自爆テロと特攻/「同じ」と「違う」(88)
パリで起きたテロは、東京でも起きないと限らない。
無辜の人間を巻き添えにするテロは許されざるものであることは当然である。
この大規模テロをフランスのメディアでは、「kamikaze」(カミカズ)=カミカゼの仏語風発音=と表現しているらしい。
東京新聞11月20日
このことに、語源となった神風特攻隊の元隊員から憤りの声が上がっているという。
「日本をなんとか救おうと、愛国心の一念から仲間は飛び立ち、命をささげた。テロと特攻を一緒にするのは戦友に対する侮辱であり、残念至極だ」
福岡県豊前市の末吉初男氏(88)は17日、産経新聞の取材にこう語った。
末吉氏は16歳で陸軍少年飛行兵に応募し、昭和18年に陸軍飛行学校に入校した。18歳だった20年4月28日、特攻隊として、4機5人と台湾の飛行場から飛び立ったが、約1時間後、隊長機にトラブルが起きて沖縄・石垣島に全機不時着した。再出撃の命令は出ず、そのまま終戦を迎えた。
末吉氏は、爆弾を積んだ小型ボートで敵艦隊に突入する特攻に旧海軍が「神風」という言葉を用い始め、国内に広がったと記憶している。鎌倉時代の元寇の際に暴風が起きたことから、「日本が最悪の状況に陥ったときには神風が吹く、国を守るために神様が加勢してくれると信じさせてくれる言葉だった」と振り返る。
「特攻とテロはまったく違う」 実行犯「kamikaze」仏報道に元隊員・末吉氏憤り
末吉氏の気持ちは分かる。
私の高校以来の愛読書は、学業を中断して特攻機に乗る若者を描いた阿川弘之さんの『雲の墓標』である。
⇒2008年5月27日 (火):偶然か? それとも……③『雲の墓標』
⇒2008年5月29日 (木):『言うなかれ、君よ別れを』
⇒2015年8月22日 (土):阿川弘之『雲の墓標』/私撰アンソロジー(40)
無差別に一般の市民を巻き添えにしたテロと同一視されたくはないだろう。
しかし、次のような言葉を見ると、果たしてどうなのかな、という気がする。
末吉氏は、爆弾を積んだ小型ボートで敵艦隊に突入する特攻に旧海軍が「神風」という言葉を用い始め、国内に広がったと記憶している。鎌倉時代の元寇の際に暴風が起きたことから、「日本が最悪の状況に陥ったときには神風が吹く、国を守るために神様が加勢してくれると信じさせてくれる言葉だった」と振り返る。
戦後70年、亡くなった戦友のことは片時も忘れず、冥福を祈り続けた。
今回、パリの事件を報道で知り、「無差別に人を狙う、こんな恐ろしいことが起こる世の中になった」と残念な思いでいた。
ところが、そんなテロの代名詞に「カミカゼ」が、誤って用いられている。
特攻の攻撃対象は敵艦であり、乗っているのは軍人だ。無差別に一般市民を巻き添えにすることは決してなかった。末吉氏も、敵艦を攻撃するために特殊教育を受けた。
航空母艦を標的とする際、鉄板の甲板に突っ込んでも空母は沈まない。格納している航空機の昇降口を狙うなど、課せられた任務を遂行するために、むやみな突入をしないことは絶対だった。
「戦友は上司の命令に従い、国を守るため、天皇陛下のためと死んだ。特攻とテロが一緒にされるとは心外でたまらない。戦友に対して申し訳なく、はがゆい思いでいっぱいだ」
「特攻とテロはまったく違う」 実行犯「kamikaze」仏報道に元隊員・末吉氏憤り
「国を守るため、天皇陛下のためと死んだ」というのは、ジハードとどう違うのか?
国を守るというのは、空爆によって国土が荒廃させられているのだから、同じともいえる。
天皇陛下は現人神とされたのだから、一種の宗教である。
「課せられた任務を遂行するために、むやみな突入をしないことは絶対だった」というのは、テロ組織も同じだろう。
『雲の墓標』の主人公たちのように、特攻隊員も、軍国主義者たちの犠牲者だったとは言えるだろう。
しかし、いたずらに美化すると、本質を見誤る。
フランス大統領の言うように「戦争」だとすれば、原爆等も投下するという、まさに人道上許されないこともしてきたのではないか?
現在も空爆により無辜の市民が多数巻き添えになっている現実があるのだ。
自分たちの被害だけを言うのは、ダブルスタンダードになる。
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