浜岡原発撤退の論理と倫理(9)/技術論と文明論(55)
安倍首相は4月1日、核物質や核施設の防護・管理強化を話し合う「核安全保障サミット」で次のように演説した。
東京新聞4月2日
しかし、東京電力福島第一原発事故では、10万人近い人が避難生活を送っているほか、除染袋はピラミッドのように積み上がり、汚染水タンクも増え続け、トリチウムの海洋放出が検討されている。
「原発事故を踏まえ」と胸を張って言える状況ではないことは明らかである。
トリチウムとは、原子核に陽子1個と中性子2個、電子1個の原子である。
トリチウムはβ線を出して、ヘリウム3に転化する。
トリチウムは通常3重水(HTO)となっていて、水に混じっています。水中のトリチウムを除去できるフィルターがあるか?というと、ない。
水にトリチウムが混ざってしまうと化学的性質(化学反応性が)、物理的性質(原子の半径)が同じで、物理的性質の中の原子の重さだけが違うので、トリチウムだけを除去することもできない。
だたし莫大な費用をかけてウラニウムを濃縮するのと同じプロセス、ガス拡散法やガス遠心分離法などで何十段階も繰り返していくとトリチウムだけを取り出すことは可能ですけれども。
それこそトリチウムを除去するために莫大な費用をかけて対策するよりも、原子力発電をやめてしまったほうが賢い。
原子力発電には、人間がコントロールできない致命的な危険が存在するのですから。
【死せる水トリチウム】三重水素の恐怖の正体とは?矢ヶ崎克馬教授
生態系の食物連鎖を通じた濃縮を考えるならば、海洋に放出するというのは犯罪的である。
4月14日、福井地裁は高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分決定の判断を下した。
国の原発の「新規制基準」を「緩すぎる」「適合しても安全性は確保されていない」「合理性を欠く」と、根底からバッサリ否定したのだ。
安倍首相は「世界一厳しい基準」と言うが、「適合すれば安全」と言って良いのか。
原子力規制委員会の田中委員長は次のように繰り返している。
「安全か、安全じゃないかという表現はしない」「絶対に安全だとは私は申し上げません」 要するに、規制委の審査は「安全」を宣言するものではないのである。
新潟県の泉田知事は「新規制基準」について次のように話した。
世界の標準は「住民の命と健康をどう守るか」なのに、田中委員長は『そこは私たちの仕事ではない』と言う。無責任以外の何ものでもありません。
我々が審査するのはハードだけ」という姿勢なのだ。
米国の原子力規制委員会が、緊急時の避難計画が整っていなければ稼働許可を出さないのとは大違いだ。
高浜原発差し止め 司法も警告「世界一厳しい」安全基準のウソ
ちなみに田中委員長は原子力工学の専門家ではあるが、原発の安全性が炉の工学的安全性の判断だけでは不十分であることは、子供でも分かる。
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