「見立て」の手法・再論/知的生産の方法(164)
前に「見立ての手法」について触れたことがある。
⇒2013年5月 7日 (火):「見立て」の効用/知的生産の方法(53)
NHKの朝の連ドラ『ひよっこ』オープニングで典型的な「見立ての手法」が使われていた。
桑田佳祐さんの歌が流れている時に使われていた田中達也さんのミニチュア写真の映像である。
『ひよっこ』タイトルバックも担当 ミニチュア写真家・田中達也の展覧会
このように「A」をまったく別の「B」として見立てることは、文芸のレトリックとして広く用いられてきた。
例えば紀貫之は「さくら花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける」と空に波が立つと見立てた。
レトリックは言葉の技術であるが、言葉は思考の乗り物であるから「見立て」は思考の方法論でもある。
日本人は、本歌取りのように、 「A」と「B」を同時に意識する手法が殊に好きだと言われる。
それが文化に奥行きをもたらしたのだという説もあるがどうだろうか?
この「見立て」の力に卓越していたのが、梅棹忠夫さんである。
梅棹さんは産業の発達を生物の器官の発達に擬えた。
人類史において,文明の初期には,まず農業の時代があり,そこでは,食糧の生産が産業の主流をしめた。やがて工業の時代がおとずれ,物質とエネルギーの生産が産業の主流をしめるようになった。つぎに産業の主流をしめるようになるのが,情報産業である。経済的にも,情報の価値が,経済のもっともおおきい部分をしめるようになるであろう。
⇒2009年4月10日 (金):「情報産業論」の先駆性
梅棹さんが世界の識者に先駆けて、このような見通しを発表したのは1963年であった。
まさに『ひよっこ』の時代である。
そして、情報産業という概念がその後の日本の電子産業の隆盛を導いたとも言われる。
現在、老若男女こぞってスマホやタブレットなどの情報端末を片時も離さず、AI(人工知能)の話題が溢れていることを思えば、見事に的を射抜いた先見性であった。
かし今や電子業界は苦戦を余儀なくされている。
のみならず、「失われた〇〇年」が続いているように、産業界もしくは社会全体が停滞している。
この停滞を打破するためにはアップル社のキャンペーンで言うように、「Think Different」が重要であろう。
しかし、言うは易く、行うは難し。
どうすればいいのだろうか?
創造的発見は、既知のものを新しい視点から見たり、新しく見聞したことを自分の問題のヒントすることが重要だと言われる。
梅棹さんは、若い時から登山や探検を通じ、見慣れぬ世界に身を置いてきた。
そのことが、もの見方・考え方を鍛えたと考えられる。
政府はインバウンドに注力しているが、創造性を涵養するためには、アウトバウンドにも力を入れるべきであろう。
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