原発事業によって生じた東芝の深い傷/ブランド・企業論(52)
東芝が4月26日、原子力事業で約2600億円の減損損失を2016年3月期に計上すると発表した。
米原子力事業子会社ウエスチングハウス(WH)などの資産価値を見直し、「のれん」の大半を取り崩すことに伴う。
室町正志社長は減損の理由として「東芝の財務状況が著しく悪化し、資金調達環境に変化が生じた」と述べた。
要するに、親会社である東芝の格付けが引き下げられたことで、WHの資金調達コストが上昇したということである。
今までしてこなかった連結決算での減損処理をせざるを得なくなったということである。
東芝は2006年に約5400億円でWHを買収したが、買収価格とWHの純資産との差額、約29億3000万ドル(当時のレートで約3500億円)をのれんとして計上した。
WHは2012年度と13年度、単体で巨額の減損処理を実施し赤字に転落していたが、東芝はその事実を隠蔽していた。
今年1月の減損テストでは「公正価値」が「帳簿価額」を上回っているとしたが、再度現存テストを行ったところ、現存損失を計上せざるを得なくなったということである。
しかし、依然として原発事業を主力事業と位置づけたままだ。
会見で室町社長は「原子力事業の事業性、将来計画に大きな変更はない」と強調し、「今後は前向きにどんどん原子力事業を進めていきたい」と述べた。東芝連結で、今後15年間に45基(2月4日に46基から下方修正)の新規受注を目指す計画は変えなかった。
だが、この計画は現実味が乏しい。東芝がWHを買収した当時の社長、西田厚聰氏は「2015年度までに33基の新設受注を見込む」と公言した。後に東芝は39基へ上方修正した。ところが、WHが受注し建設しているのは8基にとどまる。本誌が入手した内部資料によると、現在の計画は“結論ありき”で策定されたものと言わざるを得ない。
東芝、やっと認めた原子力事業の巨額減損
原発事業に見切りを付けない限り、東芝の明日には暗雲がたちこめているとせざるを得ない。
結局、国策とズブズブの関係で自律的な事業展開をしてこなかったツケではないか。
企業コンプライアンスの権威・郷原信郎弁護士は次のように指摘する。
東芝の不祥事対応の最大の問題点は、第三者委員会のスキームを悪用したことだ。「日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠したもの」と説明していながら、実態は東芝の執行部の意向で動く委員会でしかなかった。不正会計への対応で中心とされてきた「第三者委員会スキーム」は、世の中を欺くための「壮大な茶番」でしかなかった。
東芝不正会計問題の本質は、1990年代に発覚した重電談合の頃から脈々と続く同社の「隠ぺいの文化」と見ることができる。隠ぺいしようとしたのは、「国策事業」である原発事業が福島の原発事故後に、危機的な状況に陥った現実だった。
東芝不正会計の本質は、「国策」原発事業の巨額損失隠し
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