不適格大臣列伝(6)・稲田朋美防衛相-3/アベノポリシーの危うさ(120)
去年亡くなった人物に、文部大臣や法務大臣を歴任した奥野誠亮氏(享年103歳)がいる。
1913年に生まれ、38年に東京帝国大学法学部を卒業、同年に内務省に入り、戦後は、自治庁(当時)官僚となって、自治事務次官を経て自民党の衆議院議員になった。
絵に描いたようなエリートである。
憲法改正を積極的に唱え、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の初代会長を務めた。
白井聡京都精華大学専任講師は以下のように評している。
奥野氏の態度が子供じみたものにすぎないことは、彼が終戦時に内務官僚として大量の公文書の焼却に関わり、そのことを恥じる気配もなかったという事実によって裏書されている。
その意図は、戦争犯罪の証拠を占領軍から隠すことにあった。この行為は、現在も歴史論争を混乱させる要因となっているという意味で禍根を残しているのだが、「奥野的」な保守派的主張ののっけからの破綻を運命づけている。「我が国に正義はあった」と確信するのならば、証拠を焼く必要はなかったはずである。「勝者が敗者の言い分を認めるわけがない」という言い訳は、到底成立し得ない。義を確信するのならば、「不当な罰」を受ける可能性を引き受け、いつの日か義が認められるよう証拠を残すのが当然の行為だったはずである。
ところが、このトップエリートは、悪さを咎められた時の子供のような態度を、1世紀以上生きてなお、取り続けた。12月12日に行なわれた「お別れ会」の実行委員長は、安倍晋三首相である。けだし適任であるに違いない。安倍政権も「議事録改竄」に手を染めてきたからである。つまり歴史の審判にさらされる勇気の欠如において奥野氏はまさに大先輩であり、現政権は嫡流なのである。
いわゆる「保守派」は、「現実派」ではなく「幼児派」である
的確な指摘であるが、稲田朋美防衛相の靖国参拝のニュースに接し、「幼児派」の1人だな、と思わざるを得なかった。
稲田氏が29日に靖国神社を参拝したのは、安倍政権の支持基盤である保守層への配慮からだという。
自衛官募集ビラに、身内から「頼りない」と言われたトラウマがあるのかも知れれないが、いかにも稲田氏らしい軽い思慮を欠いたはねっ返りである。
⇒2016年11月21日 (月):不適格大臣列伝(3)・稲田朋美防衛相/アベノポリシーの危うさ(107)
⇒2016年12月 4日 (日):不適格大臣列伝(4)・稲田朋美防衛相-2/アベノポリシーの危うさ(111)
稲田氏は「戦争は人間の霊魂進化にとって最高の宗教的行事」という谷口雅春の教えを生活の基礎だと言って憚らない人物である。
靖国神社は「不戦の誓い」をするところではなく、「後に続く」と誓うところだというのだ。
「戦争は人間の霊魂進化にとって最高の宗教的行事」 谷口雅春と稲田朋美と日本会議
稲田防衛相は安倍首相の「お気に入り」で、後継者に擬していることは広く知られている。
ハワイ・真珠湾慰霊に同行もしたが、安倍首相が日米の「和解の力」を強調した直後である。
靖国への参拝は中韓両国の反発を招くのみならず、米国からも「和解」の意義を問われることになろう。
さすがに自民党の一部からも危惧の念が出ているらしい。
稲田氏は参拝後、特攻隊員だったおじが靖国に合祀(ごうし)されたことに触れ、記者団に「家族や国を守るために出撃した人々の命の積み重ねの上に今の日本があることを忘れてはならない」と語った。
・・・・・・
自民党幹部は29日、取材に対し「首相が稲田氏を起用したので仕方ないが、防衛相には不適格だ」と批判。公明党幹部も「米国だけでなく中韓との和解はどうあるべきか、政治家としての姿勢が問われる」と語った。民進党の野田佳彦幹事長は「真珠湾に同行した直後の参拝はどういう意味なのか、内外に説明する責任がある」と述べた。
「和解の力」に冷や水 与野党から批判
特攻隊員だったおじを慰霊するために参拝するのを問題にしているわけではない。
というよりも、特攻隊員は犠牲者である。
そもそも、防衛相というのは、国の防衛に責任を持つ人間であり、私的なことを口実にすべきではないだろう。
そういうところが「頼りない」と言われることを自覚すべきだ。
安倍首相はノーコメントの構えであるが、心中は「良くやった」と思っているのか、「余計なことをした」と思っているのか。
真珠湾の美辞麗句は、口先だけであったのか、と安倍政権の姿勢が問われているのである。
稲田氏は、自覚してか無自覚かは別として、安倍政権の本質を露呈させるという意味で貴重な存在かも知れないが、内閣は、満州事変以降の歴史を復習すべきではないか。
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