「東ロボくん」とリベラル・アーツ/知的生産の方法(164)
東京大学合格を目指して、国立情報学研究所などが開発してきた人工知能「東ロボくん」が東大合格を諦めた?
2011年に国立情報学研究所が開始した「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト。2016年度までに大学入試センター試験で高得点を取り、2021年度に東大入試を突破することを目標に「東ロボくん」というAI(人工知能)の開発が進められていた。
「東ロボくん」はこのほどセンター試験模試で、英国数理(物理)社(世界史)5教科でいずれも平均点を上回り、総合偏差値57.1をマーク。MARCH、関関同立や複数の国公立大学に合格する実力に到達した。
しかし、東大二次試験を受けるための足切りの点数には届かなかった。さらに点数を伸ばすには、東ロボくんが文脈や複雑な文章の意味を理解することが必要で、このまま開発を進めても、その点を突破できないため、2021年度を待たずしてプロジェクトは、東大受験に関しては一旦凍結した。
「東ロボくん」が偏差値57で東大受験を諦めた理由
東ロボくんは、短い一文の中の一部が空欄になっていて、適切な単語を選んで入れる問題は、ほぼ完璧に答えられたが、ストーリー性があったり、因果関係のある複数の文を読んで文脈を理解したうえで、解答する問題は苦手ということが分かった。
例えば、「A.彼は報告書をまた出し忘れた」「B.おまけに会議に遅刻した」という文章のあとに、続く文として以下3つの選択肢があった場合
(1)私は寝坊した。
(2)会議には報告書が必要だ。
(3)彼は社会人として自覚がない。
東ロボくんは、A、Bと同じ単語が入っている(2)や、遅刻という単語と同じ文章に入っている確率が高い「寝坊」が含まれる(1)を選んでしまうというのだ。
文脈を理解できず、自分のデータにある単語の組み合わせの頻度から推定して答えてしまうためだ。
これを克服するには、“人間としての常識”のデータや膨大な量の複数の文のセットを用意せねばならない。
コストと労力がかかりすぎ、現段階ではその方向で進化させることは物理的に不可能だと言う判断になった。
要するに、東ロボくんは、問題を解き、正解も出すが、読んで理解しているわけではないということだ。
現段階のAIにとって、文章の意味を理解することは、不可能に近いのだという。
しかし、偏差値が57点強ということは、東ロボよりも、得点の低い高校生が大勢いるということだ。
東ロボくんよりも成績の悪い高校生は、文章の意味を理解できているのだろうか?
文科省は、文科軽視としか解釈しようのない通達を出した。
⇒2015年6月19日 (金):文科省の国立大学改革通知はナンセンス/日本の針路(181)
しかし、東ロボプロジェクトが示しているのは、理科とか文科という区分を超越した知の追及である。
⇒2016年11月 8日 (火):教えられた通りの答だけが正解だとは!/知的生産の方法(163)
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