秘密保護と大本営発表/日本のPost-truth(2)
原田眞人監督の『日本のいちばん長い日』に、敗戦が決まった後、陸軍省で大量の書類を焼却するシーンがあった。
⇒2015年8月28日 (金):『日本のいちばん長い日』と現在(4)/日本の針路(222)
後で問題にされることを恐れたのだと思われるが、歴史の検証が難しくなったのは事実だろう。
特定秘密保護法によって、歴史の検証に供すべき公文書管理に抜け穴ができることが指摘されている。
特定秘密保護法に基づく「特定秘密」が記された公文書が、秘密指定期間中であっても廃棄される-。現在の法体系の下で、こんな事態が起きる可能性があることが、衆院の情報監視審査会が先月末に公表した年次報告書で分かった。時の政権が意図的に重要情報を非開示のまま廃棄することも可能。非開示のまま廃棄されると、将来の検証ができなくなる。
秘密保護法は、漏れたら日本の安全保障に著しい支障を与える情報を、期間を定めて秘匿することを定める。秘密指定期間は五年単位で延長でき、永久に指定することも事実上可能だ。
一方、特定秘密が記された文書の保存・廃棄については、基本的に同法ではなく公文書管理法という別の法律で運用される。各省庁は同法に基づき、文書の種類別に保存期間を一年未満~三十年を基準に設定。期間が終われば廃棄や延長などを決める仕組み。
秘密保護法の下では、秘密指定が通算三十年を超えた特定秘密が書かれた文書は、こうした公文書管理法上の保存期間終了後も、保存が義務づけられる。
問題は、秘密指定が三十年以下の文書。内閣情報調査室の担当者は「秘密指定期間より、公文書管理法で定めた文書の保存期間が短い場合、保存期間が終了すれば、首相との協議と独立公文書管理監の検証を経て、廃棄できる」と説明。例えば秘密指定が通算三十年で保存期間が二十年の文書の場合、秘密指定されたまま二十年で廃棄される可能性が出てくる。
特定秘密、開示せず廃棄可能 公文書管理に「抜け穴」
私は、情報の乏しい国民が情報を独占して、恣意的に発表した大本営のことを連想する。
大本営は、日清戦争から太平洋戦争(大東亜戦争)までの戦時中に設置された日本軍(陸海軍)の最高統帥機関であり、大本営発表とは、太平洋戦争(大東亜戦争)において、大日本帝国の大本営が行った戦況などに関する公式発表である。
当初は、おおよそ現実に即していた発表を行っていたが、ミッドウェー海戦の頃から海軍による損害矮小化・戦果過大化の発表が目立ちはじめ、勝敗が正反対の発表すら恒常的に行ったことから、現在では「内容を全く信用できない虚飾的な公式発表」の代名詞になっている。
昭和天皇の弟の高松宮は、戦争中に大本営発表について次のように指摘していた。
辻田真佐憲『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 』幻冬舎新書(2016年7月)
船戸与一『南冥の雫 満州国演義八 』新潮文庫(2016年6月)に次のような箇所がある。
敷島太郎は三日まえに内地から届いた六月十一日付けの新聞各紙をあらためて読み較べた。『朝日新聞』も『読売新聞』も『東京日日新聞』も一面はほぼ変わりがない。見出しも記事も似たようなものだ。大本営発表をそのまま載せていることは一目瞭然だった。それでも太郎は何度も紙面に眼をやった。
東太平洋の敵根拠地を強襲、ミッドウェー沖に大海戦、アリューシャン列島猛攻。米空母二隻撃沈、わが二空母一巡艦に損害。
1942年(昭和17年)6月5日から7日にかけて、ミッドウェー島の攻略をめざす日本海軍と守備をしていたアメリカ海軍の間で、いわゆるミッドウェー海戦が行われた。
日本海軍の機動部隊と米国の機動部隊及びミッドウェー島基地航空部隊との航空戦の結果、日本海軍は機動部隊の航空母艦4隻とその艦載機を多数一挙に喪失する大損害を被り、この戦争における主導権を失った。
こういう事実は、現在ではインターネットを通じて容易に入手できる。
しかし、リアルタイムで、どのような戦況であったかを知ることは、きわめて困難であった。
特に緒戦の勝利に酔った日本人には想定外のことだった。
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