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2017年11月 5日 (日)

リベラル・アーツとの関係/リベラルをどう考えるか(2)

リベラルという言葉に関係する言葉として思い浮かぶのは「リベラル・アーツ」である。
リベラルアーツとは何であろうか?

文部科学省は国立大学改革の方向性として“文系不要論”を打ち出している。
即戦力にならないというのが理由であるが、大学を職業教育機関として「だけ」位置づける発想が理解できない。
⇒2015年6月19日 (金):文科省の国立大学改革通知はナンセンス/日本の針路(181)
⇒2015年9月14日 (月):文系学部狙い撃ちの愚/知的生産の方法(126)
⇒2015年12月29日 (火):「知のあり方」が問われた年/知的生産の方法(139)

安倍政権の基本政策の1つに「人づくり革命」がある。
⇒2017年8月18日 (金):改造内閣(4)内閣の基本方針/アベノポリシーの危うさ(278)
しかし、モリカケ疑惑に頬被りして、どのような「人づくり革命」を行なおうとするのだろうか?
ドイツメルケル首相との対比で、安倍首相の教育認識を問うた西川伸一氏の『ドイツ科学の卓越性の秘密:Nature 最新号の記事を読んで』が話題になっている。

安倍政権の下での急速な知力の低下が危惧されているのである。
⇒2017年9月23日 (土):日本の研究力(知的生産力)の低下を憂う/日本の針路(329)

安倍首相の認識が端的に表出されているのは、平成26年5月6日にOECD閣僚理事会で行った「安倍内閣総理大臣基調演説」である。
もっともらしいような言葉が並んでいるが、「学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています」というのである。
⇒2017年9月13日 (水):安倍首相の教育改革認識/アベノポリシーの危うさ(279)

要するに「教養教育は不要」というに等しい。
教養教育とは、専門分化する前に学ぶ課程である。
昔は大学の学部の前半を「教養学部」と称することが一般的だったが、現在は各大学でそれぞれのネーミングを付けているようである。

教養教育とは、リベラル・アーツ教育である。

リベラルアーツとは、奴隷制を有した古代ギリシャやローマで「人を自由にする学問」として生まれた。5~6世紀の帝政ローマの末期には、言葉に関わる「文法」「修辞学」「論理学」の3つと、数学に関わる「算数」「幾何」「天文」「音楽」の4つで、併せて「自由7科」という考え方が定着した。これらが奴隷でない自由人として生きていくために必要な素養とされたのである。古代では、音楽も数学的な知識として分類されているのが興味深い。このリベラルアーツは日本では教養と訳されることが多い。
大学の教育は一般的に専門教育と教養教育で構成される。経済学部なら経済学、法学部なら法学、理学部なら物理学や数学等の専門を学ぶと同時に、社会人として必要な教養を身につけるために、専門以外の知識を幅広く身につけるための「教養科目」が置かれているのだ。だから大学に入学すると、この教養科目群と専門科目群の双方から一定の単位数を卒業までに修得する必要がある。
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こうした専門教育とセットになった教養教育を行うのではなく、4年間を通じて教養教育のみを行う大学がある。アメリカではこのような大学をリベラルアーツ・カレッジと呼ぶが、ハーバード大学などの名門アイビーリーグなどがそれに該当する。
【文系でもない理系でもない新しいリベラルアーツとは】いま注目されるリベラルアーツ教育の新しい波

東京大学合格を目指して、国立情報学研究所などが開発してきた人工知能「東ロボくん」の弱点は、リベラル・アーツの不足であった。
⇒2016年11月18日 (金):「東ロボくん」とリベラル・アーツ/知的生産の方法(164)

大学誘致が「地方創生」の切り札のように考えられているが、実際に成功しているのは、中嶋嶺雄氏が尽力した秋田国際教養大学など、限られているようである。
同大学は、ユニークなカリキュラムで知られるが、リベラル・アーツ教育の典型であると思われる。
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AIU SPIRITを育む国際教養大学の5つの特徴

高い山のためには豊かな裾野が必要である。
高等教育の職業教育化を推進することは、日本の衰退を招くことになるだろう。

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