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2016年9月10日 (土)

『数学する身体』の小林秀雄賞受賞/知的生産の方法(156)

今年で15回目を迎える「小林秀雄賞」を、森田真生『数学する身体』新潮社(2015年10月)が受賞した。
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私はある読書会で若い人たちと一緒に読んでいたので、受賞を祝いたい。
同賞について、Wikipediaは以下のように説明している。

財団法人新潮文芸振興会が主催する学術賞である。元々は新潮学芸賞だったが、2002年(平成14年)にノンフィクションをメインとする新潮ドキュメント賞と分離して創設された。
日本を代表する文芸評論家・批評家の小林秀雄の生誕100年を記念として新たに創設された学術賞である。日本語表現豊かな著書(評論・エッセイ)に毎年贈られる。ただし、小説・詩・フィクションは対象外である。

著者の森田さんは、1985年生まれだから、この本に書かれている文章は20歳代に書いていたということになる。
実にこなれた文章であるが、桐朋高校卒業後、東京大学文科二類に入学、その後工学部システム創成学科知能社会システムコースに転科した。
卒業後、さらに東京大学理学部数学科に学士入学した。
私の友人に、最初理系の学科に入学し、その後文系に転向した、いわゆる「文転」は何人かいる。
彼らの中には、日本を代表する学者になった人間がいるが、森田さんのように「理転」というのは珍しい。

「理転」の経緯は次のようだという。
文科二類に入学後、当時流行していたITベンチャービジネスに興味を持ち、シリコンバレーで企業の経営者にアポイントをとっている過程で株式会社サルガッソーの鈴木健と知り合い、プログラマーとして働くことになる。物理学科出身の鈴木から多大な影響を受けて数学はじめ理系の学問に関心を持ち始めた。
現在は京都に拠点を構え、在野で研究活動を続け、「独立研究者」を名乗っている。

数学は抽象的思考の産物である。
しかし、数学の原点とも言える「数を数える」という行為は、例えば「指を折る」などの行為と不即不離である。
私たちは、日常生活では、ほとんどが四則演算の範囲でこと足りている。
データ分析と言っても、大多数の人が、パッケージ化された分析ソフトか、エクセルの関数を使う程度だろう。
数学を学ぶ意義は何か、あるいは数学と人生の係りをどう考えるか?

最近、AI(人工知能、ロボット)の話題が多い。
アルファ碁というGoogleが開発した囲碁ソフトがプロ棋士を破った。
ディープラーニングの手法の効果が大きい。
⇒2016年5月24日 (火):ディープラーニングの発展と脳のしくみ/知的生産の方法(150)

東大合格を目指すロボット(AI)の「東ロボ」君は、平均的な大学生を凌駕しつつある。
⇒2014年1月19日 (日):ロボットが東大に入る日/知的生産の方法(78)
AIの苦手とするのは読解力であって、これは中学生などに共通するという。
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東京新聞8月21日

デカルトは、図形のなかに図形を測るための軸を持ち込んで、図形を方程式で表すことに成功した。
幾何学と代数学の統合である。
「数式の計算」という直観やひらめきに頼らない方法で、解決できる。
筋道だった思考によって全数学を統合するのが、デカルトの狙い(夢)であった。

著者は、岡潔の「数学の中心にあるのは情緒だ」という言葉を導きの糸にして考察を進める。
岡潔の生誕の地である紀見峠まで出かけ、風景の意味を考える。
紀見峠近くには、岡潔生誕の記念碑がある。
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【紀見峠】数学者・岡潔生誕の地


岡潔は、大学を辞めて、紀見峠付近の生家で百姓をしながら数学の研究に没頭した。
若いころ、パリに留学して親しく学んだ中谷治宇二郎が早逝したショックが大きかったようだ。
中谷治宇二郎は、「雪博士」として有名な中谷宇吉郎の実弟で、日本の考古学者の草分けであった。
岡潔の業績が世界に知られるきっかけになったのは、戦後間もない時期にプリンストン高等研究所に招聘された湯川秀樹に、中谷宇吉郎が岡の手稿を託したからだと言われる。
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不定域イデアルの理論と多変数代数関数論への道

「評伝岡潔」のための高瀬正仁氏のノートにある秋月康夫氏の文章の一節であり、『数学する身体』にも一部が引用されている。
一流の学者たちが、戦火をくぐり抜けて、世界に出るために協力し合っているのである。
岡潔の数学は素人の理解できるものではないが、偉人たちの跡を辿ることは大きな励みになる。

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