『シン・ゴジラ』と福島原発事故/技術論と文明論(60)
東日本大震災が発生した時、大津波のTV映像から先ず連想したのは、小松左京の『日本沈没』だった。
そして福島第一原発が容易ならざる事態だと分かった時、なぜか昔見たゴジラの映画のことが気になった。
⇒2011年3月16日 (水):『日本沈没』的事態か? 静岡県東部も震源に/因果関係論(9)
⇒2011年5月 9日 (月):誕生の経緯と香山滋/『ゴジラ』の問いかけるもの(1)
『シン・ゴジラ』が、7月29日公開された。
邦画としては2004年以来で、シリーズ29作目になる。
29作を網羅したコレクションも刊行中で、ゴジラ人気は根強い。
「シン」は「新・真・神」等の意味だという。
「現実対虚構」というキャッチコピーに「ニッポン対ゴジラ」というルビが振ってある。
現実の日本に対し、ゴジラは何のメタファー(隠喩)なのだろうか?
『ゴジラ』の第一作が公開されたのは1954年11月だった。
前年の3月に第五福竜丸が、ビキニ環礁で操業中に、アメリカの水爆実験の死の灰を浴びて乗組員の久保山愛吉さんが亡くなるという事件が起きた。
東宝は、新たな特撮路線の開拓のため、世界唯一の被爆国という立場と、第五福竜丸事件、自衛隊発足などを背景として、南海で生まれた水爆大怪獣が日本に来襲するという設定にした。
小学生だった私は、背景的情報のことにはまったく無知だったが、芹沢という隻眼の化学者(平田昭彦)の苦悩する姿が印象的だった。
ゴジラから国民を守るため、自分が開発したオキシジェン・デストロイヤー(酸素破壊剤)という最終兵器を使用することを決断し、資料が拡散して再び使用されないよう棄却し、自ら命を断つのだ。
ゴジラ論は数多いが、佐藤健志氏の『震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』VNC(2013年9月)が、震災との関係を詳細に論じている。
冒頭に「二〇一一年、ゴジラは架空の存在ではなくなった」と書いてある。
つまり「3・11:東日本大震災and/or福島第一原発事故」を「ゴジラ的なもの」の出現と見ているわけで、私の連想もあながち的外れではなかったと言えよう。
東日本大震災直後の「復興構想会議」の議長代理を務めた御厨貴氏は、震災直後に「『戦後』が終わり、『災後』が始まる」という評論を書き、後に『「戦後」が終わり、「災後」が始まる。』千倉書房(2011年11月)という単行本としてまとめた。
戦後の世界史は、軍事利用にせよ平和利用にせよ、核エネルギー開発と不可分であった。
ゴジラを核エネルギーの象徴と考えた場合、果たして「戦後」は終わったのか?
あるいは原発事故をもたらした災害は、「災後」の時代に入ったと言えるだろうか。
「戦後レジームからの脱却」を唱えて政権に復帰した安倍晋三氏は、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を可能にした。
政府の公式見解も「自衛のための核兵器は保有できる」である。
オバマ大統領は核廃絶を訴求したプラハ演説でノーベル平和賞を受賞したが、核兵器のプレゼンスはむしろ増大している。
戦後は終わっていない、というよりも敗戦が続いている(=永続敗戦)のだ。
⇒2016年6月 6日 (月):伊勢志摩サミットとは何だったのか/永続敗戦の構造(2)
原発はどうか?
ドイツのように脱原発に舵を切った国もあれば、日本やアメリカやフランスのように原発依存を続けている国もある。
福島第一原発事故で、メルトダウンした核燃料(デブリ)をどうするのか?
原子力損害賠償・廃炉等支援機構は13日、溶融したデブリをコンクリートなどで建屋内に閉じ込める「石棺方式」を、将来の選択の余地として残すことを盛り込んだ初めての計画書をまとめた。
石棺方式では事実上、第一原発が極めて高い放射線を出し続けている燃料デブリの最終処分場になる。
このため、地元が猛反発して、この文言は削除されることになった。
要するに、状況把握もできていないのが現状で、原発事故はまさに進行中の事態なのだ。
再稼働が既成事実化しているが、見切り発車で再稼働させる前に、事故の検証を徹底し、収束させるのが先であろう。
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