浜岡原発撤退の論理と倫理(8)/技術論と文明論(54)
熊本地震と関連して、以下のような署名活動のニュースがあった。
発案者は岐阜経済大学(大垣市)の高木博史准教授である。
高木さんは熊本地震の本震が発生した16日、「川内原発を止めてください」と呼びかけ、インターネットでの署名活動を開始。大学を卒業するまで過ごした故郷は、現在暮らしている大垣市と同じように地下水が豊富で自然にも恵まれている。そのふるさとを守りたいとの一念からだった。
この地震災害では実家の両親も被災し一時、県外に自主避難した。高木さんは「東日本大震災で被害があった福島第一原発を考えれば、安全という言葉は使えない。福島では広範囲に被害も残り、収束もしていない」と主張する。
署名活動を始めて4日後には10万人が賛同し、26日までに12万2千人を超えた。21日に内閣府を訪れ、途中集計した9万8889人の署名と2万1350件のコメントを安倍晋三首相や林幹雄経済産業大臣、丸川珠代原子力防災担当大臣に宛てて提出した。
高木さんは当初、「署名してくれるのは多くて1千人程度」と見込んでいただけに、想像をはるかに超える賛同者の数に驚いた。賛同者からは「安全が確保できるうちに、一刻も早く停止を」「電気は足りている」といった意見が書き込まれている。
岐阜)熊本思い、原発停止求める署名活動 大学准教授
4月18日、熊本における一連の地震を受けて臨時会議を開いた規制委は、“原発を止める必要はない”という結論を出した。
会議後の会見で原発を止めない理由を聞かれた田中俊一委員長は、「原子炉規制法上は安全上重大な懸念がある場合には止める権限があります。でも、それは根拠がなく、そうすべきだという皆さんのお声があるから、そうしますということは、するつもりはありません。政治家に言われても、そういうつもりはありません」と断言した。
川内原発の運転の可否はどう判断したら良いであろうか?
言い換えれば、原発運転あるいは停止の、必要条件と十分条件はどう考えられるであろうか?
規制委の強気の根拠は、地震動の数値だ。原発の耐震設計においては、安全性が確保される設計を行うため、各原発施設ごとに基準となる地震動の数値を設定しており、これを「基準地震動」と呼んでいる。川内原発の基準地震動は620ガル。14日からの一連の地震で観測された川内原発内の地震動は最大で8.6ガル。同原発の原子炉を緊急停止する設定値は160ガルとされ、止めるほどの緊急性も科学的根拠もない、というのが規制委の見解だ。
しかし、「原発を止めてもらいたい」と願っている国民の多くは、今回の地震動の数値がどうのという話を聞きたいわけではあるまい。自然災害は人知を超えるもの。現に熊本地震を予知できた学者などいなかったはずだ。規制委が直視すべきは、誰も予想できなかった熊本の地震で、川内原発の基準地震動を大きく超える数値が観測されていることだろう。
「国立研究開発法人 防災科学技術研究所」(防災科研)は、14日と16日の熊本地震を解析。観測された地震動のうち、上位10か所の数値を公表している。同研究所の了解を得、作成された表を簡素化した。
14日の「前震」はマグニチュード6.5で震度7。地震動(最大加速度)は最大の益城町で1580ガルを観測していた。川内原発の基準地震動620ガルの2.5倍超。次に高かった矢部でも669ガルで、こちらも川内の620を超えている。
16日の本震はマグニチュード7.3で震度6強(気象庁は、20日に震度7に訂正)。各地の地震動は、益城=1362ガル、宇土=882ガル、熊本=843ガル、矢部=831ガル、菊池=800ガル、砥用(ともち)=778ガル、湯布院=723ガル、小国=687ガル、大津=669ガルと、ほとんどの地点で川内の620を超える数値を観測していた。10番目の豊津にしても612ガル。本震の凄まじさを物語る結果だ。
「神」になった規制委 熊本地震1580ガルでも原発停止否定
川内原発で基準地震動以下であったのは、幸運というべきではないだろうか?
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