素粒子論の発展と日本人(7)/知的生産の方法(136)
ニュートリノは、極めて微細な粒子で反応性もないので、観測が難しい。
素粒子論の標準理論は、ニュートリノの質量は0として考えられている。
それを覆すのが今年の梶田隆章氏らの業績である。
東京新聞11月23日
梶田氏らが受賞を決めた研究成果を初めて発表したのは1998年の国際会議だった。発表後に聴衆全員が立ち上がって拍手したという。
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宇宙には大きな謎が未解決で残っている。宇宙の質量の大半を占めるのは正体のわからない暗黒物質や暗黒エネルギーで、現在の理論で説明できる物質は約5%にすぎない。宇宙の誕生時には物質と、それとは性質が反対の物質(反物質)が同量あったはずだが、今は反物質が消えて物質ばかりになった。その理由も不明だ。
解決の糸口になるのが、不思議な振る舞いをする素粒子ニュートリノだ。物質と反物質の不均衡を説明する手がかりは粒子と反粒子の振る舞いに表れる微妙な違いだ。これを説明しようとしたのが、08年にノーベル物理学賞を受けた小林誠・益川敏英両氏の理論だ。
ただ「小林・益川理論」ではなお十分に説明できず、ニュートリノが注目されている。
それまでニュートリノの質量はゼロとされていたため、実験は不可能とみられていた。ニュートリノには3種あり、飛行中に頻繁に他のニュートリノに姿を変える。ニュートリノ振動と呼ばれる現象だ。これはニュートリノが質量を持っていることが条件となる。
梶田氏らによって確認されたニュートリノ振動と質量の存在の確認は、難題に迫る突破口を開いた。ニュートリノの性質を詳しく調べることで、標準理論を超える理論が構築できる可能性がある。京都大学の佐藤文隆名誉教授は「標準理論を発展させた大統一理論への足がかりになる成果だ」と評価する。
梶田氏らのグループは検出装置「スーパーカミオカンデ」を使い、2年間の実験データをもとに、このニュートリノ振動が実際に起きていることを98年に発表した。
「物質の謎」解明に道 ノーベル物理学賞に梶田氏
ニュートリノの性質をより詳しく調べるため、つくば市の高エネルギー加速器研究機構や、茨城県東海村の施設で人工的に発生させたニュートリノを、スーパーカミオカンデに向けて打ち込んで、ニュートリノ振動を観測する実験が進んだ。
K2Kすなわち、KEK to Kamioka の略で、KEKは高エネルギー加速器研究機構である。
人工的に発生させたニュートリノによってニュートリノ振動が起きているかどうかを検証する実験で、正式名称は「つくば神岡間長基線ニュートリノ振動実験」である。
平成11年(1999)から平成16年(2004)まで続けられ、KEKにある加速器でμニュートリノのビームを発生させ、約250キロメートル離れた岐阜県飛騨市の神岡鉱山にあるスーパーカミオカンデでニュートリノを検出した。
この実験により、大気ニュートリノで発見されたニュートリノ振動が、加速器で人工的に発生させたニュートリノについても同様の現象が起こることが確認された。
http://neutrino.kek.jp/news/2004.06.10/index-j.html
ニュートリノ振動は、名古屋大学の坂田昌一と中川昌実、京都大学の牧二郎の3人により、50年以上も前に予想していた。
ニュートリノ振動は、質量がある時だけ起こる。
ニュートリノ振動の確認は、質量の存在の確認である。
東京新聞11月23日
素粒子論は、日本人の貢献がとりわけ大きな分野であると言って良い。
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