「太宰の娘」という宿命・津島佑子さん/追悼(80)
作家の津島佑子(本名・里子)さんが、18日、肺がんのため亡くなった。
太宰治(本名・津島修治)の次女として三鷹で生まれたが、翌年6月に太宰は自死した。
太宰は衰えぬ人気を保っている。
東京都杉並区にあるゆかりの「碧雲荘」が、大分県由布市の由布院温泉に移築されることになった。
また、芥川賞を受賞した又吉直樹氏が熱烈な太宰ファンであることは有名である。
中学生の頃、太宰治の『人間失格』を読み衝撃を受けた。そこに書かれていた幼少期から少年期までの主人公大庭葉蔵の振る舞い方は自分自身が世界に向き合う時の方法そのものだったからである。
なぜ誰も知らないはずの僕のやり方がここに書かれているのだろう? この人は一体なんなのだろう? そのような感覚が最初の印象であり、ということはだ、ここに書かれている凄惨な出来事が今後自分自身の人生にも起こるかもしれないという恐怖も感じた。
太宰治と又吉直樹の深い関係!
太宰の娘であることは、作家としての津島さんにとって重荷であったかも知れない。
しかし、才能がDNAという実体によって継承された一例だろう。
「私にとって親は母だけ。なぜ太宰という父の子と言われるのか」と反発しつつ、結婚・出産・離婚の実体験を基にして揺れ動く女性の内面世界をえぐった「葎(むぐら)の母」「草の臥所(ふしど)」など秀作を発表。離婚して子供と暮らす母親の想像妊娠を描く長編「寵児(ちょうじ)」で78年女流文学賞を受賞し、作家としての地位を築いた。「光の領分」で79年野間文芸新人賞を受賞した。
85年に8歳の長男を病気で失った悲しみを基に、生死そのものに迫る「夜の光に追われて」で87年読売文学賞。91年の湾岸戦争では作家の中上健次、評論家の柄谷行人さんらと共に日本の「加担」に反対する声明に名を連ねた。
母方の一族をモデルにして日本の近代史と家族史を浮き彫りにし、太宰を思わせる人物が登場する「火の山−−山猿記」は98年の谷崎潤一郎賞と野間文芸賞をダブル受賞し、NHK連続テレビ小説「純情きらり」(2006年)の原案となった。戦後混乱期を旅する孤児たちの姿を幻想的に描いた「笑いオオカミ」(01年大佛(おさらぎ)次郎賞)は、生命力あふれる傑作とされ、団塊世代が戦争を問い直す09〜10年の毎日新聞連載「葦舟(あしぶね)、飛んだ」につながった。アイヌの叙事詩など先住民族の文化や口承文芸にも深い関心を寄せた。
「黄金の夢の歌」で11年度毎日芸術賞。戦後占領期に米兵が日本人との間に残した孤児らの視点で原爆や福島原発事故の責任を問うた「ヤマネコ・ドーム」(13年)も高い評価を得た。他に「火の河のほとりで」(83年)、「ナラ・レポート」(04年度芸術選奨文部科学大臣賞など)。昨年1月に肺がんと診断され、闘病しつつ「父をテーマに書く」と準備を進めていたという。
作家の太田治子さんは異母妹。
作家の津島佑子さん死去68歳 太宰治の次女
私は所期の作品を読んだ記憶があるが、良い読者ではなかった。
合掌。
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