この問題は、本当の問題です/知的生産の方法(179)
「分数のできない大学生」が話題になったことがある。
岡部恒司、戸瀬信之、西村和雄『新版 分数ができない大学生』ちくま文庫(2010年3月)(原著は東洋経済新報社(1999年6月))という書籍もある。
⇒2015年4月18日 (土) データからインテリジェンスへ/知的生産の方法(118)
ACジャパンが作成した、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの支援CMであるが、SNSで大きな話題を呼び、1万RTを超えるツイートもあるという。
まあ、典型的な文章題といえるが、「分数のできない大学生」には難しいかも。
書いてあることを正しく読解すればそれを式に置き換えれば計算できるわけだが、「問題」は読解する力である。
東大合格レベルの学力を持ったロボット=東ロボくん=の開発を目指していた新井紀子国立情報学研究所教授らが、方向転換を余儀なくされたのが「読解力の壁」であった。
東ロボくんは、例えば代ゼミの理系数学などにおいては偏差値76.2に達しており、一般の高校生に比べれば高い学力に達していたともいえる。
東大2次型の記述模試でも偏差値50以上を取っていた。
しかし、新井教授らはニューラルネットワークを真似るアーキテクチャでは限界があると判断せざるを得なかったのである。
⇒2017年2月11日 (土) 読解力の研究(1)東ロボくんの方向転換/知的生産の方法(165)
ACジャパンのCMの意図は、文章題の奥にさらに「真の問題」が存在することを訴求するものであった。
・公共交通機関もなく、まともな道路も整備されていない中で、何時間も歩いて学校に通うこと。
・1日中、両親の手伝いやきょうだいの世話に追われること。
問題文にある「サラ」は、セーブ・ザ・チルドレンが世界各地で支援している子どもたちをモデルにしたものである。
例えばイエメンである。
イエメンでは2015年ごろから内戦が激しくなり、多くの地域で学校や病院が機能しなくなっています。
経済も崩壊し、総人口の約8割に当たる2220万人が人道支援を必要とし、その半分は子どもたち。多くの学校が破壊されたうえ、空爆や砲撃が激しく通学も危険な状況で、子どもたちの4分の1は学校に通えません。
「この問題は、本当に問題です」このCMの背景には、本物の難問が数々
ACジャパンの意図は、人は問題を出されればつい考えてしまうとことに着目し、つまり問題文に真剣に向き合うことによって、本来のメッセージである子どもの権利について、多くの方々に深く考えてほしいということだという。
問題は重層的であり、表面だけを捉えるのではいけないということである。
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