象徴天皇制の行方/天皇の歴史(13)
天皇誕生日だ。
今年は、天皇という制度をめぐって、画期となった年だと思う。
天皇自らが、退位についての問題提起をして、その可能性について論議が重ねられている。
⇒2016年8月 9日 (火):天皇陛下のお気持ちと護憲/日本の針路(285)
言うまでもなく、天皇のあり方は、日本国憲法をどう考えるかという問題と密接に関連している。
憲法の第1章は次のようである。
Wikipedia
天皇自身は、「このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」と述べられ、、「象徴天皇」のあり方を自問自答した。
「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました」「天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じ」、「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて」と自身の考えを述べられた。
天皇退位をめぐる政府の有識者会議が設けられ、専門家16人からの聞き取りを終え、年明けの論点整理を待つ段階になっている。
ヒアリングでは退位に賛成9人(1人条件付き)、反対7人であった。
⇒2016年12月 5日 (月):退位に関する有識者会議に対する疑問/天皇の歴史(12)
賛否は天皇観の違いに由来している。
私は、八木秀次氏のような「神武天皇のY染色体の継承」というような論理には反対である。
遺伝子の優劣を問題にするのは、優生思想に繋がると考えるからである。
新聞読者欄への投稿に問題の本質を衝いていると思われるものがあった。
東京新聞12月16日
明治憲法の「国家元首」「大元帥」「統治権の総攬者」から、日本国憲法の「日本国の象徴」「国民統合の象徴」に変わった。
天皇について『満州国演義』第4巻『炎の回廊』新潮文庫(2016年1月)の中に、次のような箇所がある。
新聞連合の香月信彦が、敷島四兄弟の長兄の太郎に言う。
「天皇は日本人が産み出した最高の虚構なんだよ!」
解説を書いている高山文彦氏は次のように書いている。
私は本巻で船戸さんが最も登場人物に言わせたかったのは、これではないかと思っている。日本人を日本民族に、ゆるやかな自治連合国家であった日本列島を大日本帝国にまとめあげていくための「最高の虚構」が、どれだけの人びとの生命を奪い、苦しみを与えてきたか。いや、このような「最高の虚構」をなぜわれわれは信じ、虚構を真実として、天皇を現人神などとしてあがめまつってしまったのか。現代の視点から見れば大日本帝国は明らかに超カルト国家であり、どこまでも生身の人間であったヒトラーを信奉したドイツ国民にくらべても極めて異常な国民、国家であった。
香月信彦はこのようにつづける。
「現人神・天皇という虚構は立憲君主国家を目指す伊藤博文と兵営国家を作り上げようとした山形有朋の妥協の産物として生まれた。(略)明治維新からたった六十八年間で日本がこれだけの強国となったのはこの虚構のお陰だ」
香月信彦はしかし「現人神・天皇」を否定しているのではない。国体明徴運動が天皇機関説を排撃すればするほど、天皇とはなにかという問題につきあたり、論理的説明が必要になってくる。するとどうなるか。「最高の虚構」が暴露されてしまう。
「馬鹿げているとは思わないか? 虚構は虚構としてそっとしておかなきゃならない。最高の虚構はなおさらだ」
吉本隆明の「共同幻想論」を想起するが、「日本国の象徴」「国民統合の象徴」を、自然人としてどう具現化して行き続けるか?
するか?
一部の専門家が言うように、「宮中でお祈りするだけ」でいい、ということではないだろう。
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