本来的なリストラに成功・富士フィルム/ブランド・企業論(57)
今や銀塩写真フィルムなど、よほど特殊な場合以外は必要としないだろう。
デジカメ(スマホを含む)でほとんどのことは用が足りる。
劇的な銀塩写真フィルムの衰退である。
1995年に私が精密業界を取材し始めた当時、フィルム業界はまだ成長期だった。街中にはフィルムのパトローネを預かって、DPE(現像をして印画紙へ拡大プリント)を行うお店がたくさんあった。昔ながらの集配モデル(工場で集約して現像・プリントを行う)に対し、店内で現像処理するミニラボを設置した店舗では数十分でプリントを手にすることができたため、スピード重視のDPEチェーンがニュービジネスとして勃興していた。
市場はアナログからデジタルへ一気に変わる
高々20年位の間の変化である。
写真フィルムは典型的な寡占市場だった。
世界で4社(アメリカのコダック、ドイツのアグファ、日本の富士フイルム、コニカ)しか製造できなかった商品だった。
各企業はいずれも高収益企業であった。
それがデジタル化の波に翻弄され、2012年1月にコダックが日本の会社更生法に当たる法律の適用を申請した。
コニカは、写真機メーカーのミノルタと合併し、デジタルカメラや複写機など技術の幅を拡大し生き残りを図っている。
そんな中で、富士フィルムの好調は際立っているといえよう。
どんな事業にも栄枯盛衰はある。
だから、事業の組み換え、見直しは必至である。
事業の組み換えに成功した企業は新しい成長路線をつかむが、衰退事業にしがみついて安売りに走る企業は、体力を弱めて衰退、消滅することが多い。
事業の組み換えをマネジメントする手法として有名なのがPPM(プロダクツ・ポートフォリオ・マネジメント)である。
ボストン・コンサルティング・グループは、「経験効果曲線」から「相対的市場占有率(シェア)」を横軸に、「PLC」から「市場成長率」を縦軸に、2次元で描画することにより、有名な「BCGマトリクス」を考案した。
マーケティングの基本まとめノート【入門】
⇒2016年5月 9日 (月):分ける思考(4)マトリクス/知的生産の方法(148)
経営戦略には「ポジショニング派」VS「ケイパビリティ派」という基本的な構図があるというのが三谷宏治『経営戦略全史』ディスカヴァー・トゥエンティワン(2013年4月)の整理である。
PPMはポジショニングの代表的な手法である。
PPMがうまく行った例が富士フィルムであろう。
富士フイルムは現在、ライフサイエンス、関連会社の富士ゼロックス、高機能材料、印刷、デジカメなどイメージング──など5領域を手掛けている。
富士フィルムHD会長でCEOの古森重隆氏は「うちは利益の3分の2を稼いでいた写真フィルム事業をデジタル化により失った。2000年代に入ってリストラを進めたが、リストラだけでは夢も会社の将来像も描けず、何とか生き延びることを考えざるを得ず新規事業や経営の多角化を目指した」と言っている。
リストラとは、英語の「Restructuring」の略語で、本来の意味は「再構築」であるが、再構築の前段階である固定費削減にの意味で使われることが多い。
古森氏もそういう意味で使っているが、同社は見事に本来の意味において成功しているといえよう。
同社の概況は以下のようである。
なかでも医療分野への注力は目覚ましい。
富山化学工業、米セルラー・ダイナミックス・インターナショナルなどの企業を買収、アルツハイマー治療薬や心臓疾患、パーキンソン病などの治験も進める。
また化粧品ブランドのアスタリフトは、TVのCMの露出も多いので知名度は高い。
富士フィルム ビューティ&ヘルシケア
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