リベラルの源流としての明六社/幕末維新史(8)
明治6年は明治維新の大きな分岐点だった。
李氏朝鮮に対する政策で、国論が二分されたのだ。
いわゆる「征韓論論争」である。
これが「明治6年の政変」と言われる事態となって、新政府が二つに割れた。
Wikipediaを見てみよう。
そもそもの発端は西郷隆盛の朝鮮使節派遣問題である。王政復古し開国した日本は、李氏朝鮮に対してその旨を伝える使節を幾度か派遣した。また当時の朝鮮において興宣大院君が政権を掌握して儒教の復興と攘夷を国是にする政策を採り始めたため、これを理由に日本との関係を断絶するべきとの意見が出されるようになった。更に当時における日本大使館を利用して、征韓を政府に決行させようとしていたとも言われる(これは西郷が板垣に宛てた書簡からうかがえる)。これを根拠に西郷は交渉よりも武力行使を前提にしていたとされ、教科書などではこれが定説となっている。
この西郷の使節派遣に賛同したのが板垣退助、後藤象二郎、江藤新平、副島種臣、桐野利秋、大隈重信、大木喬任らであり、反対したのが大久保利通、岩倉具視、木戸孝允、伊藤博文、黒田清隆らである。
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現象的には岩倉使節団として洋行した派と留守を守った派の対立であるが、結果的には西郷たちは下野して、維新勢力は二分される。
盟友だった薩摩の西郷と大久保は、不倶戴天の敵となった。
⇒2018年1月15日 (月) 西郷隆盛のイメージ/幕末維新史(4)
⇒2018年1月18日 (木) 西郷隆盛のイメージ(続)/幕末維新史(5)
一方、この年に啓蒙主義の団体である「明六社」が設立された。
「明治6年の政変」は明治10年の西南戦争に繋がっていく。
自由民権運動が本格化するのは西南戦争以降であり、それまでの期間は啓蒙思想の時代と呼ばれる。
「明六社」の構成メンバーは、森有礼(主唱者)、西村茂樹、津田真道、西周、中村正直、加藤弘之らである。
開成所出身の旧幕府吏僚が多かったが、日本最初の学術団体とされる。
政治、経済、教育、宗教、思想、哲学、婦人問題など多くの分野で開明欧化、自由進取の立場から論陣を張った。
いわゆる「進歩的文化人」のハシリであり、日本のリベラリズムの源流である。
松岡正剛氏は「千夜千冊第592夜」で『戸沢行夫 『明六社の人びと』』を取り上げ、以下のように書いている。
日本にはどうも啓蒙が流行らない。啓蒙主義なんて、知識人の暇つぶしのようにおもわれている向きさえ強い。そればかりか、大学から次々に教養学部や教養過程がなくなりつつあるいまでは、教養という言葉だって流行らない。
日本には啓蒙や教養が根付かないのである。根付かない理由は容易に指摘できる。タテばかりが強い知識人の系譜に対して、知をヨコに組む動きがつくれていないからである。ヨコに組む者たちはたちまち排斥され、横破り呼ばわりされた。だいたい横柄・横行・横着というふうに、ヨコの言葉は悪くうけとられている。
が、ほんとうはそんなことはない。能の声の出し方には「横(おう)の声」というものがあって、ヨコに広がっていく声をいう。タテの声では能にはならない。また幕末維新の志士たちが何をしたかといえば、その動向の本質は「横議横行」をしたことにあった。松陰や龍馬や高杉や中岡がヨコに脱藩をし、ヨコに海外渡航を企てたから、幕末のすべてが動いたのである。
日本に啓蒙と教養が定着するには、ヨコの文化が脈動している必要がある。
この「知をヨコに組む」というのがリベラルであり、その方法や分野がリベラルアーツと言えよう。
⇒2017年11月 5日 (日) リベラル・アーツとの関係/リベラルをどう考えるか(2)
⇒2017年11月 6日 (月) リベラル・アーツとの関係(続)/リベラルをどう考えるか(3)
⇒2017年11月 9日 (木) リベラル・アーツとの関係(3)/リベラルをどう考えるか(4)
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