藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)
藤井太洋『東京の子』KADOKAWA (2019年2月)
改元フィーバーがいつまで続くか分からないが、次は東京オリ・パラで何となくお祭り騒ぎが続きそうな気配である。
しかし、2月に亡くなった堺屋太一さんは『団塊の後 三度目の日本』毎日新聞出版 (2017年4月)で、「2020年の東京オリンピックを待たずして、日本経済は深い停滞期に入る」と予測している。
実際に、既に景気は後退局面に入っているかも知れない、というかその可能性が高いと考えるべきだろう。
東京新聞3月21日
少なくとも、「戦後最大の景気拡大」などと浮かれている場合ではないだろう。
⇒2019年3月 8日 (金) 景気は後退局面入りか?/安部政権の命運(87)
統計の日の標語のパロディとして、「不景気も統計一つで好景気」という川柳が作られたが、正確な統計データを求める気風が失われている。
『東京の子』の想定のように、五輪関連施設が負のレガシーになる可能性も大いにあり得るだろう。
ところが、主催都市の長・小池百合子東京都知事も桜田五輪相も至ってのんきなようである。
週刊新潮4月11日号
『東京の子』は、五輪施設跡地を戦略特区として規制緩和し、働きながら学ぶための巨大な職能大学校を作るという想定である。
働き方法制は、見切り発車されたので、細部は不明であるが留学目的という建前で訪日した学生が、安い労働力として使われているのが現実である。
東京福祉大学では、約700人の留学生が「消えた」。
5,000人の留学生を抱える東京福祉大、700人が行方不明に
訪日した側にもニーズがあることは確かであろうが、長期的に日本の評判を落とすことになるのではないか。
『東京の子』で描かれている職能大学校・東京デュアルの姿を先取りしているような気もする。
東京デュアルの留学生の1人(ベトナム人)が行方不明になる。
捜索をする主人公は、両親に育児放棄され養護施設にいた時、ユーチューバーとして活躍した過去を持つ。
失踪者は名前を簡体字で自署するので中国人なのか?
ミステリー仕立ての中に、今日的な諸問題が凝縮されて詰まっている。
藤井さんは、元ソフトウェア開発技術者であるが、スマホで書いた小説を電子出版してデビューした。
時代が変わってきたことを実感する。
最近のコメント