『母と暮らせば』と『シン・ゴジラ』/戦後史断章(27)
長崎に原爆が投下されて72年。
長崎市の平和公園で拓かれた平和祈念式典で、田上富久・長崎市長は、今年7月の核兵器禁止条約の採択を「被爆者が長年積み重ねてきた努力がようやく形になった瞬間だった」と歓迎する一方、日本政府に対し、「条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できない」と批判した。
長崎市長、平和宣言で政府批判 「姿勢理解できない」
被爆地ならずとも、多くの国民が理解できないだろう。
⇒2017年8月 6日 (日):今こそ、主導して核兵器禁止を前に進めるべきだ/日本の針路(325)
去年の1月に公開された『母と暮らせば』は、井上ひさしさんの『父と暮らせば』を本歌とする山田洋次監督作品である。
長崎の原爆で死んだ息子(二宮和也)の亡霊と対話しながら生きる母(吉永小百合)の物語だ。
私は、現実世界(実数的世界)と幻覚の世界(虚数的世界)の複素的世界観の表現だと理解した。
⇒2016年1月14日 (木):母と暮らせば』と複素的な世界観/戦後史断章(24)
ユヴァリ・ノア・ハラリ『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』河出書房新社((2016年9月)によるまでもなく、われわれは実の世界ばかりではなく、虚の世界にも生きている。
⇒2017年7月22日 (土):仲間ファーストの共謀3・記録を否定する山本地方創生相/アベノポリシーの危うさ(260)
虚の世界の全般的共有は難しいが、部分的な共有はしている。
特に、政治の世界は、吉本隆明が説いたように、「共同幻想」が本質とも言える。
⇒2012年3月19日 (月):吉本隆明の天皇(制)論/やまとの謎(58)
⇒2012年3月20日 (火):『方法としての吉本隆明』/やまとの謎(59)
であれば、「理念」こそが重要である。
日本国憲法の「戦争放棄」規定を虚構・幻想だと否定する人がいるが、その虚構・幻想を地球上に広め、定着させることが重要なのだ。
日本が世に出した代表的なキャラクター「ゴジラ」は、核エネルギーもしくは核兵器のメタファーと考えられる。
⇒2012年10月21日 (日):ゴジラは何の隠喩なのか?/戦後史断章(2)
それは、第五福竜丸事件に触発されて第一作が「水爆怪獣」として設定されたことからも首肯できる。
⇒2011年5月 9日 (月):誕生の経緯と香山滋/『ゴジラ』の問いかけるもの(1)
そして福島原発事故を体験した。
ヒロシマア、ナガサキに次ぐ被曝体験である。
昨年評判になった『シン・ゴジラ』の解読は多様であるが、福島原発事故との関係を抜きにはできないだろう。
⇒2016年8月 1日 (月):『シン・ゴジラ』と福島原発事故/技術論と文明論(60)
今年は、官僚の行動様式が話題になった。
『シン・ゴジラ』の見どころの1つは、官僚機構と危機対応である。
佐川宣寿、前川喜平、藤原豊、柳瀬唯夫氏らの思考と行動が国民の目に晒された。
主権者であるわれわれの判断が問われと言えよう。
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