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2016年10月

2016年10月31日 (月)

核禁止条約に反対する日本政府/永続敗戦の構造(5)

核禁止条約の制定を目指す決議案が国連総会の委員会で採決にかけられ、123か国の賛成多数で採択された。
しかし、日本は反対に回った。
唯一の被爆国という立場からすれば、条約をリードするのが自然のように思える。
なぜ反対なのか?

要は、アメリカの意向である。

イスナー通信によりますと、情報筋は、「アメリカは25日火曜、NATOの同盟国に対して、核兵器禁止に関する協議の開始を要請する国連総会の決議草案に反対票を投じ、2017年から協議が始まることになれば、それを無視するよう求めた」と報じました。
アメリカは全ての同盟国に対し、核兵器禁止に関する協議に棄権票ではなく、反対票を投じるよう求めています。
核兵器禁止条約の実効は、アメリカとその同盟国の抑止力に直接影響を及ぼします。
さらに核兵器を装備した国々との共同作戦へのアメリカの同盟国の参加にも影響を及ぼすと見られています。
アメリカが、国連の核兵器禁止決議に反対

政府の立場に近い産経新聞の主張(社説)を見てみよう。

 禁止条約と名付けても、核の脅威を除くことにならない。日本や世界の安全保障を損なう空理空論ともいえる。それが世界平和に寄与するかのごとく、国際機関が振る舞うのは残念な姿である。
 安全保障の根幹を米国の「核の傘」に依存する日本は、決議案に反対票を投じた。国民を核の脅威から守り抜く責務がある、唯一の被爆国の政府として、妥当な判断といえよう。
 中国や北朝鮮などの近隣諸国は核戦力増強に走っている。これが現実の脅威であり、米国の「核の傘」の重要性は増している。
 オーストリアやメキシコなどの非核保有国は、核兵器の開発や実験、保有、使用の一切を禁止する条約の制定を目指してきた。
 それら自体は善意から発するものでも、禁止条約の推進が直ちに核兵器の脅威をなくすことはできない。
 今の科学技術の水準では、核兵器による攻撃や脅しは、核兵器による反撃の構え(核抑止力)がなければ抑えきれない。不本意であっても、それが現実なのだ。
核兵器禁止条約 惨禍防ぐ手立てにならぬ

まあ、考え方の違いではあるが、日本の独自性など必要がないということである。
ハフィントンポストは以下のように論じている。

Photo
生物兵器、化学兵器、地雷、クラスター爆弾、これら非人道兵器は、国際的に使用が禁止されている条約がある。しかし、核兵器を禁止する条約は、未だ存在しない
・・・・・・
外務省幹部の言う“核軍縮のプロセス”とは、「段階的なアプローチが唯一の現実的な選択肢」とするアメリカやイギリスなど核保有5大国のやり方を指す。これに対して、急速に核軍縮を目指す国も存在する。その一つがエジプトを中心とするアラブ諸国だ。
エジプトは1974年に「中東非核地帯構想」を提唱して以来国是としており、2010年には、「(中東の)いかなる国も、大量破壊兵器を保有することで安全が保障されることはない。安全保障は、公正で包括的な平和合意によってのみ確保される」と、自国の立場を明らかにした。
中東非核地帯構想にアラブ諸国は賛同するが、NPTに参加せず、核兵器を事実上保有するイスラエルは、「まず、イランなどに対して適用したあとで、イスラエルに適用すべき」というような趣旨の、アラブ諸国とは異なる立場を取る。
核の存在によって、中東地域でイスラエルが覇権を握ることを警戒するエジプトなどアラブ諸国は、2010年に開かれたNPT再検討会議で、中東の非核化を協議する国際会議を2012年に開催することを勧告する内容を条約に盛り込むことを条件に、NPTの無期限延長を受け入れた。しかし、会議が開かれれば、イスラエルの核保有が問題視されるため、結局国際会議が開かれていない。
今回のNPT再検討会議でも、エジプトらは2016年に中東非核化国際会議を開催することをNPTに盛り込もうと提案。しかし、アメリカがイスラエルを擁護して反発し、国際会議を開催する時期について検討期間がないことや、中東各国が平等の立場で、開催合意に至るプロセスが明確化されていない点などをあげ、国際会議の開催を強引に進めるとしてエジプトを名指しで非難。会議は決裂した。
「核兵器禁止」日本は賛同せず 被爆国なのにどうして?【NPT再検討会議】

まさに永続敗戦の構造の露出である。
東京新聞10月29日付の筆洗を掲出する。
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2016年10月30日 (日)

電通「鬼十則」の功罪/日本の針路(301)

10月7日、電通の新入社員の女性が「過労自殺」だったとして労災認定された。
長時間の過重労働が原因だということである。
⇒2016年10月18日 (火):電通の光と影/ブランド・企業論(58)
労災認定を受けて、電通は深夜残業を無くすため、22時に全館消灯をするという。

 電通は、24日、昨年12月に過労自殺した新入社員の高橋まつりさん(当時24)が労災と認定されたことを受けた労務管理の改善策の一環として、深夜の残業を防止するため午後10時から全館を消灯した。
Photo_3 
 消灯は翌日午前5時までで、当面続ける。東京本社のほか関西支社(大阪市)などすべての事務所が対象。ほかにも、月ごとの残業時間の上限を11月から5時間引き下げ、私的な情報収集などを理由とした在社を禁止するなどの対策を取り、長時間労働の抑制を図る。
 この日、東京本社では午後10時すぎ、高層階のレストランなどの一部テナントを除き、一斉に電気が消えた。
 電通は「社員の健康維持と法令順守のために、労働環境の改善に全力で取り組む」とのコメントを出した。
電通、10時に消灯 深夜残業を防止

しかし、電通のような業務にとって、全館消灯という対策は馴染まないのではないか。
いわゆる知的生産に関わる業務は、基本的には成果は時間の関数ではない。
場所の制約も小さく、必ずしもオフィスに出勤する必要はない。
電通自体もそのことは良く知っているはずである。
全館消灯というのは、労基署等に対するアピールであろう。

問題の本質は別の所にあると思う。
有名な「鬼十則」は、ビジネスの場における「戦陣訓」である。
言い換えれば、軍隊向けの言葉である。
ビジネスは競争的環境で行われるから、戦争と似た部分があるのは事実である。
経営戦略という概念などはその典型であろう。
⇒2016年9月16日 (金):経営学における戦略概念/知的生産の方法(160)
しかし、本質において、ビジネスと戦争は異なるのだ。

戦争は統制優先になりがちである。
しかし、ポストインダストリアル社会で中心になる真にクリエイティブなビジネスは、個人の自由な創意工夫が優先されなければならない。
チームワークのために特定の価値感を押しつけるのは有害無益である。

電通は企業理念として、「Good Innovation.」を掲げている。
「『その手があったか』と言われるアイデアがある。『そこまでやるか』と言われる技術がある。『そんなことまで』と言われる企業家精神がある。私たちは3つの力でイノベーションをつくる。人へ、社会へ、新たな変化をもたらすイノベーションをつくってゆく」と説いているのだ。
そんな会社に、一律の早帰り運動、一律の残業禁止は馴染まないだろう。

もちろん、「君の残業時間は会社にとって無駄」「目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などというパワーハラスメント、セクシャルハラスメントは論外である。
自由闊達性を削いでしまったら、電通の優位性は消えてなくなるだろう。

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2016年10月29日 (土)

女性が輝く社会に向かっているのか?/日本の針路(300)

安倍政権が「女性が輝く社会」を標榜したのは2014年のことであった。
その広告塔として、小渕優子氏が経済産業相に登用された。
しかし、時を置かずその看板に偽りがあることが分かってしまった。
⇒2014年10月24日 (金):「女性が輝く社会」と「妊娠降格」訴訟/日本の針路(58)
⇒2014年10月31日 (金):「輝く女性」の看板に偽りあり!/日本の針路(63)

有村治子・女性活躍・行政改革等担当相、高市早苗総務相、山谷えり子拉致問題担当相兼国家公安委員長等、「女性が輝く」として大臣に任命した女性は、疑問符の人が多い。
その典型は、政調会長を経て、防衛相に抜擢された稲田朋美氏であろうか。
白紙領収書や南スーダン視察の実態など、本当に防衛相を任せて大丈夫なのだろうか?
⇒2016年10月12日 (水):領収書の金額は相手先が記入すべきもの/日本の針路(295)
⇒2016年10月16日 (日):稲田防衛大臣の資質と適性/人間の理解(18)

Ws000000_2 ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)は26日付で、各国の男女格差(ジェンダーギャップ)を比較した今年の報告書を発表した。日本は世界144カ国中111位となり、主要7カ国(G7)で最下位。前年の145カ国中101位から大きく順位を下げた。
 「経済活動への参加と機会」「政治への参加」「教育」「健康と生存率」の4分野の計14の項目で、男女平等の度合いを指数化して順位を決める。
 日本は教育や健康の分野では比較的格差が小さいが、経済と政治の両分野は厳しい評価を受けた。国会議員における女性比率で122位、官民の高位職における女性の比率で113位、女性の専門的・技術的労働者の比率で101位とされた。過去50年で女性の首相が出ていないことも、低評価の一因だった。
 安倍政権は2014年から「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げるが、報告書は日本について「教育参加などで改善が見られたものの、専門的・技術的労働者の男女比率が著しく拡大している」と指摘した。
 1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェーと北欧諸国が上位を占めた。近隣国では中国が99位、韓国が116位だった。G7ではドイツ13位、フランス17位、英国20位、カナダ35位、米国45位、イタリア50位だった。
日本の男女格差、111位に悪化 G7で最下位

電通の女性新入社員が自殺して、過労自殺だと認定された件でも、パワハラ的なことがあったと言われている。
⇒2016年10月18日 (火):電通の光と影/ブランド・企業論(58)
ジェンダーギャップ解消は、「働き方改革」の1丁目1番地であろう。
日本会議が掲げるような価値感の下では、「働き方改革」もジェンダーギャップ解消も進まないであろう。
⇒2015年12月26日 (土):日本をダメにする日本会議という存在/日本の針路(268)
⇒2016年8月14日 (日):日本をダメにする日本会議という存在(2)/日本の針路(288)

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2016年10月28日 (金)

古代オリエント史学・三笠宮崇仁親王/追悼(99)

昭和天皇の末弟で、天皇陛下の叔父である三笠宮崇仁親王が10月27日朝、東京都内の病院で薨去された。
明治以降の皇族では最長寿の100歳だった。
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東京新聞10月28日

三笠宮親王は、1915年(大正4年)12月2日、大正天皇と貞明皇后の第四皇男子として誕生した。
「三笠宮」の宮号は、1935年(昭和10年)12月2日に崇仁親王が成年式を行った際に賜ったもので、奈良市の三笠山にちなんで命名された。
お印は若杉。
長男・寛仁様、次男・桂宮様、三男・高円宮様の3人の子息がいたが、すでに亡くなられている。
9人の孫と4人の曾孫がいる。

三笠宮親王は、戦時中は旧日本軍の大本営参謀などを務め、陸軍参謀として中国・南京にも派遣された。
お印にちなんで「若杉参謀」の名を用いた。
次のような逸話が、Wikipediaに紹介されている。

日中戦争当時、進駐先で、事態が未だに解決しない理由について全員(およそ200人)に自由記述で答案を書かせた後、“日本人が真の日本人たり得ていないから”と答えた一人のみを及第判定。「そのとおりだ。皇軍がその名に反する行為(暴行略奪など)をしている、これでは現地民から尊敬などされるわけがない。今の皇軍に必要なのは装備でも計画でもない、“反省”だ。自らを顧み、自らを慎み、一挙一動が大御心に反していないかを自身に問うこと」と部下達を叱りつける。居並ぶ一同は三笠宮の叱咤に言葉がなかったという。

開明的な皇族だったと言えよう。
『紀元節についての私の信念』(「文藝春秋」59年1月号に次のように書いている。

日本人である限り、正しい日本の歴史を知ることを喜ばない人はないであろう。紀元節の問題は、すなわち日本の古代史の問題である。
・・・・・・・
昭和十五年に紀元二千六百年の盛大な祝典を行った日本は、翌年には無謀な太平洋戦争に突入した。すなわち、架空な歴史――それは華やかではあるが――を信じた人たちは、また勝算なき戦争――大義名分はりっぱであったが――を始めた人たちでもあったのである。もちろん私自身も旧陸軍軍人の一人としてこれらのことには大いに責任がある。だからこそ、再び国民をあのような一大惨禍に陥れないように努めることこそ、生き残った旧軍人としての私の、そしてまた今は学者としての責務だと考えている。

2015年3月の参院予算委で、「八紘一宇」という戦前・戦中のスローガンを唐突に持ち出し、「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」と言ってのけたのけた三原じゅん子議員は、この言葉をよく読んでみた方はいい。
おりしも天皇の生前退位に関する有識者会議の議論が始まったところである。
三笠宮親王は、生前退位については、基本的人権の問題として考えていたと言われる。
動乱の時代を生き抜いたが故に、平和の尊さを知っておられた。
言葉通り、「昭和は遠くなりにけり」という気がする。
合掌。

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2016年10月27日 (木)

コカ・コーラGとキリンHDが資本業務提携/ブランド・企業論(59)

コカ・コーラグループとキリンホールディングス(HD)が、清涼飲料事業で資本業務提携するという。
グループ同士で数%ずつ株式を持ち合い、物流と原料調達で連携する。
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日本経済新聞10月26日

両社は国内で首位と4位だが、清涼飲料市場は人口減で市場が伸び悩む一方、メーカー数が多く激しい価格競争が続いている。
コスト削減により消耗戦からの脱却を目指す。

Photo_2 米コカ・コーラ日本法人の日本コカ・コーラとキリンHDが、近く提携内容を詰める協議に入る。早ければ年内にも提携契約を結ぶ見通し。コカ・コーラグループが日本で同業メーカーと本格的な協業を手掛けるのは初めて。
 国内コカ製品の製造・販売を手掛けるコカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンが2017年4月に統合して設立する新会社と、キリンHDの清涼飲料事業子会社キリンビバレッジに、それぞれのグループから出資することを検討する。出資額は数百億円規模の可能性がある。
 製品を小売店や自動販売機へ共同配送するなど物流面で協力したり、果汁やコーヒー豆といった原料やペットボトルなど資材を共同調達したりすることを軸に検討する。実現すれば年間数十億円規模のコスト削減効果があるとみられる。
 販売やマーケティング面の提携は協議項目に含まないが、将来は製品の相互供給や共同での製品開発に発展する可能性もある。
 国内清涼飲料市場の規模は約4兆円に上り、多くのメーカーが激しい競争を繰り広げている。スーパーやドラッグストアでは大容量の飲料が低価格で販売されるなどして収益力が悪化している。
 コカは来春に東西ボトラーを統合し、売上高1兆円規模の新会社を立ち上げるなど、コスト削減と収益力強化を進める。15年に国内2位のサントリー食品インターナショナルが日本たばこ産業(JT)の自販機事業を買収。猛追を受けるなか、単独でのコスト削減には限界があるとみて、キリンとの提携に踏み切る。
 キリンHDも飲料事業の収益力の低さに悩む。15年12月期に1.5%だったキリンビバの営業利益率を18年までに3%に引き上げる目標を掲げている。10%強の国内シェアの中で成長を維持するには中長期でさらなるコスト削減を進める必要があると判断した。
コカ・コーラとキリン提携 清涼飲料で相互出資

清涼飲料市場は人口減で伸び悩む中、合従連衡の動きが活発だ。
2011年にサッポロホールディングスがポッカコーポレーションを子会社化し、2012年にはアサヒグループホールディングスがカルピスを買収した。
両社とも具体的な提携内容や出資比率などは発表していないが、小売店や自動販売機への製品の配送や、原料と資材の共同調達などを軸に、グループの枠を超えて連携することで優位性を確保しようということだ。

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2016年10月26日 (水)

舒明天皇と皇統/天皇の歴史(10)

舒明天皇は『万葉集』2番歌、いわゆる国見の歌の作者として知られる。
⇒2016年9月29日 (木):象徴の行為としての「国見」/天皇の歴史(8)
舒明天皇は推古天皇を継ぐ第34代天皇で、系譜は以下のようである。
先代が推古天皇、次代が皇極天皇で、女性天皇に挟まれる形である。
Photo
『日本の女帝の物語 ――あまりにも現代的な古代の六人の女帝達』 橋本治 

推古天皇は、在位36年余だったが、628年4月15日に崩御した時、継嗣を定めていなかった。
蘇我蝦夷は群臣にはかってその意見が田村皇子と山背大兄皇子に分かれていることを知り、田村皇子を立てて天皇にした。
すなわち舒明天皇である。

蝦夷が権勢を振るうための傀儡にしようとしたという説と他の有力豪族との摩擦を避けるために蘇我氏の血を引く山背大兄皇子を回避したという説がある。
また近年では、欽明天皇の嫡男である敏達天皇の直系(田村皇子)と、庶子である用明天皇の直系(山背大兄皇子)による皇位継承争いとする見方もある。
いずれにせよ、政治の実権は蘇我蝦夷にあったと言える。

しかし、舒明天皇の皇后が次の皇極天皇であり、大化の改新を実行した孝徳天皇を挟んで斉明天皇として重祚している。
百済救援のための航海中に亡くなるという対外的にも波乱の時代であった。
斉明天皇下の百済救援政策が、白村江での大敗という存亡の危機をもたらした。
そして「壬申の乱」という内政上の大転換に至るのである。

『日本書紀』の系図上、天智、天武の両天皇の父であるから、古代史におけるキーパソンということになる。
『万葉集』の巻頭に、雄略天皇の次に舒明天皇が置かれている。
編者の意図はどうことだったのだろうか?
Wikipediaでは、編者について、次のように解説している。

『万葉集』の成立に関しては詳しくわかっておらず、勅撰説、橘諸兄編纂説、大伴家持編纂説など古来種々の説があるが、現在では家持編纂説が最有力である。ただ、『万葉集』は一人の編者によってまとめられたのではなく、巻によって編者が異なるが、家持の手によって二十巻に最終的にまとめられたとするのが妥当とされている。
『万葉集』二十巻としてまとめられた年代や巻ごとの成立年代について明記されたものは一切ないが、内部徴証から、おおむね以下の順に増補されたと推定されている。

  1. 巻1の前半部分(1 -53番)…
    原・万葉集…各天皇を「天皇」と表記。万葉集の原型ともいうべき存在。持統天皇や柿本人麻呂が関与したことが推測されている。
  2. 巻1の後半部分+巻2増補…2巻本万葉集
    持統天皇を「太上天皇」、文武天皇を「大行天皇」と表記。元明天皇の在位期を現在としている。元明天皇や太安万侶が関与したことが推測されている。
  3. 巻3 - 巻15+巻16の一部増補…15巻本万葉集
    契沖が万葉集は巻1 - 16で一度完成し、その後巻17 - 20が増補されたという万葉集二度撰説を唱えて以来、この問題に関しては数多くの議論がなされてきたが、巻15までしか目録が存在しない古写本(「元暦校本」「尼崎本」等)の存在や先行資料の引用の仕方、部立による分類の有無など、万葉集が巻16を境に分かれるという考え方を裏付ける史料も多い。元正天皇、市原王、大伴家持、大伴坂上郎女らが関与したことが推測されている。
  4. 残巻増補…20巻本万葉集
    延暦2年(783年)頃に大伴家持の手により完成したとされている。

ただし、この『万葉集』は延暦2年以降に、すぐに公に認知されるものとはならなかった。延暦4年(785年)、家持の死後すぐに大伴継人らによる藤原種継暗殺事件があり家持も連座したためである。その意味では、『万葉集』という歌集の編纂事業は恩赦により家持の罪が許された延暦25年(806年)以降にようやく完成したのではないか、と推測されている。
「万葉集」は平安中期より前の文献には登場しない。この理由については「延暦4年の事件で家持の家財が没収された。そのなかに家持の歌集があり、それを契機に本が世に出、やがて写本が書かれて有名になって、平安中期のころから『万葉集』が史料にみえるようになった」とする説 などがある。

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2016年10月25日 (火)

新劇の巨人・平幹二朗/追悼(98)

戦後日本演劇界の第一線で活躍し、海外でも高く評価された俳優の平幹二朗さんが亡くなった。
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東京新聞10月25日

23日夕に世田谷区内の自宅の浴室で倒れているのを家族が発見した。
「幹の会」を主宰し、これまでシェークスピア作品を12本上演した。
映像では、NHK大河ドラマ「樅ノ木は残った」「国盗り物語」で主演した他、多くの映画、ドラマに出演した。

 広島市出身。子供のころから歌舞伎などの舞台を見て育ち、高校時代は演劇部で活躍した。1953年に2度目の受験で俳優座養成所に合格。56年に俳優座座員となり、「貸間探し」で舞台デビューした。66年劇団四季の浅利慶太さん演出による「アンドロマック」に出演。2年後に俳優座を退団し、以降、浅利演出作品、蜷川幸雄演出作品などに次々と主演し、演劇界で確固たる地位を築いた。
   整った顔立ちにスラリとした長身。深みのある声、明瞭かつ重厚なセリフ術を武器に、空間を瞬く間に支配するダイナミックで緻密な演技は、他の追随をゆるさない存在感を放った。蜷川の海外初進出作品となった78年初演のギリシャ悲劇「王女メディア」では、異形の女形でメディアの怒りと悲しみを造形し、83年のアテネ公演では本場の観客らから絶賛を浴びた。太地喜和子と共演した「近松心中物語」(蜷川演出)の忠兵衛、「NINAGAWAマクベス」(同)のマクベス、「リア王」のタイトルロールなど代表作多数。
俳優の平幹二朗さん82歳 自宅で倒れる

1970年に女優、佐久間良子さんと結婚し、男女の双子をもうけたが、1984年に離婚した。
長男の平岳大さんも俳優である。
「週刊新潮」誌の『私の週間食卓日記』というリレー連載で、元気な父の姿を書いたばかりだった。
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週刊新潮9月29日号

合掌。

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2016年10月24日 (月)

AIをどう利・活用するか/知的生産の方法(162)

将棋の竜王戦で、予定されていた挑戦者が出場停止処分を受けて、挑戦者が急きょ代わるという異例の事態になった。
三浦弘之九段が、AIソフトを不正に利用したのではないか、という疑惑である。
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日本将棋連盟

3日前に変更を言われた丸山忠久九段の困惑したようなコメントが、そりゃそうだろうなあ、という気にさせるが、連盟としてこのような処分を課すからには、心証としてはクロなのだろう。
週刊誌報道もそういう雰囲気である。
161027
週刊文春10月27日号

三浦九段といえば、第2回電王戦で、GPS将棋というソフトに敗れた現役棋士である。
⇒2013年5月 5日 (日):将棋ソフトの進歩と解説ソフトの可能性/知的生産の方法(52)
この体験が影響しているのであろうか。

もちろん、三浦九段は不正を否定している。
161019
東京新聞10月19日

不正が許されないことは当然であるが、冤罪はさらに許されるべきではない。
連盟として厳正な踏査を行い、オープンにすることを期待したい。

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2016年10月23日 (日)

誰のためのエネルギー政策か/技術論と文明論(78)

現代文明はエネルギー多消費構造である。
世捨て人にでもならない限り、安定的で良質のエネルギー供給は不可欠の条件である。
であればこそ、エネルギーの供給は合理的なものであるべきだろう。

原発立地県の直近の県知事選で、脱原発候補が勝利した。
川内原発のある鹿児島県と柏崎刈羽原発のある新潟県である。
⇒2016年8月29日 (月):『東京ブラックアウト』と国会質疑/原発事故の真相(147)
⇒2016年10月17日 (月):新潟県知事選に野党推薦の米山隆一氏が勝利/日本の針路(298)
地元の民意は、短期的なメリットよりも長期的なリスク重視にシフトしている。
福島原発事故の実態、対応の様相等からして当然と言えよう。

原発は八方塞がりである。
未だに原発に固執する根拠が分からない。
⇒2016年10月 2日 (日):八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)
原発は、電力会社にとっても合理性があるのだろうか?

原発政策の判断ミスのツケは巨額である。
電力会社と政府は、原発に頼らない新電力の料金にまで負担させようとしている。
⇒2016年10月 6日 (木):電力自由化と廃炉費用の負担/技術論と文明論(75)

原発政策による費用の発生は30兆円超と見積もられている。
4161018
東京新聞10月20日

ムリな再稼働のための審査に忙殺されて、関西電力の課長職が過労自殺に追い込まれるという事態も発生している。
21610202
東京新聞10月20日

原発の稼働は、誰の幸福も増進しない。

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2016年10月22日 (土)

南スーダンの安全と危険/アベノポリシーの危うさ(102)

日本政府があらたに「駆けつけ警護」の任務を付与しようとしている自衛隊の南スーダンPKOをめぐる12日の衆院予算委の安倍首相の答弁は不愉快なものであった。

南スーダンは、たとえばわれわれがいまいる永田町と比べればはるかに危険、危険な場所であってですね。危険な場所であるからこそ自衛隊が任務を負って、武器も携行して現地でPKOを行っているところでございます。

「駆けつけ警護」とは、自衛隊が現地の武装勢力などから直接攻撃を受けなくとも、国連やNGO関係者が襲撃された際に現場に駆けつけて救助するというものである。
これまで、日本政府は9条が禁じる武力行使にあたるとして「駆けつけ警護」を認めてこなかったが、安倍政権は新安保関連法の成立によってこれを可能とした。
南スーダンは、2011年7月9日に、スーダン共和国の南部10州が、アフリカ大陸54番目の国家として分離独立した国である。
Ws000000

Wikipediaでは、国情について次のように記述している。

米国のシンクタンクの一つである平和基金会が発表している失敗国家ランキングでは、2014年・2015年の2年連続で1位となった。2008年から2013年まではソマリアが6年連続で1位であったがこの2年間は2位となっており、南スーダンが取って代わる形となった。2015年8月の調停までに5万人が死亡、避難民は230万人以上と推定されている。

南スーダンは政府軍と反政府軍の対立によって緊張状態が続き、停戦も事実上崩壊している。
今年7月には首都ジュバで大規模な戦闘が起き、民間人を含めて200名以上が死亡した。
また、直近のAFP通信でも、14日夜から15日にかけて発生し、マシャル前副大統領を支持する反政府勢力が、マラカル周辺で政府軍の軍事拠点2カ所を襲撃し、政府軍が反撃して、反政府勢力の戦闘員56人と政府軍兵士4人が死亡した。
「永田町よりは危険」という言い方は、「富士塚は富士山よりは低い」というようなもので、実体的な意味のない比較である。

にもかかわらず、安倍政権は「南スーダンは安定している」と嘯いて譲らない。
今月8日、ジュバを視察した稲田朋美防衛相はわずか7時間の滞在にもかかわらず「状況は落ち着いている」と述べた。
⇒2016年10月16日 (日):稲田防衛大臣の資質と適性/人間の理解(18)
11日の衆院予算委員会でも7月の大規模戦闘を“戦闘ではなく衝突”と言い換えるなど、人の生死に関する認識は異常と言うしかない。

稲田大臣は「現地の状況は落ち着いていた」と国会で答弁し、その報告をもとに、派遣期限の今月末にも新判断を下す、というのが政府のシナリオだった。
しかし、稲田大臣が駆け足で視察をした同じ日に、ジュバ近くでトラックが攻撃され、市民21人が死亡する戦闘が起きていた。
にもかかわらず『現地は落ち着いていた』であるから、このまま彼女の報告をうのみにして新任務を付与すれば、『ろくな視察もせずに、自衛隊に危険な任務をさせるのか』と、野党から集中砲火を浴びて、国会審議がストップしかねない。
そこで月内の判断が見送られたという。
さすがに与党内部にも、稲田大臣の適性を疑問視する声が出始めているようだ。

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2016年10月21日 (金)

イメージとマネージ・平尾誠二/追悼(97)

「ミスター・ラグビー」と称された平尾誠二・神戸製鋼ゼネラルマネジャー(GM)が、10月20日死去した。
53歳の若さだった。
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東京新聞10月21日

 平尾さんは京都市生まれ。伏見工高3年の時に主将として全国高校大会で初優勝。同志社大では1982年度からの大学選手権3連覇に貢献した。同大2年の19歳4カ月の時に、当時としては史上最年少で日本代表入り。86年に神戸製鋼に入社しSOやCTBを務め、1988年度からは大八木淳史や大西一平とともに新日鉄釜石に並ぶ日本選手権7連覇を達成した。
 特に3連覇までは主将を務め、監督を置かないチームの中で、練習方法や作戦などを中心となって企画。FWとバックスが区別なくボールをつないでいくプレースタイルなど独自の「神鋼ラグビー」を作り上げた。
 W杯には87年の第1回大会から3大会連続で出場し、第2回大会では主将を務め、日本のW杯初勝利に貢献した。97年2月に史上最年少の34歳で日本代表監督に就任。98年1月に現役引退した。2007年3月から14年3月までは神戸製鋼の総監督も務めた。
平尾誠二さん死去…53歳 「ミスター・ラグビー」

私には、松岡正剛さんとの対談『イメージとマネージ―リーダーシップとゲームメイクの戦略的指針』集英社(1996年12月)が印象に残る。

Photo平尾 ………やはりそれぞれのプレイヤーにはイメージがなくてはならないわけです。しかもそのイメージはかなり豊富である必要がある。ひとつだけのイメージは実はマネージと同じで、それはスキルなんです。そうではなく、たくさんのイメージを思い浮かべて、自分のアタマの中でラグビーを拡張していかなければダメなんです。イメージの多様性が拡張を生む。
松岡 うん、そうですね。しかも、それは最近のスポーツでよく言われるイメージ・トレーニングとは違うんだよね。イメージ・トレーニングというのは、どちらかというと、ひとつのサクセス・イメージを何度もアタマの中に思い浮かべて、ワンパターンの自信をつけることでしょう。なんとか自分に言い聞かせるというか、暗示をかける。しかし、それじゃない。むしろいくつものシナリオ選択能力を持つということですね。

柔軟な思考が必要なのは、スポーツもビジネスも変わりはない。
1995年のワールド・カップの予選の最終戦で、日本はオールブラックスを相手にしたが、17対145という大会ワースト記録で屈辱的な大敗を喫した。
スキル、パワー、スピードというラグビーの3大要素のすべてにおいて日本は大きく劣っている上に、状況の変化に対応する判断力もないという状態であった。

その後日本代表チームの監督に就任した平尾さんは、日本ラグビーの再興を期して「ジャパン・プロジェクト」を立ち上げた。
そして日本チームのSWOT分析を行った。
⇒2016年5月16日 (月):分ける思考(5)マトリクス②/知的生産の方法(149)

平尾さんは日本チームが強くなるために、「自分で自分を成長させていけるような、自発性と自主性をもったプレーヤーを育てる」ことを1つの目的として設定した。
「知のスピード」をもったプレーヤーであれば、どのように変化する状況のもとにおいても壁を破れるであろう、と考えたのである。
日本のラグビーさらにはスポーツ界のために、もっともっと力を発揮してもらいたかったと思うのは私だけではないだろう。
合掌。
 

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2016年10月20日 (木)

自殺した人は忌むべきか?/日本の針路(299)

痛ましい自殺のニュースが報じられている。
写真コンテストを実施した青森県黒石市の「黒石よされ実行委員会」が、いじめ被害を訴えて8月に自殺した青森市の中2女子生徒が被写体だったため、いったんは最高賞を内定していた作品への授賞を事実上撤回したのだ。
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東京新聞10月19日

授賞は遺族も了承していたが、内定を取り消した市側の対応に遺族が不信を抱き、撮影者の了解を得て、受賞予定だった写真と氏名(葛西りま)を公表した。
すると黒石市の高樋憲市長が記者会見し「慎重さを欠く部分があり、撮影者や被写体の家族に誤解を与え、混乱を生じさせた。深くおわび申し上げる」と謝罪し、実行委は遺族と撮影者の同意が得られれば、市長賞を授与したいとした。

 実行委によると、入賞作品を内定した11日、市長賞の被写体が葛西さんと分かり、写真の公表について遺族の許可を得た。報告を受けた市長が13日、担当者に「亡くなっているのであれば再考すべきだ」と伝達。協議して内定取り消しを決めた。担当者は撮影者と遺族に経緯を説明し、コンテストの結果は17日、「市長賞なし」と発表した。
 高樋市長は「生徒が亡くなった経緯は調査中で、名前や顔写真が公表されていなかった。遺族の許可は得たが、こちらの判断で取り消した。苦渋の決断だった」と語った。
 葛西さんは8月25日、青森県藤崎町のJR奥羽線北常盤駅で列車にはねられ死亡した。スマートフォンのメモに「二度といじめたりしないでください」などと書いた遺書を残していた。無料通信アプリLINE(ライン)に悪口を書かれたり暴言を吐かれたりしていると、昨年6月から何度か学校に相談していた。
<自殺中2写真>入賞取り消し 再び授与へ

先日は、電通新入社員の過労自殺が話題になったばかりだ。
⇒2016年10月18日 (火):電通の光と影/ブランド・企業論(58)
また、関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の運転延長を巡り、原子力規制委員会の審査対応をしていた同社課長職の男性が4月に自殺していた。
1月の残業が200時間に達することもあり、敦賀労働基準監督署労基署は過労自殺と判断し、労災認定していた。

世の中には、自決は敗北であるというように、忌むべきこととする見方がある。
黒石市の元黒石観光協会会長や高樋市長もそう考えての判断だろう。
しかし、遺族にとっては、死者の名誉が大事である。

過労自殺とは、過労死に至るまでに精神的・肉体的に追い込まれて精神的破滅を迎え遂には自殺するに至ることをいう。
過労自殺か否かは法的概念であって、例えば法廷で判定されるようなものであるが、「自分で勝手に死んだ」(=私的な自殺)のではなく、仕事という「公」的な理由で死を選んだ(=過労死の一種)のだ、という判定が重要になる。
過労死ならば、イジメと同様に、死の原因は他人にあり、極論すれば一種の他殺である。

江藤淳が自死した時に山田潤治という弟子筋の人が論じていたことが思い出される。
過労自殺は過労死の一変種である。
過労死は肉体的破滅であるが、過労自殺は精神的破滅である。

そう整理した上で、山田氏は、「過労自殺=過労死」とすることが本当の意味での死者の名誉につながるのか、と問いかける。
「過労自殺=過労死」とは、「自殺」を「自殺」とみなさないということである。
自らの意思で死んだその意思をどう考えるのか。
(私的な)自殺は果たして忌むべきことなのか。

過労自殺という判断を、公的に(例えば裁判所で)認定することによって、「公的な自殺=善」、「私的な自殺=悪」という枠組みはより強化されるであろう。
その結果として、私的な自殺に対する偏見はますます強くなる可能性もある。
死者の名誉毀損という社会的偏見を晴らすために起こす裁判が、社会的偏見を助長するという悪循環を招くのではないか。

イジメ、パワハラ、過労等によって自殺に追い込まれたという場合、もちろん否定されるべきは、イジメ、パワハラ、過労等の原因であって、自殺者が咎められる筋合いではない。
過労自殺について、武蔵野大学の長谷川秀夫教授が次のような投稿をし、炎上した。

月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない。自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず。更にプロ意識があれば、上司を説得してでも良い成果を出せるように人的資源を獲得すべく最大の努力をすべき。それでも駄目なら、その会社が組織として機能していないので、転職を考えるべき。また、転職できるプロであるべき長期的に自分への投資を続けるべき。
長谷川秀夫教授「残業100時間超で自殺は情けない」 投稿が炎上、のち謝罪

長谷川氏は投稿を削除した上で、「私のコメントで皆様に不快な思いをさせてしまい申しわけございません」と謝罪のコメントを投稿したが、往々にして長谷川氏のようなことを言いがちである。
特に、過酷な労働や競争を体験してきた人に多い。
典型は軍隊である。

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2016年10月19日 (水)

「100年安心」年金制度はどうなるのか/アベノポリシーの危うさ(101)

「100年安心」を謳った年金制度改革が行われたのは、2004年のことであった。
公明党の坂口力厚労省が主導したものと記憶している。
公明党系の地方議員のブログに以下のように書いてある。

年金制度改革をした背景には2004年の改革まで5年ごとに年金制度を見直ししたために「保険料はどこまで上るのか」「将来は年金を受け取れるのか」との不安や不信がありました。多くの国民の願いは「ずっと変わらない年金制度の整備」でした。
そこで当時厚生労働相だった坂口力副代表が2004年に中心になり「持続可能な年金改革」を成し遂げた。
制度設計するに当たり、100年先までの日本の人口構成の変化を出し、いつの時点でどれくらいの年金額が必要か計算。今は5年分ほどある年金積立金を100年先に1年分だけ残るようにし、残りを後世代のために取り崩せばやっていけることが判明。(しっかりした統計資料を基に計算設計)
年金100年安心プラン!

ところが今国会で、年金給付額の伸びを抑える仕組みを盛り込んだ年金制度改革関連法案が審議されている。

161014 現行の制度は厚生年金、国民年金ともに原則として物価の変動に合わせて毎年の給付額が決まる。物価が上がれば年金は増え、下がれば減る。ただ、物価が上がっても、現役世代の賃金が下がった場合、給付額は据え置かれる。物価と賃金の両方が下がり、物価の下落幅が賃金より大きければ、賃金の下落幅にとどまる仕組みになっている。
Photo_3 年金法案は給付の新ルールを導入し、物価と賃金の両方が下がれば、下落幅が大きい方に連動させる。物価が上がり、賃金が下がれば賃金に、逆なら物価に合わせて減額になる。開始時期は二〇二一年四月。
年金給付抑制 政府「現役世代の負担減」民進「高齢者への打撃大」

この法案は、民進党の試算では、年金支給額は現在よりも5.2%も減少。2014年のデータにこの新たなルールを当てはめると、国民年金は年間約4万円減、厚生年金ではなんと年間約14.2万円も減るという。
安倍政権は2014年12月、「株式市場を活性化する」などという名目で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用計画を見直して株式比率(国内株、外国株)を50%まで高めた。
その結果が巨額の損失である。
⇒2015年12月 1日 (火):究極の公私混同と言うべきGPIFの資金運用/アベノミクスの危うさ(61)
⇒2016年9月30日 (金):GPIFの株式運用拡大の結果/アベノポリシーの危うさ(97)

姑息にも、参院選対策のため、例年7月上旬に実施されていたGPIFの前年度の運用成績の公表を参院選後の7月29日まで遅らせた。
その上、自身の公式Facebook(運用責任者は山本一太氏か?)で、次のように書いている。

株価下落により、年金積立金に5兆円の損失が発生しており、年金額が減る」といった、選挙目当てのデマが流されています。しかし、年金額が減るなどということは、ありえません。このことを明確に申し上げたいと思います。

しかし、当の本人が今年2月15日の衆院予算委で「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と言及しているのだ。
しかも減額幅の想定値を示さない姿勢である。

カット法案を徹底批判する民進党は、法案が成立した場合の減額幅の試算を公表するよう政府に求めているが、所管の厚労省は「将来の経済状況によるので試算はできない」と拒否し続けている。年金がいくら削られるかハッキリしないのなら、審議を始めても議論は深まらない。厳しい生活を送る高齢者にとって、減額幅は最大の不安の種でもある。
減額幅の提示拒否 安倍自民“年金カット法”で老人いじめ

しかし、将来の経済状況などいくらでも仮定してシミュレーションすればいい。
ようやく厚労省も試算結果を公表した。

 厚生労働省は17日、年金制度改革法案に盛り込んだ新たな支給ルールに関し、仮に過去10年間に適用した場合の年金受給額の試算結果を公表した。
 賃金などの変動に合わせて年金額が増減する新ルールを当てはめると、2016年度の基礎年金受給額は賃金下落を反映し、現行から3%程度(月額約2000円)下がるという。
年金受給額3%減と試算=過去10年、新ルール適用なら―厚労省

賃金が下がっている。
「アベノミクスは堅調だが、道半ば」という説明はウソだったのだ。
年金受給額が減額されるのなら、消費が上向くはずがない。
物価上昇に拘る日銀の認識は、経済の実態から外れていると言わざるを得ない。

振り返ってみれば、「100年安心」プランは、5年後には早くも制度の欠陥が明らかになりつつあったのだ。

1000905272 年金積立金を運用する独立行政法人「年金積立金管理運用」によると、〇八年度第三・四半期(〇八年十-十二月期)の市場運用の運用損益は五兆七千三百九十八億円の赤字で、運用利回りはマイナス6・09%でした。年度全体でも十兆円を超える運用損の恐れもあります。
 運用利回りの目安となる長期金利は〇九年初頭で1・3%前後にすぎません。
 しかも〇四年時点での試算の前提では、〇九年度以降は賃金上昇率2・1%、運用利回りは3・2%でした。この時も、試算の前提が甘いのではという疑問が出ました。今回は賃金上昇率、運用利回りともさらに上げた前提で、約束の「現役世代の50%確保」を維持したように見えます。
 百年安心の年金改革が想定通りに進んでいないため、結果として少子化の影響を考慮して年金の給付抑制を行う「マクロ経済スライド」の見通しも大きく変わりました。〇四年改革では、スライドは二三年度に終了するとしていました。しかし、今回の検証では一二年度から開始し三八年度まで年金抑制の調整が続くとしています。
 試算の前提は長期的な視点に立つとはいえ、これで大丈夫なのでしょうか?
「年金財政検証」を検証する(No.258) 甘い試算前提、100年安心の制度は大丈夫?

民進党が批判するように、物価と賃金の両方が下がれば、下落幅が大きい方に連動させる改革案だと、年金額がどんどん減る可能性がある。
高齢者が不安になるような改革を本気で導入するつもりだろうか。
「1億総活躍社会」こそデマゴーグというものだろう。

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2016年10月18日 (火)

電通の光と影/ブランド・企業論(58)

政府は「働き方改革」を掲げるが、痛ましい過労自殺が後を絶たない。
広告代理店電通の新入社員だった女性が自殺したのは長時間の過重労働が原因として労災認定された。
女性は昨年4月に入社し、試用期間だった9月までは残業時間が約40時間/月だったが、10月以降は約105に増えたという。

10月14日、東京労働局の特別対策班が、電通の本社に立ち入り調査に入った。
社会保険労務士の榊裕葵氏は、今回の立ち入り調査の意義について、4つの着眼点があるという(電通への強制捜査、その真意を読み解く4つのポイントとは?)

1.「かとく」が動いたこと
電通に立ち入ったのが労働基準監督署の監督官ではなく、東京労働局の「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)であった。
「かとく」は、重大性や悪質性の高い労働基準法違反を取り締まる役割を担うため、2015年にベテランの労働基準監督官を集めて、東京および大阪の労働局に新設された組織である。

2.立ち入りが「抜き打ち」だったこと
労働基準監督官が調査を行う場合、定期調査の場合や、労働者からの申告に基づく調査であっても違法性や証拠隠滅の恐れが小さいと考えられる場合は、あらかじめ調査の日時を通知した上で、立ち入りが行われたり、労働基準監督署に出頭を命じられたりする。
今回は、事前の通知がなく、「抜き打ち調査」であったので、電通の労働基準法違反が重大なものであるという認識を持って、調査に当たっているのだと考えられる。

3.官房長官のコメント
一企業に対する労働基準法違反の立ち入り調査について、官房長官がコメントを発表するというのは異例であるが、日本経済新聞は次のように報じている。
菅義偉官房長官は「結果を踏まえ、過重労働防止に厳しく対応する」と述べた。その上で「働きすぎによって尊い命を落とすことがないよう、働く人の立場にたって長時間労働の是正、同一労働同一賃金を実現したい」と話した。
「一罰百戒」の意味を持つ国策捜査ではないか。

4.「勝ち組」の会社であること
世間の一般的な評価として、「ブラック企業」ではなく、むしろ「エクセレント企業」とされている電通に対して立ち入り調査が行われた。
これまで過重労働がニュースで大きく取り上げられたのは、靴小売の「ABCマート」の書類送検や、棚卸代行の「エイジス」の社名公表処分などや「すき家」のワンオペ、「ワタミ」の過労自殺といったよう、どちらかというと、非正規社員を多く雇用し、低賃金で重労働になりがちな小売業や飲食業が話題の中心であった。
「電通」は給与水準も高く、新卒で内定を得られたら「勝ち組」と称えられる一流企業に「かとく」が立ち入った。

個人的な体験として言えば、月100時間程度の残業は別に珍しいことではなかった。
しかし、電通では1991年にも入社2年目の社員が過労で自殺した。
2000年の最高裁判決で「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする責任がある」と認定して、過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れができた。
電通でも、損害賠償と謝罪をすることで遺族と和解したという経緯がある。

過労か否か?
個人差もあれば、環境の影響も大きい。
このニュースを聞いて、直感的に思ったのは「鬼十則」との関係である。
4代目社長・吉田秀雄によって1951年につくられた「電通マン」の行動規範である。
高度成長期のビジネスマンの少なからぬ人が、目にしたり影響を受けたのではないか。
Photo_4
http://www.sciencehouse.jp/materials/oni.pdf

働き盛りならば耐えられることでも、新入社員にとっては耐えられないことはいくらでもある。
電通という会社には、本当に有能な社員と、周りにおんぶされているような社員がいる。
まあ、どこの企業でもあることだろうが、電通の場合は極端であるような気がする。
「鬼十則」が示すのは、成果主義でもある。

「君の残業時間は会社にとって無駄」と上司からパワハラ発言を繰り返されていたともいい、次のような記事もある。
1610202
週刊文春10月20日号

「鬼十則」がパワハラと親近性があることは直ぐに理解できる。
母子家庭で育ち、「お母さんを楽にしてあげたい」と猛勉強して東京大学に入り、電通に就職した。
「体も心もズタズタ」「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」……
友人たちに伝えていた言葉が哀れを誘う。

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2016年10月17日 (月)

新潟県知事選に野党推薦の米山隆一氏が勝利/日本の針路(298)

新潟県知事選に、共産、自由、社民3党推薦の医師米山隆一氏が、自民、公明両党推薦の前長岡市長森民夫氏ら無所属3新人を破り初当選した。
最終的な得票数は以下の通りであった。

当  528,456 米山隆一 無新 =共由社
     465,044   森民夫 無新    =自公
       11,086 後藤浩昌 無新
        8,704  三村誉一 無新

米山氏は夏の参院選で共闘した3党や市民団体の要請を受け、告示直前に民進党を離党して出馬した。
民進党は、自主投票を決め込んだが、当初優勢と見られていた森氏に、米山氏が猛追する情勢をみて、重い腰を上げ最終盤に蓮舫代表が応援に入るなど米山氏応援に回った。

民進党にとっては踏み絵となった選挙戦であったと言えよう。
民進党不在の選挙戦になれば、米山氏が勝っても負けても、民進党の責任が問われる。
ひいては存在意義が問われることになろう。

米山隆一陣営・森裕子選対本部長(参院議員)は、Facebookに次のように書いている。

 告示まで1週間を切った9月23日に出馬を表明し出遅れたものの、広い本県で1万2千枚のポスターを告示までに貼り終えるなど、短期間に選挙準備を進められたことは奇跡といえる
 県内の各地区が夏の参院選で自主的な創意工夫で戦い、培った絆が生き、全県的に緩やかな連携を整えることができた。
 選挙戦は、準備の段階で(森民夫氏の)背中が見えない状態ではなかった。(野党の党首らが来県した)今月7日の街頭演説会を盛り上がりのポイントに据え、運動を計画的に広げることができた。
 原発の再稼働問題を最大の争点に据え、対立軸を鮮明にしたことが大きい。介護や医療、福祉の現場を知り尽くした米山氏の訴えは説得力を生んだ。民進党の参戦も心強かった。
 参院選と同じ轍(てつ)を踏みたくない自民党が組織戦を強め、新しい材料をどんどん提供してくれて、うれしい。二階俊博幹事長が経団連幹部との会合で「電力業界などオールニッポンで対抗を」と訴えたそうだが、これを機に「カネのために原発を動かそうとする中央政府、財界、原子力村」対「命と暮らしを守ろうとする新潟県民」という構図ができた。
 もし原発で事故が起きたら、産業振興もコメ作りも吹っ飛び、健康にも被害が及ぶ。泉田知事の悔しい思いを受けてやってきた。無党派層も重視し「県民の力を一つにすれば必ず勝てる。原発の再稼働は必ず止められる」と、最後まで訴えた。

原発再稼働に反対する声が強い中で、当初、4選出馬を表明していた再稼働反対派の現職知事・泉田裕彦氏が突如、出馬を撤回した。
⇒2016年9月 3日 (土):泉田知事の出馬撤退と柏崎刈羽原発再稼働/技術論と文明論(63)
裏で官邸と原発ムラがスキャンダルを使った揺さぶりを仕掛けたとも言われている。
原発ムラの一翼を担っている電力労連は、森氏支持を表明し、民進党に圧力をかけて米山氏の推薦を阻止して自主投票に追い込んだ。

米山氏が優勢という情勢が判明すると、安倍官邸はより露骨な作戦に出た。
13日に安倍首相が自ら泉田知事と会談し、森氏を後継指名するように要請したという。
泉田知事はさすがに拒否したようであるが、安倍首相と会談したという事実は報道され、森氏に有利に働くという計算だという。
しかし、それでも、県民は再稼働反対派の米山氏を支持し、知事に選んだ。

経団連の榊原定征会長は、「東京電力がしっかりと安全対策を行い、県民の方々に安全性について理解を求める。そのうえで知事に冷静な判断をしていただき、再稼働に向けて進めていただきたい」と語った。
余りに新潟県民を侮辱した言葉と言わざるをえない。
原発再稼働が明確な争点として浮かび上がったことが大きい。
2161017
東京新聞10月17日

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2016年10月16日 (日)

稲田防衛大臣の資質と適性/人間の理解(18)

稲田朋美防衛大臣が何かと話題になっている。
白紙領収書問題は、政治家の資質というよりも、社会人としての一般常識が問われる問題だろう。
菅官房長官も同様の問題を抱えているうえ、高市総務相は「規正法に領収書の作成方法は規定されておらず、法律上の問題は生じない」と国会答弁をした。
こんな詭弁が通用するのが、国権の最高機関なのだろうか?
⇒2016年10月12日 (水):領収書の金額は相手先が記入すべきもの/日本の針路(295)

稲田氏の過去の発言も問題視されている。

1.核保有に関して
2011年の雑誌対談で稲田氏が日本の核保有を「国家戦略として検討すべきだ」と発言していた。
10月11日の参院予算委員会でも、白真勲氏が「そのような個人的見解を持っている人が防衛相になったから問題なんだ」と、発言の撤回を何度も求めたが、稲田氏は「過去の政治的な発言は、発言の時点でどうだったかという問題であり、この場で撤回するつもりはない」と突っぱねた。
過去の発言について、現在の時点でどう判断するかから逃げてはならないだろう。

2.自衛隊経験入隊義務化
同じ雑誌対談で「若者全員に一度は自衛隊に触れてもらう制度はどうか」と提言している。
社民党の福島瑞穂副党首が「憲法で禁止する意に反する苦役に当たる可能性がある。徴兵制と紙一重だ」と、撤回を求めたが、稲田氏は撤回には応じずに「徴兵制の類いは憲法に違反する。そのようなことは考えていない」とかわした。

3.子供手当を防衛費
稲田氏は民主党政権時代に、「子ども手当を防衛費にそっくり回せば、軍事費の国際水準に近づく」と発言した。
稲田氏は「財源のない子ども手当を付けるぐらいなら、軍事費を増やすべきではないか、と言った」と反論したが、「防衛費」とするべき部分を「軍事費」を言い間違ったことに気づき、答弁をやり直す場面もあった。
価値観の問題であるが、つい軍事費と言ってしまうあたりが本音の表出であろうか。

4.「中国の戦艦」発言
10月4日の衆院予算委で、6月に中国海軍の艦艇が沖縄県の尖閣諸島の接続水域を初めて航行したことを「中国の戦艦が入ってきた」と表現した。
防衛省はこの種の表現にナーバスであり、「戦闘艦艇」が正しい。
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「防衛相の資質」に集中砲火 「核保有」撤回せず 「軍事費」言い間違い

稲田氏は10月8日、南スーダン・ジュバの自衛隊宿営地などを訪問し、部隊の活動内容や現地の治安状況などを確認した。
稲田氏は、「ジュバの中の状況は落ち着いているという認識をした」と述べたが、ジュバには7時間滞在しただけだという。
政府は今回の視察結果などを踏まえ、派遣部隊に「駆けつけ警護」の新任務を付与するかどうか判断する方針だというが、自衛隊宿営地などを訪問しただけで、住民の窮状に触れないで判断できるのか、というのは当然の批判であろう。
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2016年10月15日 (土)

原発稼働に関する野田民進党幹事長の過誤/日本の針路(297)

原発稼働に邁進する安倍政権は未来に対して大きな災厄を遺すだろう。
原発は、「発電コスト」「核燃料サイクル」「高レベル放射性廃棄物の処分場」等々で、もはや行き詰まりは明らかである。
⇒2016年10月 2日 (日):八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)

しかし、東日本大震災後、全停止していた原発に再稼働の道を開いたのは、現民進党幹事長の野田佳彦氏であった。
野田氏は、民主党政権で首相の座にあった時、2つの大きな過誤を犯した。

第一は、2011年12月に、福島第一原発事故の「収束」を宣言したことである。
「冷温停止状態」になったことをもって「収束」としたのである。
⇒2011年12月17日 (土):フクシマは「収束」したのか?/原発事故の真相(14)

野田氏は、汚染水が垂れ流しであり、デブリ(核燃料の残滓)がどこに、どういう状態であるのかも分からないのに、福島原発事故の「収束宣言」をしたのである。
⇒2015年5月29日 (金):立憲主義の否定は一種のクーデター/日本の針路(168)

福島第一原発事故で、メルトダウンした核燃料(デブリ)をどう処理するのか?
いったん記述された「石棺方式を含め、状況に応じて柔軟に対応する」という計画案が削除され、デブリの状況把握もできていないのが現状である。
⇒2016年8月15日 (月):敗戦記念日の雑感/永続敗戦の構造(4)
野田氏の「収束宣言」が、安倍首相の「汚染水は全体としてコントロールされ、影響はブロックされている」という言葉に繋がっているとも言える。
⇒2014年5月17日 (土):汚染水は完全にブロックされている?/原発事故の真相(113)
⇒2015年1月 5日 (月):福島原発事故による海洋汚染/原発事故の真相(124)
⇒2015年2月26日 (木):汚染水はコントロールされていない/原発事故の真相(128)

第二は、関西電力大飯原発の再稼働に踏み切ったことである。
⇒2012年4月 4日 (水):「大飯原発再稼働」の政治判断?/原発事故の真相(24)
⇒2012年4月 6日 (金):大飯原発再稼働というリトマス試験紙/花づな列島復興のためのメモ(48)
この時点で、原発を再稼働させるべき客観的条件はなかった。
関西電力の経営事情を別とすれば。
現に再稼働に反対する声は強かったのである。
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東京新聞10月14日

こうした野田政権の姿が、政権交代による日本の政治の進化を期待した多くの国民を裏切った。
民主党政権は、崩壊すべくして崩壊して行ったのである。
⇒2012年4月10日 (火):暴走が止まらない民主党政権/花づな列島復興のためのメモ(50)
⇒2012年4月13日 (金):拙速に過ぎる政府の大飯原発再稼働判断/原発事故の真相(26)
⇒2012年4月17日 (火):壊れてしまった民主党/花づな列島復興のためのメモ(54)

野田政権は、すぐできる対策は関西電力に任せ、時間のかかる対策は棚上げするという最悪の判断で大飯原発を再稼働させた。
⇒2012年4月23日 (月):なぜ急ぐ、大飯原発再稼働/原発事故の真相(27)
⇒2012年4月25日 (水):大飯原発の再稼働を急ぐ政府を打倒しよう/花づな列島復興のためのメモ(55)

野田氏が幹事長を務める民進党は、新潟県知事選で、脱原発派候補を推せなかった。
電力労連が支持母体だとはいえ、より広範な支持母体から見放されることになるだろう。

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2016年10月14日 (金)

旧姓使用不可判決の非合理/日本の針路(296)

結婚後に職場で旧姓使用が認められないことの非合理を訴えた裁判で、東京地裁の小野瀬厚裁判長は「職場で戸籍上の氏名の使用を求めることには合理性、必要性がある」として、原告の請求を棄却した。161012
東京新聞10月12日

判決によると、教諭は2003年から勤務し、2013年7月に結婚し、改姓した。
学校側に旧姓の使用を認めるよう申し出たが、「教職員として行動する際には戸籍名を使用すること」とされ、認められなかった。
現在は時間割表や保護者への通知などには戸籍名を使用しているが、教室内では旧姓を名乗り、多くの生徒からも旧姓で呼ばれているという。

 判決はまず、旧姓について「結婚前に築いた信用や評価の基礎となる」と述べ、旧姓の使用は法律上保護されると位置づけた。一方で、戸籍名について「戸籍制度に支えられたもので、個人を識別する上では、旧姓よりも高い機能がある」とも指摘。今回のように、職場の中で職員を特定するために戸籍名の使用を求めることには、合理性があると結論づけた。
旧姓使用、なぜ認められなかった 判決読み解くと…

旧姓使用をめぐっては昨年12月の最高裁大法廷判決が、「旧姓使用が社会的に広まっており、戸籍名に変わることでの不利益が一定程度緩和される」ことなどを理由に、夫婦同姓を「合憲」と判断している。
この最高裁判決と今回の地裁判決が矛盾していることは明らかである。

選択的夫婦別姓を求めれば、旧姓を通称として使えばいいとし、旧姓使用を求めれば、戸籍名を使えという。
今回の判決は、男性裁判官3人が判断したが、旧姓を使える範囲が社会で広がる傾向にあることを認めつつ、「旧姓を戸籍名と同様に使うことが社会で根付いているとは認められない」と結論づけた。
「社会で根付いているとは認められない」というのは、実状に反しているように思う。
私の知っている例では、ごく当たり前に旧姓が使用されているし、当該学校の生徒も旧姓で呼んでいるではないか。 

 

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2016年10月13日 (木)

小林秀雄賞とクリエイティブな着想/知的生産の方法(161)

新潮社による「小林秀雄賞」は、今年で15回目を迎えた。
Wikipediaによれば、「日本を代表する文芸評論家・批評家の小林秀雄の生誕100年を記念として新たに創設された学術賞である。日本語表現豊かな著書(評論・エッセイ)に毎年贈られる。ただし、小説・詩・フィクションは対象外である」。
今年の受賞作は、森田真生『数学する身体』新潮社(2015年10月)である。
⇒2016年9月10日 (土):『数学する身体』の小林秀雄賞受賞/知的生産の方法(156)

過去の受賞作は以下のようである。
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小林秀雄賞 過去の受賞作品

確かに「日本語表現豊かな著書(評論・エッセイ)」がラインナップされている。
しかもユニークな視点から書かれた作品が多い。
読解力の低下が問題になっている折から、高校生辺りの副読本として好適な作品群と言えよう。

18の受賞作の出版社別件数は以下のようである。
新潮社:6
筑摩書房:4
平凡社、講談社、文藝春秋、四月社、集英社、朝日出版社、祥伝社、岩波書店:各1
新潮社が多いのは当然であろうが、筑摩書房の4件が目立つ。

私は第1回の受賞作が斎藤美奈子文章読本さん江に与えられると聞いた時、我が意を得たと思った記憶がある。
「文章読本」と名のつく著書は少なくない。
思いつくだけでも、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさしなどの日本を代表する文豪、あるいは文芸界の大御所と言われる人たちが、競って書いている。
斎藤さんの『文章読本さん江』は、谷崎潤一郎以来、多くの名文家がモノにしてきた『文章読本』を見事に腑分けしてみせている。

文豪、あるいは文芸界の大御所と言われる人たちが書いた『文章読本』が、ビジネス文書作成スキルという面では役に立たないことは実感していた。
し、まあ文章のジャンルが違うのだから、当然だということでもあろう。
「伝達の文章」と「表現の文章」の差異であるが、そこに着目して明快に説明して、しかも読み物になっているのは、「芸」と言って良いだろう。
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文章読本さん江

斎藤さんは、辛口のコラムニストとして活躍しているが、特に着眼の視点がユニークである。
創造力の基礎である「異質馴化・馴質異化」の達人だと思う。
⇒2011年1月29日 (土):異質馴化-斎藤美奈子さん江/知的生産の方法(8)
⇒2011年1月30日 (日):馴質異化と異質馴化/「同じ」と「違う」(27)

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2016年10月12日 (水)

領収書の金額は相手先が記入すべきもの/日本の針路(295)

政治家の白紙領収書なるものが話題になっている。
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稲田朋美防衛大臣が白紙領収書の詐欺・横領罪行為!富山市議が大量辞任!

この問題に関しては、産経新聞の主張(社説)に全面的に同意である。
以下に全文を引用する。

 「政治とカネ」をめぐる政治家の常識が非常識なことには驚かないと思っていたが、そこまで開き直れるのか、とあきれる問題があった。
 菅義偉官房長官と稲田朋美防衛相が、同僚議員の政治資金パーティーで代金を支払った際に、白紙の領収書を受け取り、自身の事務所関係者が金額を書き込んでいた。
 当日の事務作業が煩雑になる、水増しはしていないなどの釈明が並べられたが、「法律上の問題はない」ので構わないという。
 先週の国会質疑で取り上げられた後、さすがに評判の悪さを気にしたのか、自民党は代金を受け取った議員側が、領収書に必要事項をきちんと書いて渡すよう、通達を出した。
 政党の内規で十分なのか。自民党のみならず、各党は資金の透明化について絶えず取り組む必要がある。
 代金の受領者が支払者に対し、受け取ったことを証明するために発行するのが領収書だ。支払者側が記入したのでは用をなさない。それが世間の常識である。
 「白紙」とみられたものは、菅氏が平成24年から3年間で計270枚、計約1875万円分に上り、稲田氏も同じ期間で計260枚、計520万円分に上った。
 菅氏らは「パーティーの主催者の了解の下で記載している」などと釈明したが、総務省の手引では受領者側が領収書に追記するのは不適当としている。
 驚いたのは、共産党から同じ問題を追及された高市早苗総務相が「発行側の作成方法には規定がない」と、白紙領収書を容認するかのような答弁をしたことだ。
 白紙領収書といえば、富山市議会では架空の金額を書き込み、政務活動費を不正請求していたとして、複数の市議が辞職した。
 パーティー券購入と内容は異なるとはいえ、政治資金処理の不透明さを象徴している。自民党では白紙は慣例かと思わせる。
 領収書方式が、透明性を完全に実現するわけでもない。政治資金の移動はすべて銀行口座間で行うなどの方法もかねて指摘されているが、実現は進まない。
 安倍晋三政権下では「政治とカネ」の問題で複数の閣僚が辞任した。必要な法改正も含め、あらゆる観点から透明化への努力を払うべきだ。政務活動費不正が相次ぐ地方議会を笑えない。
【主張】白紙の領収書 非常識がまかり通るのか

会計用語に証憑書類という言葉がある。
証憑というのは「事実を証明する根拠となるもの」のことであり、いわゆる証拠と同義と考えていいだろう。
会計に関しては次のような説明がある。

証憑書(しょうひょうしょ)とは
1.取引に関して相手先から受領したもの(外部証拠書類)
注文書、契約書、送り状、製造指図書、見積書、物品伝票、請求書、領収書、各種計算書、支払証明書(領収書のない場合)
2.取引に関して自己の作成したもの(内部証拠書類)
注文書控、契約書控、領収書控、レジペーパー(控)、支払証明書(領収書のとれない場合に作成したもの)、旅費精算書小切手帳控、支払手形控、当座勘定照合表(銀行により名称が異なる)
証憑書類の整理・保存の仕方

つまり「領収書」は「相手先から受領したもの(外部証拠書類)」の代表である。
安倍首相までも「法律的には問題がない」と答弁していたが、とんでもない。
領収書は法律上、弁済を示す公的書類である。
これを記載することができるのは発行した側だけだ。
白紙の領収書をもらって自分たちで勝手に金額を記入する行為は、刑法の文書偽造罪にあたると考えるべきだろう。
企業で税務調査を受けたものなら、白紙領収書に自分で金額を記入する行為の異常さに唖然とするだろう。
こんな基本的なことを、国を代表しているはずの複数の政治家が弁えていないことに慄然とする。

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2016年10月11日 (火)

アベノミクスの効果と影響/アベノポリシーの危うさ(100)

一般に、何か目的を持って行った場合、その目的に沿った結果と、そうではない結果が生ずる。
例えば、三島駅北口の東レ工場は三島市が誘致に積極的で、東レの三島進出に対して数々の特典を与えたという経緯がある。
東レの生産量増大に対応して揚水量も増えていったが、それが原因で三島市内の湧水は減少した。
しかも東レからの税収は、長泉町が圧倒的に多く、三島市は他の事業者に比べても小額であったし、従業員の現地採用も、事前の説明と比べるとはるかに少なく、東レの従業員の多くが北陸や東北の出身者であった。
結果的に、東レ誘致の経済効果は、負担に比べて小さなものと評価せざるを得ないものであった。
⇒2009年7月29日 (水):湧水量の減少の原因と影響

アベノミクスと称する経済政策の効果と影響はどうだろうか?
黒田日銀総裁が拘るように、デフレスパイラルからの脱出として良いであろう。
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東京新聞10月10日

つまりデフレ脱却で企業が儲けるようになれば、給料が上がり消費も良くなるハズであった。
企業の儲けが先であることを批判されるのを予防するため、トリクルダウンということが盛んに言われ、耳慣れなかったこの言葉が、2014年の流行語大賞にノミネートされる程だった。
⇒2016年6月11日 (土):トリクルダウンの幻/アベノポリシーの危うさ(79)

ところが格差拡大が経済成長にマイナスだという認識が広まると、トリクルダウンという言葉を使わなくなった。
「トリクルダウンがまだ弱い」と言っていたのが、「アベノミクスは道半ば」に置き換わって、アベノミクスのエンジンをさらに吹かすと主張している。
⇒016年8月30日 (火):いつまでも「道半ば」の経済政策/アベノポリシーの危うさ(95)

しかし物価上昇を目指したアベノミクスの失敗は明らかである。
⇒2016年10月 1日 (土):低迷する消費と経済政策/アベノポリシーの危うさ(98)
可処分所得が減少している中で、消費意欲は減退する一方である。
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東京新聞10月10日

物価を上げることを目的とせず、可処分所得の上昇を目的とすべきだろう。

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2016年10月10日 (月)

応用に傾斜し過ぎている研究費の配分/日本の針路(294)

今年のノーベル医学生理学賞を大隅良典東京工業大栄誉教授が単独受賞した。
⇒2016年10月 3日 (月):大隅良典氏にノーベル医学生理学賞/知的生産の方法(161)
自然科学分野の日本人受賞者は下表のようであり、単独受賞は1949年の湯川秀樹博士(物理学賞)、1987年の利根川進博士(医学生理学賞)に続き3人目である。
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日本人単独は3人目=自然科学系のノーベル賞

まことに慶賀の至りであるが、当の大隅教授の警鐘に耳を傾けるべきではないか。
受賞を祝う記者会見で、記者が、「ここ10年ぐらい政府の研究開発投資がだんだん応用寄りになっているのではないか、と問いかけたのに対する大隅教授の言葉である。

私はたいへん憂いていて。やっぱり先ほども言いましたように、サイエンスってどこに向かっているかというのはわからないところが楽しいことなので、そういうことが許されるなか、やっぱり社会的な余裕みたいなものがですね。だから、「これをやったら必ずこういういい成果につながります」ということを、サイエンスでいうのはとっても難しいことだと思います。なので、もちろんすべての人が成功できるわけではないんだけど、そういうことにチャレンジするというのが科学的な精神だろうと私は思っているので。そういう意味で、少しでもそういう社会がゆとりをもって基礎科学を見守ってくれるような社会になってほしいと常々思っていて。そういう意味で私も少し、1つでも努力をしてみたいと思っています。
ノーベル賞大隅氏「“役に立つ”という言葉が社会をダメにしている」賞金は若い研究者のサポートに

イノベーションだ、起業だと言ってみても、基礎が社会の総合力を支えているのである。
日本で初めてノーベル化学賞を受賞した福井謙一博士の理論が生まれる過程を解説した米沢貞次郎、永田親義『ノーベル賞の周辺―福井謙一博士と京都大学の自由な学風』化学同人(9910)は、副題が示すように、福井謙一博士のノーベル賞受賞の背景に、自由な学風があったこと示した著書である。
福井博士の受賞は、現代化学理論の根幹を成すフロンティア軌道理論に対して与えられたものだが、自由を尊び、基礎を重視する学風が先見性の伝統を生んだのである。
⇒2009年10月10日 (土):プライマリーな独創とセカンダリーな独創

同様のことは、文科系軽視にも当てはまるのではないか。
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週刊新潮10月13日号
文科系を含めたリベラル・アーツがないと俯瞰的な構想ができない。
大隅氏も東大教養学部の出身である。
リベラル・アーツの欠落している典型が、安倍首相の応援団である「文化芸術懇話会」である。
⇒2015年7月12日 (日):「文化芸術懇話会」におけるリベラルアーツの欠落/日本の針路(195)

大学の経営を支える公的な仕組みは、基盤的経費(国立大学運営費交付金、私立大学等経常費補助金など)と、国が公募・審査を行う競争的資金との両輪(デュアルサポート)から成っている。
学術研究の振興を担う競争的資金は科学研究費助成事業(科研費)である。基盤的経費に依存する個人研究費が減少する一方、個々の研究者にとっては、もっぱら科研費が自らの力で獲得しえる「命綱」として極めて重い意味を持ってくる。
研究費を支える「命綱」とまで表現される科研費だが、2014年度予算の2276億円から今年度までほぼ横ばいとなっている。
文科省・研究振興局学術研究助成課の担当者はBuzzFeed Japanの取材に「大学の運営費交付金の予算は減っているため、応募者が増加している状況にある。競争率が上がり、相対的には採択率が下がる状況にあります」と話す。
「日本発のノーベル賞は減っていく……」 科学界に不安が広がる理由

何が将来的に意義のある研究かどうかは、予測不能である。
文科省の官僚の判断できることではないのだ。
オリンピックに3兆円の金を使うならば、何割かは基礎研究に回すべきだろう。
その方が結局は、コストパフォーマンスも高いに違いない。

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2016年10月 9日 (日)

巨大噴火リスクにどう備えるか/技術論と文明論(77)

10月8日午前1時46分ごろ、熊本県の阿蘇山で爆発的噴火が発生した。
熊本・大分地震の記憶が生々しい。

Ws000000気象衛星ひまわり8号の観測によると、噴煙は高さ1万1000メートルの上空まで上がった。気象庁は阿蘇山の噴火警戒レベルを「2」(火口周辺規制)から「3」(入山規制)に引き上げ、火口から2キロの範囲での噴石の飛散や火砕流に警戒するよう呼び掛けている。
 阿蘇山で、一定以上の爆発や空気の振動を伴う爆発的噴火が起きたのは1980年1月26日以来、36年ぶり。噴火に伴う火山性微動で、熊本県南阿蘇村で震度2の揺れを観測した。阿蘇山で火山性微動により震度2以上の揺れを観測したのは95年以来36年ぶり。気象庁は噴煙の高さから予測して、約380キロ離れた兵庫県南あわじ市まで10県の100以上の市町村に降灰予報を出した。
阿蘇山噴火 気象庁「同じ規模、起こりうる」警戒呼びかけ

「破局噴火」という言葉がある。
石黒耀が2002年に発表した小説『死都日本』で考案した用語である。
作中の設定では、南九州の加久藤カルデラが約30万年ぶりの超巨大噴火を起こし、火山噴火予知連絡会はこれを「じょうご型カルデラ火山の破局“的”噴火」と発表したが、NHKの臨時報道番組のキャスターが「破局噴火」と間違えて連呼したことにより、日本国内のみならず海外においても「近代国家が破滅する規模の爆発的巨大噴火」を Hakyokuhunka と呼ぶようになったとされている。
⇒2016年4月15日 (金):熊本の地震と『死都日本』のメッセージ/技術論と文明論(48)

『死都日本』は現実の火山学者からも超巨大噴火をリアリティーを持って描いた作品と評価された。
阿蘇山はかつて4回のカルデラ巨大噴火を経験しているが、今回の噴火をきっかけにして破局的な噴火を引き起こす可能性はあるのだろうか?

巨大カルデラ噴火を起こした火山は7つあるが、そのうちの4つが九州に集中している。その中でも最大のものが、東西18キロ、南北25キロの阿蘇カルデラである。そう、先日の熊本地震で活発化が懸念される、あの阿蘇山だ。もし、阿蘇カルデラで巨大カルデラ噴火が起こったら、日本はどうなるのか。
まず、最初のプリニー式噴火によって、中部九州では場所によっては数メートルもの軽石が降り積もって壊滅的な状況に陥る。そしてクライマックス噴火が始まると、巨大な噴煙柱が崩落して火砕流が発生する。軽石と火山灰、それに火山ガスや空気が渾然一体流れる火砕流は、キノコ雲状に立ち上がった灰神楽の中心から、全方位へと広がって行く。数百℃以上の高温の火砕流はすべてのものを飲み込み焼き尽してしまう。そして発生後2時間程度で700万人の人々が暮らす領域を覆い尽くす。
Photo九州が焼き尽された後、中国・四国一帯では昼なお暗い空から大粒の火山灰が降り注ぐ。そして降灰域はどんどんと東へと広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。
大阪では火山灰の厚さは50センチを超え、その日が幸い雨天ではなかったとしても、木造家屋の半数近くは倒壊する。降雨時には火山灰の重量は約1.5倍にもなる。その場合は木造家屋はほぼ全壊である。
その後、首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの火山灰が積もり、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する。水道は取水口の目詰まりや沈殿池が機能しなくなることで給水不能となる。
現在日本の発電量の9割以上を占める火力発電では、燃焼時に大量の空気を必要とするが、空気取り入れ口に設置したフィルターが火山灰で目詰まりを起こすために、発電は不可能となる。これにより、1億2000万人、日本の総人口の95%が生活不能に陥ってしまう。
同時に国内のほぼすべての交通網はストップする。5センチの降灰により、スリップするため、道路は走行不能となる。従って除灰活動を行うことも極めて困難を極めるだろう。主にガラスからなる火山灰は、絶縁体である。この火山灰が線路に5ミリ積もるだけで、電気は流れなくなり、電車はモーターを動かすことができなくなるし、信号も作動しなくなるのだ。
さらに言えば、現在最も一般的なレールは15センチ程の高さしかない。従って北海道以外の地域では、そもそもレールそのものが埋没してしまう。
このように、交通網が遮断されてしまうので、生活不能に陥った人たちに対する救援活動や様々な復旧活動も、絶望的になる。巨大カルデラ噴火の発生による直接的な被害者は、火砕流と降灰合わせて1000万人程度であろう。しかし、救援・復旧活動が極めて困難な状況下で生活不能に陥った1億人以上の人々は一体どうなるのだろうか?
人間は断食には比較的耐えることができるようだが、水は生命維持には必須である。最低で4~5日間水分の補給がないと、私たちは生きることはできない。救援活動がほとんど不可能な状態では最悪の事態、つまり1億人以上が命を落とすことを想定しておく必要があるだろう。
阿蘇山「カルデラ噴火」が、日本を壊滅させる

まさに日本沈没である。
阿蘇山は日本を貫く巨大な活断層である「中央構造線」のほとんど真上に位置している。
熊本地震が発生してから、中央構造線付近を震源とする地震が増えており、ほぼ線上に伊方原発が立地しているのだ。
伊方町長選では原発容認派が勝ったが、伊方町だけの問題ではない。

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2016年10月 8日 (土)

「もんじゅ」廃炉と核燃料サイクル/技術論と文明論(76)

やっと廃炉の方向性が決まった「もんじゅ」に目くらましの可能性があると指摘されている。
政府は「もんじゅ」は廃炉にしても核燃サイクルの開発は続けるという。
⇒2016年9月23日 (金):破綻しているのは「もんじゅ」and/or「核燃料サイクル」/技術論と文明論(70)

「もんじゅ」を廃炉にして、核燃料サイクル」は続けるという意味をどう考えるか?

「もんじゅ」の廃炉で、いかにも重大な政治決断をしたように見せかけ、その実、「核燃サイクル」にかける予算や人員は減らさないということではないか。いつものように目くらましでごまかされないよう、政府の真の意図をさぐっておかねばならない。
いまさらいうまでもなく、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。
いずれ、科学技術の力で克服できると踏んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている。
この状況を打開し、ウラン資源を持たない弱みを解消するための、一石二鳥プランとして浮上し、事業化したのが「核燃料サイクル」である。
使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出して再び使うというサイクル計画。そこには、自力で核兵器をつくる技術的な能力を持っていたいという政府の思惑もある。
それを承知のうえ、米国が原子力協定を結んで非核保有国である日本に再処理を認めたのは、思うがままコントロールできる、いわば「属国」という双方暗黙の前提があるからだ。
この事業計画のかなめとなるのが高速増殖炉「もんじゅ」だったが、トラブル続きで36年経っても実用化できなかった。1兆円もの巨費を垂れ流し、多くの職員やファミリー企業の雇用を維持するだけの存在となっていた。
民主党政権下の平成24年9月には、「革新的エネルギー・環境戦略」なる文書のなかで、「研究を終了する」という目標が打ち出された。「もんじゅ」廃炉のチャンスだったが、しょせん目標は目標にすぎなかった。
そして、自公に政権が移ったあと、原子力ムラの勢いが復活し、2013年12月、政府はエネルギー基本計画を作成して、民主党政権が決めた「原発ゼロ」方針を撤回、「もんじゅ」に関しては「研究終了」から「実施体制を再整備する」に転換した。
だがそれには無理があった。「もんじゅ」は、実施体制の再整備どころか、まったく稼働のめどが立たない。年200億円をこえる国費は人件費を中心とする維持管理費に消え、開発の進展にはつながらない。
もんじゅ廃炉の裏に、新たな「天下り利権」死守の目くらまし疑惑

はたして、「もんじゅ」をなくして、「核燃サイクル」が成り立つのか?
「もんじゅ」は廃炉にするが、「高速炉」の研究は続けるという理屈は成り立つのか?

核燃料サイクルは以下のような図で説明されている。
Photo
核燃料サイクル(原子燃料サイクル)とは

高速増殖炉を動かすから、青森県は全国の原発から出る「使用済み核燃料」を引き受けてきたのです。高速増殖炉を動かさないのならプルトニウムは必要なくなり、使用済み核燃料はゴミとなってしまいます。そのばあいは今あるゴミは全て各電力会社へ持って帰ってもらうという約束を国と交わしているのです。だから国も電力会社も「核燃料サイクル計画」をやめるとは口が裂けても言えないのです。
高速増殖炉「もんじゅ」廃炉は「核燃料サイクル計画」というウソ崩壊の序章

「もんじゅ」が止まれば、その燃料を作り出す「核燃料サイクル計画」を続ける意味がない。
「核燃料サイクル」をやめたら、使用済み核燃料は電力会社へ返還されるので、原発の運転ができなくなる。
もはや原発政策は全般的に破綻しているのだ。
⇒2016年10月 2日 (日):八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)

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2016年10月 7日 (金)

半世紀前に出土木簡からペルシャ人情報/やまとの謎(116)

奈良文化財研究所は10月5日、現在の奈良市に位置し、1000年以上前の都、平城京の遺跡から発掘された木簡を改めて調査した結果、ペルシャ人の役人が働いていたことを示す新しい証拠が見つかったことを明らかにした。
「天平神護元年」(765年)と記された木簡に、ペルシャ人の役人とみられる「破斯清通」という名前があったことが分かった。

Ws000000「破斯(はし)」はペルシャ(現在のイラン付近)を意味する中国語の「波斯」と同義で、国内の出土品でペルシャ人を示す文字が確認されたのは初めて。外国人が来日した平城宮の国際性を示す史料となりそうだ。
 奈文研によると、木簡は平城宮跡東南隅の発掘で1966年に出土した、役人を養成する「大学寮」での宿直勤務に関する記録。当時は文字が薄いため名前の一部が読めなかったが、今年、赤外線撮影したところ、「破斯」の文字を判読できた。
 「大学寮解 申宿直官人事」のほか、下部に、特別枠で任じられた役人を意味する「員外大属(いんがいだいさかん)」という役職名もあった。
、古代の日本が予想よりも国際色豊かだった可能性があると指摘した。
 日本と現在のイランの間の直接的な貿易関係は遅くとも7世紀に始まったことが知られているが、1960年代に発見された木簡を改めて調査したところ、さらに広範囲な交流が見えてきたという。
 古代の日本で紙の代わりとして使われていた木簡に書かれていた文字は、これまで判読不可能だったが、今回、赤外線を使って調査した結果、日本に住むペルシャ人の役人の名前とみられること分かった。
 奈良文化財研究所の渡辺晃宏(Akihiro Watanabe)史料研究室長によると、このペルシャ人は日本の役人が教育を受ける施設で働いており、ペルシャが得意としていた数学を教えていた可能性があるという。
ペルシャ人の役人 765年木簡に「破斯」

シルクロードを経由して、ペルシャやヨーロッパと交流があったことは良く知られている。
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ローマと日本人の相性は、良い!

また、ギリシャで発達した数学がインドの記法と合体することによってさらに発展していったが、中東諸国の媒介があったと言われる。
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古代へのロマンを誘う解読だが、半世紀前に出土した木簡から新しい情報が得られるというのも技術進歩の賜物と言えよう。

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2016年10月 6日 (木)

電力自由化と廃炉費用の負担/技術論と文明論(75)

東京電力福島第1原発の事故炉の処分費用が膨れ上がり、廃炉も迫られているため、積立金の不足が生じている。
原発の事故処理と廃炉に必要な費用の国民負担につながる議論が5日、本格的に始まった。
政府は原発の廃炉費用を、電力小売りの全面自由化で新規参入した電力会社(新電力)に負担させる方針だという。
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東京新聞10月6日

既存大手電力会社の負担を新電力に転嫁すると、電源として原発を選択するか否かが無差別になる。
自由化の前提である競争原理をゆがめることにもなろう。
これに対し、産経新聞は「新電力の負担は当然」との主張を掲げた。

 原発の廃炉費用の負担について、経済産業省が電力自由化で新規参入した新電力にもその一部を求める案を示した。
 これに対し、「原発を保有しているわけでもないのに、なぜ新電力が負担する必要があるのか」との反発が出ている。
 そうした考え方は正確でない。新電力に切り替えた消費者も、自由化前には原発で発電した安い電気を使ってきたからだ。
 その受益を考えれば、原発の廃炉費用を新電力を含めて広く分担するのは当然といえよう。新電力も電力市場の担い手としての責務を負うべきだ。
 大手電力が地域を独占していたときは、原発建設や廃炉の費用は利用者が支払う電気代に含まれていた。4月から電力会社を選べる自由化が始まり、料金制度も変更されたため、新たな費用負担の枠組みを導入することになった。
 経産省案では、大型原発1基で最大800億円かかる廃炉費用について、送電線の使用料に上乗せする形で新電力にも分担を求める。電気代に転嫁され、最終的には新電力に切り替えた契約者が負担する。
 「国策民営」で展開されてきた原発を含め、暮らしを支える電力という公益事業の利用者が、必要な費用を分かち合うのは自然なことだ。割安な料金のメリットだけを受ける「いいとこ取り」を許さない制度にするのは妥当だ。
【主張】原発の廃炉費用 「新電力も負担」は妥当だ

「自由化前には原発で発電した安い電気を使ってきたから」廃炉費用も負担するのは当然だろうか?
電力事業者は、建設から廃棄までのライフサイクルコストを考えて電源を選択しているのではないのか。
いざ廃炉費用が必要になったから、その分は利用していない人も分担してね、というのはおかしい。
原発で作った電力は使いたくないから、という理由で新電力を選択した人もいるはずだ。
電源構成の開示は不十分だと思うが、今後充実化していくだろう。

そもそも政府は、原発のコストは安いと説明してきたのではなかったのか。
転嫁に突き進むならば、その正当性はないということになる。
無責任の体系は健在だ。

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2016年10月 5日 (水)

天皇制の始まりを告げる儀式の跡か?/天皇の歴史(9)

奈良県橿原市にある飛鳥時代の都の跡、藤原宮跡で大型の旗を立てたと見られる穴が見つかった。
調査した奈良文化財研究所は古代の歴史書に記された重要な儀式で使われた可能性が高いと見ている。

Ws000000律令国家の成立を告げた701年(大宝元年)の元日朝賀で使われたとみられ、専門家は「国の形が完成したことを内外に宣言した儀式の様子が、具体的にわかる発見」と評価する。
同年には日本最初の法典・大宝律令が完成し、中央集権体制が整ったとされる。この年の元日朝賀について、古代の歴史書「続日本紀」は、文武天皇が朝鮮半島の使節らを招き、7本の幢幡を立てたと伝える。
律令国家成立祝う旗、藤原宮跡で柱穴7個確認

『続日本紀』の大宝元(701)年の元旦に朝賀の儀式の様子は、宇治谷孟現代語訳『続日本紀〈上〉』講談社学術文庫(9206)に次のように記述されている。

春正月一日、天皇は大極殿に出御して官人の朝賀を受けられた。その儀式の様子は、大極殿の正門に烏形の幢(先端に烏の像の飾りをつけた旗)を立て、左には日像(日の形を象どる)・青竜(東を守る竜をえがく)・朱雀(南を守る朱雀をえがく)を飾った幡、右側に月像・玄武(北を守る鬼神の獣頭をえがく)・白虎(西を守る虎をえがく)の幡を立て、蕃夷(ここでは新羅・南嶋など)の国の使者が左右に分れて並んだ。こうして文物の儀礼がここに整備された。
⇒2008年9月 9日 (火):被葬状態の謎と大宝元年正月の朝賀

朝賀の様子は以下のように推測されている。

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 発掘してきた奈良文化財研究所の松村恵司所長は「今回の発掘で律令国家完成のシンボルがようやく見つかった」と言う。南門前では2008年以降、一列に並ぶ16個の旗竿跡が見つかったが、続日本紀に記された本数と異なっていた。松村所長は「遺構と文献が合致する点で、今回の発見は非常に重要だ」と強調する。
Ws000002 奈良時代中期以降の平城宮跡などの遺構や、平安時代の即位式を描いたとされる絵図は、旗竿がいずれも一列に並んでいた。藤原宮跡では中央に柱穴1個、左右に三角を形作るように3個ずつ柱穴があった。大阪府立弥生文化博物館の黒崎直館長(考古学)は「常識に一石を投じた」と評する。
 さらに興味深いのは、当時の権力層に与えていた古代中国由来の「陰陽五行思想」の影響だ。続日本紀は701年の儀式について、東側に日像(にちぞう)(太陽)▽四方を守る「四神(しじん)」のうちの青龍と朱雀(すざく)の3本の旗竿を、西側に月像▽四神のうちの玄武と白虎(びゃっこ)の3本を立てたと記す。
律令国家儀式、鮮やかに 続日本紀、記述裏付け 藤原宮、旗竿跡発見

先日復元公開されたキトラ両古墳でも、東に日像と青龍、西に月像と白虎を描くなど共通
した思考が窺える。
⇒2016年9月22日 (木):キトラ古墳の極彩色壁画/やまとの謎(114)
実質的な天皇制の始まりを告げる儀式だったのかも知れない。

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2016年10月 4日 (火)

政治の世界に住む棲むブラックスワン/アベノポリシーの危うさ(99)

金融・証券市場における不確実性が高くなっている。
7月に史上最低の年0.015%を付けた30年物国債金利が、わずか1カ月の間に0.5%に迫る勢いで急上昇(価格は下落)したのだ。
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日本経済新聞9月25日

英国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まった6月24日、世界の株式時価総額はドイツのGDPに相当する330兆円分が1日で吹き飛んだ。
株式市場で、本来は滅多に起こらないはずフラッシュ・クラッシュ(瞬間の急落)が頻発している。

金融緩和競争でマネーが世界に溢れている。
しかも市場や国が絡み合う様相はさらに複雑になっており、共振の度合いは格段に大きくなっている。
システムトレーディング、自動取引が急速に普及し、一瞬の誤動作が大きな影響をもたらす。
いわゆるブラックスワン(黒い白鳥)現象である。
⇒2016年9月 1日 (木):ブラックスワンの存在の仕方/知的生産の方法(155)

 4日早朝の欧州外国為替市場で、英ポンドは急落して始まった。一時1ポンド=1.2762ドル前後まで下げ、7月につけていた1985年以来およそ31年ぶりの安値を更新した。メイ英首相が前週末に「17年3月末までに欧州連合(EU)離脱を通告する」と発言したことや英与党が移民制限を優先する姿勢を示していることなどから、市場では欧州単一市場への接続が守れるかに対して懸念が広がっている。ポンドには早朝から売りが加速した。
 ポンドは対ドルで続落し、英国時間8時時点で1ポンド=1.2765~75ドルと前日の同16時時点と比べ0.0065ドルポンド安・ドル高で始まった。市場では「目立った下値のメドがなく、この先、売りがどこまで進むのか分からない」との声が出ていた。
欧州外為早朝 ポンド急落、対ドルで31年ぶり安値 ユーロは続落

11月には米大統領選が控えている。
クリントン氏もトランプ氏も不人気のようだが、仮に保護主義的な経済政策を訴えるトランプ氏が勝てば、周辺国の経済は打撃を受け、世界経済は混乱するだろう。
ブラックスワンは金融や経済だけでなく、政治の世界にも潜んでいるのだ。

9月30日に公表された総務省の「家計調査」によれば、8月の家計の消費支出が物価変動分を除いた実質で前年比4.6%も減少した。
政府は、「8月の消費は台風など天候不順で、外食やエアコンなどへの支出が減少した」と説明している。
しかし8月の消費減少は特殊要因によるものであろうか?

政府は雇用の改善に伴って賃金が増えてきたと言いますが、その一方で、税や社会保険負担が増えているために、これらを除いた家計が実際に使える「可処分所得」は増えていないことです。
8月の実質実収入は確かに前年を1.5%上回っています。しかし、その一方で税や社会保険料負担など「非消費支出」が5%も増えているため、実際に使える可処分所得は実質で0.6%しか増えていません。
しかも、このうち物価が下落してくれたおかげで0.5%押し上げられているので、名目上はほぼゼロです。今後政府日銀の物価押し上げが成功すると、その分実質購買力はマイナスになります。そればかりか、政府はこっそりとさらなる増税を企てています。それが「配偶者控除」の見直しです。
表向きは一億総活躍を目指すためと言い、働く女性と専業主婦との不公平を是正するとか、女性が十分所得を稼げるようにするとかの理由をつけて、配偶者控除を見直すことが検討されています。
これは一般に103万円の壁とか、130万円の壁とか言われるものです。例えば、配偶者の所得が年間103万円以内なら、本人は非課税でかつ夫は38万円の配偶者控除を受けられ、夫の税金は軽減されますし、また配偶者の年間所得が130万円以内なら、夫の扶養家族として社会保険料を自ら払わなくて済みます。
政府は、「女性の活躍を目指す」という理由のもとに、この配偶者控除を見直し、なくす方向で考えています。これは早い話が「増税」をしたいと言うことにほかなりません。増税というと反発を買うので、女性の活躍とごまかしています。
それでなくとも、国民年金の掛け金や、健康保険料、介護保険料などが知らぬうちに増えていて、国民の実質負担は増え、購買力がそがれています。これをさらに配偶者控除を減らし、あるいは廃止して、国民負担を高めようとしているのです。
配偶者も多少の所得増ではかえって可処分所得は減ってしまいます。子育てや介護の都合でフルに働ける人は限られています。壁にとらわれずに存分に働けと言われても、働けない人が多いのです。
なぜ政府は「家計消費4.6%大幅減」の原因を天気のせいにするのか?

民進党は機会主義者の蓮舫代表、自民党に手を貸した野田幹事長であるのをチャンスと見て、解散総選挙を検討しているという。
しかし「国民の生活が大事だなんて政治は間違っているんです」と堂々と発言する稲田朋美前政調会長(現防衛相)のような政治家が要職に座る政党・政権が続くとは思えない。

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2016年10月 3日 (月)

大隅良典氏にノーベル医学生理学賞/知的生産の方法(161)

今年のノーベル医学生理学賞を、東京工業大栄誉教授の大隅良典氏が受賞することが決まった。
大隅氏は生物が細胞内でたんぱく質を分解して再利用する「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる現象を分子レベルで解明し、この働きに不可欠な遺伝子を酵母で特定して、生命活動を支える最も基本的な仕組みを明らかにした。
オートファジーは、ヒトのがんや老化の抑制にも関係している。

大隅氏は、疾患の原因解明や治療などの医学的な研究につなげた功績が高く評価された。
東京大助教授だった1988年、微生物の一種・酵母を栄養不足で飢餓状態にすると、液胞と呼ばれる小器官に小さな粒が次々とたまっていく様子を顕微鏡で見つけた。
酵母が自らの細胞内にあるたんぱく質などを液胞に運び込み、さまざまな酵素を使って分解するオートファジーの過程だった。
さらに1993年、飢餓状態にしてもオートファジーを起こさない酵母を14種類見つけ、正常な酵母と比較することで、オートファジーを起こす遺伝子を突き止めた。
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大隅良典氏 オートファジー研究をリード

この遺伝子は酵母以外の動植物の細胞でも相次いで見つかり、この分野の研究は大きく進展した。
オートファジーは酵母のような単細胞生物からヒトなどの高等生物に至るまで共通して持っており、生物が生き延びるための基本戦略となっている。
大隅氏の発見を機に、年間数十本だった関連論文は今や同4000本にまで急増。近年最も発展している研究領域の一つとなっている。
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大隅良典氏 オートファジー研究をリード

日本のノーベル医学生理学賞受賞は、昨年の大村智・北里大特別栄誉教授に続き連年である。
ノーベル賞の候補者とされる「トムソン・ロイター引用栄誉賞」は、崇城大学DDS研究所特任教授・熊本大学名誉教授前田浩氏と国立がん研究センター先端医療開発センター新薬開発分野分野長松村保広氏、京都大学客員教授本庶佑氏が受賞対象となった。
⇒2016年9月24日 (土):新薬探索とAIの可能性/技術論と文明論(71)
大隅氏も類似分野であり、分子生物学の医学生理学への応用分野における日本の研究者のレベルが際立っている。

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2016年10月 2日 (日)

八方塞がりの原発政策は転換すべき/技術論と文明論(74)

経済産業省は9月27日、有識者会合「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」の初会合を開いた。
原発の廃炉に必要な費用を、全ての電力利用者に負担させるための制度設計を話し合うという。
10月から有識者会合「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」も始まる。
これらの議論を踏まえ、東電福島第一原発の廃炉や損害賠償、除染にかかる費用の国民負担も検討する予定だという。

原発は発電コストが安いということだったはずである。
それなのに、いざ事故が起きて、廃炉や損害賠償、除染にかかる費用を、国民負担するというのは道理が合わない。

私は視聴する機会を失したが、NHKが8月26深夜に放送した討論番組「解説スタジアム」では、NHKの解説委員7人が、「どこに向かう 日本の原子力政策」というタイトルで議論し、日本の原発政策の行き詰まりを赤裸々に語っていたという。
ネット上の声を拾ってみよう。

〈解説スタジアム、すごい。是非ゴールデンタイムにやってほしい〉〈国会議員は全員観てほしい〉〈これがNHKかと、わが目、わが耳を疑うこと請け合い〉〈各委員の現政権の原子力政策に対する強烈な批判内容に驚いた〉

どんな内容だったのか?

 ある解説委員は、「アメリカは、地震の多い西海岸には設置しないようにしている。日本は地震、津波、火山の原発リスク3原則が揃っている。原発に依存するのは問題だ」と日本の国土は原発に適さないと指摘。
 再稼働が進んでいることについても、「規制委員会が慎重に審査しているとしているが、審査の基準が甘い。アメリカの基準には周辺住民の避難計画も入っているのに、日本は自治体に丸投げだ。こんな甘い基準はない。安易な再稼働は認めるべきじゃない」と正面から批判した。
 その規制委員会や政府に対しては、こんな言葉が飛び出した。
「規制委員会は(再稼働にお墨付きを与えておきながら)『安全性を保障するものではない』としている。だったら地元住民はどうすればいいのか」「政府は責任を取ると口にしているが、(事故が起きた時)どうやって責任を取るのか。カネを渡せば責任を取ったことになるのか。災害関連死も起きている。責任を取れないのに、責任を取ると強弁することが問題だ」
「もんじゅ」を中核とする核燃料サイクルについても、「破綻している」「やめるべきだ」とバッサリ斬り捨てた。
 そして、最後に解説委員長が「福島原発事故では、いまだに9万人近い方が避難生活を強いられている。安全神話は完全に否定され、事故を起こすと、いかに手に負えないかを知ることになった」と締めくくっている。
安倍デタラメ原発政策を一刀両断 NHK番組の波紋広がる

まあ、当たり前のことと言えば当たり前のことではあるが、御用メディア化しつつあるNHKが、政府の原発政策を完全に否定しているのだ。
原発政策の破綻は、端的には次の3つの「行き詰まり」である。
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原子力政策のほころび次々 原発廃炉の国民負担議論スタート


もはや原発政策は転換せざるを得ないだろう。
タイミングを失えば、それだけ損失は大きくなると考えるべきだ。

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2016年10月 1日 (土)

低迷する消費と経済政策/アベノポリシーの危うさ(98)

アベノミクスと称する経済政策は目標を達成しないことによって生きながらえている。
「道半ば」と言えば、済むからである。
⇒2016年8月30日 (火):いつまでも「道半ば」の経済政策/アベノポリシーの危うさ(95)

日銀が「2年で2%の物価上昇率を実現する」と言って実行した異次元金融緩和策いわゆる黒田バズーカ砲も目標を達成できていない。
9月21日の政策決定会合で、金融政策の目標を国債買い入れなどの「量」から「金利」に転換したが効果はどうか?
⇒2016年9月25日 (日):金融緩和政策の「新しい判断」/アベノポリシーの危うさ(96)

総務省が9月30日発表した消費者物価指数(CPI)によると、8月の生鮮食品を除く総合指数は前年同月比0.5%の下落で、6カ月連続で前年同月を下回った。
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デフレ脱却、黄信号か 東京都区部の物価下落

物価下落が消費不振にあることは明らかであろう。
日銀の狙いは長期金利を0%程度に誘導することにある。
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東京新聞10月1日

GDPの約6割が個人消費であり、可処分所得が上昇しない現状では消費を引き締めざるを得ない。
インフレよりはデフレの方がマシだと思っている人が多いのではなかろうか。
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週刊新潮10月6日号

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