アキバ通り魔事件と働き方の問題/戦後史断章(28)
10年前、秋葉原の歩行者天国は人出で賑わっていた。
そこに起きた惨劇を予想し得た人は誰もいなかったであろう。
犯行を起こした当人以外には。
東京新聞
青森県の進学校の出身ながら、静岡県の自動車部品工場で派遣労働者として働いていた25歳の若者が、歩行者天国に車で突っ込み、車から降りてナイフで通行人に無差別で切りかかった。
何という不条理に震撼させられた。
⇒2008年6月11日 (水) 秋葉原通り魔と心の闇
しかし、驚くべきことに、この不条理を実行した犯人を「神」に譬え、ヒーロー視する人が少なからず存在したことである。
⇒2008年6月22日 (日) 通り魔をヒーロー視する人たち
犯人の履歴等についてはすでに少なからぬ論評がなされている。
もちろん、このような凶行に至るには、育った環境等の複合的な要因があるだろう。
犯人は、動機や心情をかなり詳細にネットに投稿していた。
そこから読み取れるのは、強い敗北感である。
その背景には、派遣労働者という労働形態がある。
1986年施行。当初は「自由な働き方ができる」と働く側に歓迎されたが、企業側が契約期間終了で「雇い止め」にできるため、人手不足のときに一時的に雇う「雇用の調整弁」にされやすい。2015年9月、派遣先への直接雇用の依頼や、派遣元での無期雇用などの雇用安定措置を盛り込んだ改正法が施行された。
労働者派遣法
私は派遣元と派遣先の両方の企業の経験があるが、現実に派遣労働者の多くが非正規雇用である。
それが「正規-非正規」の格差を生んでいることは疑い得ない。
東京新聞6月4日
安倍政権は「働き方」の問題を今国会の最大のテーマに掲げている。
⇒2018年2月18日 (日) 何のための「働き方改革」なのか/日本の針路(375)
⇒2018年3月 2日 (金) 何のための「働き方改革」なのか(9)/日本の針路(384)
しかし、過労死遺族の前でへらへら笑う安倍首相の態度を見れば、この政権の体質が良く分かる。
立法根拠であるデータが実にいい加減なのだ。
⇒2018年3月12日 (月) 政府の「働き方改革」の馬脚/日本の針路(393)
結果として裁量労働制については法案を取り下げたが、「高プロ制」については強行突破の構えである。
⇒2018年5月27日 (日) 「働き方改革法案」を強行採決/ABEXIT(35)
しかし、何と高プロ制の根拠のアンケート調査は僅か2サンプルに過ぎず、うち9人は事後的に実施したものであるという。
東京新聞6月8日
後付けで立法事実を作るのは、アリバイつくりということである。
こんなウソばかりの政権には当然引導を渡さなければならない。
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