「ムーアの法則」の限界とAIの可能性/技術論と文明論(69)
日本の囲碁界では、井山裕太七冠がタイトルを独占中であり、「誰が、何時」タイトルを奪取するかが大きな関心事である。
高尾紳路九段が1,2局を先勝した名人戦が、9月20日、21日に行われ、高尾九段が3連勝した。
残り2分になった井山名人が、169手目を見て投了を告げた。高尾挑戦者の開幕3連勝が決まった。10期ぶりの名人奪取まで、あと1勝とした。
3連敗となった井山名人は早くもカド番に追い込まれた。名人防衛、七冠維持には残り4連勝しかない。
第41期囲碁名人戦七番勝負
常識的には高尾九段が絶対的優位と言えようが、井山七冠だけに予断を許さない展開だ。
囲碁界では、AI(人工知能)の話題も広く関心を集めている。
人間が優位性を保つ最後の砦と言われてきた囲碁において、世界最強棋士の1人と言われる韓国の李セドル9段に勝った。
グーグルのアルファ碁といわれる人工知能で、アルファ碁は、ディープラーニングという手法によって急速に腕を上げたと言われる。
⇒216年5月24日 (火):ディープラーニングの発展と脳のしくみ/知的生産の方法(150)
演繹的に有利な手を導出するのではなく、局面のパターン認識によって最善手を発見するのが、従来のソフトとの大きな違いである。
ディープラーニング(深層学習)によって、人工知能は急速に人脳らしくなり、クルマの自動運転等にも大きな貢献をしている。
自動運転の実現は、技術的にはそう遠くないであろうと言われている。
ディープラーニングを可能にした背景には、半導体技術の進歩による集積回路の発展がある。
良く知られているように、集積度に関する「ムーアの法則」がある。
インテルの創業者の一人のG・ムーアが1965年に発表した予測モデルである。
約半世紀の間、おおむねムーアの法則通りに推移してきたが、さしものムーアの法則にも陰りが見えてきたのではないかと指摘されている。
日本経済新聞9月18日
集積度の向上は、チップの微細化を追求することで達成されてきた。
微細化、つまり半導体回路のトランジスターの寸法(プロセスルール)を狭めることは、ICの高性能化に直結する。
寸法を狭めれば狭めるほど、トランジスターの性能は高まり、1つのチップ内に収まるトランジスターの数も増やせる。
その結果、チップの高性能化や低消費電力化、低コスト化を図ることができる。
その微細化が限界を迎えているというのだ。
回路を高速で作動させると熱が発生するが、集積度を高めると、放熱の課題が重要になってくる。
回路の電圧を下げたり、基板の熱特性の改良などで切り抜けてきたが、限界に近づいている。
電圧を低下させると、トランジスタの誤作動に繋がるし、基板材料にも限界がある。
⇒2009年8月26日 (水):熱と温度 その3.熱伝導率と熱拡散率/「同じ」と「違う」(5)
⇒2009年8月27日 (木):熱と温度 その4.熱伝導率と熱拡散率(続)/「同じ」と「違う」(6)
また微細化が進むと、電子が配線から漏出するようになる。
これはノイズの発生に直結する。
漏出は微細化によって指数関数的に増えていき、S/N比は急速に低下していく。
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