南スーダンの安全と危険/アベノポリシーの危うさ(102)
日本政府があらたに「駆けつけ警護」の任務を付与しようとしている自衛隊の南スーダンPKOをめぐる12日の衆院予算委の安倍首相の答弁は不愉快なものであった。
南スーダンは、たとえばわれわれがいまいる永田町と比べればはるかに危険、危険な場所であってですね。危険な場所であるからこそ自衛隊が任務を負って、武器も携行して現地でPKOを行っているところでございます。
「駆けつけ警護」とは、自衛隊が現地の武装勢力などから直接攻撃を受けなくとも、国連やNGO関係者が襲撃された際に現場に駆けつけて救助するというものである。
これまで、日本政府は9条が禁じる武力行使にあたるとして「駆けつけ警護」を認めてこなかったが、安倍政権は新安保関連法の成立によってこれを可能とした。
南スーダンは、2011年7月9日に、スーダン共和国の南部10州が、アフリカ大陸54番目の国家として分離独立した国である。
Wikipediaでは、国情について次のように記述している。
米国のシンクタンクの一つである平和基金会が発表している失敗国家ランキングでは、2014年・2015年の2年連続で1位となった。2008年から2013年まではソマリアが6年連続で1位であったがこの2年間は2位となっており、南スーダンが取って代わる形となった。2015年8月の調停までに5万人が死亡、避難民は230万人以上と推定されている。
南スーダンは政府軍と反政府軍の対立によって緊張状態が続き、停戦も事実上崩壊している。
今年7月には首都ジュバで大規模な戦闘が起き、民間人を含めて200名以上が死亡した。
また、直近のAFP通信でも、14日夜から15日にかけて発生し、マシャル前副大統領を支持する反政府勢力が、マラカル周辺で政府軍の軍事拠点2カ所を襲撃し、政府軍が反撃して、反政府勢力の戦闘員56人と政府軍兵士4人が死亡した。
「永田町よりは危険」という言い方は、「富士塚は富士山よりは低い」というようなもので、実体的な意味のない比較である。
にもかかわらず、安倍政権は「南スーダンは安定している」と嘯いて譲らない。
今月8日、ジュバを視察した稲田朋美防衛相はわずか7時間の滞在にもかかわらず「状況は落ち着いている」と述べた。
⇒2016年10月16日 (日):稲田防衛大臣の資質と適性/人間の理解(18)
11日の衆院予算委員会でも7月の大規模戦闘を“戦闘ではなく衝突”と言い換えるなど、人の生死に関する認識は異常と言うしかない。
稲田大臣は「現地の状況は落ち着いていた」と国会で答弁し、その報告をもとに、派遣期限の今月末にも新判断を下す、というのが政府のシナリオだった。
しかし、稲田大臣が駆け足で視察をした同じ日に、ジュバ近くでトラックが攻撃され、市民21人が死亡する戦闘が起きていた。
にもかかわらず『現地は落ち着いていた』であるから、このまま彼女の報告をうのみにして新任務を付与すれば、『ろくな視察もせずに、自衛隊に危険な任務をさせるのか』と、野党から集中砲火を浴びて、国会審議がストップしかねない。
そこで月内の判断が見送られたという。
さすがに与党内部にも、稲田大臣の適性を疑問視する声が出始めているようだ。
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