岡潔の不定域イデアル理論/知的生産の方法(157)
森田真生『数学する身体』新潮社(2015年10月)は、岡潔の考え方にアプローチすることにより、数学という抽象的な営みと身体との関係を考察している。
⇒2016年9月10日 (土):『数学する身体』の小林秀雄賞受賞/知的生産の方法(156)
岡潔が大学を辞めて数学の研究に沈潜したのが、紀見峠にある生地であった。
岡の数学的業績を的確に紹介する能力はないが、生地の橋本市に次のような顕彰碑が建立されている。
岡の研究した分野「多変数複素函数論」についての問題は20世紀の初めに注目され始めていましたが、あまりに難しいため世界の数学者は手をつけられずにいました。岡のためにとっておかれたようなこの問題の解として、岡は10編の論文を書き上げます。生涯で10編の論文というと非常に少ない数ですが、補足的な1編を除き、9編すべてが珠玉の傑作と言われています。あまりに素晴らしい論文のため、一人の人間が書き上げたとは信じられない程です。日本の数学者が神様のように尊敬するドイツの数学者ジーゲルは『オカとはニコラ・ブルバキのように数学者の団体の名前だと思っていた』と語ったそうです。ジーゲル本人やブルバキの主要メンバーのヴェイユ、カルタンらは、はるばる奈良まで岡潔を訪ねました。
文化勲章受章者 世界的数学者「岡 潔」数学に対する熱意と偉業、情緒という日本人の心の大切さを未来に引き継ごう
上記のように、岡が生涯に発表したのは10編の論文に過ぎなかった。
わずか10編の論文によって、現代数学に聳え立つ業績を成したのである。
いかに精魂を傾けた論文であるかが感得されよう。
岡の業績を端的に表せば、次のようであると言われている。
近現代日本人数学者列伝~イントロダクション~
多変数複素函数論はドメイン、上空移行の原理は方法論であって、「不定域イデアルの理論」が岡の業績である。
不定域イデアルは、現代数学のキー概念である「層」の理論の先駆と考えられる。
不定域イデアルの理論と多変数代数関数論への道
不定域イデアルについて、世界大百科事典では次のように説明されている。
…もともとは,1940年代後半に岡潔が多変数関数論の研究の中で,現在の前層にあたるものを利用した。岡はそれを不定域イデアルと呼んだが,他方同じころ,これとは独立にルレーJ.Leray(1906‐ )が同様なものを考えた。その直後,H.カルタンらが層の一般論を展開し,多変数関数論に有効に利用した。…
しかし岡自身は、カルタンらの整理に不満だったという。
カルタンは、数学者の集団であるニコラ・ブルバキの一員であり、その構造主義が岡の数学観とは相容れなかったのであろう。
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コメント
≪涌源≫(有限)と≪夢幻≫(無限)の双対性を夢想してみよう。
≪涌源≫(有限) ≪夢幻≫(無限)
『離散的有理数の組み合わせの多変数創発関数論 命題Ⅱ』 ➡ 『自然比矩形』
『自然比矩形』 ➡ ≪不定域イデアル≫
≪不定域イデアル≫(『自然比矩形』)は、数理哲学としての光明(オエセル)が作用素(0 1 ∞)を靄らし、[点][線][面]が渾然一体となし、面は見えるがその境界は、釈然としない。しかし、数学的弁証法と捉えるアウフヘーベンとして数学的な観念の【連続性】を掴まえることができる。
数学共同体の呈示する自然数【0 1 2 3 ・・・】は、一・二・三・四次元を繋ぐ縮約(縮退)自然数としてカオスを抱え込むことになる。
そして、計算できる十進法の自然数を生み出し、[+ - × ÷]が操れている。
岡潔の用語は、次のように双対して見える。
≪不定域イデアル≫ ➡ 『自然比矩形』
≪上空移行の原理≫ ➡ 『自然数【1】のカオス表示のヒエラルキー構造』
「数学はなぜ哲学の問題になるのか」的な夢想から・・・
投稿: | 2018年9月14日 (金) 15時28分
≪…『自然比矩形』…≫は、[絵本]「もろはのつるぎ」で・・・
投稿: 絵本のまち有田川 | 2020年1月 9日 (木) 07時02分
時間軸の数直線(『幻のマスキングテープ』)の原型の自然数は、
有田川町電子書籍
[もろはのつるぎ」
御講評をお願い致します。
投稿: カオス ⇔ コスモス | 2020年5月31日 (日) 06時23分