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2016年11月 2日 (水)

政権はなぜTPPの承認を急ぐのか/永続敗戦の構造(6)

山本有二農相が1日夜の自民党議員のパーティーで、TPP承認案に関する自身の「強行採決」発言を念頭に「冗談を言ったら首になりそうになった」と述べ、与野党から批判を浴びている。
山本氏は10月18日夜、佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで、TPP承認案などの衆院審議を巡り「強行採決するかどうかは佐藤氏が決める」と発言し、その後、撤回して謝罪している。
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東京新聞11月2日

「冗談も休み休み言え」とはこのことだろう。
さすがに公明党の漆原良夫中央幹事会会長も記者会見で、「不誠実な言動の積み重ねが安倍晋三内閣の体力を奪っていくということを認識してもらいたい。猛省を促したい」と指摘し強い不快感を露わにした。
まったく驕りという以外にないが、安倍内閣の本質を示したという意味では、勲一等かも知れない。

こんな状況にもかかわらず、政府・与党は、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案を4日の衆院本会議で採決する方針を固めたという。
賛成多数で可決され、同日中に参院に送られる見通しで、政府・与党が目標に掲げてきた8日の米大統領選前の衆院通過によって、承認案と関連法案の今国会での成立が濃厚になった。

承認案と関連法案の審議時間は参考人質疑を含め、与党が当初、めどとした40時間を上回ったことをもって、審議を尽くしたということのようであるが、全体として不透明感が漂っていることは否めないであろう。
しかし、承認案は参院の審議がずれ込んでも、憲法の規定に基づき、衆院通過から30日で自然成立するから、11月30日に会期末を迎える臨時国会を小幅延長すれば自然成立する。
政府が関係国に承認書を出すことで国内の締結手続きは終わる。

しかし、アメリカの世論はTPPに批判的で、有力大統領候補のトランプもヒラリーも反TPPの姿勢を強調している。
さらにオバマ大統領が任期中にTPP発効の承認を議会で得ることは難しく、アメリカが批准する可能性はゼロに近づきつつある。
他の国の状況はどうか。
TPPを批判するニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授が講演し、参加12カ国の批准に向けた国内手続きの現状を説明した。

Tpp_2 ケルシー氏は、米国による批准が見通せないため、ベトナムは年内完了を予定していた国内手続きを来年に先送りしたと指摘。さらに、オーストラリア、カナダ、ペルー、メキシコ、チリの五カ国も米国の政治状況を見極める姿勢を取っていると述べた。「(米国以外の)過半数が先に進まない状況だ」と強調した。
 国内手続きを急ぐ国としては、日本とニュージーランドを挙げ「オバマ政権のチアリーダーのようだ。なぜ米国がどうなるのか見極めようとしないのか」と疑問を投げ掛けた。ニュージーランドでは国内関連法案が来週にも成立する見通しだと明らかにした。
 外務省によると、TPP参加十二カ国のうち、日本のように協定本体の国会承認が必要な国は七カ国。国内関連法案の成立が必要なのは十一カ国。ブルネイは国会の関与は不要だが、別の国内手続きが必要。参加十二カ国の中で、国内手続きを終えた国はない。
 TPPは「十二カ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める六カ国以上」が国内法上の手続きを終えると発効するため、経済規模一位の米国の国内手続きは不可欠。しかし、米国では民主、共和両党の大統領候補がそろってTPPに反対を表明。国内手続きのめどが立っていない。
TPP承認「日本なぜ急ぐ」 NZの教授が講演で説明

なぜ安倍政権はTPPに前のめりになっているのだろうか。
TPPはアジア版北大西洋条約機構(NATO)との見方がある。

安倍首相は、去年6月の国会で、江崎孝議員(民主党・参議院議員)の質問に対して、「私がアジア版NATOと言ったか、証拠を見せろ!」と激高する醜態を演じました。
よほど、痛いところを突かれたのでしょう。みるみる顔を紅潮させて唇を震わせる様は、視聴者にとって、「見てはいけないものを見てしまった」ような心境だったでしょう。
事実、江崎議員が指摘する3ヶ月前に、「目指せ『アジア版NATO』 首相、石破氏に調整指示 実現へ3つの関門」という見出しの記事が出ているように、自衛隊を「日本版NATO」にすることは、アメリカから安倍内閣に与えられた重要なミッションなのです。
さらに、江崎議員が追及する前の月には、NATOと新連携協定に調印しているのです。
オバマは、「TPP大筋合意」の後、「米主導の貿易ルール作り実現できる」とコメントしましたが、いったい誰がTPPを貿易ルールだと思っているのでしょう。
TPPと安保法制は、「アジア版NATO」を実現するための、なくてはならない両輪なのです。
ウソだったTPPの経済効果。安倍政権の狙いは「環太平洋の軍国化」だ

確かにTPPは、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement の略である。
Strategicという言葉はあるが、自由貿易を意味するような語はない。
結党以来強行採決したことはないという安倍首相の下で、日本国は軍事化していき、いつか通った道を再び通るのであろうか。

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