処刑された豊田亨と伊東乾氏の友情/人間の理解(21)
オウム死刑囚の未執行者全員が7月25日に処刑された。
東京新聞7月26日
私は知人の1人が国選でオウム事件に係わっていたというが、もちろん特別の情報を聞いたことはない。
同時代を生きてはいたが、オウム真理教との接点はないといって良い。
しかし、今回処刑された豊田亨にはちょっと関心を持った。
それは東大で素粒子論を専攻した秀才だった。
東京新聞7月26日
彼は、東大准教授の伊東乾氏(作曲家、指揮者)の同級生であった。
その経緯は、伊東乾『さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生』集英社(2006年11月)に書かれている。
⇒2018年7月 6日 (金) オウム真理教の死刑囚の死刑執行/戦後史断章(30)
私は、豊田亨こそ、知力のバランス感覚が偏っていた典型ではないかと思う。
端的に言えば(端的に言ってしまって良いかどうかは問題があるが)、出題されたことについては優れた解答をするが、自分の頭で問題を考えることが遅かったのである。
⇒2011年11月25日 (金):オウム真理教事件と知的基礎体力(?)
彼の処刑を受けて、伊東氏が「AERA」8月10日号に寄稿している。
ここでは「AERA dot.」の『オウム豊田亨死刑囚 執行までの3週間に親友が見た苦悩 麻原執行後に筆記具を取り上げられた』から引用する。
7月26日、先週の約束通り小菅の東京拘置所に向かった。特別交通許可者として日常的に接見するオウム事件の死刑確定者、豊田亨君と面会するためだ。書類を窓口に提出すると程なく年配の刑務官から「面会は出来ません」と告げられた。私が待合室にいる間に、彼を含む6人のオウム事犯の死刑が執行された。
大学1年で知り合い東京大学理学部物理学科、同大学院で共に学んだ親友が突然行方知れずになったのは1992年3月。次に彼が私達の前に現れたときは地下鉄サリン事件の実行犯となっていた。
・・・・・・
6日金曜朝の「麻原執行」後、ご家族等と予定がぶつからないよう確認の上、週明けの9日月曜朝に小菅を訪ねた。さすがにやつれきっていた。彼も彼を囲む人々、私自身も大変に焦燥して厳しい一週間になった。覚悟して迎えた13日金曜、生存を確認して訪れた時の彼の表情を私は生涯忘れない。この金曜を乗り越えて明らかに彼は強くなった。こんな拷問に人は適応してよいのか?という疑問。そしてこんな状況にすら気丈に立ち向かう豊田君の姿。
「残された時間を精一杯生きる」と、落ち着いた表情で語る豊田君と、私はブロックチェーンや暗号の数理を考え、エジプト式分数を一緒に計算し、古代ハンムラビ法典の野蛮と中世イスラム法の寛容の差を議論した。
・・・・・・
今だから記すが、兵庫出身の豊田君は手元にあった現金にいくばくか足し、匿名で西日本水害被害者救済の義援金に全額寄付して身辺を整理した。
3月にオウムの死刑確定者が各地の拘置所に移された際、豊田君も東京拘置所内で収監される階が変わり、昔長らく在房した階に戻った。彼は明らかに看守諸氏から一目以上置かれ、大切に遇されていた。9日に面会したときは「命の限り贖罪し、社会に役立ちたい」と語っていた。こんな人を亡きものにしてはいけない、今後も再発防止などもっともっと働いて貰わなければならなかった。最期の2回の接見で彼はこう繰り返した。
「日本社会は誰かを悪者にして吊し上げて溜飲を下げると、また平気で同じミスを犯す。自分の責任は自分で取るけれど、それだけでは何も解決しない。ちゃんともとから断たなければ」
大切な人を今日失った筈だが未だ全く実感ない。
私たちは、同じ空気を吸った中でも最良の人間を処刑してしまったのではないだろうか?
もちろん、彼自身が言っているように、犯した罪は償わなければならない。
しかし、処刑する代表者たちが、異例の警報が発せられるなかで、「赤坂自民亭」と称して酒宴を開き、その後、賭場法案を強行採決した退廃と比べてしまうのである。
⇒2018年7月10日 (火) 西日本豪雨禍と不誠実な政治屋たち/ABEXIT(70)
⇒2018年7月11日 (水) 豪雨被害を拡大した「空白の66時間」/ABEXIT(71)
⇒2018年7月13日 (金) 「空白の66時間」が映し出す思考と志向/ABEXIT(73)
⇒2018年7月15日 (日) 「赤坂自民亭」の耐えられない軽さ/ABEXIT(73)
⇒2018年7月21日 (土) カジノ法を成立させて国会閉会/ABEXIT(75)
死刑の廃止もしくは停止は世界の基本的な動向である。
142カ国が死刑の廃止・停止であり、欧州連合(EU)に加盟するには、死刑廃止国であるのが条件になっている。
OECD加盟国でも、死刑制度があるのは日本と韓国・米国だけで、韓国はずっと執行がない事実上の廃止国である。
米国も19州が廃止、4州が停止を宣言して、死刑を忠実に実行しているのは日本だけと言って良い。
人間の判断には誤りが避け得ず、万が一の冤罪は取り返しがつかない。
死刑は廃止し、終身刑を最高罰とすることを考えるべきチャンスではないか。
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