電通の光と影/ブランド・企業論(58)
政府は「働き方改革」を掲げるが、痛ましい過労自殺が後を絶たない。
広告代理店電通の新入社員だった女性が自殺したのは長時間の過重労働が原因として労災認定された。
女性は昨年4月に入社し、試用期間だった9月までは残業時間が約40時間/月だったが、10月以降は約105に増えたという。
10月14日、東京労働局の特別対策班が、電通の本社に立ち入り調査に入った。
社会保険労務士の榊裕葵氏は、今回の立ち入り調査の意義について、4つの着眼点があるという(電通への強制捜査、その真意を読み解く4つのポイントとは?)
1.「かとく」が動いたこと
電通に立ち入ったのが労働基準監督署の監督官ではなく、東京労働局の「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)であった。
「かとく」は、重大性や悪質性の高い労働基準法違反を取り締まる役割を担うため、2015年にベテランの労働基準監督官を集めて、東京および大阪の労働局に新設された組織である。
2.立ち入りが「抜き打ち」だったこと
労働基準監督官が調査を行う場合、定期調査の場合や、労働者からの申告に基づく調査であっても違法性や証拠隠滅の恐れが小さいと考えられる場合は、あらかじめ調査の日時を通知した上で、立ち入りが行われたり、労働基準監督署に出頭を命じられたりする。
今回は、事前の通知がなく、「抜き打ち調査」であったので、電通の労働基準法違反が重大なものであるという認識を持って、調査に当たっているのだと考えられる。
3.官房長官のコメント
一企業に対する労働基準法違反の立ち入り調査について、官房長官がコメントを発表するというのは異例であるが、日本経済新聞は次のように報じている。
菅義偉官房長官は「結果を踏まえ、過重労働防止に厳しく対応する」と述べた。その上で「働きすぎによって尊い命を落とすことがないよう、働く人の立場にたって長時間労働の是正、同一労働同一賃金を実現したい」と話した。
「一罰百戒」の意味を持つ国策捜査ではないか。
4.「勝ち組」の会社であること
世間の一般的な評価として、「ブラック企業」ではなく、むしろ「エクセレント企業」とされている電通に対して立ち入り調査が行われた。
これまで過重労働がニュースで大きく取り上げられたのは、靴小売の「ABCマート」の書類送検や、棚卸代行の「エイジス」の社名公表処分などや「すき家」のワンオペ、「ワタミ」の過労自殺といったよう、どちらかというと、非正規社員を多く雇用し、低賃金で重労働になりがちな小売業や飲食業が話題の中心であった。
「電通」は給与水準も高く、新卒で内定を得られたら「勝ち組」と称えられる一流企業に「かとく」が立ち入った。
個人的な体験として言えば、月100時間程度の残業は別に珍しいことではなかった。
しかし、電通では1991年にも入社2年目の社員が過労で自殺した。
2000年の最高裁判決で「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする責任がある」と認定して、過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れができた。
電通でも、損害賠償と謝罪をすることで遺族と和解したという経緯がある。
過労か否か?
個人差もあれば、環境の影響も大きい。
このニュースを聞いて、直感的に思ったのは「鬼十則」との関係である。
4代目社長・吉田秀雄によって1951年につくられた「電通マン」の行動規範である。
高度成長期のビジネスマンの少なからぬ人が、目にしたり影響を受けたのではないか。
http://www.sciencehouse.jp/materials/oni.pdf
働き盛りならば耐えられることでも、新入社員にとっては耐えられないことはいくらでもある。
電通という会社には、本当に有能な社員と、周りにおんぶされているような社員がいる。
まあ、どこの企業でもあることだろうが、電通の場合は極端であるような気がする。
「鬼十則」が示すのは、成果主義でもある。
「君の残業時間は会社にとって無駄」と上司からパワハラ発言を繰り返されていたともいい、次のような記事もある。
週刊文春10月20日号
「鬼十則」がパワハラと親近性があることは直ぐに理解できる。
母子家庭で育ち、「お母さんを楽にしてあげたい」と猛勉強して東京大学に入り、電通に就職した。
「体も心もズタズタ」「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」……
友人たちに伝えていた言葉が哀れを誘う。
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