沢木耕太郎『黒石行』/私撰アンソロジー(52)
俳句における「取り合わせ」の技法が気になっていて、たまたま上掲誌を書店で購入したが、その中に沢木耕太郎さんが『黒石行』と題する紀行文を載せていた。
青森県の黒石である。
弘前や十和田には行ったことがあるが、あまり馴染みがない土地である。
沢木さんは16歳の時、アルバイトで貯めたわずかの金を元手に東北一周旅行をした。
車中泊や駅のベンチなどで宿泊する貧乏旅行だったが、例外的に黒石温泉の国民宿舎に泊まったのだ。
およそ50年前のことである。
私もちょうど50年くらい前に、友人と2人で東北一周の貧乏旅行をした。
単位を取得するために福島で工場実習をして、日当まで出してもらったのだ。
今でいうインターンのようなものかと思うが、高度成長真っ盛りだったので、企業としては青田刈りの一環の費用だったのだろう。
大学の寮などを探して泊まれば東北一周するくらいの日当を頂いた。
沢木さんの泊まった黒石の国民宿舎はとうに取り壊されていたが、部分的にではあるが、徐々に記憶が蘇ってくる。
さすがに「巧い」という文章だ。
構成といい、ボキャブラリーといい、お手本にすべき文章だと思う。
掲出部分は、沢木さんが父の死に際して突然浮かんだ俳句について書いている箇所である。
昔電通の仕事を請けていたことがあり、オフィスが昭和通り沿いにあった。
「昭和通りを横断し、銀座四丁目に向かって歩きながら」というのもよく通った記憶がある。
そして、私の場合は母であるが、死後、遺してあった雑文・短歌・俳句を一冊にまとめる作業を行った。
意識はしていなかったが、あれも「喪の作業」だったのだろう。
父の死の時はまだ子供だったから、特別の感懐はなかったが、自分が寿命を意識するようになって、父の死についても考えることが多くなった。
敗戦後、家庭を捨てたような人だったが、子供たちのことはどう考えていたのだろうか。
ああいう人生は送りたくないと思っていたのだが。
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