長線上には発展はないと判断した。

今までのアプローチは例えば以下のようである。
英語の短文問題を解けるようにするため、500億語を読ませた。
短文問題とは、空欄の単語を4択で答えたり、語順を正しく並び替える整序問題なのである。
文の数で19億文勉強して、正答率がようやく9割を超えた。
人間とは明らかに違うのだ。

これが2文、3文、整序問題を解くとなると500億の掛け算になり、統計を使っても意味までは分かるようにならない。
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そこで新井教授たちは、脳神経回路の仕組みをもしたものでは限界があるという結論に達した。
そして東ロボくんのレベルに達していない中高生が大勢いることから、中高生対象に読解力をテストすると、案の定著しく読解力が低下していることが分かった。
教科書の読解ができていないのだ。

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2017年2月 6日 (月)

原発事故の避難者の現状/原発事故の真相(154)

かつて大規模ダム開発が国土政策の花形だった時代がある。
ダムの重要性は減じているわけではないが、水没地域の犠牲が大きすぎることなどから、新たな大規模ダム建設は、事実上不可能になっている。
水没地域の実態を詳しく調査し、当時の補償基準があまりにも不十分であることを明らかにしたのが、不慮の事故で亡くなられた華山謙・元東京工大教授の『補償の理論と現実―ダム補償を中心に 』勁草書房(1969年)であった。

福島原発事故からの避難者のニュースに接すると、かつてのダム水没地域の人たちを思う。
自主避難者の生徒に対して、「補償金をもらっているだろう」とタカリを繰り返していたいじめ事件があった。
⇒2016年11月17日 (木):原発避難者いじめは社会の反映/原発事故の真相(148)

この事件について、被害者生徒の主張に対して、教育委員会は信じられないような対応をしている。
⇒2017年1月25日 (水):横浜市教育委員会の信じられない判断/日本の針路(321)
補償の十分性を云々するレベルには程遠く、半世紀以上も後戻りしているのだ。

政府は次々と避難指示を解除し帰還を進めようとするが、避難先で住宅を取得して移り住む動きが強まっている。
避難住民の多くは厳しい故郷の現実を前に、避難先で落ち着こうとしているのだ。

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 原発事故の避難者は、福島県内外で約八万一千人(昨年十二月現在)と、徐々に減っているとされる。しかし、この数字は仮設住宅や借り上げ住宅の居住者を中心としたもので、必ずしも実態を表していない。元の住居に戻った人は少なく、住まいは安定していても実質的には避難を続けている住民が多い。
 本紙は、避難住民が新たに不動産を取得した際の税の軽減制度の利用件数を把握することで、公表される数字からは見えない避難者の実情をつかむ努力を続けてきた。
 累計グラフの通り、避難先での住宅などの取得件数は、二〇一一年度末の六十六件からどんどん増え、一六年十二月末では前年から約二千百件増の九千五百五十二件になった。
 都道府県別に見ると、福島(八千二百九十件)が最も多く、茨城(三百七十六件)、栃木(百九十三件)宮城(百七十三件)、埼玉(百五十二件)、千葉(九十六件)と続く。福島県を除けば避難者が最多の東京都は、価格問題もあってか七十八件にとどまる。
 福島県税務課の松山政行主幹は「避難指示が解除されても、故郷で自宅を再建するより、避難先で住宅を建てている人も多い。移転先では、避難地域の近くのいわき市が人気だが、最近は住宅確保が難しく、福島市や郡山市にも広がっている」と話している。
福島、指示解除も現実厳しく 避難先移住1万件に迫る

政府は帰還制限を解除しても、生活者、特に子育て世代の不安感は強い。
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東京新聞2月2日

現実に合った政策を進めないと、事故の犠牲者は救われない。

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2017年1月30日 (月)

恩田陸『蜜蜂と遠雷』/私撰アンソロジー(44)

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今期の直木賞受賞作。
第6回芳ケ江国際ピアノコンクールを舞台に、若きコンテスタントたちの戦いと友情を描く。芳ケ江は浜松がモデルで、随所にそれを思わせる描写が出てくるが、浜松とは無関係に楽しめる。
「ノスタルジアの魔術師」と言われ、青春群像の描写に定評がある著者の手練れの作品だ。
⇒2017年1月21日 (土):恩田陸『夜のピクニック』/私撰アンソロジー(43)

ちなみに浜松国際ピアノコンクールの概要は以下の通りである(Wikipedia)。

現在では、国際音楽コンクール世界連盟に加盟する国際コンクールである。第1回大会は浜松市市制施行80周年を記念して1991年(平成3年)に開催され、若手ピアニストの育成を図るとともに楽器の街から音楽文化の街への昇華を図る近年の浜松市政の代表的なものとなっている。第1回審査委員長は小林仁、第2回審査委員長は安川加寿子。安川の没後に中村紘子が後任に選ばれてからは、課題曲、審査員、コンテスタントの人選が以前よりも変化に富み、コンテスタントのレベルや選べるコンチェルトも次第に上がっていった。開始当初、レパートリーやコンチェルトの選曲の異様な狭さが問題となっていた。
開始当初はピアノの「ビッグスター」あるいは「スーパースター」が来場することで有名で、彼らはその後に国際コンクールの主要タイトルを連取した。ショパン国際ピアノコンクールやヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの優勝者すら複数名も輩出し、予選落ちですらチャイコフスキー国際コンクールピアノ部門の優勝者やクリーブランド国際ピアノコンクール]やソウル国際音楽コンクールピアノ部門の優勝者を出すなど、華やかな激戦が繰り広げられた。ただし、中村紘子が審査から退任後は国際コンクールの「周遊組」が目立つようになり、2012年は優勝こそイリヤ・ラシュコフスキーであったものの、彼はその後チャイコフスキー国際音楽コンクールに失敗し、第二位第三位受賞者もことごとくメジャー国際コンクールで落選した。2015年度はヴィオッティ国際音楽コンクールピアノ部門、ショパン国際ピアノコンクール、ブゾーニ国際ピアノコンクールの予選落ち同士が本選で対決するなど、レヴェルの膠着化が顕著になってきている。
現時点で「メジャーデビュー」を成功させた優勝者は、チョ・ソンジンだけである。これも「メジャーデビューが難しい」とされているヴァン・クライバーン国際コンクールの在り方に酷似しているが、ツアーが3年ついて回るということはない。また、予選で落ちた人物の演奏CDを販売しており、人気のあるコンテスタントは即SOLD OUTになるなど、市民にピアニストの音が根付く仕掛けが施されている。

掲出部分は、かつて天才少女と言われた栄伝亜夜が、自然児的天才風間塵の才能に触れ、再び音楽に意欲を復活させるシーン。
コンクールの期間中に劇的に進化を遂げて行く若者たちが感動的だ。
音楽性の進化という不可視のテーマを、恩田さんは一幅の絵のように見事に描写している。
全日本卓球選手権で優勝した平野美宇選手が、「少女から勝負師に変身した」と言われているが、上達するときは昆虫の変態のように進化するのだろう。
コンクールが舞台だけに、ふんだんに楽曲名が登場する。

ちなみにファイナルに残った6人のコンテスタントの演奏する楽曲は、以下の通りである。
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http://ml.naxos.jp/playlist/naxos/565625

こんなことがアップされていることでも分かるように、クラシック音楽ファンには「一粒で二度も三度もおいしい」作品と言えよう。

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2017年1月23日 (月)

「バカの壁」と「バカの力」(2)/知的生産の方法(164)

「Think different」は、「ものの見方・考え方」すなわち思考技術の問題である。
荒俣宏『図像学入門―目玉の思想と美学 』集英社文庫(荒俣宏コレクション( 1998年4月)に、ものの見方として、以下の説明がある。

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 そして、とてもつもなく凄いと思ったのは、図像の見方を3分類するのだが、そのネーミングである。「バカの見方」「ボケの見方」「パーの見方」というのだ。ここでいう「バカの見方」とは、図像が見えるままに認識する。二つの丸の図をみて、大きな丸と小さな丸があると素直に読む。そこに、補助線を引いてみると、その大きな丸と小さな丸が立体になって、この二つの丸は同じ大きさの球体に見えたりする。でも、「バカの見方」をする人は、そんなことは度外視して、大きな丸と小さな丸があると平然といえるのだという。ところが、「ボケの見方」をするひとは、最初は大きな丸と小さな丸と思っていても、「補助線を引いたらどうだ?」と問われると、「そうだな、大きさは同じかもしれない」と考えが動いていく。どんどんと人のペースに乗せられるのがボケの特徴だという。そこへいくと、「パーの見方」というのは、見方がぶっとんでいて、斜線が引いた背景に大小の二つの穴があいていて、そこから向こう側の空白が見える、という見方をしたりするというのだ。
第274歩『図像学入門』荒俣宏著、マドラ出版

クリエイティブとは、「パーの見方」ができるかどうかである、ともいえる。
それは、生田幸士『世界初をつくり続ける東大教授の 「自分の壁」を越える授業 』ダイヤモンド社(2013年7月)流に言えば、どこまで「バカ」になれるか、である。
⇒2017年1月12日 (木):「バカの壁」と「バカの力」/知的生産の方法(163)

差別的な言葉遣いを避けるならば、「馴質異化・異質馴化」である。
人間の視覚は上下反転しただけで、違うように見える。
等価変換理論で有名な市川亀久弥元同支社大学教授は以下のような図を示していた。
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あるいは古代史を考える場合に必須の環日本海という視点。
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環日本海諸国図

ちょっと視線をずらせば、地政学的状況も違って見えて来るかも知れない。
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226.マッカーサーの世界地図

それにしても、「Think different」は容易ではないのが実感だ。

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2017年1月19日 (木)

トランプ氏大統領就任の影響/世界史の動向(51)

いよいよトランプ大統領が誕生する。
2017年が世界史にどう位置づけられることになるのか、まあ、私の生きている間にある程度の評価が定まるものかどうかも分からない。
初めての記者会見で、CNN記者に質問をさせない姿を見たが、いささか不安になるのは私だけではあるまい。
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東京新聞1月13日

「Wedge」誌の1月号が「トランプ革命-期待と不安が渦巻く世界」という特集を組んでいる。
その中に、佐伯啓思『行き詰まるアメリカ近代文明/「普遍的価値」を転換できるか』が載っている。
佐伯氏は、トランプ現象を生み出した背景として、次の2つを挙げる。
1.アメリカ国内における所得格差の拡大、および雇用不安に悩まされる中間層・低所得層の白人労働者層の不満
2.アメリカ人の内向した「本音」を代弁したトランプの「野蛮さ」

1.については、経済的グローバリズムと民主的な政治体制の間の矛盾が格差を生み出した。
先進国のなかで、グローバリズムや金融経済から置き去りにされた層は、政治に不満をぶつけるようになる。
この不満や鬱憤のはけ口は、既存の「体制的」な政治家であり、競合する移民層である。
鬱憤を代弁する政治家が、政権に押し上げられた。

トランプ氏に敗れた側は、アメリカの覇権を確立するため、経済的グローバリズム、IT革命、金融経済化などを推し進めてきた。
しかし、その果実を享受できない国民は、保護主義的な政策を支持したのであり、それは民主主義の帰結であった。
かくして民主主義体制とグローバリズムは矛盾に陥っている。

2.については、アメリカ民主主義の基盤である平等主義、人権主義、多文化主義を「正義」とみつ価値観は、多くのアメリカ人に共有されてきた。
リベラリズムである。
しかし現実には、富裕なエリート層と人種的マイノリティの間には、構造的な格差がある。
これは欺瞞であり、トランプ氏の言動は「本音」のように受け止められた。
これはトランプ氏の見解云々というよりも、アメリカ民主主義の根本的な矛盾である。
ポピュリスト大統領は「パンドラの箱」を開けたのだが、ポピュリズムにしっぺ返しを受ける可能性がある。

問われているのは何か?
富の増大によって人間の幸福を増大しようという近代文明のあり方である。
アメリカ主導で発展してきた近代文明は行き詰っている。
近代社会の「価値」が揺らいでいるのである。

とすれば、それぞれの国がそれぞれ固有の価値・文化に基づいた多様で多相的な政治・経済を相互に承認しつつ共存するしかない。
佐伯氏は、日本はその先陣を切れるはずだ、というが果たしてどうであろうか。

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