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2016年10月19日 (水)

「100年安心」年金制度はどうなるのか/アベノポリシーの危うさ(101)

「100年安心」を謳った年金制度改革が行われたのは、2004年のことであった。
公明党の坂口力厚労省が主導したものと記憶している。
公明党系の地方議員のブログに以下のように書いてある。

年金制度改革をした背景には2004年の改革まで5年ごとに年金制度を見直ししたために「保険料はどこまで上るのか」「将来は年金を受け取れるのか」との不安や不信がありました。多くの国民の願いは「ずっと変わらない年金制度の整備」でした。
そこで当時厚生労働相だった坂口力副代表が2004年に中心になり「持続可能な年金改革」を成し遂げた。
制度設計するに当たり、100年先までの日本の人口構成の変化を出し、いつの時点でどれくらいの年金額が必要か計算。今は5年分ほどある年金積立金を100年先に1年分だけ残るようにし、残りを後世代のために取り崩せばやっていけることが判明。(しっかりした統計資料を基に計算設計)
年金100年安心プラン!

ところが今国会で、年金給付額の伸びを抑える仕組みを盛り込んだ年金制度改革関連法案が審議されている。

161014 現行の制度は厚生年金、国民年金ともに原則として物価の変動に合わせて毎年の給付額が決まる。物価が上がれば年金は増え、下がれば減る。ただ、物価が上がっても、現役世代の賃金が下がった場合、給付額は据え置かれる。物価と賃金の両方が下がり、物価の下落幅が賃金より大きければ、賃金の下落幅にとどまる仕組みになっている。
Photo_3 年金法案は給付の新ルールを導入し、物価と賃金の両方が下がれば、下落幅が大きい方に連動させる。物価が上がり、賃金が下がれば賃金に、逆なら物価に合わせて減額になる。開始時期は二〇二一年四月。
年金給付抑制 政府「現役世代の負担減」民進「高齢者への打撃大」

この法案は、民進党の試算では、年金支給額は現在よりも5.2%も減少。2014年のデータにこの新たなルールを当てはめると、国民年金は年間約4万円減、厚生年金ではなんと年間約14.2万円も減るという。
安倍政権は2014年12月、「株式市場を活性化する」などという名目で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用計画を見直して株式比率(国内株、外国株)を50%まで高めた。
その結果が巨額の損失である。
⇒2015年12月 1日 (火):究極の公私混同と言うべきGPIFの資金運用/アベノミクスの危うさ(61)
⇒2016年9月30日 (金):GPIFの株式運用拡大の結果/アベノポリシーの危うさ(97)

姑息にも、参院選対策のため、例年7月上旬に実施されていたGPIFの前年度の運用成績の公表を参院選後の7月29日まで遅らせた。
その上、自身の公式Facebook(運用責任者は山本一太氏か?)で、次のように書いている。

株価下落により、年金積立金に5兆円の損失が発生しており、年金額が減る」といった、選挙目当てのデマが流されています。しかし、年金額が減るなどということは、ありえません。このことを明確に申し上げたいと思います。

しかし、当の本人が今年2月15日の衆院予算委で「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と言及しているのだ。
しかも減額幅の想定値を示さない姿勢である。

カット法案を徹底批判する民進党は、法案が成立した場合の減額幅の試算を公表するよう政府に求めているが、所管の厚労省は「将来の経済状況によるので試算はできない」と拒否し続けている。年金がいくら削られるかハッキリしないのなら、審議を始めても議論は深まらない。厳しい生活を送る高齢者にとって、減額幅は最大の不安の種でもある。
減額幅の提示拒否 安倍自民“年金カット法”で老人いじめ

しかし、将来の経済状況などいくらでも仮定してシミュレーションすればいい。
ようやく厚労省も試算結果を公表した。

 厚生労働省は17日、年金制度改革法案に盛り込んだ新たな支給ルールに関し、仮に過去10年間に適用した場合の年金受給額の試算結果を公表した。
 賃金などの変動に合わせて年金額が増減する新ルールを当てはめると、2016年度の基礎年金受給額は賃金下落を反映し、現行から3%程度(月額約2000円)下がるという。
年金受給額3%減と試算=過去10年、新ルール適用なら―厚労省

賃金が下がっている。
「アベノミクスは堅調だが、道半ば」という説明はウソだったのだ。
年金受給額が減額されるのなら、消費が上向くはずがない。
物価上昇に拘る日銀の認識は、経済の実態から外れていると言わざるを得ない。

振り返ってみれば、「100年安心」プランは、5年後には早くも制度の欠陥が明らかになりつつあったのだ。

1000905272 年金積立金を運用する独立行政法人「年金積立金管理運用」によると、〇八年度第三・四半期(〇八年十-十二月期)の市場運用の運用損益は五兆七千三百九十八億円の赤字で、運用利回りはマイナス6・09%でした。年度全体でも十兆円を超える運用損の恐れもあります。
 運用利回りの目安となる長期金利は〇九年初頭で1・3%前後にすぎません。
 しかも〇四年時点での試算の前提では、〇九年度以降は賃金上昇率2・1%、運用利回りは3・2%でした。この時も、試算の前提が甘いのではという疑問が出ました。今回は賃金上昇率、運用利回りともさらに上げた前提で、約束の「現役世代の50%確保」を維持したように見えます。
 百年安心の年金改革が想定通りに進んでいないため、結果として少子化の影響を考慮して年金の給付抑制を行う「マクロ経済スライド」の見通しも大きく変わりました。〇四年改革では、スライドは二三年度に終了するとしていました。しかし、今回の検証では一二年度から開始し三八年度まで年金抑制の調整が続くとしています。
 試算の前提は長期的な視点に立つとはいえ、これで大丈夫なのでしょうか?
「年金財政検証」を検証する(No.258) 甘い試算前提、100年安心の制度は大丈夫?

民進党が批判するように、物価と賃金の両方が下がれば、下落幅が大きい方に連動させる改革案だと、年金額がどんどん減る可能性がある。
高齢者が不安になるような改革を本気で導入するつもりだろうか。
「1億総活躍社会」こそデマゴーグというものだろう。

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