計算化学の第一人者・諸熊奎治/追悼(113)
計算化学の第一人者である諸熊奎治博士が亡くなった。
計算化学の第一人者で京都大福井謙一記念研究センター研究員の諸熊奎治(もろくま・けいじ)氏が、11月27日に京都市内の病院で病気のため亡くなっていたことが4日、分かった。83歳。葬儀・告別式は近親者で行った。
諸熊氏は京都大工学部卒。同学部石油化学科の教授だった故福井謙一氏の研究室に大学院時代から加わった。福井研究室の助手を経て1964年に渡米し、米ロチェスター大教授などを経て76年に帰国。分子科学研究所(愛知県)で電子計算機センター長を務め、93年から2006年まで米エモリー大教授を務めた。06年から現職。
量子化学など理論化学にもとづく分子の構造や反応などの理論的予測、計算法の研究を進め、分子をタマネギのように多層化して計算する「ONIOM法」の開発などで知られ、理論、実験と並ぶ第3の研究手法として計算化学を発展させた。京大でもさまざまな化学反応のメカニズムをコンピューターで解析する研究に取り組んだ。
ノーベル化学賞の有力候補者だった。13年の同賞は化学反応をコンピューターで計算する手法の開発が授賞業績で、スウェーデン王立科学アカデミーは同分野の発展に尽くした1人に諸熊氏の名前を挙げていた。
エモリー大名誉教授、分子科学研究所名誉教授。12年文化功労者。
諸熊奎治氏が死去 計算化学の第一人者、ノーベル賞候補
化学と言えば一般には「実験」のイメージがあるだろう。
つまり経験科学である。
その化学の非経験化に挑戦してノーベル賞を受賞したのが福井謙一博士だった。
福井博士は工学部燃料化学科(後に石油化学科に改称・改組)の教授であった。
理学部でなく工学部であるところがユニークである。
それは、喜多源逸、兒玉信次郎らによって培われてきた自由を尊び、基礎を重視する学風の中で開花した。
⇒2009年10月10日 (土):プライマリーな独創とセカンダリーな独創
福井博士から直接の指導を受けた第一世代の5人が『量子化学入門』化学同人(1963年)という著書を書いた。
米澤貞次郎、加藤博史、永田親義、今村詮、諸熊奎治の諸氏である。
量子化学を勉強する人の必読書と言われる。
上記記事にあるように、2013年のノーベル賞は計算化学分野に対して授与された。
諸熊博士の業績も大きな貢献をしたが、残念ながら直接の受賞者とはならなかった。
しかし、諸熊博士をも育んだ基礎と自由を重視する学風は現在でも引き継がれている。
⇒2017年9月25日 (月): 日本の研究力を回復するために・基礎と自由/日本の針路(330)
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