回路から漏出する電子とセレンディピティ/技術論と文明論(72)
チップの微細化による電子の漏出が、「ムーアの法則」の限界をもたらしつつある。
⇒2016年9月21日 (水):「ムーアの法則」の限界とAIの可能性/技術論と文明論(69)
日本経済新聞の解説記事を読んでいて、今年度の小林秀雄賞を受賞した『数学する身体』新潮社(2015年10月)に、面白いことが書いてあったことを思い出した。
⇒2016年9月10日 (土):『数学する身体』の小林秀雄賞受賞/知的生産の方法(156)
森田さんは「進化電子工学」における「2つのブザーを聞き分けるチップ」を作る研究を紹介している。
人間がこういうチップを設計することはさほど難しいことではないが、人工進化によって作り出そうという実験である。
およそ4000世代の「進化」の後にタスクを達成するチップが得られた。
しかし、奇妙なことには、このチップは100ある論理ブロックのうち、37個しか使っていず、しかもその中の5個は他の論理ブロックと繋がっていないのだ。
そして、他の論理ブロックと繋がっていない孤立した論理ブロックの1つでも取り除くと、回路は働かない。
良く調べてみると、この回路は、電磁的な漏出や磁束を巧みに利用していた。
ノイズとして排除されるべき漏出が、回路基板を通して、チップからチップへ伝わり、タスクをこなすための機能的な役割を果たしていたのである。
チップは回路間のデジタルなやりとりだけでなく、アナログの情報伝達回路を進化的に獲得していたということになる。
このことはセレンディップと呼ばれる予期しない創造的な発見と関係があるように思われる。
あるいは日常的な業務においても、ブレーンストーミングと呼ばれるような、異質の視点が有効であることと共通するのではないだろうか。
ブレインストーミングを成功させるためには何が必要?
森田さんは次のように書いている。
人間が人工物を設計するときには、あらかじめどこまでがリソースでどこからがノイズかをはっきり決めるものである。この回路の例で言えば、一つ一つの論理ブロックは問題解決のためのリソースだが、電磁的な漏れや磁束はノイズとして、極力除くようにするだろう。だがそれはあくまで設計者の視点である。設計者のいない、ボトムアップの進化の過程では、使えるものはなんでも使われる。結果として、リソースは身体や環境に散らばり、ノイズとの区別が曖昧になる。どこまでが問題解決をしている主体で、どこからがその環境なのかということが、判然としないまま雑じりあう。
アルファ碁が考えた(発見した)新しい打ち回しが、新定石を生んでいるという。
「ムーアの法則」が限界を迎えるような微細な回路における電子の漏出が、偶然に、まったく新しい質を獲得することになるのかも知れない。
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