日本とドイツの脱原発/「同じ」と「違う」(89)
福井地裁の林潤裁判長は24日、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働について、別の裁判長が行った再稼働を即時差し止め仮処分決定を取り消した。
⇒2015年12月25日 (金):高浜原発再稼働に慄然とする/技術論と文明論(38)
高浜3、4号機は2月に原子力規制委員会から新規制基準を満たすと認められ、福井県の西川一誠知事も今月22日に再稼働に同意した。
西川知事は、政府が前面に立って原子力政策を担うことが確認できたと、再稼働への同意を表明し、林経産相は会談で「ご英断に感謝を申し上げます」と述べるなどの茶番的手続きであることを晒している。
「規制委の判断=お墨付き=錦の御旗」の如く捉える考え方が問題である。
日本とドイツは、第二次大戦の敗戦国でありながら、戦後70年の間に世界有数の工業国としての地位を確立している。
その点は似たようなものであろう。
しかし、工業立国の基盤となるエネルギー政策については、かなりベクトルが違ってきているのではないか。
ドイツは、2011年に発生した、東京電力・福島第一原子力発電所の炉心溶融事故をきっかけに、エネルギー政策を根本的に変えた。
世界中で、ドイツほど福島事故の教訓を真剣に自国にあてはめ、政策を大幅に転換させた国は1つもない。
アンゲラ・メルケル首相は、今年3月のインタビューで、「ドイツは再生可能エネルギー拡大の道を歩んでいる。日本にもそうなってほしい」と述べた。
ドイツの原発と再生エネルギーの推移は下図のようである。
脱原子力を選択したドイツの現状と課題
なぜ、ドイツは脱原発の方向に進み、日本は再稼働の方向に進むのだろうか?
下記は、原発稼働ゼロの時点で書かれたものだが、既に原発再稼働の動きは現実のものとなっている。
アクター(参画者)面では、ドイツでは「緑の党」が結成され、主流の政党CDU,SPDへの影響も大きかった。これに対して、日本では学生運動が社会改革につながらず、環境政党も結成されなかった。
反核の運動体に関しては、東西ドイツが核戦争の最戦線になる恐れから、反核兵器運動と反原発運動の共同があったのに対して、日本には反原発の強力な全国組織はなく、原水禁運動の分裂のなかで、反核兵器運動と反原発運動の連合が形成されることはなかった。
発電会社と原子力については、ドイツは電力会社の判断が大きかったが、日本は「国策民営」推進体制で、政府と電力会社の持たれあいと責任の不明確があり、丸山真男の指摘する無責任体制の問題が依然として残っている。
原発推進体制については、ドイツは、地方分権制度によって各州の許認可権限が強いのに対して、日本は国の計画と許認可権限が大きく、さらに電源3法で地域開発(田中角栄型)、公共事業としての原発開発立地が推進された。
原子力をめぐるイデオロギーとしては、「ハイテクとしての原子力」はドイツも大きく違わず、日本では「夢の原子力」と「鉄腕アトム」のイデオロギーが効果を発揮した。
原子力開発の歴史的分岐点を見ると、ドイツはチェルノブイリで直接に国内被害を受け、SPDと緑の党連立で脱原発へ進んだが、日本は外国の重大事故から教訓を学ばず、過酷事故対策を怠った。
日本は福島の事故を反省の鏡としなければならない。ヒロシマとナガサキの2発の原爆でやっと戦争が終結したと同じく、フクシマと第2の大事故がなければ、原発を段階的にも止められないとすれば、それは日本の悲劇である。
原子力の関する規制制度では、日本はこれまで電力会社のいいなりであり、それが活断層問題にもあらわれており、電力会社に規制側が取り込まれた。福島事故を踏まえた規制改革の方向性と内容が試されている。
原子力と経済団体の関係については、ドイツが再生可能エネと省エネに経済的チャンスを見るのに対して、日本は個々の技術要素をもつものの、原発への投資額と既得権益が多く、脱原発に新方向を見いだせず、新政権はイノベーションを強調せず、東芝社長(原子力専門家)が経済諮問員会民間委員となった。中国と韓国は原子力を続けるものの、他方で風力発電にも力を注ぎ、いまや中国は世界1の風力発電設備をもつ(26%)現実を直視すべきである。
なぜドイツで脱原発がすすみ、日本では進まないのか?
上記の分析はそれぞれもっともだと思うが、世論調査では約7割が脱原発である。
にもかかわらず、選挙結果はそうなっていない。
もちろん単一の論点ではないのでそういうこともあり得るのであるが、小異をすてて大同で一致しなければ、いつまでも政府の言いなりである。
「私は反対でしたが」は通用しないことは、安倍政権の実像で明らかになっている。
「オリーブの木」でもいいから、野党が結集しなければダメなのだ。
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