「忖度」発生のメカニズム/日本の針路(398)
「忖度」という言葉が昨年の流行語大賞になった。
辞書には次のように書いてある。
[名](スル)他人の心をおしはかること。また、おしはかって相手に配慮すること。
デジタル大辞泉
流行のきっかけは「森友疑惑」であった。
その全体像が明らかになりつつある。
確かに「忖度」という言葉を使いたくなる要素がある。
今回の事件も、安倍首相夫人の森友学園への関わりを察知して、財務省の方で(上からの指示なく)忖度し、大幅な値引き等の優遇を行ったとされている。
また佐川氏の国会答弁やそれにあわせた文書書き換えについても、安倍首相が「もし自分や妻が関わっていたら、総理大臣も議員も辞める」といったことへの配慮から、誤解されそうな事実の記載を公文書から一切省いておこうと、そういう忖度が働いたのだと、説明されている。
すべてこの事件は、下のものが、上のもののために、先走った配慮=忖度を行ったことによるのであり、政治には問題はなく、行政の側の暴走が事件の本質だということだ。
だが、そんな説明でよいのだろうか。
・・・・・・
これは官僚側の忖度ではない。
目に見えない「圧」。その「圧」に官僚が屈した結果なのだ。
この「圧」は、表だった実際の政治家の行動によるものではないので、どうやってできているのかその具体的なカラクリはとらえようがない。
ある種の集団心理だ。だが、それが実際の現実として霞ヶ関を押さえ込んでいるので、その「圧」がある方向を指し示すと、予期せぬ行動を次々と官僚たちに引き起こす――そういうことが現実に起きているようだ。
「圧」は、山本七平の「空気」にも似ている。
が、互いを読みあうことから作られる「空気」とは違って、「圧」はもっと上から浴びせられる重苦しいものであり、だから「忖度」の語に含まれるような相手への配慮でもなく、もう、そうせざるをえないような、有無を言わさぬ強い力なのである。
しかもそこには実際に「力」を及ぼすものの正体がはっきりとは見えないので、力そのものがどこから来ているのかわからず、ただ「圧」としかとらえようのないもの――これが人々を思わぬ行動へと駆り立てたのではないか。
森友文書改ざん問題、財務省を暴走させた「圧力」の正体
山本七平の唱えた「空気」は今回の事態をうまく説明するように思える。
⇒2008年4月28日 (月) 山本七平の『「空気」の研究』
「空気」とは同調圧力であり、自律的な判断の対極である。
また、「忖度」と「KY=空気読めない」は裏表である。
KYの代表は昭恵夫人であろう。
「週刊新潮」3月22日
自殺する人までいるというのに、SNSに余念がないのは無神経というほかない。
⇒2018年3月15日 (木) 日本の「闇」の核心(3)/日本の針路(395)
まあ、今に始まったことではないのであるが。
この人の問題は、感受性も知的能力も特に優れているわけではないのに、首相夫人という立場に対する配慮を、自分個人への配慮だと思っていることである。
⇒2017年4月 9日 (日) 森友疑惑(43)昭惠夫人の壮大な勘違い/アベノポリシーの危うさ(180)
森友文書改竄問題が日本中を席巻している最中に、なぜ「過剰な忖度」が発生するかを分かりやすく説明する事例が報道されている。
「加計疑惑」で官邸の意向に逆らって怪文書とされた文書を文科省在任中に「見た」と証言した前川喜平氏の出前授業に対して、文科省が問い合わせをした。
東京新聞3月17日
文科省官僚が官邸に対して忠勤に励むのは、内閣人事局が人事権を持つためである。
「週刊新潮」3月22日号
そして、文科省に対して自民党の議員が前川氏の授業について、しつこく照会していたことも分かった。
対する現場の中学校および教育委員会の対応が立派だった。
気が滅入るようなことが多い中で、現場の健全性が示されたわけで、救われる思いのするニュースだ。
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