格差拡大経済政策の終焉/アベノポリシーの危うさ(85)
安倍晋三首相が消費税再延期の記者会見で、「アベノミクスは順調に結果を出しているが、リスクに備えるため」と説明した。
さっそく英国のEU離脱問題によってリーマン級のリスクが炸裂した。
安倍首相の「先見性」を讃えるべきであろうか?
そんなことはない。アベノミクスと称する経済政策の限界が明らかになったと言うべきだろう。
アベノミクスの計6本の矢の中で、良いか悪いかは別として、影響力があったのは「第一の矢」の大胆な金融緩和政策である。
黒田東彦日銀総裁が自ら異次元と称する金融緩和に踏み切ったのは、2013年4月であった。
今年6月20日の講演で、「2%の物価上昇は2年でできなかった」と言った。
安倍首相や稲田政調会長は、「道半ば」と言っているが、期限内に目標を達成できないのは、「道半ば」とは言わない。
アベノミクスは失敗だったのである。
この間、大企業と中小企業の業績格差は拡大した。
国民の間の貧富の差も大きくなっている。
『日本で貧富の格差が拡大してきた本当の原因』で原因を見てみよう。
1つは労働分配率の低下である。
日本の労働分配率は、1990年代がピークになっているが、その後は低下傾向に転じている。
欧米の後追いである。
労働分配率が低下すると、資産家は大きな財産所得を得るので速いスピードでさらに資産を増やして行くのに対して、勤労所得だけが主な収入源となっている人達は資産の蓄積速度が遅くなる。
資産格差と所得格差の相互作用で格差は雪だるま式に拡大してしまう恐れがある。
日本銀行の資金循環統計では2014年度末の家計部門の金融資産残高は約1700兆円だから、世帯数を約5000万世帯とすると一世帯当たりの金融資産は3000万円以上にもなる。
しかし、家計調査での平均貯蓄額は1798万円に過ぎず、資金循環統計から求めた平均貯蓄額とは大きな差がある。
家計調査による貯蓄保有額の中央値は1052万円に過ぎず、分布はかなり偏っているのである。
このような正規分布ではなく、べき分布と呼ばれている。
著しい大金持ちが少数だがいることが原因である。
日本の対外純資産は名目GDP比でみても1967年末には0.7%の債務超過だったが、2014年末には純資産が77.3%にも達する規模に拡大している。
2014年度には海外との間の利子や配当の受払などの海外からの所得は名目GDP比で4.3%の黒字に拡大している。
資産の格差が所得の格差を生み、それがまた資産格差を拡大させるという、格差の拡大再生産が起きつつある。
全く格差のない社会が理想的とは言えないことは当然である。
しかし余りに格差が大きく固定的な社会も望ましくない。
アベノミクスの金融緩和政策は限界を迎えており、出口戦略をどう考えるかが大きな課題になっている。
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