「バカの壁」と「バカの力」/知的生産の方法(163)
養老孟司さんの『バカの壁』新潮新書(2003年4月)は、新潮新書の創刊の1冊であり、大ベストセラーになってこの新書の成功を約した。「バカの壁」はこの年の流行語となったが、Amazonの紹介には次のようにある。
「人間というものは、結局自分の脳に入ることしか理解できない」、これが著者の言うところの「バカの壁」であり、この概念を軸に戦争や犯罪、宗教、科学、教育、経済など世界を見渡し、縦横無尽に斬ったのが本書である。
この本を意識して書かれたのが、生田幸士さんの『世界初をつくり続ける東大教授の 「自分の壁」を越える授業 』ダイヤモンド社(2013年7月)である。これもAmazonで、次のように紹介されている。
「自分の人生が平凡に思える」「どこかで見たようなアイデアばかり」「結局、二番手以降で終わってしまう―」そんな人にこそ効く。バカの力!「その他大勢」から突き抜ける頭の使い方を東大名物教授が初公開。
一読して共感する箇所が多かった。
例えば、「π型人間」論である。
昔、人間類型を示す言葉として、「T型人間」という言い方があった。
Tの字のタテの棒は、特定の領域における知識が深いことを意味する。
ヨコの棒は、周辺知識が浅いけれども広いことを意味している。
「π型」というのは、タテの棒が2本である。
複数の専門領域を持っていることを意味する。
生田氏によれば、アメリカのエリート層には、複数の学科を出ることはごく普通のことだという。
2つの学科を出ればダブルメジャー、3つの学科を出ればトリプルメジャーである。
生田氏自身は金属材料工学科と生物工学科で学び、大学院は理工学研究科に進んだ。
なぜ「π型人間」が好ましいか?
1997年のアップルコンピュータの広告キャンペーンのスローガンの「Think different」は広く知れている。
Wikipedia
しかし、現実には「Think different」が難しい。
「同じ」と見るか、「違う」と見るかは相対的な問題である。
⇒2009年8月 8日 (土):「同じ」と「違い」の分かる男
企業戦略論の「ブルーオーシャン」は、「違う結果」が得られた場合であろう。
競争の激しい既存市場は「レッド・オーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」であるが、、競争のない未開拓市場は「ブルー・オーシャン(青い海、競合相手のいない領域)」である。
任天堂を復活させた、ある戦略
「Think different」とは、まさに認識論の問題である。
「I型人間」のような「専門バカ」ではムリな世界と言えよう。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
「思考技術」カテゴリの記事
- 際立つNHKの阿諛追従/安部政権の命運(93)(2019.03.16)
- 安倍トモ百田尚樹の『日本国紀』/安部政権の命運(95)(2019.03.18)
- 平成史の汚点としての森友事件/安部政権の命運(92)(2019.03.15)
- 横畠内閣法制局長官の不遜/安部政権の命運(91)(2019.03.12)
- 安倍首相の「法の支配」認識/安部政権の命運(89)(2019.03.10)
「知的生産の方法」カテゴリの記事
- 『日日是好日と「分かる」ということ/知的生産の方法(182)(2019.01.02)
- 祝・本庶佑京大特別教授ノーベル賞受賞/知的生産の方法(180)(2018.10.02)
- この問題は、本当の問題です/知的生産の方法(179)(2018.09.13)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント