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2017年12月26日 (火)

生態史と文明史の交錯という視点/技術論と文明論(84)

掛谷誠さんの著作集第1巻『人と自然の生態学』京都大学学術出版会(2017年12月)が刊行された。
専門的な論文集であり、私の辿ってきた分野と異なるが、旧友に捧げるオマージュと思って購入した。
⇒2015年4月20日 (月) 掛谷誠・「伊谷純一郎『アフリカ紀行』」の解説/私撰アンソロジー(35)
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同書の帯の篠原徹(滋賀県立琵琶湖博物館・館長)の推薦文は以下のようである。

掛谷誠は,日本の農山漁村やアフリカの原野に生きる人びとの「生きざま」の研究から生態人類学をリードし,地域の在来性がもつポテンシャルに未来をつくる力を見いだした。自然のなかで生きる人びととともに思索し実践してきた人類学者のこの論集は、混乱する世界にあって,未来を志向する私たちの「生きざま」にひとつの指針を示している。

巻頭に載っている写真を眺めながら「そういうことなんだなあ」と納得した。
個々の論文は、素人にはとっつき難いものではあるが、自然科学ではないので何とか読めそうである。
初期の弘前大学時代のものとして『生態史と文明史の交錯-白神山地における自然と生活の生態史をめぐる諸問題』に目を通してみた。
タイトルからして梅棹忠夫氏に憧れて、工学部電気工学科から理学部に転学部した彼らしいと思う。
⇒2017年1月14日 (土) 「日本3.0」と梅棹忠夫/日本の針路(319)

白神山地は、世界遺産に登録されている原生的なブナ林で知られる。
昨年の夏、友人たちと東北の祭り紀行の際に、白神山地のごく一部を探訪した。
Wikipediaには以下のように解説されている。

全体の面積は13万haでそのうち約1万7千ha (169.7km2) がユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。青森県側の面積はそのうち74%の126.3km2を占め、残る43.4km2は秋田県北西部にあたる。なお、白神山地は法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、屋久島とともに、1993年、日本で最初に世界遺産に登録された。
白神山地は、世界遺産登録地域の外側にも広大な山林を持ち、通常は、登録地域外も含めて呼ばれることが多い。その中でも特に林道などの整備がまったく行われていなかった中心地域が世界遺産に登録されている。

掛谷論文の初出は1990年3月発刊の調査報告書であるから、執筆当時は登録前であった。
白神山地に「青秋林道」という道路計画があった。
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誰も紹介しない津軽

掛谷氏らの調査は、「青秋林道」の自然保護運動の評価を1つの軸として行われたものである。
掛谷氏は、発展途上県の青森県・秋田県が、国内の第三世界であると喝破している。
その上で、末尾に次のような文章を置いている。

 近い将来には、「野生」こそが、もっとも高い付加価値を生み出す源泉となるであろう。このような見通しに立てば、白神山地に残る大規模な原生的ブナ林は、遺伝子資源の宝庫としての重要性を含めて、きわめて大きなポテンシャルをもっているということができる。そのポテンシャルを生かすことこそが、地域の豊かな未来につながる道ではないだろうか。

山本幸三前地方創生相は、アフリカ友好に熱心な議員を「何であんなに黒いのが好きなんだ」と言った。
そのアフリカをライフワークの場とし、大きな研究成果を挙げながらまだまだやりたいことがあったのではないかと思うと、残念である。

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