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2016年11月25日 (金)

安倍外交は大きな成果か崩壊か/アベノポリシーの危うさ(108)

安倍首相が世界の首脳に先駆けて、ドナルド・トランプ次期大統領と会談したことをどう評価するか?
私は就任前のトランプ氏に焦って会うことが、トランプ氏の本質がディール(駆け引き)だと言われていることを勘案すると、足元を見透かされるようなものではないか、と思った。
⇒2016年11月19日 (土):進化と深化/「同じ」と「違う」(101)

しかし、世の中にはまったく違い見方をする人がいる。
北野幸伯という経済ジャーナリストだ。
安倍総理の行動を「神速」と持ち上げ次のように書いている。

皆さんの人生で、何か良いことが起こった。親しい友人は、即座に電話してきて、嬉しそうに「おめでとう!」と言います。「即座に」電話してくるので、「大切にしてくれているな~」と感じるのです。
しかし、遠い知人は、「10日後」に電話してきて、あまり嬉しそうでもなく、「おめでとう」と言います。祝ってもらった本人も、「義理で電話してきたな」と思うので、低いトーンで「ありがとう」と言います。
即座に電話してきた親友は、こう言います。「会って、お祝いしようよ!」。10日後に電話してきた知人は、言います。「いつかお祝いしましょう」。そして、そのいつかは、決してやってこない。
安倍外交の大勝利。トランプ会談に出遅れた中国は皮肉と焦りの発言

分かりやすい表現ではあるが、余りに素朴過ぎるたとえで、説得性を感じることができない。
東洋経済オンラインで、薬師寺克行東洋大学教授は、安倍首相が華々しい外交を展開しているが、第二次安倍内閣の発足以後、時間と労力をかけて作り上げてきた重要な外交的成果が次々と崩壊し始めていると指摘している。

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安倍首相がトランプ氏と会談したわずか5日後の11月22日、トランプ氏は公開した動画で、大統領就任初日に実施する政策として真っ先にTPPを取り上げ、「脱退を通告する」と一方的に発言したのだ。大統領就任前でもあり、TPPに参加している他の11カ国との事前の調整など何もない一方的な発表である。
特にトランプ氏との会談後に「会談は非常にうまくいった。これは大丈夫だなと感じた。彼は人の話をよく聴くタイプで、うまくやっていけると思った」と語っていた安倍首相にとってはショックだったろう。
日本にとってTPPは二つの意味がある。
一つは日本経済の再活性化の起爆剤になるという期待である。アベノミクスが思うような成果を上げていないだけに、TPP合意の実施によって米国や東南アジアに自由度の高い市場を作れば、貿易を拡大し日本経済を復活させることができると考えられていた。またTPP合意を契機に労働規制や農業などの改革と規制緩和に弾みをつけ、産業構造を転換していくという狙いもあった。こうした目論見はトランプ氏の発言で潰れてしまった。
もう一つの意味は経済面での対中包囲網の形成だった。アジア重視に傾斜していたオバマ政権と歩調を合わせ、東南アジア諸国も加わった強固なグループを形成することで、中国の経済的な影響力拡大に対抗する意図があった。その枠組みの中核を担う米国が離脱すれば、逆に中国にとって有利な状況が生まれることになる。安倍首相にとっては景気対策に加え、対中政策の観点からもかなり深刻な問題である。
安倍外交の「成果」が次々と崩壊し始めている

TPP以外に、日韓両国政府間の従軍慰安婦問題の合意も、朴大統領が40年来の知人である崔順実(チェ・スンシル)氏に国家の機密情報書類などを渡していたとするスキャンダルが浮上し、国内で大統領の辞任を求める声が一気に噴出して、朴大統領が瀕死の状態である。
また、南シナ海に関する仲裁裁判所の判決が空文化してしまった。
7月に出された判決は、中国の主張について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」と全面的に否定しており、フィリピンの完全な勝利だった。
ところが判決が出る直前の5月に行われたフィリピンの大統領選挙でドゥテルテ氏が当選し、大統領就任後いち早く中国を訪問して習近平国家主席らと会談した。
ドゥテルテ大統領はフィリピンに対する2兆円を上回る経済援助の約束を取りつけたが、首脳会談で仲裁裁判所の判決に触れることはなかった。
東アジア戦略の見直しを迫られているのだ。

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