祝・本庶佑京大特別教授ノーベル賞受賞/知的生産の方法(180)
ノーベル賞シーズンが始まった。
その第1報が、京都大高等研究院特別教授の本庶佑氏と米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授に決定した。
医学生理学賞で、免疫チェックポイント分子「PD-1」を発見した業績である。
日本経済新聞10月2日
「PD-1」は、がん治療薬「オプジーボ」の開発に繋がった。
細菌やウイルスなどの異物が生体内に侵入したり、がん細胞が体内で生じたりすると、免疫細胞のリンパ球が異物と見なして攻撃する。逆に、免疫が暴走すると正常な組織を破壊することになる。
がん治療の分野では、免疫の攻撃能力を高めてがん細胞を退治する「がん免疫療法」が考案されていたが、十分な効果を上げられずにいた。
本庶氏らの研究グループは1992年、免疫の司令塔を担うリンパ球「T細胞」で働く「PD-1」遺伝子を発見。PD-1が免疫反応のブレーキに相当することが分かり、ブレーキを外せば免疫力が高まってがん治療に応用できるのではないかと考えた。
その後の研究で、PD-1はT細胞の表面にあり、がん細胞の別のたんぱく質が結合してT細胞に攻撃を中止させていることが分かった。従来のがん免疫療法の効果が限定的だったのは、がん細胞がPD-1の仕組みを悪用し、免疫にブレーキをかけていたからだった。
本庶氏の発見をきっかけに、PD-1をブロックするがん治療薬の開発が進み、小野薬品工業(大阪市)が14年9月、PD-1の抗体を利用した抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)を発売した。世界各地の製薬会社がよく似たメカニズムのがん治療薬の開発に乗り出しており、新たな治療法としての普及が期待される。
一方、アリソン氏も免疫のブレーキ役のたんぱく質「CTLA-4」を発見した。
本庶氏、新たながん治療に貢献 医学生理学賞
日本経済新聞10月2日
「免疫」は、自分(自己)と自分ではないもの(非自己)を見分けるところから始まる。
体には免疫を担当する専門の細胞がいて、外から侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体や、体内で発生した異常細胞であるがん細胞など、自分ではないものを見つけると、それらを異物とみなして攻撃し、体から取り除く。
Immuno-Oncology がん免疫とは?
がんの免疫療法と本庶教授の業績を振り返ってみよう。
1960年にノーベル賞を受賞したオーストラリアの免疫学者マックファーレン・バーネットは、50年代に「がん免疫監視説」を提唱した。ヒトの体内では毎日3000個ものがん細胞が生じているが、免疫系がこれを排除してがん発症を防いでいるという説だ。しかし、その現象は、長らく証明されなかった。
この説を支持する研究者たちは、がんを免疫で抑え込む治療法の開発に取り組んだ。だが、十分な成果が得られたとは言えない。本庶氏には、それは当然の成り行きと見えた。免疫応答は、まず抗原を認識することが火付け役(イグニッション)となる。ただ、そこに正の共刺激 (アクセル)がないと十分に活性化しない。
従来のがん免疫療法は、がん特異抗原を見つけ、それを体内に入れることでアクセルを踏み込もうというものだ。 しかし、体内にがんがあって抗原も膨大にある場合、わずか数ミリグラムの抗原を加えても効果は薄い。その上に負の共刺激 (ブレーキ)がかかっていれば、いくらアクセルを入れても免疫応答は起こらない。ブレーキを解除して免疫を再活性化することが治療につながる。ここにポイントがあることを、本庶氏は免疫の第一人者として見抜いていた。
一方、米国テキサス大学のジェームズ・アリソンも、CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)という別の分子が、やはり免疫細胞のブレーキ役として働くことを発見。96年、CTLA-4 の機能を阻害する抗体によりマウスの腫揚が消えたことを報告している。
2000年には、京大と米国Genetics Instituteなどとの共同研究で、PD-1に特異的に結合する物質(リガンド)として、PD-L1とPD-L2が相次いで発見された。がん細胞表面にPD-L1が存在し、免疫細胞のPD-1受容体と結合した場合、免疫細胞の反応が抑制されてがん細胞を攻撃する力を失ってしまう。抗PD-1抗体によってこの結合を阻害すればブレーキが外れ、免疫細胞は再びがんを攻撃する可能性がある。
本庶研では動物実験を進め、期待された通り、抗PD-1抗体投与によりマウスの抗がん能力が著しく高まることを示し、02年に論文を発表した。さらに、移植したがんの転移の抑制などについても、様々な実験でデータを補強した。
並行して実用化の道を模索したが、当時の京大では特許出願のノウハウが不足しており、本庶氏は、恩師の時代から付き合いがあった小野薬品に共同出願を依頼。02年、PD-1による免疫治療の用途特許を仮出願した。
脚光を浴びる新たな「がん免疫療法」
小野薬品の業績は、「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の発売により劇的に上昇した。
朝日新聞10月2日
しかし、本庶教授は、「基礎も」ではなく「基礎が」重要であると言っている。
朝日新聞10月2日
同感である。
実用化に力点を置く政策で、日本の科学の将来は大丈夫であろうか。
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