新薬探索とAIの可能性/技術論と文明論(71)
今年もノーベルウィークが近づいてきた。
トムソン・ロイターの「トムソン・ロイター引用栄誉賞」は、学術論文の引用データ分析から、ノーベル賞クラスと目される研究者を選出することで知られる。
15回目となる2016年は、日本人研究者3名を含む合計24名が受賞した。
日本からは、化学分野において2名、医学・生理学分野から1名が選出された。
崇城大学DDS研究所特任教授・熊本大学名誉教授の前田浩氏と国立がん研究センター先端医療開発センター新薬開発分野分野長の松村保広氏は「がん治療における高分子薬物の血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果の発見」、京都大学客員教授の本庶佑氏は、「プログラム細胞死1 ( PD - 1 )およびその経路の解明により、がん免疫療法の発展に貢献」が受賞対象となった。
果たして、3人の中からノーベル賞受賞者が出るのであろうか、それとも他の人が受賞するのか。
新薬開発は現に病気になっている人や家族にとっては大きな期待である。
しかしその開発コストは大幅に高騰している。
一般に新薬が世の中に出るプロセスは以下のようである。
医薬品業界の分析・研究開発
厚生労働省は人工知能(AI)を使い、高い効果の見込める画期的新薬の開発を後押しするという。
抗がん剤といった新薬のもとになるシーズ(種)と呼ぶ新規物質を見つけ、数年内に研究者らに提案することを目指し、グローバルに新薬開発競争が激しさを増す中、巨額の費用が必要で成功率も低い新薬の開発に向けて国の支援を強化する。
まず民間企業がある程度開発したAIを購入するなどして、抗がん剤など目標とする新薬の分野に関する国内外の膨大な論文やデータベースを読み込ませる。学習して見つけたシーズを動物実験などで検証し、AIがさらにその結果を学んで能力を高めていく。
開発したAIは国の医療研究の司令塔と位置づけられる日本医療研究開発機構(AMED)を中心に、理化学研究所や産業技術総合研究所などが参加する「創薬支援ネットワーク」内で活用する。厚労省はまず17年度に3億5000万円を投じ、18年度以降も予算要求額を拡大する。
AIは金融や製造業など幅広い産業で実用化が進んでいる。医療でも東京大学とIBMは15年から、がん研究に関連する論文をAIに学習させ、診断に役立てる臨床研究を実施中だ。東大の東條有伸教授は「人間だと1カ月近くかかることをAIなら数分で結果にたどり着く」と評価する。
抗がん剤やC型肝炎、生活習慣病などに用いる画期的新薬を開発するには、病気の発症に関係する遺伝子やたんぱく質に作用する新薬候補を見つける必要がある。ただ膨大な候補の中から有効な化合物を絞り込み1つの新薬ができるまでに10年超の期間と数百億円以上を要するとされる。
グローバルな新薬開発競争の中で日本勢の創薬力はなお低いとの見方もあり、厚労省は国の有力な研究組織を束ねて官民連携を強化し、研究者らの取り組みを支える必要があると判断した。
新薬候補、AIが提案 論文学習し新物質探る
AIが実用域に入ってきたことは確かであろう。
ノーベル賞級の研究者を凌駕するような成果を出せるのか、楽しみである。
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