核燃料サイクルは延命させるべきか/技術論と文明論(35)
北野慶『亡国記』現代書館 (2015年8月)は、2017年4月に発生する南海トラフ地震によって、静岡県の島岡原発が爆発し、日本が危機を迎える近未来を描いた反ユートピア小説である。
政権に復帰した岸辺三郎内閣の下で、原発はテロ対策上、重要機密に属するという理屈で脱原発・反原発運動は厳しい弾圧を受けていた。
島岡原発再稼働に慎重だった静岡県知事の抵抗も、防潮堤が完成するまで遅らせるのが精一杯だった。
原発を稼働させれば、必ず核廃棄物が発生する。
従来、政府や電力会社は、核廃棄物をリサイクルするとしてきた。核燃料サイクル構想である。
その構想の中核施設の「もんじゅ」について、原子力規制委員会が、運転主体の日本原子力研究開発機構の適格性に重大な懸念があると判断して変更を勧告した。
夢のエネルギー開発と言われた核燃料サイクルだが、「もんじゅ」は20年間ほとんど稼働実績がなく、破綻していることは明らかである。
夢のような構想は、単なる夢物語、幻想に過ぎなかったのだ。
⇒2015年11月16日 (月):原発ビジネスは成立しない!/ブランド・企業論(41)
核廃棄物処理の展望も定かではないにも拘わらず、原発再稼働を進めるというのは、とても正気とは思えない。
今まで「もんじゅ」を中心とした核燃料サイクル事業に要した費用は、12兆円を越えると試算されている。
核燃料サイクルに12兆円 コスト年1600億円 国民負担続く
今後も事業を継続するとすれば、この額はさらに増える。
国家プロジェクトであるから原資は税金である。
この事業費を再生可能エネルギー開発に使えば、効果は大きいだろう。
ところが驚くべきことに、経済産業省の有識者会議は、「核燃料サイクル」の延命を図る案をまとめたという。
11月30日、国が監督する認可法人を新設し、電力会社に再処理費用の拠出を義務づけることを柱とする方針で、来年の通常国会に関連法改正案を提出する。
核燃料再処理:認可法人を新設へ 経産省会議が見直し案
性懲りもなくと言うか、盗っ人猛々しいという方が当たっているだろう。
不手際をテコとして天下り先を増やそうとしているのだ。
先ず、「核燃料サイクル構想」の適否を問うべきだろう。
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