「国体」とはどういうものか/天皇の歴史(4)
天皇陛下の生前退位(譲位)のお気持ちに対して、日本会議副会長の小堀桂一郎氏は、産経新聞(7月16日)で「生前退位は国体の破壊に繋がる」と批判した。
何よりも、天皇の生前御退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である。全てを考慮した結果、この事態は摂政の冊立(さくりつ)を以て切り抜けるのが最善だ、との結論になる。
⇒2016年8月14日 (日):日本をダメにする日本会議という存在(2)/日本の針路(288)
「摂政の冊立」を以て切り抜けることとは、「従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合」の一方法であろうが、それ以外の選択肢は否定されるべきか?
小堀氏の言う「国体の破壊」とはどういうことか。
昭和12(1937)年5月に文部省が発行した『國體の本義』を見てみよう。
第一 大日本國體
一、肇國
大日本帝國は、萬世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ。これ、我が萬古不易の國体である。
『國體の本義』は、国体明徴声明の理論的裏付けとするために出版されたものだ。
軍部の擡頭と共に美濃部達吉の天皇機関説が国体に反する学説として排撃を受けたが、政治的主導権を握ろうとした立憲政友会・軍部・右翼諸団体が時の岡田内閣に迫って出させた。
国体明徴について、Wikipedia では、以下のような説明がある。
そもそも大正期半ばから昭和初期にかけて、天皇機関説は国家公認の憲法学説であり、昭和天皇が天皇機関説を当然のものとして受け入れていたことはよく知られている。
半藤一利監修『日本史再検証 終戦と戦後(別冊宝島2488)』宝島社(2016年7月)に、「「国体」とは何か」というコラムが載っている。
日本はポツダム宣言を受諾すべきか否か、政府と陸海軍首脳も激しい応酬が繰りひろげられる過程で、しばしば「国体」あるいは「国体護持」ということばがでてくる。
政府と陸海軍首脳の応酬のクライマックスが、『日本のいちばん長い日』と称される昭和20年8月14日午後から15日午前にかけての1日である。
半藤一利の原作が、昨年、原田眞人監督でリメイクされた。
天皇の終戦の玉音放送を阻止しようとする純粋というか偏った思考の一部軍人の姿が、批判的に描かれていた。
『國體の本義』の言う「皇祖の神勅」とは、、『日本書紀』の天孫降臨の段で天照大神が孫の瓊瓊杵尊らに下した以下の3つの神勅(三大神勅)のことを指す(Wikipedia)。
- 天壌無窮の神勅 - 葦原千五百秋瑞穂の国は、是、吾が子孫の王たるべき地なり。爾皇孫、就でまして治らせ。行矣。宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮り無けむ。
- 宝鏡奉斎の神勅 - 吾が児、此の宝鏡を視まさむこと、当に吾を視るがごとくすべし。与に床を同くし殿を共にして、斎鏡をすべし。
- 斎庭(ゆにわ)の稲穂の神勅 - 吾が高天原に所御す斎庭の穂を以て、亦吾が児に御せまつるべし。
天壌無窮の神勅の読み下し文は以下のようである。
豊(とよ)葦原(あしはら)の千五百(ちいほ)秋(あき)の瑞穂(みずほ)の國(くに)は、 是(こ)れ吾(あ)が子孫(うみのこ)の王(きみ)たるべき地(くに)也。 宜(よろ)しく爾(いまし)皇孫(すめみま)、就(ゆ)きて治(しら)せ。 行矣(さきくませ)、寶祚(あまつひつぎ)の隆(さか)えまさむこと、 当(まさ)に天壤(あめつち)と窮(きわま)り無かるべし
天壌無窮の神勅 [古典探検隊]
私の知人に「ちいほ」という名の女性がいるが、神勅からとったのであろう。
天皇の生前退位(譲位)は日本史上数多い。
それが今上天皇については、「国体の破壊」に繋がるという小堀氏の主張は分からない。
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コメント
天皇陛下のお気持ちを何とか実現したいという人がいるのと同じように、今の天皇陛下の時代ができるだけ長く続いて欲しいと純粋に願う人がいてもいいと思います。同じ人の中でも、その二つの気持ちが割合こそ違えど同居していてもいい。自分と主義主張が違う人のことを「理解できない」とかそんなふうに言うのは、外国で起こっている宗教による紛争やテロと同じで、私たち日本人が現行憲法のもとずっと希求してきた平和、その象徴として天皇陛下の歩んでこられた道から最も遠い行為だと思います。平和や憲法を大切にされるのなら、改めてください。
投稿: | 2016年9月 6日 (火) 07時24分