PDCAなき安倍政権の政策/アベノポリシーの危うさ(64)
現在最も油が乗っている社会批評家の1人である藻谷浩介氏が、アベノミクスと称する経済政策を痛烈に批判している。
藻谷氏は、ビジネスの世界では「PDCAサイクル」を回すということは当たり前のことであるが、政府の経済政策はそうでないという。
「PDCAサイクル」はいまさら説明するまでもないが、Wikipediaでは次のように説明されている。
第二次世界大戦後、品質管理を構築したウォルター・シューハート、エドワーズ・デミングらが提唱した。このため、シューハート・サイクル (Shewhart Cycle) またはデミング・ホイール (Deming Wheel) とも呼ばれる。
PDCAサイクルという名称は、サイクルを構成する次の4段階の頭文字をつなげたものである。後に、デミングは、入念な評価を行う必要性を強調してCheckをStudyに置き換え、PDSAサイクルと称した。
- Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する
- Do(実施・実行):計画に沿って業務を行う
- Check(点検・評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する
- Act(処置・改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする
この4段階を順次行って1周したら、最後のActを次のPDCAサイクルにつなげ、螺旋を描くように1周ごとにサイクルを向上(スパイラルアップ、spiral up)させて、継続的に業務改善する。
つまり、初回から理論どおりにいくはずはないので、やってみたらこうなったという「事実」に立ち、計画とその背後にある理論を破棄ないし修正し、またやってみて結果を再確認して、という積み重ねの中から、判断の精度が上がってくるというわけだ。
皆さんは、ものごとを判断するときに、何を基準やよりどころにされるだろうか。(1)学術理論か(2)自分の信念や思いか(3)信頼できる人の意見に従うか(4)とりあえず世のトレンドや空気に流されておくか。はたまた(1)〜(4)のどれでもないか。
・・・・・・
この「PDCA」は、日本の企業や行政組織に深く浸透している。だが政府の経済政策だけはカヤの外にあるようだ。この3年間遂行されてきた「異次元の金融緩和」を例に取ろう。これは「リフレ論」なる特殊な経済理論((1))を奉ずる一部の学者をブレーンとした首相が、日本経済を成長させるには「この道しかない」という信念((2))を抱いて日銀の幹部を入れ替え、「経済理論はよくわからないが、この首相のやることなら信じる((3))」という一部の熱狂的な層の積極的支持と、「よくわからないけれど皆がそういっている((4))からそうなのだろう」と考える多くの層の消極的支持を得て進めてきたものである。しかしその結果はどうだっただろう。
異次元緩和で、マネタリーベース(世の中に出回っている円貨の総額)は、過去3年間に3倍に増えた。これを受け、東京証券取引所1・2部の株式時価総額は、野田政権当時の2012年の平均273兆円が、15年には569兆円と2倍以上に高騰した。「リフレ論」からすれば、株式市場だけでなく実体経済もすぐにインフレ基調となり、3年といわず1年内には順調な経済成長が起きるはずだった。しかし実際には、過去3年間の実質経済成長率は順に1・4%、0%、0・5%と、野田政権当時の12年の1・7%より低い水準にとどまった。成長の鍵を握る個人消費(国内家計最終消費支出の実質値)が、1・6%、マイナス0・8%、マイナス1・3%と低迷したことが主要因だ。
異次元緩和の効果見極め=藻谷浩介・日本総合研究所首席研究員
今やアベノミクスと称する経済政策の失敗は明らかであろう。
にもかかわらず、「アベノミクスの「三本の矢」を、もう一度、世界レベルで展開させることであります」などというトンチンカンなことを言っている安倍首相は、正常な判断力を失っている(あるいは最初から持ち合わせていない)としか思えない。
熱狂的な層に囲まれて耳に心地よい意見しか聞かないからだろう。
⇒2016年5月 7日 (土):もはや錯乱の域の安倍首相の認識/アベノポリシーの危うさ(61)
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