フェルミ推定とマンハッタン計画/知的生産の方法(152)
イタリア出身の物理学者エンリコ・フェルミの名を冠した「フェルミ推定」という言葉は、実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を概算で推定する意味である。
要するに概算値を見積もることで、桁数の概算・order estimationは、実験をやった人間には馴染み深い。
フェルミ推定と言われるのは、フェルミがこの種の問題に対して、ずば抜けた能力を持っていたからである。
フェルミは世界初の原爆実験がトリニティ実験場で行われた時、小さな紙切れが爆発の衝撃波によって飛散する様子から、威力を推定したという。
日本では細谷功氏が、「地頭力」という言葉とセットで紹介して広まった。
外資系のコンサル会社や、公務員試験などでよく用いられるという。
私がリサーチファームに在籍していた1970年代には聞いたことがない言葉である。
細谷功『「自分の頭」で問題解決する「地頭力」』講談社(2014年6月)
フェルミは妻のラウラ・カポーネはユダヤ人であったため、ベニート・ムッソリーニのファシスト政権下では迫害を受けた。
1938年のノーベル賞授賞式出席の機会を利用し、ストックホルムで賞を受け取った後、そのままアメリカに移住・亡命した。
1939年、コロンビア大学の物理学教授となり、1942年、シカゴ大学で世界最初の原子炉「シカゴ・パイル1号」を完成させた。
った。アメリカへの移住直後にフェルミは、オットー・ハーンがドイツで核分裂実験を成功させたと知る。
アメリカでは核分裂反応の研究に従事し、、原子核分裂の連鎖反応の制御に史上初めて成功した。
この原子炉は原子爆弾の材料となるプルトニウムを生産するために用いられた。
アメリカ合衆国の原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画でも中心的な役割を演じ、1944年にロスアラモス国立研究所のアドバイザーとなった。
マンハッタン計画(Manhattan Project)は、第二次世界大戦中、アメリカ、イギリス、カナダが原子爆弾開発・製造のために、科学者、技術者を総動員した計画である。
計画は成功し、原子爆弾が製造され、1945年7月16日世界で初めて原爆実験を実施した。
さらに、広島に同年8月6日・長崎に8月9日に投下、合計数十万人が犠牲になり、また戦争後の冷戦構造を生み出すきっかけともなった。
オバマ米大統領の広島訪問は、核兵器を実戦で使用した唯一の国の指導者が被爆地に足を踏み入れるという意味で、歴史的機会だった。
しかし、米国民の多数派は依然として「原爆投下が戦争終結を早め、多数の米兵の命を救った」と考えている。
多くの人命を一瞬にして消し去ったキノコ雲の意味をめぐり、両国民の認識の違いはなお大きい。
広島でのオバマ演説は「71年前の雲一つない明るい朝、空から死が舞い降り、世界は変わった」と始まる。
第三者として語っているのだ。
私は、伊勢志摩サミットで安倍首相は、リーマン級などの言葉に拘らず、持続可能な社会を築くための機会にするべきだったのではないかと思う。
せっかく伊勢神宮で首脳を出迎えたのだから、式年遷宮のしくみや常若という考え方などを説明すれば、感動したに違いない。
核廃絶の訴求も、よりリアリティのあるものになったであろう。
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